猫田たま男くんのまともな仕事をよこせ!ブログ

「日本版エグゼンプションは死を招く」改め、労働のトピックスなどを紹介(08年5月リニューアル!)

与党PTの派遣制度改正提言

2008年07月09日 | 報告
7月8日、与党新雇用対策に関するプロジェクトチームが「労働者派遣制度の見直しに関する提言」を桝添厚生労働大臣に手渡しました。
桝添大臣は「会派を超えて協力してくれる問題だろう」などを語っていました。
もちろん、会派にかかわらず労働者派遣法の改正が必要だという点では一致しています。問題はもはやそんなところにはなく、中身にあります。
今回の発表を受けて派遣ユニオンでは見解を発表しています。
ちょっぴり長くなりますが、以下に「提言」を載せましたので「見解」も合わせてご覧いただければと思います。

労働者派遣制度の見直しに関する提言
平成20年7月8日(火)
与党新雇用対策に関するプロジェクトチーム
当プロジェクトチームは、労働者派遣について労働者保護の観点から様々な問題が生じてきている状況を踏まえ、特に問題の大きい事業形態である日雇派遣について原則的に禁止するとともに、労働者のニーズに合った適正な制度は維持しつつ、派遣労働者の待遇の改善を図るため、制度の見直しを行うべきであるとの基本認識で一致した。
現在、政府では、制度の見直しについて検討を進めているが、当プロジェクトチームとしても、別添のとおり「労働者派遣法改正の基本的考え方について」を取りまとめた。政府においては、秋の臨時国会に改正法案を提出することを目指して、この内容を軸に、早期に検討、結論を得ることを求める。併せて、労働者が安心して働くことのできる環境整備のため、一層の指導監督体制の強化を行い、違法派遣には強い姿勢で臨むとともに、派遣という働き方を望まない労働者の常用就職のための支援等、労働者に対する支援を積極的に行うべきである。
当プロジェクトチームは、今後とも、政府における検討状況を見守るとともに、国民の声に真摯に耳を傾け、雇用の安定の実現に向けて取り組むものである。

別添
労働者派遣法改正の基本的考え方について.
1 派遣労働者の雇用の安定、待遇の確保について
(1)日雇派遣について
日雇派遣は、派遣の中でも特に雇用が不安定であることから、原則禁止とすること。ただし、日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題がない業務等については、ポジティブ・リスト化して例外的に認めるものとすること。
また、日雇派遣事業の日雇職業紹介事業への切り替えの促進を図るとともに、併せてハローワークの機能強化により日雇派遣労働者の安定就職の促進を図ること。
(2)登録型派遣について
登録型派遣の労働者のうち希望する者には、常用型派遣を含む常用雇用へ切り替えることを促進するための仕組みを設けるなどの雇用の安定化につながる措置をとること。
(3)待遇の改善について
派遣労働者の職務内容に相応しい待遇が確保されるために必要な措置をとること。
(4)労災保険について
'派遣先の法律上の災害防止責任が反映されるよう必要な措置をとること。
2 労働者派遣事業の適正化について
派遣会社における事業の透明化、適正化を図るため、以下について措置すべきである。
(1)マージン率について
労働者派遣事業に係る情報公開については、マージン率の公開を含め、法律上の義務とし、その徹底を図ること。
(2)専ら派遣について
労働者の処遇の切り下げに用いられやすいことから、グループ企業内において労働者派遣事業を行うことについて一定の規制を行い、適正な事業運営が行われるようにすること。
3 偽装請負、違法派遣への対処について
(1)偽装請負について
派遣先が偽装請負等を繰り返すような場合に、より強い行政措置が発動されるようにすること。
(2)違法派遣について
違法派遣を行った派遣会社に対して処分の実効性を高めるようにするなど、指導監督強化のための措置をとること。

