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日本人として日々の暮らしの中で思うこと、知りたかったこと

ハングル文字の起源と普及の歴史

2019-11-09 10:13:45 | 韓国・北朝鮮
14世紀にユーラシア大陸の広い範囲を支配したモンゴル帝国の一人の武官である李成桂(イ・ソンゲ、り・せいけい、이성계、太祖 康献大王、1335年10月27日 - 1408年6月18日)は1357年から高麗の武官に任ぜられ、明に1392年から権知高麗国事、1393年に権知朝鮮国事に冊され、李氏朝鮮の創始者となったとされている。


つまり、李氏朝鮮の創始者李成桂はモンゴル帝国の武官であり、モンゴル帝国の支配者側の人物であった。


李成桂がモンゴル人だったのか高麗人だったのか、渤海人だったかは不明であるが、出身地は現在の北朝鮮にある咸鏡南道の永興(金野郡)とあり、「李朝太祖実録」によれば本貫(注)は全州李氏という。この地域は古代には高句麗・渤海国の領域で、その後、女真族と高麗王朝との間で抗争が行われた、とある。


岡田 英弘氏(1931~ 2017年)(注)は、著書である「モンゴル帝国の興亡」(ちくま新書)という本の中で、13世紀モンゴル時代の朝鮮半島と大陸の関係を概説し、李氏朝鮮勃興までを語って、「李朝実録」の記事にもとづき、朝鮮の李成桂が女真人出身だと論証している。


女真(女眞、じょしん、満州語: ᠵᡠᡧᡝᠨ 転写:jušen)は、満洲の松花江一帯から外興安嶺(スタノヴォイ山脈)以南の外満州にかけて居住していたツングース系民族で、民族の聖地を長白山(注)とし、10世紀ごろから記録に現れ、17世紀に「満洲」(「マンジュ」と発音)と改称している。


(注)本貫:古代東アジアにおいて戸籍の編成(貫籍)が行われた土地をいう。 転じて、氏族集団の発祥の地を指すようになった。 日本には律令制下の戸籍制度とともに概念が導入された。

(注)日本の東洋史学者。東京外国語大学名誉教授。東洋文庫専任研究員。専攻は満洲史、モンゴル史であるが、中国・日本史論についての研究・著作もある。

(注)長白山とは白頭山(はくとうさん、朝鮮語: 백두산 ペクトゥサン、簡体字: 白头山)のことで、中華人民共和国(中国)吉林省と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)両江道の国境地帯にある標高2,744mの火山。白頭山の別名が長白山(ちょうはくさん、簡体字: 长白山 チャンパイシャン)。


李成桂の出身地域とされる咸鏡南道(ハムギョンナムド )


■ハングル文字からみるモンゴル(「女真」)との繋がり
現在南北朝鮮で用いられているハングル文字の起源は、李氏朝鮮時代の1443年に世宗大王と様々な学者らが作り、1446年に「民衆を訓える正しい音」という意味の「訓民正音」と名付け、世に広げた」とされてきた。


しかし、2016年9月29日、韓国・ニュース1によると、ハングルは世宗大王が独創的に発明したものではなくチベットで生まれ、モンゴル帝国の公式文字となった「パスパ文字」であるという学説が報じられた。





「パスパ文字」は、モンゴル帝国の大元ウルスの国師であったチベット仏教の僧侶・パスパがクビライ・ハーンの命を受けて制定した文字であり、自国の言語を漢字で記録することが困難なため、全ての言語を表記するための共用国字の表音文字として別に作成したもの、とある。



韓国の代表的な書誌学者である高麗大学のチョン・グァン名誉教授は「アルタイ諸民族の文字制定と使用」という論文の中で、「ハングルとパスパ文字の文字数が同じである」と指摘。


「ハングルは子音32文字と母音11文字の計43文字であり、これはパスパ文字の43字母と一致している。」


「チベットを統一したソンツェン・ガンポ王が古代インドで流行した音声・文法理論である毘伽羅論を応用して新たな表音文字を作り出した影響を受け、7、8世紀以降、中国の北方民族たちは新国家を建国し、それに伴い新たな文字を制定する伝統があった


「膠着的な文法構造を持ったアルタイ系統の言語を使用する民族にとって、漢字は自分たちの言語を表記するのに適しておらず、このような伝統が朝鮮半島にも伝わり、朝鮮の建国とともにハングルの制定につながった」というのが、チョン教授の主張のようだ。


チョン教授によると「朝鮮を開国した太祖・李成桂の家系とパスパ文字のつながりとして、李成桂の父親である李子春は元(モンゴル帝国)に帰属しており、一時期は千戸の官職も務めたとされ、このことから、李子春のひ孫である世宗が文字を制定するにあたり、パスパ文字の影響が大きかったことが推論できる」そうだ。


