アウグスティン・ハーデリッヒ ― My Strad and Me
2009年7月30日
スティーブン・シェイファー記

2006年度インディアナポリス国際ヴァイオリン・コンクールの優勝者、アウグスティン・ハーデリッヒは、同コンクールで『ロマン派ヴァイオリン協奏曲』、『古典派ヴァイオリン協奏曲』、『ベートーヴェン・ソナタ』、『ベートヴェン以外の作曲家によるソナタ』、『バッハ・独奏曲』、『課題曲』、『アンコール』、『パガニーニ・独奏曲』部門の各賞を受賞。新世代のヴァイオリニストの中で、強い感銘を呼び起こす独自の音を持った演奏家として地位を確立させているハーデリッヒが、スティーブン・シェイファーとのインタビューに応えた。
http://www.naxos.com/news/default.asp?op=621&displayMenu=Naxos_News&type=2
スティーブン: あなたにはずいぶん幅広いレパートリーがあります。Naxosとのレコーディングに当たり、ハイドンのヴァイオリン協奏曲とテレマンの幻想曲を選んだのはどうしてですか?
アウグスティン: 収録した作品もみな大好きな曲ですし、Naxosからはまだレコーディングがなかったんです。ハイドンの協奏曲は、こんなに美しくウィットに富んでいるのに、普段は見過ごされがちです。テレマンの幻想曲は本当に魅力的な小作品で、長年リサイタルでイザーイやパガニーニと一緒に演奏してきました。とても独創的で、無垢な響きがあります。でも、演奏はすごく難しいです!
スティーブン: ヴァイオリニストは皆、演奏する協奏曲にまだカデンツァがない場合は、自分で作曲することもあると思います。でも、あなたはWEBサイト内に(『About』中の『Cadenzas』をクリック)自作のカデンツァの楽譜をいくつも掲載していますね。
アウグスティン: 僕はカデンツァを作曲するのがとても好きなんです・・・実際、カデンツァを書くことで、曲をより深く理解することができるんです!モーツァルトの協奏曲のカデンツァを作曲するのはとっても難しいですが・・・演奏のたびに、大幅に書き直してます。理想的には、カデンツァは興味深くて楽しめるものであるとともに、曲全体のバランスを崩さないよう、作品の中に自然に溶け込むものであるべきです。
スティーブン: 確かに、あなたのレコーディングを聴くと、抑制(例えば、曲に対する敬意と理解)と自由な独創性(例えば、独自の芸術的表現)とのバランスが際立っています。このバランス加減は、演奏する曲によって当然変わってくるのでしょうね。
アウグスティン: 僕は、他のヴァイオリニストと違うように演奏するために意識的に弾き方を変えたりはしません。でも、楽譜を研究し、作曲家がどう感じていたか、どのように曲を聴きたかったか考えるのが大切だと強く信じています・・・また曲の中のどんなささいな事でも、考える価値のないものはありません。でも、誰にでも癖や好みや独特な音があるので、僕の演奏はいつも僕の演奏らしく聴こえるんだと思います。
スティーブン: ヴァイオリニストとして人々の心を掴み、成功を手にするのは非常に難しいことです・・・なにしろ大勢のヴァイオリニストがいて、競争の激しい世界です。いつ、またどうしてヴァイオリンを始めようと思ったのですか?
アウグスティン: 5才の時にヴァイオリンを始めました・・・僕には兄が2人いて、その頃すでにチェロとピアノを弾いてました。それで、僕も音楽をやってみたいと思ったんです。
スティーブン: 誰か、お手本にしていたヴァイオリニストはいましたか?
アウグスティン: 小さい頃からずっとオイストラフのレコーディングを聴いていたので、彼のようになりたいと思ってました。今でも彼の演奏は大好きです。
スティーブン: 競争の世界と言えば、コンクールの是非が論じられています。コンクールを毛嫌いする音楽家たちもいれば、すさまじいプレッシャーの中で実力を発揮する者もいます。あなたの考えはどうですか?
アウグスティン: 僕はずっとコンクールでの演奏が苦手でした。普段のコンサートよりもプレッシャーがずっと大きいし、予選ではたった数分しか演奏できません。次々とコンクールに出場するのは、音楽作りにもけして良いとは言えません。もうコンクールに出なくていいのは、すごく嬉しいです。
でも、コンクールは開催地の人々にはとても楽しいものだと思うし、優勝者に様々なチャンスを与えてくれます。それに、今はたくさんのコンクールがあって、それぞれ課題曲などがずいぶん違うので、ユニークで一風変わったヴァイオリニストが優勝する可能性が増えたのは、いいことだと思います。たいてい、そういうヴァイオリニストが結局は一番おもしろい演奏家だったりするからです!
