『きみの鳥はうたえる』の三宅 唱監督と『愛がなんだ』の岸井ゆきののタッグ。
これらの映画作品を上げるだけで、この作品が大手に迎合したものでないのがわかる。
今年度の映画賞を総なめにしていた。それだけに、日本アカデミー賞で最優秀主演女
優賞を岸井ゆきのが取る前に鑑賞しておきたかったが、今になってしまった。
耳が聴こえないボクサーの実話を基に描いた人間ドラマ。元ボクサー・小笠原恵子の
自伝「負けないで」が原案。
生まれつき聴覚障害で両耳とも聴こえないケイコ(岸井ゆきの)は、ホテルのベッド
メイクで生計を立てながら開発が進む下町のボクシングジムで厳しい練習に励み、プ
ロボクサーとしてリングに立ち続けていた。嘘がつけず、自分の思いをうまく言葉に
できないことでストレスも溜まっていく。
そんなある日、ケイコは間もなくジムが閉鎖されることを知る。次の試合はどうして
も勝ちたい、そう強く思うケイコだが…。
ボクサーの役ということもあり、岸井ゆきのはほぼノーメイク。ただ、そんなものは
必要のないウソのない演技。その力、一挙手一投足が見事だった。決して、美しさを
ウリにする女優ではないが、その普通さが生きる女優である。
日本アカデミー賞では、“コンビネーション”打ちが自分に向いていると語っていたが
本当にすごいミット打ちをしていて、しかもそれが楽しそうなのが伝わってきた。
この作品はフィルムで撮影されている。そのため、その風合いが独特だ。そのざらつ
き感の中で、朝日や夕日が差し込む。ノスタルジックな雰囲気も。
人生は山あり谷あり、勝ったり負けたり。それでも人は前に進んでいく。
エンドロールは曲がなく、ケイコが見るいつもの風景に、ヘリコプターや人の
声、鳥のさえずりが聞こえる。そこに、キャストやスタッフの名前が静かに入り込む。
ジムの会長には三浦友和、その妻を仙道敦子、ジムのコーチには三浦誠己。ケイコの
母は中島ひろ子が演じている。
耳に障害があるので、耳を澄ますことができない。だから目を澄ます…そういうことか
らのタイトルとなっているのであろうと、スクリーンを観ながら感じていた。