労災を巡る2つの判決

2008年07月03日 | お知らせ
最近、労災をめぐる興味深い判決が2つ出されました。
ひとつは7月1日の松山地裁の判決。道路建設会社の営業所長の自殺は、会社上司の執拗な叱責が原因だとして、損害賠償を請求していた妻らの訴えていたもの。裁判所は妻らの訴えを認め「執拗な叱責は違法」として、約3100万円の支払いを同社に命じました。類似の事件としては、職場のイジメをめぐる判決として、川崎水道局事件などがあります。
新聞報道では「判決によると、男性は愛媛県内の同社営業所に勤務していた2004年7月ごろから、四国支店(高松市)の上司に何度も呼び出され『この成績は何だ』『会社を辞めれば済むと思っているんじゃないか』などと叱責され、同年9月に自殺した」とあります。このとおりだとすれば、叱責された時期と自殺の時期も隣接していることなどから業務との関連性は高いといえるでしょう。会社の責任は重大と思われ、判決は妥当なものと思われます。
しかし「男性が営業成績を水増し報告していたことが叱責の背景にある」として、1億4500万円の請求額から大幅に賠償額を減額しています。たしかに会社の責任を認めつつも3100万円は、やや減額しすぎとの印象を受けます。原告、被告とも控訴の意向を示しているとのことですから、今後、高裁の判断に注目したいところです。
もうひとつは6月25日の東京高裁の判決。この事件は、いわゆる労働基準監督署が労災認定をしなかったことを不服とした遺族が国を訴えた行政訴訟です。
事件は、会社内で開かれた飲み会に出席した男性が帰宅途中、地下鉄駅で階段から転落し死亡したもの。
新聞報道によると「男性は平成11年12月、勤務時間外に当たる午後5時から社内で開かれた会合に出席。約5時間後の帰宅途中、地下鉄駅の階段で転落し、頭を打って死亡した」とあります。延々、5時間に及んでいた飲み会に出席後、帰宅途中に被災し死亡したということになります。
会社から帰宅途中の事故は「通勤災害」といわれ、このような業務との関連のある飲み会に出席した場合でも「2時間程度」であれば、その途中の事故は労災保険の対象としています(通達)。
このケースでは5時間。しかし、一審判決では労災保険の対象となると判決していました。それだけ飲み会の出席に業務性が高いと判断されたことになります。ところが、東京高裁は、一転して労災保険の対象とはしないとする判決を下しました。
現段階では私自身、判決文を確認していないので、判断が難しいところもあります。しかし、新聞報道の「1審判決は『忌憚(きたん)のない意見交換などで業務を円滑に進めるために行われており、業務上の成果も出ていた』などとして会合を業務と認定、男性の飲酒も業務の一環としていた」「『男性は会合を主催した部の次長で、参加は業務と認めるのが相当』と認定。しかし、『男性は業務性のある会合終了後も3時間近く飲酒していた』と指摘」とされている点を見る限り、東京高裁の判決は通達の「2時間程度」を当てはめて判示しているという印象を受けます。
では「忌憚のない意見交換の場」を設定した次長としての被災者が、集めたみんなをおいて「じゃあ、これで帰るから!」とさっさと帰れるでしょうか。さらに「忌憚のない意見交換の場」ですから、お酒の好き嫌いは関係なく飲める人なら、話を飲まずに聞けるでしょうか。そのような状況で酒を飲み、酔ったことを誰が非難できるでしょう。
今後、もし最高裁判決が、高裁の判決を維持するようなことになれば、業務性を不当に狭めるようなことにもなりかねません。是非、注目したい裁判です。