さらにチョン教授は、「訓民正音がパスパ文字のように漢字音を自国語で表記するために制定された文字である」と主張。「初めは漢字音の表音のために記号を作ったが、パスパ文字のように韓国語と韓国の漢字音の表記にも使われ、急速に一般民衆の生活文字として広まった」と述べている。

但し実際のところはハングルの普及は「急速に」ではなく、成立から500年後の日韓併合時代のことであったと思うのだが。


■ガリ・レッドヤードの主張
高麗大学のチョン・グァン名誉教授以外に同様の説を唱えている人物として、朝鮮の歴史やハングルの研究で知られなどがるコロンビア大学名誉教授ガリ・レッドヤードも論文でハングルは元朝のパスパ文字を参考にして考案された」という説を唱えている。


レッドヤードの主張の根拠
①『訓民正音』にあるハングルの字形についての「象形而字倣古篆(形を象りて、字は古篆に倣ふ)」という記述に関して伝統的には、この「古篆」は「古い篆書体」の意だとされるが、レッドヤードはこの「古篆」は当時「蒙古篆字」の名で知られていた「パスパ文字」を指すと思われること。
②ハングルの字母にパスパ文字と字体が似ているものがいくつかあること
③いくつかの合成字母についても作り方がハングルはパスパ文字に似ていること

パスパ文字をハングルの基礎だとする見解は、レッドヤード以外の研究者からも出されているようだ。


■石田泉城氏によるハングルの成立に関する見解
ハングルの作成者たち
「世宗王の命のもとに王室の研究機関である集賢殿正音庁が実務を行ない、『海東諸国紀』(1471年刊行)を記した日本通の申叔舟などが中心となって作成された」

「当時朝鮮人はほぼ文盲であったため、わかりやすい文字でなくてはならず、したがってハングル作成にあたっては、日本の片仮名のようにシンプルな形を参考にして、13~14世紀に朝鮮半島を占領したモンゴル人になじみやすい、やはりシンプルな字形のモンゴルの文字を主体として、子音と母音の組み合わせで作られた

「ハングルは、文字というより音を表す記号に近いイメージ

☆以上の内容はコメント内でご教示を頂き、補足させて頂きました。






(画像はネット上からお借りしました)


■ハングルの普及
ハングルが朝鮮人の間で普及したのは日韓併合時代に漢字を表音読みさせるために、ハングルを整備して教育に用いたからあって、大韓帝国も李氏朝鮮時代も人口の約3%の両班と呼ばれる貴族階級の人々以外の身分の人々には文字はおろか教育の機会すら与えられていなかった、というのが実像のようなのだ。


イザベラ・バード『朝鮮紀行』によれば、「少女向けのこの国独自の学校はなく、上流階級の女性は朝鮮固有文字が読めるものの、読み書きのできる朝鮮女性は1000人に1人」つまり0.1%以下と推定されている。 


朝鮮総監府が1909年に身分制度を撤廃し教育機会をもたらしたのがハングル文字の普及のはじまりと考えるべきで、統監府は1909年、新たに戸籍制度を朝鮮に導入し、李氏朝鮮時代を通じて人間とは見なされず、姓を持つことを許されていなかった、白丁などのにも姓を名乗らせて戸籍には身分を記載することなく登録させた、とある。

李氏朝鮮時代は戸籍に身分を記載していたが、統監府はこれを削除し、これにより、身分開放されたの子弟も学校に通えるようになった。身分解放に反発する両班は激しい抗議デモを繰り広げたが、身分にかかわらず教育機会を与えるべきと考える日本政府によって即座に鎮圧されたそうだ。


文字の学習機会を一般民衆がもつようになったのは、日本による併合で小学校が朝鮮半島各地につくられて一般民衆に教育の機会が与えられるようになってからというのが歴史的事実であり、それでも当時の識字率は1930年(昭和5年)当時で僅か22%程度で、それ以前は、イザベラバードの「朝鮮紀行」が指摘していたように、彼の国では一般の民衆はほぼ文盲(識字率0.1%以下)であったようなのだ。


朝鮮人(諺文=「オンモン」=今のハングル)
(仮名及諺文ヲ読ミ且書キ得ル者「1,387,276」+諺文ノミヲ読み且書キ得ル者「3.156,408」)÷総数「20,498,108」≒22.16%
参考:

(教科書画像はネット上からお借りしました)


日韓併合時代当時の朝鮮の教科書からもわかるように、女性の識字率0.1%以下で国民の大半はそれまでほぼ文盲であって、一般民衆の教育には表音文字であるハングルを漢字併用で用いたのがハングルの普及に繋がったのである。


それ以前は漢字なども人口3%以下の両班以外の民衆は全く読めず、李氏朝鮮時代はそもそも一般民衆には教育の機会すらなかったのである。


文字文化というのはその民族の深い部分に根ざしているものだけに、日韓併合時代に教育の機会を得て学んだ漢字文化を捨ててハングル文字が主な文字となっている現在の南北朝鮮のルーツは、やはり古代の朝鮮半島に住んで漢字文化圏にあって滅亡した新羅人や百済人ではなく、北方のモンゴルと渤海あたりに住んで南下してきたツングース系の人々の末裔と考えてよいのではないだろうか。




