昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、リハビリテーション医療においても様々な影響が出ています。
本稿を作成している4月中旬の段階で日本リハビリテーション医学会等のリハビリテーション関連学術団体から指針のようなものは発せられていませんが、各医療機関の実情に合わせてリハビリテーションを制限しているところ、可能な限り平常時と同様に行っているところ、様々です。
当院においては、脳血管障害や整形疾患の回復期リハビリテーションと慢性呼吸不全や肺がんに対する呼吸器リハビリテーション、筋ジストロフィーや重症心身障害児・者に対する慢性期・生活期リハビリテーションを混在して行っており、入院患者が主ですが、筋ジストロフィー児・者に対して外来リハビリテーションも行っており、対応に苦慮しているところです。
国内外でリハビリテーション病院やセンターで新型コロナウイルス感染症の集団(クラスター)発生が報告されており、リハビリテーション医療がいわゆる「3蜜(密閉・密集・密接)」状態で行われることに患者さんや職員の感染危惧が寄せられるのも当然と思います。
しかし、感染危惧のためにリハビリテーション医療を中止してしまうことは、回復期の患者さんに対しては、機能回復が不十分になったり、回復する時間・期間の延長を招いたり、進行する疾患患者さんに対しては、進行が早まってしまったり、新たな機能障害を生じてしまったりと言った不利益も生じるおそれがあり、感染の危険性を最小限に抑えながらリハビリテーション医療を提供することが必要と思いリハビリテーション医療を継続しています。
もちろん、ホームプログラムの指導やオンライン診療での指導をするのもありと思いますが、それでも定期的なリハビリテーション専門職による確認は必要と思います。
当院でリハビリテーション医療を継続して行うために注意していることは、以下のようなものがあります。
(1) 標準感染予防策の実施・徹底
マスクや消毒剤などの医療器材の不足はどこの医療機関でも問題になってきていますが、手指の洗浄の徹底などを含めてできることは確実に実施するようにしています。
(2) スタッフの健康観察の実施・徹底
検温や症状の確認を行っています。何らかの症状がわずかでもあれば、出勤前に上司、必要に応じて院内感染対策チームに相談して対応を判断しています。
(3) 3蜜(密閉・密集・密接)を避けるための対応
密閉に関しては、昨今の病院は気密性が高く、窓も全開できないようなところが増えてきており、当院も同様ですが、可能な限りで換気を行うようにしています。
密集に関しては、当院のリハビリテーション室はおよそ800m2あり、空間的には比較的余裕をもってリハビリテーションを行っていましたが、時間的な密集を避けるために、一部は病棟で行うなど、空間的・時間的密集を低減するようにしています。
密接に関しては、リハビリテーション医療が避けられない問題です。患者さんとリハビリテーション専門職がお互いに標準感染予防策を徹底して対応しています。
(4) 患者さんへのお願い
特に外来患者さんですが、発熱していたり呼吸器症状があったりする場合は、リハビリテーションを休止してもらっています。
また、入院患者さんについては、外部からの面会を控えて(原則は禁止)いただいて、外部との接触を低減してもらっています。
(5) 外出・外泊訓練について
外出・外泊も原則としては禁止ですが、必要に応じて、実施しています。
しかし、実施する際も移動はマイカー・移動先も自宅のみにするなど範囲を限定して行うようにしています。
新型コロナウイルス感染症は、感染していても無症状者がいたり、急速に病状が悪化する患者さんがいたり、対応が難しい感染症とされています。
そうした患者さんに対する医療が行えなくなることが「医療崩壊」と言われているような気がする時がありますが、実際は、新型コロナウイルス感染症患者さん以外の患者さんに対する医療が行えなくなることのほうがもっと大きな「医療崩壊」だと思います。
現時点では、感染の危険性を可能な限り抑えて、可能な限りのリハビリテーション医療を提供すること、それがぎりぎりのところで踏ん張っているリハビリテーション医療ではないでしょうか。
これから事態が好転するのか悪化するのか予想もつきませんが、その時々で必要なリハビリテーション医療を提供できる態勢は整えておきたいと思います。
※ 当院では、新型コロナウイルス感染症患者さんに対するリハビリテーション医療は行っていません。
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