スティーブン: アルバムのレコーディングとコンサートでの演奏ではどちらの方が好きですか?
アウグスティン: 僕はコンサートでの演奏の方が好きです。会場にいる大勢の人々の存在が特別な雰囲気と興奮を生み出すからです…でも、アルバムの収録が終わり、自分の演奏に満足できた時は最高の気分です。
スティーブン: あなたのストラディヴァリウスとTouteの弓について話してくれますか?
アウグスティン: 今演奏しているヴァイオリンは、1683年に製作されたストラディヴァリウス“Ex-Gingold”で、インディアナポリス・コンクールから借り受けているものです・・・この楽器からたくさんのインスピレーションをもらってます。僕より300歳も年上なんです!
スティーブン: あなたは、コンサート・ソリストとしての活動のほか、室内楽にも参加していますね。多くの演奏家は、室内楽での演奏が一番大変だと言いますが、あなたはどう思いますか?室内楽でのチャレンジ、またそこから得るものは何ですか?
アウグスティン: 室内楽は普段のコンサートとは状況が違います。ふつうは協奏曲のパートの方が難しいですが、室内楽には膨大なレパートリーがある上、演奏の準備期間が短いんです。僕は、どちらの演奏も大好きです。室内楽では、共演する音楽家たちから学ぶことがいっぱいありますし、あんなに美しいレパートリーがありますから。
スティーブン: あなたは今25歳で、音楽を通しての人生の旅に出たばかりです。キャリアの中で達成したい“道標”や“道しるべ”といったものはありますか?
アウグスティン: 僕の夢は、今やっていることをずっと続けていくことです。すばらしい場所を訪れ、すばらしいオーケストラと共にすばらしいコンサート・ホールで、すばらしい観客のために大好きな曲を演奏することです。すごくエキサイティングで報いある人生ですし、とてもラッキーだと思います。でも、一番の願いは、ヴァイオリニストとしていつまでも成長していくことと、音楽を大切に思う気持ちをいつまでも失くさないことです。
スティーブン: 音楽以外には(果たしてプロの音楽家に音楽以外の世界があるのだろうか?)どんなことが好きですか?
アウグスティン: ネットサーフィンをよくしてます・・・僕はパズルがすごく好きで、以前はルービックキューブにハマってました!
スティーブン: ヴァイオリニストとして楽器を演奏する時、音楽は楽器の“内から”、それとも“外から”生まれてくると感じますか? 聞きたいのは、批評家があなたの演奏においても指摘している“演奏家と楽器の極めて親密な関係”についてなんですが、ストラディバリウスにも「気性」があって、注意深く対処しなければいけないのでしょうか?
アウグスティン: ヴァイオリンにも人のように性格や気分の波があると思いたくなるものです。僕もよく自分のヴァイオリンを友達だと思ってます。でも、もちろん実際はただ、木が湿度の変化に反応(伸びたり縮んだり)してるだけです。時折、ヴァイオリンが本当に悲しそうな音を出す時は、修理が必要なだけです!
自分の楽器の状態には、とても敏感でないといけません。楽器のことをよくわかっていると、(湿度や気温などから)その日ヴァイオリンがどんな音がするか、そしてどんなことが可能かわかるんです。前もってそれがわかれば、それに合わせて演奏を調節することができます。
スティーブン: パガニーニの音楽は妙技の代名詞です。でも、ハイドンには、パガニーニほど明らかではないですが、また並外れた技巧的チャンレンジがあります。バッハのソナタとパルティータを知らない者はいませんが、テレマンの幻想曲はそれほど知られていません。聴衆がこぞってブラームスやシベリウスやチャイコフスキーのロマン主義にどっぷり浸る反面、例えば、バルトークやジョン・アダムズやカンチェリにも独特な魅力があります・・・あなたの一番好きな作曲家は誰ですか?またその理由は?
アウグスティン: 一人だけを選ぶのは難しいです。その時によって、変わっていくんです。でも、明らかな面々(バッハ、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、etc.)に加え、バルトークはいつも大好きな作曲家でした。
スティーブン: Naxosから次のレコーディングが予定されているのですか?
