見るからに弱々しい警備員のオッサンが足をさすっていた。どうしたんだろうかと様子を遠くからうかがってみると、家族連れの車に足を敷かれたらしい。運転していたお父さんは「どうすんだよ」と迷惑そうに足を敷いた被害者であるはずの警備員のオッサンに話しかけていた。明らかに、何か見下すような視線を俺は感じた。
用事があったので、このトラブルに「どうしたんですか?」と入っていくことはできなかった。入っていっても、多分、警備員のオッサンは俺を追い払っただろう。そして、このトラブルはオッサンの泣き寝入りによって処理されたのではないかと、俺は想像している。客でもなんでも足を敷かれて泣き寝入りする理由はどこにもないけれども、客が店に電話して「あの警備員がおかしい」と吠えれば、警備員はクビにされてしまうかもしれない。ノイジーな客は強い。オッサンの弱々しい風貌は警備員に向いてないかも分からん。そんなこんなで、仕事がなくなってしまうわけにもいかないだろうから、よほどの怪我でなければ彼は黙っているのではないかと思った。
俺の妄想なので、本当の結末は知らない。たいした怪我じゃないといいな。
でも、あの家族連れのお父さんの迷惑そうな態度だけは忘れられない。9月6日。
*****
「ノイジーな客は強い」
かなしいけれど、本当にそうなのだ。
図々しくて、図太くて、
自分が世界の中心みたいに思ってる人が、
色々と得をする世の中になっている。
警備員さんの救いは、
ゴッチみたいな人がちゃんと見てくれていることだ。