りんごの日記

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宝塚歌劇月組公演 「A-"R"ex」観劇

2008-01-13 23:38:07 | 観劇
 宝塚歌劇に何を求めるか?「ミラーボールが廻り、しなやかに羽根扇が揺れ、豪華な衣装を纏った生徒たちが華麗に舞い踊り、観客はしばし現実を忘れられる」世界を期待している人は、この公演に違和感を覚えるだろう。一方で物語それ自体にはドラマチックで大きな起伏はないものの、人間心理の内面をじっくり掘り下げ、脚本と演技力(=実力)だけを武器に迫るこの作品は、不思議な魅力を持ち「もう一度見たい。」思いに駆られる人もいるだろう。

 舞台は1970年代のとある劇団。今から「アレキサンダー大王の生涯」を上演しようとして、劇団員が三々五々集まってくる。70年代といえばアメリカではヒッピー全盛期。劇団員の服装も当時のまま。主役の大王を演じる青年アレックスは、イコール月組を背負って立つ「瀬奈じゅん」その人でもあり、紀元前4世紀に活躍したアレキサンダー大王でもある。荻田先生はアレキサンダー大王に題材を取ったけれど、私は別に大王でなくても誰でも良かったように思う。いつの時代にも、孤独と共に自分に課せられた運命に向かい、自問自答しながら突き進む若者と、彼を取り巻く人々(今回は神々も)がいる。彼は東を目指し戦い続けてインドで果てる。

 偉大過ぎて近寄りがたいが、妹の結婚式で殺される父。父の死後、態度が一変し戦いを奨励する母。アレックスの戦いの傍らには常に勝利の女神ニケがいる。ニケが無邪気に微笑みながら「皆殺しの歌」を歌う姿は怖い。だがアレックスが東に向かえば向かうほど、ニケは女神であるよりも、自分も翼を折り人間になることを望むようになる。戦いの時以外でもアレックスに必要とされる存在になりたくて。もう一人、アレックスのそばに影のように寄り添い、時に彼を鼓舞し、時に彼の行く手を阻み、彼を悩ます存在となる神ディオがいる。

 一度見ただけで、すべて理解するのは難しい。できればあともう一度見れば、理解が深まるだろう。今回は出演者が総勢15名。一人一人の顔がきちんと見える公演。あさこさんは終始笑顔とダンスを封印してアレックスを演じる。それゆえ第2幕ラスト、ロクサーヌと結ばれる場面でチラッと見せる笑顔にほっとした。どの場面だったか「自分の人生など終わってしまえば、後世では本にわずか数行で記されるのみ。そのために生きているのか?(正確に覚えていなくて残念)」と言った内容の台詞があったように思う。この台詞が心に残った。

 かなみさんは、女神のような巫女のようなニケを好演。最後のロクサーヌは想定外だった。圧巻は「皆殺しの歌」。血の匂いがまったく漂わない皆殺しだ。前半は舞台上方から、他の出演者を見下ろしたり、岩にもたれて斜に構えたポーズで舞台中央のアレックスの姿を追っていることが多かったが、徐々にアレックスと同じ目線に移っていたような気がする。

 第2幕はきりやんから目が離せなかった。あさこさんとの絡みでは、どちらが主役なのかわからなくなった。ディオがそっとアレックスの背後に回り「寂しくはないか?」と語りかける場面からぞくっときた。ディオの中性的・悪魔的誘惑に抵抗するのは難しい。きりやんは滑舌もよく、蜷川作品や野田秀樹作品でも十分通用するのではないか?あんなディオに迫られたら、自分の運命が翻弄され放題になってしまう。ディオはアレキサンダー亡き後、次の獲物を狙うのだろうか?

 アレキサンダー大王はインドで果てて、ようやく自由を手に入れる。俳優アレックスも役を無事演じ終えて(役から解放されて)自由になる。この話は見る人によってさまざまな解釈ができると思う。私自身うまく感想を書けないのだが、古代と70年代を行きつ戻りつしながらも結局、人の運命はいつの時代も生まれた時から既に決められており、死によってようやく解放されるーーーと言いたかったのかなと乏しい想像力で解釈した。

 その他、大劇場公演ではなかなかスポットライトが当たらない生徒さんたちが大健闘していた。本公演で退団する麻華りんかさんはまるでオフィーリアのような狂気の混じったクレオパトラを好演。歌も上手いし顔立ちも可愛い。どうしてこの人が今まで大劇場公演で、もっと活躍の場を与えられてこなかったのか不思議なくらいだ。ただりんかさんの場合、2年前から病気と闘いながら舞台に上がっていたとのこと。人には言えない、見せられないつらさがあったはずだ。本当にありがとう。月組に限ったことではないが、下級生時代に芽が出ないとその後もずっと活躍の機会をもらえず、退団公演でようやく日の目を見る生徒さんたちが、これまでも数多くいた。しかし考えてみれば毎年20倍以上の競争率をくぐり抜けて、音楽学校に合格した逸材揃いなのだ。各組にいる埋もれた人材を、もっと発掘してほしい。

 北嶋麻実さん然り。学年はかなり上だが、この人も普段あまり目立たない。今回はアレックスの教師アリストテレス役で健闘していた。萬あきらさんだってロックを歌いこなすし、天野ほたるさん演じる気の強いアレックスの幼馴染の娘も、なかなかいい。シビさんの歌はこれで聴き納めかと思うと残念。退団後も音楽活動を続けていただきたい。れみさん、月組最後のご奉公でアレックスによって占領されたペルシアの姫の悲しみが、よく伝わってきた。その他どの生徒も自分の持ち場でいい仕事をしていた。できれば各組年に1回はトップコンビ主演の、少人数編成による作品を上演したらどうだろう?出演する生徒のやる気も高まるだろうし、それが生徒の力量を高めることにつながると思う。

 客席にはふーちゃんとまーちゃんがいた。5列目センターブロックあたりでご観劇。お二人とも現役時代と変わらぬ美しさ。ふーちゃんが意外と小顔(失礼)なのに驚いた。
 


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2 コメント

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Unknown (exercise dependency)
2008-01-15 16:31:34
相変わらず素晴らしいレポですね。私はこの舞台を3回観劇しましたが、観る度に良くなっていったし、楽なので退団される生徒さんの挨拶・歌等もあって素晴らしかったです。楽は初めてでしたが、やはり行って良かったです。
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1度見ただけではわからない (りんご)
2008-01-15 21:18:17
 e.d.さま、コメントをありがとうございます。「アレックス」は奥が深くて、1度見ただけでは十分理解できないです。まだわからない部分があります。できれば私も2・3回見たかったです。いつか千秋楽公演も見たいですが、チケットを取るのが不可能です。
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