・・・西南西新聞?聞き覚えがあるような・・・ってそうだ!九黒ナベヅルミーティングの時!参加していた砂井あゆみさんが、東南新聞の記者だった!会話無いのつらいし、ちょっと聞いてみよっと。
「この西南西新聞っていうのは、東南新聞とも何か関係あるんですか?」
「あら!?いい質問ジャナ~イ?」
守田さん・・・驚いた時の口の塞ぎ方まで微妙におしとやか。そして・・・関係大有りらしい。大元は方角新聞社という地方紙の新聞社だったのが、今では、それぞれの方角に分かれて県内の地方紙を発行しているそうだ。九黒町あたりは東南新聞、伊豆背町あたりは東南東新聞という訳だ。それはいいんだけども、特別大きな県じゃないんだから。
せいぜい8方位でよかったと思う。
僕は、そういえば手に持ったままだった守田さんの名刺を、財布にしまう。
「新聞記者の人って、みんな子どもにも名刺渡すんですか?前に知り合いになった人にも貰ったんですけど。」
「う~ん?まぁなるべく渡すケド。・・・って。藤村ちゃんさっき・・・東南新聞って言ったカシラ?もしかして名刺くれたのも東南新聞の人なんて言わないでしょうネ?」
なんだ!?キリリとした目でこちらを睨む守田さん。こりゃなんかあるぞ・・・。答えが答えなだけに非常に怖い。
「えっと・・・いや・・・東南新聞の人です。あゆみちゃんっていうんですけど!」
なるべく笑顔で答えてみた。
「・・・。」
あれ?守田さん、反応がない。というか、口が半開きで固まっている。
「守田さん?」
「・・・はふっ、はっ、はフッ!」
過呼吸!?!?!?
「え~!ちょっ・・・!大丈夫ですか!?守田さん!?」
「はふっ・・・ハハ。何・・・とかね。まさか・・・ほっ、本当にあの人の名前が出てくるとは・・・思わなかったノヨ。」
「え!?守田さんも知り合いですか!?」
そりゃまぁ系列会社だもんな。知り合いでもおかしくない。ただ普通の知り合いなら、名前を聞いただけで過呼吸は起こさないだろうけど。
「知り合いも何も・・・今から話す事は絶!対!誰にも内緒ヨ?」
「はい。・・・場合によりますけど。」
つばを飲む。
「あゆみちゃんは、私の初恋の人ナノ!!」
「・・・ぁ。」
・・・踏み込んではいけない領域だった気がする。
―観察パークロビー
僕が事務室でこんな状態の頃、ロビーでは母さんと渡中さんがカワラヒワのヒナを見ながら話をしていた。原口さんを呼びに行った人がこんな状態だから、いつまでも事務室に原口さんがこないはずである。話はちょうど佳境辺りだ。
「かなり高い所から巣ごと落下してますからね~。この中の何羽が明日まで生きておられるかね~・・・。」
「そうなんですか。・・・厳しい世界ですね。」
っとここで佳昭登場。トイレにでも行っていたのだろう。すぐに母さんが呼ぶ。
「佳昭~。おいで。カワラヒワのヒナって。かわいいけ見せてもらわんかね?」
「お~。かわいいね!でもお母さん。そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
佳昭はなんと冷静である。普段からお客さん少ないから実感が沸きにくいが、よく考えたらとっくに閉園しているのだ。
「そうじゃね。そろそろ帰らせてもらおうか。晃宏も迷惑かけまして・・・こんな遅い時間まですいませんでした。」
「いえいえ、全然問題ないですよ。佳昭君も、また来てね。」
「・・・はい。さようなら。」
池に挟まれたビジターセンターから駐車場までの道を、歩く2人。
「お母さん、今日はね!原口さんの車でカニを見に行ったんやけどね、運転がね!凄いんよ!」
「そうかね・・・。カニの感想が聞きたいかな。」
っとビジターセンターの入り口から、渡中さんが2人を呼びとめた。
「お母さ~ん!!ちょっと忘れ物です~!!」
しょうがなく、小走りで戻る2人
「何かねぇ?佳昭、何か忘れた?」
「ううん。・・・わかった!お兄ちゃん!?」
「あ~でも。あれは自分の自転車じゃ~ね。」
この兄弟での扱いの差が・・・時々本気で嫌になる。
―観察パーク事務室
再び。さて、こちらは守田さんの初恋相手が、まさかの砂井あゆみちゃんだった場面からである。てことは!あっち系風だけどあっち系じゃなくてこっち系って事か?いや、そういう系もあるのか?どっち系?駄目だ。知識不足。
「あれはネ。中学生の頃の事ヨ。あのあどけない笑顔とちょっとうっかりな性格!いわゆる一目惚れネ!」
聞いてもないのに話し始めたぞ。てか笑顔はわかるけど、性格まで気にしたら一目惚れとは違おう。
「しかし、思いを伝えることが出来ないまま卒業!別々の高校、私は二浪で別の大学と、あっという間に月日が流れたノヨ!」
うわ~!よくありそうな話!でも、中学生の僕にはわからないが、実際には多分あんまりない話!で、守田さんの二浪の話はここで関係ないやろ!
