ダル中毒の科学ごっこ

絞り滓の知性を忘備と供養のために記します

「π = 3 だとどうなる?」

2021-06-15 06:00:00 | 数理パズル

 円周率は π = 3.141592...から始まって無限に数字が続く無理数です.しかし僕が小学生のときには, π = 3.14 と近似して図形の面積などを求めていました.

 本当は違うものを π = 3.14 だとして計算しているので,ときには不都合なことが起きそうなものです.

 

 以前 塾でアルバイトしていたとき,生徒さん方に度々次のような論理パズルを出題していました(☞注1).

 

【問題】 いま「π = 3 である」と仮定します.一辺の長さが 1 の正六角形と半径 1 の円の周の長さをそれぞれ L1,L2 とするとき,下記の二人の主張で正しいのはどちらでしょうか?

 

 きちんと「問い」と「答え」になっているか少し心配ですが,この問題に関する一つの事実を次の動画でご紹介しました:

 

 2002年ごろ,「『ゆとり教育』の一環として,小学校での算数教育において円周率の値を 3 として教えることになる」という話が世間を騒がせたとのことです.もっとも,Wikipediaの『円周率は3』の記事によると,これは正確には誤報だったそうですが,実際に「π = 3 である」と仮定すると上記のような【矛盾】が生じることになります(☞注2).

 ただし,現行の算数教育で採用されている「π = 3.14 である」という仮定のもとでも矛盾は生じてしまいます.たとえば,円に内接する正60角形に注目すれば,内接多角形の周の長さ L1' が円周 L2' よりも大きくなるので,L1' < L2' に矛盾することが判ります.

 

 しかし,正60角形の周長を求めるのはなかなか骨が折れますね...(笑) もし他の矛盾の導き方をご存知の方がいらっしゃいましたら,ぜひ教えていただけると嬉しいです!

 

注1.次のような文脈で,しばしばこの問題を出題していました:
(1) 【背理法】という証明の形式をはじめて学ぶとき
(2) 矛盾のある体系では任意の命題が導けるという【爆発律】を紹介するとき(※この問題を少し変形して出題)
(3) 円周率を3や3.14と近似することの問題点を提起するとき(2003年の東大入試の過去問を演習するとき)

注2.狭義の背理法とは,次のことを言います:
「「Aでない」 → ⊥」 ⇔ 「Aである」
動画内の定義と少し異なりますが,【二重否定の除去】:
「「Aでない」でない」 ⇔ 「Aである」
を仮定することで同値になります.

 


チェスパズルの数学

2021-06-14 06:00:00 | 数理パズル

 本日の数理パズルは,チェスの「ナイト(騎士)」が主役です.

 

【ルール 1】 ナイトというのは,将棋でいう「桂馬」のような動き方を四方に対して行うことができる駒です.

【ルール 2】 同じマスに複数の駒が存在することはできないものとします.

 

【問題】 上記のルール 1 および 2 を満たしながら,盤上の配置を次に示す (a) の状態から,(b) の状態に移動させることは可能でしょうか?

 

 判りましたでしょうか...?

 

 

 実はどんなに頑張っても,状態 (a) から状態 (b) に配置を変換することは決してできないのです.でも,どうしてでしょうか?

 

 次のようにして不可能であることを,数学的に証明できます:


※今のところ,この動画のシリーズを視聴してくださる方のおよそ半数が英語話者なので,スライドのみ英語にて作成してみています.字幕(日本語・英語)を利用できます.

 

 上手くお伝えできていると良いのですが...

 動画内の証明で用いたような「頂点と辺から構成される構造」のことを数学では【グラフ】と呼びます(☞).今回紹介した「チェス交換問題」(Chess swap problem)は,グラフの考え方を用いることで綺麗に解くことができる例の1つです.

 

 グラフを用いた問題には直感的で面白いものがたくさんあるので,後の記事でもご紹介していければと思います.こうご期待!

 

注.数学では,(僕の知っている限り)「グラフ」という言葉を2つの全く異なる意味で用います.1つは,中学校の数学でも教わる関数のグラフです.関数 y = f(x) をプロットして得られる図形のことを指します.もう1つは,離散数学の分野でいうグラフです.頂点と辺からなる構造のことを指します(※この動画内で扱ったのはこちらです).

 定義の仕方の流儀は色々ありますが,たとえば次のようにして両者を形式的に定義できます:
- 前者の「関数のグラフ」の定義
   関数 f: X → Y に対して,Γ(f) := {(x, f(x)) | x ∈ X} のことを 【f のグラフ】という.
- 後者の「離散数学のグラフ」の定義 ※特に動画内で紹介した「無向グラフ」の定義
   V を頂点の集合,また E :={{v, w} | v, w ∈ V} を辺の集合とする.このとき,組 (V, G) を【無向グラフ】という.

 

【出典】 今回紹介した問題は,次の教科書の第8章(Graph Algorithms)からの引用です.

Jones, N. C., & Pevzner, P. A. (2004). An Introduction to Bioinformatics Algorithms. MIT Press.

※図と類題は自作のものです.


京都大学「tan(1°) は有理数か?」

2021-06-13 06:00:00 | 数理パズル

 本日の数理パズルは,京都大学の入試問題から.

 稀に見る問題文の短さから,受験業界では非常に有名な過去問なのだそうです.

 

【問題】 tan(1°) は有理数か?