アウグスティン: 今のところはありません。でも9月にAVIEレーベルからソロのヴァイオリン曲(バルトークのソロ・ソナタを含む)を納めたアルバムが発売される予定です。
スティーブン: アウグスティン、どうもありがとう。
アウグスティン: ありがとうございます。お話できてとても楽しかったです。
2009年7月30日
スティーブン・シェイファー記

2006年度インディアナポリス国際ヴァイオリン・コンクールの優勝者、アウグスティン・ハーデリッヒは、同コンクールで『ロマン派ヴァイオリン協奏曲』、『古典派ヴァイオリン協奏曲』、『ベートーヴェン・ソナタ』、『ベートヴェン以外の作曲家によるソナタ』、『バッハ・独奏曲』、『課題曲』、『アンコール』、『パガニーニ・独奏曲』部門の各賞を受賞。新世代のヴァイオリニストの中で、強い感銘を呼び起こす独自の音を持った演奏家として地位を確立させているハーデリッヒが、スティーブン・シェイファーとのインタビューに応えた。
http://www.naxos.com/news/default.asp?op=621&displayMenu=Naxos_News&type=2
スティーブン: あなたにはずいぶん幅広いレパートリーがあります。Naxosとのレコーディングに当たり、ハイドンのヴァイオリン協奏曲とテレマンの幻想曲を選んだのはどうしてですか?
アウグスティン: 収録した作品もみな大好きな曲ですし、Naxosからはまだレコーディングがなかったんです。ハイドンの協奏曲は、こんなに美しくウィットに富んでいるのに、普段は見過ごされがちです。テレマンの幻想曲は本当に魅力的な小作品で、長年リサイタルでイザーイやパガニーニと一緒に演奏してきました。とても独創的で、無垢な響きがあります。でも、演奏はすごく難しいです!
スティーブン: ヴァイオリニストは皆、演奏する協奏曲にまだカデンツァがない場合は、自分で作曲することもあると思います。でも、あなたはWEBサイト内に(『About』中の『Cadenzas』をクリック)自作のカデンツァの楽譜をいくつも掲載していますね。
アウグスティン: 僕はカデンツァを作曲するのがとても好きなんです・・・実際、カデンツァを書くことで、曲をより深く理解することができるんです!モーツァルトの協奏曲のカデンツァを作曲するのはとっても難しいですが・・・演奏のたびに、大幅に書き直してます。理想的には、カデンツァは興味深くて楽しめるものであるとともに、曲全体のバランスを崩さないよう、作品の中に自然に溶け込むものであるべきです。
スティーブン: 確かに、あなたのレコーディングを聴くと、抑制(例えば、曲に対する敬意と理解)と自由な独創性(例えば、独自の芸術的表現)とのバランスが際立っています。このバランス加減は、演奏する曲によって当然変わってくるのでしょうね。
アウグスティン: 僕は、他のヴァイオリニストと違うように演奏するために意識的に弾き方を変えたりはしません。でも、楽譜を研究し、作曲家がどう感じていたか、どのように曲を聴きたかったか考えるのが大切だと強く信じています・・・また曲の中のどんなささいな事でも、考える価値のないものはありません。でも、誰にでも癖や好みや独特な音があるので、僕の演奏はいつも僕の演奏らしく聴こえるんだと思います。
スティーブン: ヴァイオリニストとして人々の心を掴み、成功を手にするのは非常に難しいことです・・・なにしろ大勢のヴァイオリニストがいて、競争の激しい世界です。いつ、またどうしてヴァイオリンを始めようと思ったのですか?
アウグスティン: 5才の時にヴァイオリンを始めました・・・僕には兄が2人いて、その頃すでにチェロとピアノを弾いてました。それで、僕も音楽をやってみたいと思ったんです。
スティーブン: 誰か、お手本にしていたヴァイオリニストはいましたか?
アウグスティン: 小さい頃からずっとオイストラフのレコーディングを聴いていたので、彼のようになりたいと思ってました。今でも彼の演奏は大好きです。
スティーブン: 競争の世界と言えば、コンクールの是非が論じられています。コンクールを毛嫌いする音楽家たちもいれば、すさまじいプレッシャーの中で実力を発揮する者もいます。あなたの考えはどうですか?
アウグスティン: 僕はずっとコンクールでの演奏が苦手でした。普段のコンサートよりもプレッシャーがずっと大きいし、予選ではたった数分しか演奏できません。次々とコンクールに出場するのは、音楽作りにもけして良いとは言えません。もうコンクールに出なくていいのは、すごく嬉しいです。
でも、コンクールは開催地の人々にはとても楽しいものだと思うし、優勝者に様々なチャンスを与えてくれます。それに、今はたくさんのコンクールがあって、それぞれ課題曲などがずいぶん違うので、ユニークで一風変わったヴァイオリニストが優勝する可能性が増えたのは、いいことだと思います。たいてい、そういうヴァイオリニストが結局は一番おもしろい演奏家だったりするからです!
