私が十代のころに使っていたキャノンのフィルム一眼レフカメラ「Ftb」
何十年かぶりで、ふたたび私のもとにやってくる。そのブラックボディの
中古品が。もちろん動作品で状態はそれほど悪くはないらしい。昔使って
いた個体はたぶん私の大学生活の間に故郷で行方不明に。母が勝手に私の
許可もなく、誰かに譲ったのかもしれない。真相はきっとそうなのだろう。
記憶にあるのは高校の修学旅行に持参したということ。その時のカメラを
首から下げた私のポートレイトもある。というよりその写真のおかげで私
がこのFTbのブラックを持っていたことがわかるのだ。母は私にかなりの
贅沢をさせていたと思う。当時でも何万円もする高級カメラを私に買って
やったりと。お金で親子関係をも築きがち、という側面も彼女にはあった。
さいわいというか私はそれほどものに執着せず、欲しがりもせず,金銭面
での誘惑に負けてしまうという事態には陥らなかったはずである。という
かカメラのこと。オークションで開始価格よりわずかに多めの値段で終了。
操作に影響はないレベルだがプリズムの腐食がはじまっている。だれもが
そんな商品説明を敬遠したので、結局は比較的安価に、私が落札できたの
かもしれない。私は気にしないほうだ。使えればそれでいいと。もちろん
美しい個体であれば、そのほうがいいに決まっているのだが。私の主義は
実用優先だ。少々の見ばえの悪さは問題ではない。欲しかった今も使える
カメラを入手できたことがうれしい。どんな個体が届くのか。動作の確認
と試写も楽しみなのだ。時間をかけて。待ち遠しいな。はやくこの手に。