日本人の死因の第5位は「肺炎」と言われており、その原因の多くは嚥下機能の低下による「誤嚥性肺炎」と言われています。誤嚥性肺炎は、本来食道に送られるものが、誤って気道に入り込んでしまうことを「誤嚥」といい、この誤嚥によって起こる肺炎の事です。
一般的には誤嚥をした際に「せき込み(咳嗽)」をすることで気道に異物が入らないような反射が人間には備わっているのですが、前述した通り、嚥下機能の低下がみられるとこの咳嗽反射が上手く出来ず、気道に異物が残留して肺炎になってしまいます。
特に当院に関わる患者の多くは神経難病を患っている方が多く、神経・筋疾患由来の嚥下機能障害は少なくありません。
そんな中、神経難病患者に対する在宅呼吸リハビリテーションの目標は,日常での排痰ケアや換気改善に有効なポジショニングを定着させるための環境支援と,介助者による呼吸ケアがよりよいものになるためのコーチングを含めた包括的なアプローチの実施が求められます。
特に排痰を目的とした呼吸リハビリテーションにおいては,胸郭呼吸運動の促進を中心とした運動療法を通して,換気改善をするとともに,腹臥位や座位への姿勢適応能力を向上させ,家庭でのポジショニングを含めた呼吸ケアのための環境づくりとその定着に焦点が当てられます。
また、長期にわたっては,肺コンプライアンスの維持が主な目的となり,肺機能の予備力を高め,下気道感染や無気肺の予防に努めることで,参加の継続を支援することに焦点が当てられます。
その際に当院リハビリテーションで選択される効率的な排痰方法が「腹臥位療法×排痰補助装置」です。
まず、腹臥位療法とは、患者の体位を腹臥位に保つことで、通常は急性呼吸不全 (ARDSを含む)患者に対して酸素化の改善や分泌物の移動などを目的に一定の時間行う治療方法のことです。
近年、重症なARDS(急性呼吸窮迫症候群)に対する 腹臥位療法は生命予後を改善すると報告されています。
目的は、酸素化の改善、下側肺領域の換気の改善、気道分泌物の排出 …などが挙げられますね。
適応は、下側肺障害症例やARDSなどであり、特に胸部X線写真やCTなどで下側肺障害の存在が明確な場合、下側肺領域の含気が不良で、分泌物の存在は確認できる場合に実施することがあります。
治療時の注意としては、腹臥位中はパルスオキシメーターを装着、腹臥位後に吸引した排痰の様子、腹臥位前後でのSpO2・湿性咳嗽の有無を観察する必要があります。
基本的に腹臥位をとることができないような循環動態が不安定な患者や頭蓋内圧亢進、脊椎や骨盤骨折などがある場合は禁忌となるので注意が必要です。
呼吸リハビリテーションではこの腹臥位管理とその治療効果を高めるために、ほかの呼吸理学療法(咳嗽やハフィング、呼吸介助法など)を組み合わせた治療を行います。
その目的は酸素化の改善、肺胞換気の改善、下側肺領域の分泌物排出促進、横隔膜運動や胸郭可動性の改善です。
そんな時に選択されるのが「排痰補助装置」です。
当院で使用している排痰補助装置は主に2つで一つが「カフアシスト」、もう一つが「コンフォートカフ」になります
排痰補助装置は、MI-E:Mechanical Insufflator-Exsufflator(直訳:機械による咳介助)とも言われ、マスクや気管内チューブを介して肺および気道にゆっくりと深く陽圧を与えた後、陰圧にシフトさせる動作が咳と同様の作用を生み出すことで排痰を促し、分泌物除去を容易にしてくれます。
機械による排痰のため、習得が難しい排痰手技を用いることなく、容易に排痰補助が可能であるほか、さらに手技とあわせて使用することで、より効果的な排痰作用を得ることができます。
また、無気肺の予防をはじめ、肺や胸郭の可動性やコンプライアンスの維持、深呼吸の補助にも効果的です。
さらにコンフォートカフには「パーカッサーモード」も追加されています。
パーカッサーモードは、自発呼吸のある患者さんにマスクまたは気管内チューブを介して10~780回/毎分でのエアパルス(空気振動)を送ることで、肺および気道に振動を与え、分泌物の移動を助け、気道クリアランスを高める効果があります。
コンフォートカフの対象疾患はいわゆる神経筋疾患の患者さんが主ですが、重症心身障害児・者や海外ではICUでも使用されているそうです。
当院では筋ジストロフィー患者さんで使用することが多いですが、それ以外でも適応可能で、必要性があると判断された場合は筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄小脳萎縮症(SCD)、多系統萎縮症(MSA)患者さんなどでも導入することがあります。
効果はたくさんありますが、以下が言われています。
1. 気道内分泌物の除去
2. 神経筋疾患での上気道感染や頭部・胸腹部の術後での肺炎・無気肺・気管内挿管防止
3. ICUやリカバリールームで、気管内挿管を通しての排痰に効果あり、抜管を助ける。