「そして大学4年の就活が始まる頃、先に大学を卒業した彼女が、方角新聞社に入社したと噂で聞いたノ!」
ごめん二浪の話関係あった!
「運よく文系に進んでいた私は、その話を聞いて方角新聞社の入社試験を受けることを決意!そして無事に合格!」
「お~。おめでとうございます。」
何気この段落で、僕が気持ちを声にしたの初だ。
「ついに再会の時!私はそう思ったノヨ!しかし!悲劇は起きた。」
「え?」
「16方位に分かれたノ。」
うわ~!!!ここでか!!!
「そういう訳で、中学校の卒業式から一度も再会できてないノヨ・・・。それにしても、中学の頃からずっと片思いなんて・・・相手は私の事覚えてるかもわからないのに・・・可笑しいでショ?」
「そんな事は・・・ないと思いますよ。」
確かに面白半分で聞いていたし、守田さんは色々と可笑しくなくもないが、とても素直で一途ないい人でもあるようだ。なんだかちょっとかわいそうな気もしてきた。
「そぉ~かぁ~。藤村君は会えたのネェ~。いいなぁ~。藤村君から見てどうだった!?」
どうって・・・。こういうの恥ずかしいし焦るな。でも、きちんと答えてあげないと失礼だ。
「う~ん・・・一泊二日だけの感想ですけど。今もちょっとうっかりな所はかわってなくて・・・でも仕事には一生懸命で・・・。」
あとは・・・そうだ!
「“自然なままを記事に”出来る人です。」
「・・・。」
・・・あれ?また口が半開きで・・・。
「一泊・・・一泊・・・。・・・はふっ、ハフッ。」
また過呼吸!?!?