派遣法改正与党案が発表

2008年07月02日 | 意見
先日、桝添厚生労働大臣が「秋の臨時国会に改正法案を提出する」と述べたことで作成が急ピッチで進められていた労働者派遣法の改正案。
ついに自民、公明両党の「新雇用対策に関するプロジェクトチーム(PT)」(座長・川崎二郎・元厚生労働相)が、日雇い派遣を原則的に禁止する与党案をまとめました。この与党案をもとに、厚労省が労働者派遣法改正案を秋の臨時国会に提出することになるそうです。
現在、厚生労働省内に学識経験者(学者)で構成する研究会を設置して、法案のたたき台(報告書)をまとめるべく議論をしている最中なので、与党案が示されるタイミングがやや早いことに少し驚きました。
しかし、これまでこの研究会を傍聴してきてみえてきた報告書の内容と新聞報道でみる与党案の内容はほぼ同じ。水面下で綿密な内容のすりあわせがあったことを伺わせます。
7月2日の朝日新聞(朝刊)によると、与党案の中身は①日雇い派遣については、通訳など専門性の高い業務を除いて原則的に禁止、②派遣会社に手数料(マージン)の開示を義務化、③特定企業だけに労働者を派遣する「専ら派遣」についての規制強化、など。
登録型派遣の禁止まで踏み込ませず、かつ、派遣労働者を保護するかのように見せかけるための工夫がちりばめられている、といえるかもしれません。
与党案、政府案が明らかになった段階で、きっちりどこがどうイカサマかを批判する機会を設けようと思います。

グッドウィル廃業に伴うキャンペーン~廃業で済むと思うなよ!~

2008年06月29日 | お知らせ
グッドウィルは、7/31を目処に廃業と発表しましたが、6月末には事実上支店機能をなくし、支店長以外は合意退職(?)、支店長は7月末まで残務整理するとの情報が支店長からの相談の中で寄せられました。
定番で入っていた日雇い派遣労働者については、7/1から直接雇用に切り替える作業が進められているようですが、「直接雇用に切り替わった労働者には有休を認めるなという指示が本社から出ているが、取らせてやりたい」という支店長からの相談でした。
グッドウィルユニオンでは、以下のキャンペーンに取り組み、グッドウィルユニオンのブログなどで呼びかけていきます。
グッドウィルユニオン説明会でも詳しく説明します。
次回の「グッドウィルユニオン説明会」7/12(土)19:00~派遣ユニオン
【有給休暇を全部取ろう!キャンペーン】
グッドウィルでは「有給休暇を取るときは前月20日までに申請すること」「社会保険に加入していないスタッフは月15日までしか有休を取ってはいけない」というルールになっていますが、労働基準法上はこのルールを守る必要はありません。
廃業により有休を消滅させるぐらいなら、その前に全部有休を取得してしまいましょう。
有休は前日の申請でもOKです。
もし申請した有休の賃金を支払わなかったら、労働基準監督署に申告しましょう!
【雇用保険をさかのぼって加入しよう!キャンペーン】
1年以上、定番の仕事に入っていたのに、雇用保険に加入していなかったら、さかのぼって加入することができます。
登録支店の管轄のハローワークに行って「確認請求」(雇用保険被保険者資格確認請求)を行ってください。
雇用保険の加入資格があることが確認されれば、ハローワークからグッドウィルに対して、さかのぼって雇用保険に加入させるよう指導が行われます。
過去の雇用保険料はかかりますが、月々の保険料は月収の6/1000ですので、例えば20万の月収で1200円。
廃業により失業してしまう方は、わずかな保険料で雇用保険給付を受けることができます。
ハローワークで「確認請求」しよう!

派遣トラブルホットライン開催!

2008年06月26日 | お知らせ
NPO派遣労働ネットワークの主催で「派遣トラブルホットライン」を6/28(土)・29(日)12:00~20:00に開催します。
電話番号は03-5338-1266です!
派遣期間制限問題、いわゆる違法・脱法のクーリング期間と合わせて、グッドウィル廃業に伴う不安などの相談にも対応します。お困りの方は是非、お電話を!また、お困りの方をご存知の方は是非、おススメしてください!
朝日新聞では事前のお知らせが載りそうです。