4. NPPVから気管切開への移行遅延
5. 在宅人工呼吸において介助者でも使用可能、MI-Eの併用により緊急入院の頻度減少。
6. 気切チューブを通しての排痰にも有用
7. 鼻をかむことの代わり
8. 日常的な他動的深呼吸の手段とすることで、肺の微小無気肺と胸郭可動性維持の目的
当院では3.以外の全ての目的で使用されていることがほとんどかと思います。
そのエビデンスですが、いくつかのガイドラインで有効性が示されています。
・徒手介助により効果的な咳ができない患者には、MI-Eを考慮する(グレードB,エビデンスレベル4)
・機械による咳介助は神経筋疾患・脊髄損傷の排痰に有効である(グレードA)
適応基準に合致してリスクが低く受け入れの良好な患者さんであれば、ぜひ積極的に取り入れていくべきではないかと個人的には感じています。
その適応基準ですが、おおむね以下のような点が挙げられると思います。
適応基準
1. Cough Peak Flow(CPF:最大呼気流速)が徒手介助やMaximum Insufflation Capacity (MIC:最大強制吸気量)下でも270L/min以下
2. 上気道炎で痰が多く粘稠、易疲労性、徒手による圧迫で胸が痛くなる場合
3. 人工呼吸器を導入していること
4. ある程度ウィーニング可能
5. 使用方法を理解できる程度の認知機能を有していること
6. 実施可能なスタッフ、介助者がいること
CPFはいわゆる咳嗽力、咳の力を指し、ピークフローメーターという機器あるいはスパイロメーターを使用して測定することが可能です。
これらの適応条件を参照しながら、医師の指示のもと、排痰目的の呼吸リハビリテーションを実施しています。
「腹臥位療法×排痰補助装置」による治療は、神経難病患者に対する在宅呼吸リハビリテーションの目標である、日常での排痰ケアや換気改善に有効なポジショニングを定着させるための環境支援と,介助者による呼吸ケアがよりよいものになるためのコーチングを含めた包括的なアプローチとして適しています。
そのため当院リハビリテーション科では排痰を必要とする患者に対して「腹臥位療法×排痰補助装置」による治療を行っています。
※この治療方法には医師の指示と観察が必要です。独断と偏見で判断しないよう注意してください。
※当院で必ず選択される治療方法ではありません。医師との相談のうえ、治療として行う例となりますので、予めご了承ください。
一般的には誤嚥をした際に「せき込み(咳嗽)」をすることで気道に異物が入らないような反射が人間には備わっているのですが、前述した通り、嚥下機能の低下がみられるとこの咳嗽反射が上手く出来ず、気道に異物が残留して肺炎になってしまいます。
特に当院に関わる患者の多くは神経難病を患っている方が多く、神経・筋疾患由来の嚥下機能障害は少なくありません。
そんな中、神経難病患者に対する在宅呼吸リハビリテーションの目標は,日常での排痰ケアや換気改善に有効なポジショニングを定着させるための環境支援と,介助者による呼吸ケアがよりよいものになるためのコーチングを含めた包括的なアプローチの実施が求められます。
特に排痰を目的とした呼吸リハビリテーションにおいては,胸郭呼吸運動の促進を中心とした運動療法を通して,換気改善をするとともに,腹臥位や座位への姿勢適応能力を向上させ,家庭でのポジショニングを含めた呼吸ケアのための環境づくりとその定着に焦点が当てられます。
また、長期にわたっては,肺コンプライアンスの維持が主な目的となり,肺機能の予備力を高め,下気道感染や無気肺の予防に努めることで,参加の継続を支援することに焦点が当てられます。
その際に当院リハビリテーションで選択される効率的な排痰方法が「腹臥位療法×排痰補助装置」です。
まず、腹臥位療法とは、患者の体位を腹臥位に保つことで、通常は急性呼吸不全 (ARDSを含む)患者に対して酸素化の改善や分泌物の移動などを目的に一定の時間行う治療方法のことです。
近年、重症なARDS(急性呼吸窮迫症候群)に対する 腹臥位療法は生命予後を改善すると報告されています。
目的は、酸素化の改善、下側肺領域の換気の改善、気道分泌物の排出 …などが挙げられますね。
適応は、下側肺障害症例やARDSなどであり、特に胸部X線写真やCTなどで下側肺障害の存在が明確な場合、下側肺領域の含気が不良で、分泌物の存在は確認できる場合に実施することがあります。
治療時の注意としては、腹臥位中はパルスオキシメーターを装着、腹臥位後に吸引した排痰の様子、腹臥位前後でのSpO2・湿性咳嗽の有無を観察する必要があります。
基本的に腹臥位をとることができないような循環動態が不安定な患者や頭蓋内圧亢進、脊椎や骨盤骨折などがある場合は禁忌となるので注意が必要です。
呼吸リハビリテーションではこの腹臥位管理とその治療効果を高めるために、ほかの呼吸理学療法(咳嗽やハフィング、呼吸介助法など)を組み合わせた治療を行います。
