新たな売・買春の温床とされる「
出会い系カフェ」をめぐり、警視庁生活安全特別捜査隊と池袋署は28日、都デートクラブ営業等規制条例違反(禁止区域内営業など)の疑いで、東京・池袋にある店舗の捜索に乗り出した。店員約10人を逮捕した。出会い系カフェの摘発は全国的にも珍しい。
出会い系カフェは、テレクラや出会い系サイトと異なり、男女が直接顔を合わせる新しい形態の出会いの場。多くの店では、漫画を読むなどして過ごす女性を男性が指名して交渉し、店外に“デート”と称して連れ出す仕組み。マジックミラー越しに男性が女性を選ぶ店もある。同様の店舗は、全国に100カ所近くあるとみられる。
今回、警視庁が捜索した出会い系カフェは「キャンカフェ」。全国展開しているチェーン店で、池袋には4月に設立。すでに500人以上の女性がメンバーになっているほか、店内には「18歳未満コーナー」もあり、制服姿の少女も出入りしている。
警視庁は、男性が連れ出す際に「交通費」の名目で、女性に数千円を手渡していることから、同店が対価を伴う交際を仲介する「デートクラブ」と認定。同店が条例で規制している学校施設の200メートル以内にあることや、18歳未満への場所提供をしていることなどから、条例に抵触すると判断した。
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■異様な空間、法のすき間つき堂々営業
マジックミラー越しにくつろぐ女性。それを食い入るように見つめて物色する男性。つぎつぎと“カップル”が成立しては、街に消えていく。「市場」とも「水族館」ともいえる異様な空間がそこにはあった。今回摘発を受けた出会い系カフェ。警視庁は「過去数回しか適用例がない」と言われる条例を使ったが、全国的な拡大に歯止めが掛かるかは微妙な情勢だ。
≪「男の水族館」≫
「さあどうぞ。ここは男限定の水族館。美女の園です」。今月初めのキャンカフェ池袋店。店内では店員の威勢の良い“あおり文句”が店内に響いていた。
マジックミラーの向こう側には、ケーキを食べてくつろぐ女子高生の姿が見えた。男性フロア右手が「イベントスペース」と称した16~18歳コーナー、左手が18歳以上のコーナーだ。たしかに水族館に来ているような奇妙な錯覚に陥る。
「さあ、出会いはまずトークしないことには始まりません」。店員のあおり文句は続く。営業時間は午前10時から翌午前5時までで、女子高生も午後11時までいることができる。法律的に問題がないのか問うと、店員は「出会いの場を提供しているだけで法律には触れない」と独自の理屈を展開した。
出会い系カフェは、男性が女性を指名した上で、「トークルーム」で一対一で会話するところから始まる。トークルーム内で食事やカラオケ、果ては売春などの“交渉”が行われる。男性客は30~40代が中心。中には60代とおぼしき初老の男性もいた。
≪“暇つぶし”感覚≫
「きょうはおじさんにカバンを買ってもらった」。トークルームで女子高校生(16)は屈託なく笑った。キャンカフェでは外出時、女性に「交通費」名目で任意のお金を支払うことになっていた。「交通費以外にも『プラス5000円でカラオケ行こう』とか約束する」。この女子高生は、週に3度ほど訪れ、1日約3万円稼ぐという。「ヤリモク(セックス目的)のおじさんは本当に多い。『5万でどう』とか普通」と語る。
別の埼玉県の女子高校生(16)は、売春をしてお金を稼いでいるという。ホテルに1回行くごとに1万5000円もらっている。「お金がほしいし。16歳になったらキャンカフェに来ようと言ってる後輩もいる」と口にする。女子大生(20)は「目的がなくても来ている。お菓子やケーキがなくなるとすぐ店員が持ってきてくれる」と“暇つぶし”感覚で来ていると語った。
≪今後も野放し?≫
ただ、今回の摘発を皮切りに全国に捜査の手が伸びるわけではない。
今回、警視庁が適用したデートクラブ規制条例は、テレホンクラブを規制するため、平成9年に成立した条例で、東京都にしかない。
北海道警は先月、札幌市内のカフェ経営者を逮捕したが、容疑はテレビ番組のロゴに似せたマークを使用したという商標法違反だった。愛知県警も先月、児童買春の“出会いの場”となった名古屋市内のカフェを関連先として捜索したが、経営者らの逮捕には至らなかった。
警視庁では経営者らの逮捕を目指し、生活安全部各課が、
児童福祉法や
売春防止法、
風営法といった法律の適用を検討した。「しかし、場所を提供しているだけで、男性客の接待をさせてはいない。法律のすき間で堂々と営業している」と、警視庁幹部は歯がみする。「正面から摘発できる法律がないのが問題。今回の摘発で都内はいったん沈静化するだろうが、他府県ではまだ野放しということもありえる」と指摘している。