グッドウィル廃業へ

2008年06月26日 | お知らせ
人材派遣大手グッドウィル・グループ(GWG)は25日、違法派遣を繰り返してきた子会社の日雇い派遣大手グッドウィルを7月末で廃業すると発表した。
これを受けて、派遣ユニオン・グッドウィルユニオンは、以下の声明を公表しました。
【グッドウィル許可取り消し・廃業方針に関する声明】
○失業する労働者の救済~日雇い雇用保険の遡及加入で「あぶれ手当」の受給を!
違法派遣や賃金不払など違法行為を繰り返してきたグッドウィルに対して派遣事業許可取り消し等の厳しい処分が出されるのは当然のことである。
しかし、1995年以降、違法派遣を繰り返しながら拡大してきたグッドウィルを放置したばかりか、1999年の派遣法改正によりグッドウィルが行う事業を合法化して急成長に拍車をかけた国の責任は極めて大きい。
もっと早くこのような違法派遣を取り締まっていれば、グッドウィルで働く労働者が数千人、数万人規模まで膨れ上がることはなかったし、許可取り消しによって大量の失業者を生み出すようなこともなかった。
また、グッドウィルで働く日雇い派遣労働者が日雇い雇用保険に加入していれば、失業しても当面は「あぶれ手当」の受給により当面の生活を凌ぐことができたはずだが、厚生労働省は、グッドウィルが日雇い雇用保険に全く加入させていない状態を承知しながら、それさえも放置した。
許可取り消しまたは廃業により、雇用を失い、生活の道を立たれる労働者の救済が何よりも優先されなければならない。
○グッドウィルの許可取り消しでは低賃金・不安定雇用の問題は解消しない-派遣法の抜本改正を!
現在、グッドウィルが行ってきた港湾業務などの違法派遣は、日雇い派遣事業を行う同業他社に流れていっている。
つまり、グッドウィルの派遣事業許可を取り消しても、日雇い派遣が抱える違法派遣の実態、日雇い派遣労働者が抱える低賃金、不安定雇用、労働災害の多発の問題は解決しない、
舛添厚生労働大臣も「日雇い派遣の禁止」を口にするようになったが、今後は、派遣法改正の内容こそが問われることになる。
まず、日雇い派遣に象徴されるような劣悪な働き方の拡大は、1999年派遣法改正による派遣対象業務の原則自由化がもたらしたものであり、派遣法制定当初の趣旨に立ち返って派遣対象業務は極めて専門性の高い業務に限定すべきである。
「登録型派遣」が不安定雇用を生み出している。仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ「登録型派遣」は原則禁止すべきである。ピンハネに歯止めをかけるためには、マージン率の上限規制も極めて重要だ。
そして何よりも、正社員と同じ仕事をしていたら同じ労働条件を義務付ける「均等待遇」の規定や、「細切れ契約」を禁止する規定など、派遣労働者の権利保護規定を盛り込むべきである。
グッドウィルユニオンは、グッドウィルの許可取り消し、廃業方針に関して下記のとおり声明する。

1、グッドウィル及びグッドウィルグループに、違法行為を繰り返しこのような事態を迎えた責任を取るため、労働者の生活を確保するための賃金保障を求める。
2、グッドウィル及びグッドウィルグループに、未返還のデータ装備費、集合時間からの未払い賃金、労災補償など、労働者に支払うべき賃金等の支払いや補償を求める。
3、厚生労働省に、失業する日雇い派遣労働者を救済するため、日雇い雇用保険に遡及加入させるよう求める。
4、労働者派遣法を抜本改正すべきである。具体的には…
 ①低賃金・不安定雇用・労働災害の多発を生み出す派遣制度の規制
  ・派遣対象業務の専門業務への限定
  ・登録型派遣の原則禁止
  ・マージン率の上限規制
 ②派遣労働者の権利保護
  ・同じ仕事をしている派遣先労働者との「均等待遇」
  ・「細切れ契約」の禁止

各党トップに聴く、いまこそ派遣法改正希望のもてる働き方を!