「守田さん考えて!まだ僕中学生ですから!」
そして事務室のドアが開き、原口さんが入ってくる。
「お~い。なんか守田が来たとか、渡中さんから聞いたんじゃがぁ~。」
「遅かったですね!やけに!」
―県営住宅
「はぁ~。」
辺りはもう真っ暗だ。やっと帰って来た。階段を登る足がやけに重たい。思えば今日一日で、色々な事があった。守田さん、スズちゃん・・・カニを見に行ったのなんて本当に今日の出来事だろうか・・・。家の扉に手をかける。さて、今日はもうゆっくり休むとしよう。
「ただいまぁ~。・・・ってあれ?」
玄関の隅に、見覚えのあるダンボール箱。
「あら、晃宏おかえり。疲れたじゃろ。」
「うんまぁ・・・で母さん。このダンボール箱って・・・。」
「あぁ・・・それね・・・。」
よく見ると、箱の隅にボールペンで小さくメモがある。『らぁめんやマダ』。その文字が僕の予感を確信に変える。焦ってふたを開ける。・・・やっぱりか。
「スズちゃん!?え!?なんでウチに!?」
「色々あって、渡中さんがね・・・。」
“チュン”
スズちゃんは、僕の顔を見て小さな声で鳴いた。何気に鳴き声を聞いたのは、これが初めてだ。
「この西南西新聞っていうのは、東南新聞とも何か関係あるんですか?」
「あら!?いい質問ジャナ~イ?」
守田さん・・・驚いた時の口の塞ぎ方まで微妙におしとやか。そして・・・関係大有りらしい。大元は方角新聞社という地方紙の新聞社だったのが、今では、それぞれの方角に分かれて県内の地方紙を発行しているそうだ。九黒町あたりは東南新聞、伊豆背町あたりは東南東新聞という訳だ。それはいいんだけども、特別大きな県じゃないんだから。
せいぜい8方位でよかったと思う。
僕は、そういえば手に持ったままだった守田さんの名刺を、財布にしまう。
「新聞記者の人って、みんな子どもにも名刺渡すんですか?前に知り合いになった人にも貰ったんですけど。」
「う~ん?まぁなるべく渡すケド。・・・って。藤村ちゃんさっき・・・東南新聞って言ったカシラ?もしかして名刺くれたのも東南新聞の人なんて言わないでしょうネ?」
なんだ!?キリリとした目でこちらを睨む守田さん。こりゃなんかあるぞ・・・。答えが答えなだけに非常に怖い。
「えっと・・・いや・・・東南新聞の人です。あゆみちゃんっていうんですけど!」
なるべく笑顔で答えてみた。
「・・・。」
あれ?守田さん、反応がない。というか、口が半開きで固まっている。
「守田さん?」
「・・・はふっ、はっ、はフッ!」
過呼吸!?!?!?
「え~!ちょっ・・・!大丈夫ですか!?守田さん!?」
「はふっ・・・ハハ。何・・・とかね。まさか・・・ほっ、本当にあの人の名前が出てくるとは・・・思わなかったノヨ。」
「え!?守田さんも知り合いですか!?」
そりゃまぁ系列会社だもんな。知り合いでもおかしくない。ただ普通の知り合いなら、名前を聞いただけで過呼吸は起こさないだろうけど。
「知り合いも何も・・・今から話す事は絶!対!誰にも内緒ヨ?」
「はい。・・・場合によりますけど。」
つばを飲む。
「あゆみちゃんは、私の初恋の人ナノ!!」
「・・・ぁ。」
・・・踏み込んではいけない領域だった気がする。
―観察パークロビー
僕が事務室でこんな状態の頃、ロビーでは母さんと渡中さんがカワラヒワのヒナを見ながら話をしていた。原口さんを呼びに行った人がこんな状態だから、いつまでも事務室に原口さんがこないはずである。話はちょうど佳境辺りだ。
「かなり高い所から巣ごと落下してますからね~。この中の何羽が明日まで生きておられるかね~・・・。」
「そうなんですか。・・・厳しい世界ですね。」
っとここで佳昭登場。トイレにでも行っていたのだろう。すぐに母さんが呼ぶ。
「佳昭~。おいで。カワラヒワのヒナって。かわいいけ見せてもらわんかね?」
「お~。かわいいね!でもお母さん。そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
佳昭はなんと冷静である。普段からお客さん少ないから実感が沸きにくいが、よく考えたらとっくに閉園しているのだ。
「そうじゃね。そろそろ帰らせてもらおうか。晃宏も迷惑かけまして・・・こんな遅い時間まですいませんでした。」
「いえいえ、全然問題ないですよ。佳昭君も、また来てね。」
「・・・はい。さようなら。」
池に挟まれたビジターセンターから駐車場までの道を、歩く2人。
「お母さん、今日はね!原口さんの車でカニを見に行ったんやけどね、運転がね!凄いんよ!」
「そうかね・・・。カニの感想が聞きたいかな。」
っとビジターセンターの入り口から、渡中さんが2人を呼びとめた。
「お母さ~ん!!ちょっと忘れ物です~!!」
しょうがなく、小走りで戻る2人
「何かねぇ?佳昭、何か忘れた?」
「ううん。・・・わかった!お兄ちゃん!?」
「あ~でも。あれは自分の自転車じゃ~ね。」
この兄弟での扱いの差が・・・時々本気で嫌になる。
―観察パーク事務室
再び。さて、こちらは守田さんの初恋相手が、まさかの砂井あゆみちゃんだった場面からである。てことは!あっち系風だけどあっち系じゃなくてこっち系って事か?いや、そういう系もあるのか?どっち系?駄目だ。知識不足。
「あれはネ。中学生の頃の事ヨ。あのあどけない笑顔とちょっとうっかりな性格!いわゆる一目惚れネ!」
聞いてもないのに話し始めたぞ。てか笑顔はわかるけど、性格まで気にしたら一目惚れとは違おう。
「しかし、思いを伝えることが出来ないまま卒業!別々の高校、私は二浪で別の大学と、あっという間に月日が流れたノヨ!」
うわ~!よくありそうな話!でも、中学生の僕にはわからないが、実際には多分あんまりない話!で、守田さんの二浪の話はここで関係ないやろ!
