縦と横
1993年夏、2度目の渡米で訪れたのはニューヨーク、ワシントン、そして、ケベック。
24歳の頃は、空港を颯爽と歩くような大人の女性に憧れていた。その延長線上にあったのが、
ニューヨーク一人旅。マンハッタンを思いの巡る限りに歩く、これは夢に描いた情景。
ワシントンでは、かつて横浜の自宅にホームステイしたことのある友人を訪ねた。
そしてケベックは父が仕事で行ったことのある街。
幼いころ、「とてもロマンティックで素敵なところだよ。いつか見ておいで。」と
出来上がった写真を見せて、そう話してくれたことがずっと心にあった。
ニューヨークでは透明人間になれるような気がして、ぶらりと一人で町を歩くことを満喫し、
人通りの少ない路地に入ってしまった時にはドキドキしながら足早に通り、それでも、
踏みしめる一歩一歩が嬉しかった。明らかに有頂天の日々だった。
ケベックでは城壁の中に泊まりたいと旧市街に宿を移し、父が話してくれた通りの街並みを
見て歩き回るだけでわくわくした。それでも一人時間を楽しむなかで、同じように楽しそうに
歩く同年代の日本人がたくさんいることに気が付いた。その中でもユースホステルの入り口で
見かけた少年がなぜか印象に残っていた。街を歩くなかで言葉を交わした一人旅の男女4名で
夕食を共にした。そこに連れてこられたのが、先ほど見かけた少年だった。
ユースホステル仲間だと言った。
彼は大学の夏休みにVIAレイルでカナダ横断旅行中だった。ケベックまで来たので
次の都市はニューヨーク、今回の旅の終点はそこだと言った。それぞれアドレスを交換したが、
日本各地から来ていたメンバーの中で再会できたのは首都圏に住む彼だけだった。
出来上がった写真を見ながら、もう一度旅をした。
そして、旅の一部を共有した彼との再会で、写真を交換しながら再び旅をした。
それぞれ違う時間の流れの中で歳月は経ち、それでも年に一度のご挨拶は続いていた。
4度めのご挨拶で勤務先の移転を報せた。京王線沿線に住む彼の最寄駅と
南武線沿線に移転した会社は比較的近かった。
それだけの理由で、再会した。
それからの2度目のご挨拶は、一緒に出した。
今、彼は夫となり、私たちのイニシャルは共に ○.○。。。
東西、南北。縦、横。何度かクロスするとチェック柄になる。
そういえば、最初に見かけて少年は、ジーンズにチェックのシャツ、
寝袋を括り付けた大きなリュック姿だった。
縦の糸はあなた~♪
横の糸は私~♪
織りなす布は
いつか誰かを~♪
暖めうるかもしれない
友人が歌うこの曲を初めて耳にしたとき
溢れてくるものを止めることができなかった
心に沁みわたる歌声によるものなのか
歌詞に込められたその心によるものなか
おそらくどちらともだったと思う
オリジナルが中島みゆきさんだとも知らずに
その曲が大好きになり
その後も彼女がこの歌を歌ってくれるたびに
琴線が揺れた
その頃書かれた文書が出てきた
その頃こんな景色の中にいた
今来年に向けてもっともっと
糸に触れたいと思う自分がいて
あぁ~つながってるって思うのだ。
ずっと前からそうだったんだと。