引用:






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4 コメント

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モンゴルとハングル (泉城)
2019-11-11 18:57:14
こんばんは
朝鮮の神話で探ると、朝鮮半島の歴史書『三国史記』に、高句麗や百済の始祖である朱蒙は、現在の中華人民共和国の吉林省の辺りにあった扶余であったとあります。そして、扶余から逃避して、白頭山に源をもつ鴨緑江の北、朝鮮半島の付け根あたりに位置した卒本(ソルボン)へ南下しました。ここを拠点として高句麗を建国し、さらにその子孫は南下し百済を建てたとされます。

また、新羅の始祖である朴・昔・金の三姓には漢人、倭人、匈奴が関わっているとされます。

したがって、朝鮮半島の神話では、ざっくり言えば、北方系の匈奴や扶余のほか、漢人・倭人など様々な人種が混在していたと考えられます。

DNAの観点からは、父系のY染色体ハプログループに関して、中国大陸も朝鮮半島もハプロタイプOの持主が最大であり、日本人特有のDは2%以下でごくわずかです。以前にkamakuraboyさんが言及されたとおりですね。
現在の朝鮮人の遺伝子は、O3(45%)、扶余系のO2b(23%)、女真のC3(13%)、倭人のO2b1-47z(9%)、倭人のD2,D1(1.6%)、他O1a(2.2%)、とされ、約1/2は北方系、約1/3が扶余と女真、約1/10は南朝鮮を倭人が支配していた名残(O2b1-47z,D2,C1,)と考えられます。チンギスカンは女真のC3の遺伝子だそうです。

したがって、朝鮮人は、現在の中国人と同じDNAを多く持ちながらも、扶余や女真を含めて北方系の影響を受けており、中国人とも日本人とも異なるグループに位置付けられるようです。

それではハングルはどうかということになりますね。
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モンゴルとハングル 続き (泉城)
2019-11-11 19:16:28
kamakuraboyさんがハングル文字の起源について述べられたとおり、現在の朝鮮民族は、人種としても文化にしても北方民族の影響を大きく受けていると思います。パスパとハングルはよく似ています。

モンゴル帝国に代表されるように、遊牧民族の略奪と殺戮を繰り返す侵略性や攻撃性は、草原を移動しては遭遇した部族や異民族と戦う歴史の中で遺伝子に刷り込まれ、そうした猛々しさが朝鮮人特有の火病に代表される性情として刻まれたように思います。
いずれにしても紀元前4世紀頃から紀元後5世紀にかけて中央ユーラシアに存在した遊牧民族の匈奴の残虐性が朝鮮人に残っているということでしょうね。

ハングルの作成については、世宗王の命のもとに王室の研究機関である集賢殿や正音庁が実務を行ない、その中心人物のひとりが『海東諸国紀』(1471年刊行)を記した日本通の申叔舟と思われます。当時朝鮮人はほぼ文盲ですから、わかりやすい文字でなくてはならず、したがってハングル作成にあたっては、日本の片仮名のようにシンプルな形を参考にして、13~14世紀に朝鮮半島を占領したモンゴル人になじみやすい、やはりシンプルな字形のモンゴルの文字を主体として、子音と母音の組み合わせで作られたのでしょう。
ハングルは、文字というより音を表す記号に近いイメージですから文盲でもとっつきやすいですね。
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こんばんは (kamakuraboy)
2019-11-11 21:05:29
コメントをありがとうございます。「世宗王の命のもとに王室の研究機関である集賢殿や正音庁が実務を行ない、申叔舟などが中心となってつくった」ということですね。そのときのハングルの字形について「象形而字倣古篆(形を象りて、字は古篆に倣ふ)の「古篆」を「蒙古篆字」の名で知られていた「パスパ文字」を指すとして、ハングルの基となったのは「パスパ文字」であろうという見方をしている研究者が、朝鮮の歴史やハングルの研究で知られるコロンビア大学名誉教授ガリ・レッドヤードという人物などのようですね。

「ハングルは、文字というより音を表す記号に近いイメージ」ということですが要するにはっきり言えば「発音記号」の様なものらしいですね。

漢字のような表意文字ではないから、同音異義語の多い漢字語の日本語をそのまま現在の韓国語では借用言語として使用しているためハングルだけでは何が書いてあるのかわからず、英語文献や日本語文献を読まなければ意味がわからないらしいです。

漢字を捨てたことで抽象概念の理解力や疎通性においての彼らの根本的問題の大きな原因だと思います。
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モンゴルとハングル (kamakuraboy)
2019-11-11 21:32:06
教えて頂いた内容につきまして、具体的なハングルの成立過程に対する見解として貴重な内容と思われますので、本文の中に加えさせていただきました。ありがとうございます。
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