「そして大学4年の就活が始まる頃、先に大学を卒業した彼女が、方角新聞社に入社したと噂で聞いたノ!」
ごめん二浪の話関係あった!
「運よく文系に進んでいた私は、その話を聞いて方角新聞社の入社試験を受けることを決意!そして無事に合格!」
「お~。おめでとうございます。」
何気この段落で、僕が気持ちを声にしたの初だ。
「ついに再会の時!私はそう思ったノヨ!しかし!悲劇は起きた。」
「え?」
「16方位に分かれたノ。」
うわ~!!!ここでか!!!
「そういう訳で、中学校の卒業式から一度も再会できてないノヨ・・・。それにしても、中学の頃からずっと片思いなんて・・・相手は私の事覚えてるかもわからないのに・・・可笑しいでショ?」
「そんな事は・・・ないと思いますよ。」
確かに面白半分で聞いていたし、守田さんは色々と可笑しくなくもないが、とても素直で一途ないい人でもあるようだ。なんだかちょっとかわいそうな気もしてきた。
「そぉ~かぁ~。藤村君は会えたのネェ~。いいなぁ~。藤村君から見てどうだった!?」
どうって・・・。こういうの恥ずかしいし焦るな。でも、きちんと答えてあげないと失礼だ。
「う~ん・・・一泊二日だけの感想ですけど。今もちょっとうっかりな所はかわってなくて・・・でも仕事には一生懸命で・・・。」
あとは・・・そうだ!
「“自然なままを記事に”出来る人です。」
「・・・。」
・・・あれ?また口が半開きで・・・。
「一泊・・・一泊・・・。・・・はふっ、ハフッ。」
また過呼吸!?!?
「守田さん考えて!まだ僕中学生ですから!」
そして事務室のドアが開き、原口さんが入ってくる。
「お~い。なんか守田が来たとか、渡中さんから聞いたんじゃがぁ~。」
「遅かったですね!やけに!」
―県営住宅
「はぁ~。」
辺りはもう真っ暗だ。やっと帰って来た。階段を登る足がやけに重たい。思えば今日一日で、色々な事があった。守田さん、スズちゃん・・・カニを見に行ったのなんて本当に今日の出来事だろうか・・・。家の扉に手をかける。さて、今日はもうゆっくり休むとしよう。
「ただいまぁ~。・・・ってあれ?」
玄関の隅に、見覚えのあるダンボール箱。
「あら、晃宏おかえり。疲れたじゃろ。」
「うんまぁ・・・で母さん。このダンボール箱って・・・。」
「あぁ・・・それね・・・。」
よく見ると、箱の隅にボールペンで小さくメモがある。『らぁめんやマダ』。その文字が僕の予感を確信に変える。焦ってふたを開ける。・・・やっぱりか。
「スズちゃん!?え!?なんでウチに!?」
「色々あって、渡中さんがね・・・。」
“チュン”
スズちゃんは、僕の顔を見て小さな声で鳴いた。何気に鳴き声を聞いたのは、これが初めてだ。