スティーブン: アルバムのレコーディングとコンサートでの演奏ではどちらの方が好きですか?
アウグスティン: 僕はコンサートでの演奏の方が好きです。会場にいる大勢の人々の存在が特別な雰囲気と興奮を生み出すからです…でも、アルバムの収録が終わり、自分の演奏に満足できた時は最高の気分です。
スティーブン: あなたのストラディヴァリウスとTouteの弓について話してくれますか?
アウグスティン: 今演奏しているヴァイオリンは、1683年に製作されたストラディヴァリウス“Ex-Gingold”で、インディアナポリス・コンクールから借り受けているものです・・・この楽器からたくさんのインスピレーションをもらってます。僕より300歳も年上なんです!
スティーブン: あなたは、コンサート・ソリストとしての活動のほか、室内楽にも参加していますね。多くの演奏家は、室内楽での演奏が一番大変だと言いますが、あなたはどう思いますか?室内楽でのチャレンジ、またそこから得るものは何ですか?
アウグスティン: 室内楽は普段のコンサートとは状況が違います。ふつうは協奏曲のパートの方が難しいですが、室内楽には膨大なレパートリーがある上、演奏の準備期間が短いんです。僕は、どちらの演奏も大好きです。室内楽では、共演する音楽家たちから学ぶことがいっぱいありますし、あんなに美しいレパートリーがありますから。
スティーブン: あなたは今25歳で、音楽を通しての人生の旅に出たばかりです。キャリアの中で達成したい“道標”や“道しるべ”といったものはありますか?
アウグスティン: 僕の夢は、今やっていることをずっと続けていくことです。すばらしい場所を訪れ、すばらしいオーケストラと共にすばらしいコンサート・ホールで、すばらしい観客のために大好きな曲を演奏することです。すごくエキサイティングで報いある人生ですし、とてもラッキーだと思います。でも、一番の願いは、ヴァイオリニストとしていつまでも成長していくことと、音楽を大切に思う気持ちをいつまでも失くさないことです。
スティーブン: 音楽以外には(果たしてプロの音楽家に音楽以外の世界があるのだろうか?)どんなことが好きですか?
アウグスティン: ネットサーフィンをよくしてます・・・僕はパズルがすごく好きで、以前はルービックキューブにハマってました!
スティーブン: ヴァイオリニストとして楽器を演奏する時、音楽は楽器の“内から”、それとも“外から”生まれてくると感じますか? 聞きたいのは、批評家があなたの演奏においても指摘している“演奏家と楽器の極めて親密な関係”についてなんですが、ストラディバリウスにも「気性」があって、注意深く対処しなければいけないのでしょうか?
アウグスティン: ヴァイオリンにも人のように性格や気分の波があると思いたくなるものです。僕もよく自分のヴァイオリンを友達だと思ってます。でも、もちろん実際はただ、木が湿度の変化に反応(伸びたり縮んだり)してるだけです。時折、ヴァイオリンが本当に悲しそうな音を出す時は、修理が必要なだけです!
自分の楽器の状態には、とても敏感でないといけません。楽器のことをよくわかっていると、(湿度や気温などから)その日ヴァイオリンがどんな音がするか、そしてどんなことが可能かわかるんです。前もってそれがわかれば、それに合わせて演奏を調節することができます。
スティーブン: パガニーニの音楽は妙技の代名詞です。でも、ハイドンには、パガニーニほど明らかではないですが、また並外れた技巧的チャンレンジがあります。バッハのソナタとパルティータを知らない者はいませんが、テレマンの幻想曲はそれほど知られていません。聴衆がこぞってブラームスやシベリウスやチャイコフスキーのロマン主義にどっぷり浸る反面、例えば、バルトークやジョン・アダムズやカンチェリにも独特な魅力があります・・・あなたの一番好きな作曲家は誰ですか?またその理由は?
アウグスティン: 一人だけを選ぶのは難しいです。その時によって、変わっていくんです。でも、明らかな面々(バッハ、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、etc.)に加え、バルトークはいつも大好きな作曲家でした。
スティーブン: Naxosから次のレコーディングが予定されているのですか?
アウグスティン: 今のところはありません。でも9月にAVIEレーベルからソロのヴァイオリン曲(バルトークのソロ・ソナタを含む)を納めたアルバムが発売される予定です。
スティーブン: アウグスティン、どうもありがとう。
アウグスティン: ありがとうございます。お話できてとても楽しかったです。