はじめに
製造業の国際競争力確保のための海外展開とそれに伴った国内産業の空洞化,海外における技術・技能の漏洩,大量に生産される商品のリコール問題,団塊の世代の大量定年退職に伴う技術・技能の断絶,若年層の離職率の増大,高校生の理工系離れなどなど,ものづくりを取り巻く環境は日増しに厳しさを増している.
これらの諸問題に対して,個々の対症療法的な処方箋が必要なことはもちろんであるが,同時にどこに問題の本質が潜んでいるかを突き詰めていくことも大切であろう.広島大学では,工学研究科および産学連携センターを中心にMOT(技術経営)講義の一環として,「技術移転」について理工系大学院生を対象に平成18年以来講義を行ってきた.また経済産業省の技術経営研究事業の助成を受けて,平成18年度に「日本企業の海外展開と技術移転の環境変化の対応に関する調査研究」を行った.これらの議論を進める過程で,「技術・技能はそれを受け取る人材が最も重要であり,定量的に議論するためにはまずその習得過程を定量化する必要がある」ということを痛感した.
海外展開では,進出先で人材を確保し必要な訓練を行う必要があるが,基礎訓練はどの程度必要となるのか,何年で一人前になるのか,そもそも何を教えるべきかといった議論においても習熟過程の定量化が前提となるし,リコール問題や団塊の世代の退職に伴う技術の断絶にしても,企業の技術レベル,言い換えれば企業で働いている技術者・技能者のレベルを個人としてまた組織として定量的に判断する指標が必要となる.
これらの問題を考える基礎として,本書は,技術・技能の習熟過程を定式化することを提案している.これらの習熟過程はS字状の学習曲線として知られているが,学習曲線をいくら眺めても問題の解決策は出てこない.要は個々の作業について学習曲線を定式化し,半人前,一人前,ベテラン,さらにその上をいくレベルになるには何年かかるのか,といったことを明らかにしたうえで,ものづくりを取り巻いている様々な問題を見つめ直すという考え方である.もちろん習熟は個人の素質・能力が大きく左右することから,定式化した上で個人ごとのばらつきを考慮した統計的な取り扱いが必要であることは論を待たない.現在データを蓄積中であるが,手法自体大きな間違いがなければ,様々な分野で応用可能であり有効であると思われる.読者の皆様方からのご批判ご助言をいただきたい.
2008年2月
山根八洲男
は じ め に
第1章 制御理論を応用したものづくり技術・技能の習熟度
1. 1 習熟曲線
1. 2 正規分布と標準偏差
1. 3 制御理論の基礎
1. 4 2次遅れ要素と習熟曲線
第2章 ものづくり技術における技術・技能の習熟曲線
2. 1 工作機械の製造工程
2. 2 習熟曲線を用いた習熟度の定量化
2. 3 習熟度合いと標準偏差
2. 4 習熟度の実態調査
2. 5 習熟度を利用した個人および組織の技術レベルの評価
2. 6 習熟度と自動化
第3章 ものづくり企業における技術・技能の伝承
3. 1 統計データから見た製造業の現状
3. 2 技術・技能の移転伝承
3. 3 技術移転と漏洩
3. 4 熟練作業の非熟練化
第4章 ものづくりにおける加工の技術移転
4. 1 きさげ作業とは
4. 2 熟練技術者のきさげ作業を知る
4. 3 きさげ作業の戦略
4. 4 コンピュータ内できさげ作業を行う
4. 5 きさげ作業シミュレータの教育的利用
第5章 ものづくりにおける管理と技術移転
5. 1 生産方式と管理
5. 2 製品のライフサイクルと管理技術
5. 3 技術移転と管理技術
第6章 海外進出と技術移転
6. 1 海外への技術移転の考え方
6. 2 海外への技術移転の歴史的背景
6. 3 海外進出と技術移転の状況
6. 4 海外への技術移転の今後の動向
第7章 海外への技術移転と法務
7. 1 技術移転における法務という機能
7. 2 技術移転を包括する契約体系(モデル)
7. 3 各種契約において共通して注意すべき法務条項
第8章 海外への技術移転と受入側の対応
8. 1 技術移転の背景
8. 2 新しい技術移転─取り組むべき課題
8. 3 技術移転の実態調査
8. 4 実態調査から得られた技術移転の課題
8. 5 課題解決へのロードマップ
第9章 海外への技術移転における問題点
9. 1 加工精度と部品点数による企業の分類
9. 2 習熟曲線から見た海外展開
9. 3 離職率から見た海外展開
9. 4 ブロック線図を利用した海外展開時の検討すべき各種要因
第10章 造船業の海外展開事例
10. 1 造船業の競争力に影響を与える因子
10. 2 造船業の技術移転事例1
10. 3 造船業の技術移転事例2
10. 4 造船業の技術移転における要点
第11章 食品機械の海外展開事例
11. 1 海外展開と背景
11. 2 生産面から見た海外展開の評価について
11. 3 海外展開具体例
製造業の国際競争力確保のための海外展開とそれに伴った国内産業の空洞化,海外における技術・技能の漏洩,大量に生産される商品のリコール問題,団塊の世代の大量定年退職に伴う技術・技能の断絶,若年層の離職率の増大,高校生の理工系離れなどなど,ものづくりを取り巻く環境は日増しに厳しさを増している.