2008年06月22日 | 報告
舛添大臣の「臨時国会での派遣法改正、日雇い派遣の原則禁止」発言、そして「在り方研究会」も大詰めとなりました。
「格差是正と派遣法抜本改正を実現する連絡会」(派遣ネット・ガテン系連帯・全国ユニオン・全日建)は、昨年から計4回の院内集会を開催、各野党や公明党と派遣法の抜本改正を求めてきました。
この度、7月25日(金)6時より御茶ノ水総評会館で「各党トップに聴く、いまこそ派遣法改正希望のもてる働き方を」を開催することになりました。
野党各党の党首クラスの参加を呼びかけたところ、社民党福島党首、共産党志位委員長、国民新党亀井幹事長の出席が内定しています。民主党に要請中、公明党や舛添え大臣にも招請状をお出ししています。資料代500円です。ぜひ参加してください。
それにしても…公明党や舛添大臣が来なくても「まあ、そんなもんだろう」って感じにはなりますが、民主党はだれが来るんでしょうね? マスコミも多く来ますから恥かしい思いをすることがないように期待したいです!

炊(かしき)と派遣労働者

2008年06月21日 | 意見
幕命により択捉航路を開き蝦夷地物産売捌方となり、函館の北洋漁業の基を築いたといわれる高田屋嘉兵衛の生涯を描いた司馬遼太郎先生の著作『菜の花の沖』を読んでいます。
その中で「炊」という言葉が出てきます。「かしき」と読みます。これは最下級の船の乗組員のこと。読んで字のごとく飯炊き係兼雑用、そしていじめられ役。炊の頭は殴られるためにあると言われるほどポカポカ殴られたようです。こんな扱いですから、まさに人以下。ネズミ退治用に乗船させている猫よりも下、とまで言われていたそうです。
翻って、現在の日本の派遣労働者。時代背景は異なるので単純な比較はできませんが、江戸時代の炊と現在の派遣労働者を比べれば派遣労働者のほうが経済的に恵まれているといえるでしょう。また、殴られるようなことは滅多にないでしょう(たまにはあるかも?)。しかし、炊にあって派遣労働者にないものがあります。それは「希望」です。
炊はいわば船員になるための儀式のようなもの。2~3年もすれば炊から、いわばキャリアアップでき、将来は船頭になれるかもしれないという「希望」がありました。しかし、現在の派遣労働者、特に製造現場で働く派遣労働者の多くには、このキャリアアップの仕組みがなく、このままだと一生、賃金も上がらず、物をつくるパーツのような存在になりかねません。しかも、その足元で確実に拡がる「絶対的な貧困」。不安になるのが当たり前です。
こうして比べていくと、むしろ現在のほうが江戸時代よりも劣っているところがあるのかもしれません。いつの間に、日本の社会システムは退化したのでしょう? それともこれが「国際競争力の強化」を追求した結果なのでしょうか? そろそろ江戸時代に追いつくことを考えましょう。

心のタメをつくろう!