 

 シンプルですが面白い問題ですよね.僕の解答案は次の通りです:


※今のところ,この動画のシリーズを視聴してくださる方のおよそ半数が英語話者なので,スライドのみ英語にて作成してみています.字幕(日本語・英語)を利用できます.動画内で用いた記法やロジックについて,必要あれば注1,2を参照ください.

 

 動画内では,【タンジェントの加法定理】を用いて,【背理法】によって示しました.

 タンジェントの加法定理は,次式で表されます:


※先日証明したので,別の記事にて簡単に紹介したい所存です.

 

 また類題として「cos(1°),sin(1°) は有理数か?」が素朴に思いつきます.

 cos と sin,tan の間には

sin(1°) = tan(1°) cos(1°)

という関係があるので,cos(1°) または sin(1°) のいずれかが無理数であることを示せれば,(背理法によって)他方も無理数であることがただちに示せます.またsec(1°), csc(1°), cot(1°) が無理数であることもただちに従います.

 

 みなさんは cos(1°),sin(1°),tan(1°) の無理数性をどのように証明されますか?

 

注1.動画内で用いた記法について
(1) 有理数全体の集合をQという記号で表しています.
(2) 「a ∈ S」というのは「要素 a は集合 S に属す」ことを表す記法です.
     たとえば「tan(1°) ∈ Qと仮定する」と書かれていれば,「tan(1°) は有理数であると仮定する」という意味です.
(3) 「a ∉ S」というのは「要素 a は集合 S に属さない」ことを表す記法です.
     たとえば「tan(1°) ∉ Q」と書かれていれば「tan(1°) は有理数でない」,つまり「tan(1°) は無理数である」という意味です.

注2.証明のロジックについて
(4) 【有理数】とは,a, b という2つの整数(..., -2, -1, 0, 1, 2, ...という数)を使って比 a/b で表すことができる数のことです(ただし b ≠ 0 とする).
(5) 2つの有理数 r と s について,和 r + s,差 r - s,積 rs,商 r/s(ただし s ≠ 0)のいずれもまた有理数となります.
(6) 「tan(1°) が有理数である」と仮定するとき,tan(1°) + tan(1°) は有理数どうしの和なので有理数です.
     また 1 - tan(1°)tan(1°) は有理数から有理数どうしの積を引いたものなので,やはり有理数ということになります.
(7) 【タンジェントの加法定理】より,tan(2°) というのは tan(1°) + tan(1°) を 1 - tan(1°)tan(1°) で割ったものです.つまり,仮定の下では有理数どうしの商で表されるので,「tan(2°) もまた有理数」ということになります.3°以降についても同様の議論を繰り返します.

 

【出典】

京都大学.(2006).後期入試試験,第6問.

 


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「張られた面積はいかほど?」

2021-06-12 06:00:00 | 数理パズル

 おはようございます!本日もパズルを紹介します.

 

【問題】 次の平行四辺形の面積はいくつでしょうか?

 

 この問題も以前,塾でアルバイトしていたとき生徒さんに QUIZ(小テスト)として出題していたものです.

 

 たとえば,次のような等積変形を考えることで算出できます:


※今のところ,この動画のシリーズを視聴してくださる方のおよそ半数が英語話者なので,スライドのみ英語にて作成してみています.字幕(日本語・英語)を利用できます.

 

 もともとは高校生のとき,2次の行列式の幾何的な意味を考えている中で思いついた解法です.画期的なアイディアだとは思いませんが,一つの素朴なイメージとして個人的には気に入っています.

 

 3次の行列式も同様に6つの直方体の体積を足し引きすることによって,(3本のベクトルによって空間上に張られる)平行六面体の符号付き体積を表すと解釈できたはずです.

 ”はず” というのは,項が多いため久々にやろうとするのが億劫で躊躇っているからです(笑)今晩,寝床のなかで考えてみたいと思います.

 

 3次の場合の幾何的な導出に成功された方がいらっしゃいましたら,ぜひコメントにてご教示のほどお願いします!

 

【蛇足】 ボツにした追加問題

 4次元のユークリッド空間において,2つの線型独立なベクトル (x_1, y_1, z_1, w_1) および (x_2, y_2, z_2, w_2) が張る平行四辺形の面積はどのように表されるでしょうか?

 ※ 2次元のユークリッド空間の場合,2つの線型独立なベクトル (x_1, y_1) および (x_2, y_2) が張る平行四辺形の面積 S は,上で紹介したように S = |x_1 * y_2 – x_2 * y_1| と表すことができます.

 


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「これ展開できる?」

2021-06-11 06:00:00 | 数理パズル

 早速ですが,数学パズルです.

 

 かっこ()を外して,xについて式を整理していきたいと思います.次のような感じです:

「一般」の場合について考えたくなりますね...

 

【問題】 次を展開するとどうなるでしょうか?

 

 少し前,戯れにyoutube動画にしてみましたので,良かったら答え合わせしてみてください:

 

 正解できましたか?

 添え字記法の素朴ながらも確かな効能を実感できる,楽しい例なのではないかと思います.以前,塾でアルバイトをしていたとき,よく生徒さんたちに出題していました.

 

 ひょっとすると類題をご存知だったでしょうか?

 僕自身もこのパズル,というかトリックをこれまでの長くない人生のなかで何度も友人や先生から出題されたことがあります.よく知られた問題なのではないかと推察しますが,一体いつ誰が考案したものなのでしょうか...?

 

 もしご自身もこの類題を出題されたことがある・出典を知っているという方がいらっしゃいましたら,ぜひコメントにて教えて下さい!

 


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