袋田病院ブログ

茨城県大子町にある精神科・直志会袋田病院のブログです。

~アートフェスタに寄せて~  院長 的場政樹

2015年10月24日 09時46分13秒 | 袋田病院
 「アート」という言葉は、本来非日常的な“もの”や“こと”の中にあったのではないかと思うのですが、いつの間にか私たちの日常に溢れるようになっています。
けれども「アートって何?」と改めて訊かれると、その意味するところは、中心も辺縁も途端に曖昧模糊として掴みどころがなくなります。
 ちなみにウィキペディアでは、[原義]は「間接的に社会に影響を与えるもの」とだけしか書いていなくて、その[種類]においては「アウトサイダー・アート」から「田んぼアート」まで、なんと51種類もあげられています。日本語の「美術」や「芸術」とどのように違うのか、それとも同じなのか、それも少なくともウィキペディアでは明らかではありません。

 にもかかわらず私たちは「アートフェスタ」を今年も行います。
無謀な試み?、かもしれません。「アート」の定義もルールも在るようで無いのですから。目的だって実は定かではないのです。
 終わったあとで、この試みが成功であったのか失敗だったのか、その基準さえ無いのです。それでなくても日常の業務に追われて余裕なんてないのにと、職員の中にはため息やら戸惑いやら、それこそ曖昧模糊とした気分があることを、私は知らないわけではないのですが、それでもまた今年試みてみたいのです。

 その理由を敢えて言うならば、私たちの仕事には、安易には解決しない矛盾や乗り越えがたい困難があるからです。「精神病院」なんてところは、批判や非難の材料に事欠くことのない場所でしょう。特に、自らは安全な場所を確保しながら、何かを批判したり非難したりすることがお好きな方にとっては格好の場所でしょう。
 強制医療、人権侵害、薬漬け、隔離収容、社会的入院・・・これらの言葉が意味する事は、哀しいけれど“事実”を含みます。しかし“真実”ではありません。
 私たちこそ“リアル”を知っていると言う傲慢さはないつもりですが、それでも外から“リアル”を突きつけられると、それが実は“リアル”ではないと言えるだけの“リアル”な矛盾と困難に日々直面しているからです。この矛盾や困難をどう乗り越えて行くか、そこに明快な答えは無いのかもしれません。

 であればこそ「アート」を試みてみたいのです。
簡単ではない事、単純ではない事にこそ、豊かなものへの創造的契機があるのではないでしょうか。
私たちのささやかな試みを、どうか楽しんで、そして自由に何かを感じて頂ければ幸いです。
私たちの試みと皆様方の思いが予想もしない形で“何か”を生み出していくと信じています。
今すぐではなくてもいつか必ず、それが大いなる“無駄”であったとしても。

院長 的場政樹