これらの諸問題に対して,個々の対症療法的な処方箋が必要なことはもちろんであるが,同時にどこに問題の本質が潜んでいるかを突き詰めていくことも大切であろう.広島大学では,工学研究科および産学連携センターを中心にMOT(技術経営)講義の一環として,「技術移転」について理工系大学院生を対象に平成18年以来講義を行ってきた.また経済産業省の技術経営研究事業の助成を受けて,平成18年度に「日本企業の海外展開と技術移転の環境変化の対応に関する調査研究」を行った.これらの議論を進める過程で,「技術・技能はそれを受け取る人材が最も重要であり,定量的に議論するためにはまずその習得過程を定量化する必要がある」ということを痛感した.
海外展開では,進出先で人材を確保し必要な訓練を行う必要があるが,基礎訓練はどの程度必要となるのか,何年で一人前になるのか,そもそも何を教えるべきかといった議論においても習熟過程の定量化が前提となるし,リコール問題や団塊の世代の退職に伴う技術の断絶にしても,企業の技術レベル,言い換えれば企業で働いている技術者・技能者のレベルを個人としてまた組織として定量的に判断する指標が必要となる.
これらの問題を考える基礎として,本書は,技術・技能の習熟過程を定式化することを提案している.これらの習熟過程はS字状の学習曲線として知られているが,学習曲線をいくら眺めても問題の解決策は出てこない.要は個々の作業について学習曲線を定式化し,半人前,一人前,ベテラン,さらにその上をいくレベルになるには何年かかるのか,といったことを明らかにしたうえで,ものづくりを取り巻いている様々な問題を見つめ直すという考え方である.もちろん習熟は個人の素質・能力が大きく左右することから,定式化した上で個人ごとのばらつきを考慮した統計的な取り扱いが必要であることは論を待たない.現在データを蓄積中であるが,手法自体大きな間違いがなければ,様々な分野で応用可能であり有効であると思われる.読者の皆様方からのご批判ご助言をいただきたい.
2008年2月
山根八洲男
は じ め に
第1章 制御理論を応用したものづくり技術・技能の習熟度
1. 1 習熟曲線
1. 2 正規分布と標準偏差
1. 3 制御理論の基礎
1. 4 2次遅れ要素と習熟曲線
第2章 ものづくり技術における技術・技能の習熟曲線
2. 1 工作機械の製造工程
2. 2 習熟曲線を用いた習熟度の定量化
2. 3 習熟度合いと標準偏差
2. 4 習熟度の実態調査
2. 5 習熟度を利用した個人および組織の技術レベルの評価
2. 6 習熟度と自動化
第3章 ものづくり企業における技術・技能の伝承
3. 1 統計データから見た製造業の現状
3. 2 技術・技能の移転伝承
3. 3 技術移転と漏洩
3. 4 熟練作業の非熟練化
第4章 ものづくりにおける加工の技術移転
4. 1 きさげ作業とは
4. 2 熟練技術者のきさげ作業を知る
4. 3 きさげ作業の戦略
4. 4 コンピュータ内できさげ作業を行う
4. 5 きさげ作業シミュレータの教育的利用
第5章 ものづくりにおける管理と技術移転
5. 1 生産方式と管理
5. 2 製品のライフサイクルと管理技術
5. 3 技術移転と管理技術
第6章 海外進出と技術移転
6. 1 海外への技術移転の考え方
6. 2 海外への技術移転の歴史的背景
6. 3 海外進出と技術移転の状況
6. 4 海外への技術移転の今後の動向
第7章 海外への技術移転と法務
7. 1 技術移転における法務という機能
7. 2 技術移転を包括する契約体系(モデル)
7. 3 各種契約において共通して注意すべき法務条項
第8章 海外への技術移転と受入側の対応
8. 1 技術移転の背景
8. 2 新しい技術移転─取り組むべき課題
8. 3 技術移転の実態調査
8. 4 実態調査から得られた技術移転の課題
8. 5 課題解決へのロードマップ
第9章 海外への技術移転における問題点
9. 1 加工精度と部品点数による企業の分類
9. 2 習熟曲線から見た海外展開
9. 3 離職率から見た海外展開
9. 4 ブロック線図を利用した海外展開時の検討すべき各種要因
第10章 造船業の海外展開事例
10. 1 造船業の競争力に影響を与える因子
10. 2 造船業の技術移転事例1
10. 3 造船業の技術移転事例2
10. 4 造船業の技術移転における要点
第11章 食品機械の海外展開事例
11. 1 海外展開と背景
11. 2 生産面から見た海外展開の評価について
11. 3 海外展開具体例