2008年06月19日 | 意見
昨日付けの記事で、心の「タメ」の話を書きました。
この心の「タメ」には、その人のパーソナリティも影響すると思います。
そしてパーソナリティーは、DNAに加えて生まれてからのその人の経験の積み重ねが形成しているという考え方があります。そうだとすると、その意味では生い立ちは重要なファクターになり得るでしょう。
しかし、生まれてからの経験の積み重ねですから、社会人になってからの経験も、パーソナリティーを補強あるいは修正するものでしょう。
働く場で大切にされた経験がない――あるフリーライターは、不安定雇用で働く若年者の現状をこう表現しました。そうだとすると、劣悪な労働条件で働いている人の中には、就職する以前に蓄えた心の「タメ」だけで、生活している人もいるかもしれません。
秋葉原の事件の加藤容疑者には、就職の前の心の「タメ」の少なさに加え、働く現場で大切にされた経験のないことが、複雑に絡み合っていたような印象を受けます。
しかし、就職する以前の心の「タメ」はほんのわずかでも、就職して仕事を覚え、腕を上げて…という中で、自分のかけがえのなさを実感できるようになり、心の「タメ」を蓄えていくことも可能なはずです。
このパターンでは、仕事が趣味になって過重労働に陥ることは避けたいところですが、今でも「職人」と呼ばれる世界には、こうしたところも残っているように思います。
しかし、不安定就労ではこうしたことは期待できません。特に派遣会社に雇用されて派遣先で働く派遣労働は、派遣先で人権も含めて軽視されがち。最近はだいぶ変わってきましたが「体調が悪いので、保健室で横にならせてください」という派遣労働者の申し出に対して「あなたは派遣だから使えません」といわれたという話もあります。また、ある工場のラインでは毎年夏に複数名の派遣労働者が熱中症で倒れているといいます。
要するに、心の「タメ」をつくるどころか、蓄えを奪う要因には事欠かないといった始末。こんな状況で働き続けていたら、就職する以前にしっかり心の「タメ」を蓄えてきた人でも、早晩エンプティになるかもしれません。
こうした「タメ」を奪うシステムを補強する現在の労働者派遣法は、なんとしてでも改正しなければなりません。法律の改正は、一部の有識者や活動家と呼ばれている人だけではできません。もっと、多くの人の力が必要です。「私にはそんな力はない」と思われる方もいるでしょう。ほんのちょっとでいいんです。小さい声でも、小さい力でも、たくさん集まれば大きな声に、大きな力になります。
それぞれが、できることを少しずつ積み重ねていくための運動があります。あんなのこんなのああいうのこういうのもあるんです。
こうした運動を通じて人とのつながりができていく――まさに一石二鳥なんですけどね。
ちなみに、タメの話の本家である湯浅誠さんの話はこちらをご覧下さい。

心のタメ

2008年06月18日 | 意見
すいません。まだ読んでいませんが、快調に刷り増しを重ねている湯浅誠氏の著作の岩波新書の『反貧困』。この中に「タメ」という言葉が出てくるんだそうです。
これは、毎月あるいは毎日の生活がまさに自転車操業なので、身体を壊して働けなくなる、あるいは突然クビを切られたなどでわずかでも働けない期間ができると、瞬く間に生活が立ちゆかなくなり、ある人はネットカフェ難民になったり、またある人は路上生活者になったり…という状況を生活に「タメ」がないと表現しているということのようです。
一般的に安定した雇用でまじめに働いていればわずかでも蓄えができ、簡単にはこうした状況に陥ることはないのですが、不安定雇用で働く人にはこのわずかな蓄えができません。
本来であれば、まさにこのような場合にこそ生活保護の支給により、生活の建て直しを図り、自立を支援することが必要なのですが、必ずしもそうはなっていません。
また現在、正社員で働いていたとしても、いつリストラの名を借りた解雇の通告をされるかわからず、いったん解雇されてしまえば、同じようなタメのない状況に陥りかねません。
まさに一寸先は闇。そして、こうした「タメ」は生活だけでなく、心にもなくなっているように思います。
生きていれば、様々なネガティブな出来事を避けて通ることはできません。そして、こうしたネガティブな出来事によって、落ち込んだり、自暴自棄になったり…ということもあるでしょう。
こうしたときに、夜中までやけ酒につきあってくれる友人や、やさしく抱きしめてくれる家族…こうした人と人とのつながりは、まさに心の「タメ」だと思います。そしてこうしたつながりが、自らや他人を死に追いやるなどの行為を踏みとどまらせている大きな一因ではないでしょうか。
自殺者が3万人超え続けていること、キレやすい人が増えているといわれていること、そして秋葉原での無差別な殺傷事件、これらの背景にこうした心の「タメ」がなさを感じます。