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本と音楽とねこと

地方消滅

増田寛也編著,2014,『地方消滅──東京一極集中が招く人口急減』中央公論新社('16.9.10)

 中長期的な人口のシミュレーションを地域別に行うことは、地域コミュニティの持続可能性を予測するうえで重要だ。荒削りながら、明確な指標を用いて将来人口の地域別予測を行った点については、大いに意義がある。
 「中央公論」の商業主義のゆえだろう、「地方消滅」という大げさな見出しが一人歩きしてしまったが、実際は、集落は多数消滅しても、自治体は消滅しない。近年のUターン、Jターン、Iターン人口の増加をみても、安易に「地方消滅」を予言すべきではない。
 地方拠点都市へ人口を集積(東京からみれば分散)させ、地方からの人口流出を防ぐ「ダム」をつくるという構想も疑問だ。これは、地方にミニ東京を乱立させるということであって、食糧自給、自然の循環的維持という点でも大きな役割をもつ農山村漁村の存在意義をあまりに過小評価している。
 言うまでもないことだが、もっとも重要なのは、「産みたくても産めない」要因、とりわけ若年層の貧困と育児・教育支援の手薄さという問題を解消することであり、そのためには、所得税・住民税の累進性の強化、多額のODAのばらまきの停止等により財源をつくり、広井良典氏のいう「人生前半期の社会保障」を大幅に拡充することだろう。
 最低賃金を大幅に引き上げ、農林漁業および介護従事者に国が最低所得保障を行えば、「地方」への人口環流は加速する。地域人口の「自然増」、「社会増」をともに重視した社会政策が必要であること、この当たり前のことが本書では等閑視されているように思えてならない。

目次
序 章 人口急減社会への警鐘
第1章 極点社会の到来――消滅可能性都市896の衝撃
第2章 求められる国家戦略
第3章 東京一極集中に歯止めをかける
第4章 国民の「希望」をかなえる――少子化対策
第5章 未来日本の縮図・北海道の地域戦略
第6章 地域が活きる6モデル
対話篇1 やがて東京も収縮し、日本は破綻する 藻谷浩介×増田寛也
対話篇2 人口急減社会への処方箋を探る 小泉進次郎×須田善明×増田寛也
対話篇3 競争力の高い地方はどこが違うのか 樋口美雄×増田寛也
おわりに――日本の選択、私たちの選択
全国市区町村別の将来推計人口

このままでは896の自治体が消滅しかねない―。減少を続ける若年女性人口の予測から導き出された衝撃のデータである。若者が子育て環境の悪い東京圏へ移動し続けた結果、日本は人口減少社会に突入した。多くの地方では、すでに高齢者すら減り始め、大都市では高齢者が激増してゆく。豊富なデータをもとに日本の未来図を描き出し、地方に人々がとどまり、希望どおりに子どもを持てる社会へ変わるための戦略を考える。藻谷浩介氏、小泉進次郎氏らとの対談を収録。

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