その目的は酸素化の改善、肺胞換気の改善、下側肺領域の分泌物排出促進、横隔膜運動や胸郭可動性の改善です。
そんな時に選択されるのが「排痰補助装置」です。
当院で使用している排痰補助装置は主に2つで一つが「カフアシスト」、もう一つが「コンフォートカフ」になります
排痰補助装置は、MI-E:Mechanical Insufflator-Exsufflator(直訳:機械による咳介助)とも言われ、マスクや気管内チューブを介して肺および気道にゆっくりと深く陽圧を与えた後、陰圧にシフトさせる動作が咳と同様の作用を生み出すことで排痰を促し、分泌物除去を容易にしてくれます。
機械による排痰のため、習得が難しい排痰手技を用いることなく、容易に排痰補助が可能であるほか、さらに手技とあわせて使用することで、より効果的な排痰作用を得ることができます。
また、無気肺の予防をはじめ、肺や胸郭の可動性やコンプライアンスの維持、深呼吸の補助にも効果的です。
さらにコンフォートカフには「パーカッサーモード」も追加されています。
パーカッサーモードは、自発呼吸のある患者さんにマスクまたは気管内チューブを介して10~780回/毎分でのエアパルス(空気振動)を送ることで、肺および気道に振動を与え、分泌物の移動を助け、気道クリアランスを高める効果があります。
コンフォートカフの対象疾患はいわゆる神経筋疾患の患者さんが主ですが、重症心身障害児・者や海外ではICUでも使用されているそうです。
当院では筋ジストロフィー患者さんで使用することが多いですが、それ以外でも適応可能で、必要性があると判断された場合は筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄小脳萎縮症(SCD)、多系統萎縮症(MSA)患者さんなどでも導入することがあります。
効果はたくさんありますが、以下が言われています。
1. 気道内分泌物の除去
2. 神経筋疾患での上気道感染や頭部・胸腹部の術後での肺炎・無気肺・気管内挿管防止
3. ICUやリカバリールームで、気管内挿管を通しての排痰に効果あり、抜管を助ける。
4. NPPVから気管切開への移行遅延
5. 在宅人工呼吸において介助者でも使用可能、MI-Eの併用により緊急入院の頻度減少。
6. 気切チューブを通しての排痰にも有用
7. 鼻をかむことの代わり
8. 日常的な他動的深呼吸の手段とすることで、肺の微小無気肺と胸郭可動性維持の目的
当院では3.以外の全ての目的で使用されていることがほとんどかと思います。
そのエビデンスですが、いくつかのガイドラインで有効性が示されています。
・徒手介助により効果的な咳ができない患者には、MI-Eを考慮する(グレードB,エビデンスレベル4)
・機械による咳介助は神経筋疾患・脊髄損傷の排痰に有効である(グレードA)
適応基準に合致してリスクが低く受け入れの良好な患者さんであれば、ぜひ積極的に取り入れていくべきではないかと個人的には感じています。
その適応基準ですが、おおむね以下のような点が挙げられると思います。
適応基準
1. Cough Peak Flow(CPF:最大呼気流速)が徒手介助やMaximum Insufflation Capacity (MIC:最大強制吸気量)下でも270L/min以下
2. 上気道炎で痰が多く粘稠、易疲労性、徒手による圧迫で胸が痛くなる場合
3. 人工呼吸器を導入していること
4. ある程度ウィーニング可能
5. 使用方法を理解できる程度の認知機能を有していること
6. 実施可能なスタッフ、介助者がいること
CPFはいわゆる咳嗽力、咳の力を指し、ピークフローメーターという機器あるいはスパイロメーターを使用して測定することが可能です。
これらの適応条件を参照しながら、医師の指示のもと、排痰目的の呼吸リハビリテーションを実施しています。
「腹臥位療法×排痰補助装置」による治療は、神経難病患者に対する在宅呼吸リハビリテーションの目標である、日常での排痰ケアや換気改善に有効なポジショニングを定着させるための環境支援と,介助者による呼吸ケアがよりよいものになるためのコーチングを含めた包括的なアプローチとして適しています。
そのため当院リハビリテーション科では排痰を必要とする患者に対して「腹臥位療法×排痰補助装置」による治療を行っています。
※この治療方法には医師の指示と観察が必要です。独断と偏見で判断しないよう注意してください。
※当院で必ず選択される治療方法ではありません。医師との相談のうえ、治療として行う例となりますので、予めご了承ください。
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【注意】
本ブログの掲載記事は,個人的な見解を含んでおり正確性を保証するものではなく,
当院および当科の総意でもありません.
引用や臨床実践等は各自の判断と責任において行うようお願いいたします。