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DREAM-BALLOON

夢風船って
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ブログ開設から4000日!

94:幼鳥~瓦鶸(カワラヒワ)~

2011-09-08 23:45:16 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 カワラヒワ。一般的にはあまり聞きなれない名前の野鳥かもしれないが、僕の図鑑でも『身近な野鳥』に分類されていて、案外どこにでもいる鳥だ。大きさはスズメと同じくらいで、飛んでいるときは、羽の緑と黄色のコントラストが映える。アトリ科に属しており、ここの科の鳥は皆、真ん中が凹んだ尾羽の形と、なんといっても、図体の割に巨大なくちばしに特徴がある。コロコロいう鳴き声もわかりやすい。
 渡中さんによると、この5羽のカワラヒワのヒナは、ある植木屋さんが剪定をしているときに、気づかず巣のある枝をカットしてしまい、巣ごと落下してしまったのだそうだ。ありゃ困った植木屋さんは、自然観察パークに電話をかけ、渡中さんが引き取りに行ったというわけである。
 しっかしさっきから、渡中さんはヒナたちにメロメロだ。ヒナもヒナで、餌だと勘違いしているのか、渡中さんが差し出す人差し指に可愛く噛り付くもんだから、渡中さんが調子に乗る。
「きゃ~!可愛いわね~。そうだ!まだ名前付けてなかったわね。う~ん・・・じゃ左から、か~君、わ~君、ら~君、ひ~君、わ~君でどう?。あっ!これじゃ、わ~君が2羽になるわね!ま、いいかね?」
話し相手は僕じゃない。カワラヒワたちだ。そりゃぁヒナたちは可愛いけど、そもそも僕は何でここに連れて来られたんだ?
「私ねぇ・・・ヒナの事では原口さんと対立してるのよ。」
目線はヒナ・・・いやでも、これは僕に話しかけてるっぽい。
「対立・・・何でですか?」
「私はね、あの人と考え方が間逆でね。断っ然っ保護派じゃからね~。というより、ここのレンジャーで私くらいなのよ。嬉しいわ~。晃宏君が仲間になってくれて。」
“レンジャーの中にも、保護する派はおるし。”原口さんが言っていたのは、渡中さんのことだったのか。喜んでいただけるのは嬉しくはあるが・・・。
「いや~でも!今回のはミスですよ!結果的に僕はスズちゃんを誘拐してきただけですから・・・。」
「そう?よっぽどよかったと思うわよ?車にひかれてペチャンコより。」
「そりゃまぁ・・・そうですね。」
・・・あっさり凄い事言うな渡中さん。
「大体よ!?1、2羽助けたくらいで自然界のバランスが壊れる!?極端過ぎるじゃろ!?」
「それは確かに!」
な~んか熱がこもってきた。っとここで突然トーンダウン。
「ただよ。保護した野鳥に対する責任・・・。こっちは本当に大きな問題でね。」
「あっ、そんな事を原口さんも言ってました。人間が育てたヒナって自然に戻るのが難しいんですよね?」
「そぉそぉ。自然界で生きていく術を学べないからやっぱりね~。でも一番申し訳なかったと思うのは・・・

死んでしまった時じゃね。」

「あ・・・。」

渡中さんは5羽のカワラヒワの喉辺りを、順番に人指し指でなでる。
「この子たちも危ないのよ?」
「え?」
「巣ごと落下したって話したじゃろ?地面でかなり強く打っちょるからね。ちょっと時間をおいてから、麻痺が出る事も少なくなくてね・・・。明日の朝まで・・・

3羽生きてればええ方かな。」

 これからもし、怪我をしたり弱ったりした野鳥を見つけた時、やっぱり見捨てるのは嫌だ。ただ、保護したところで、自分が治療したり育てたりは無理だ。きっと渡中さんに連絡して、引き取ってもらうことになるのだろう。そして間違いなく渡中さんは、僕の代わりに責任を持って世話してくれるだろう。ただ僕自身も、預けて終わりじゃ駄目だ!同じように、命を預かった責任を感じなければ!

「あ~、何か悪かったね。晃宏君を励ますつもりが・・・こんな内容になってしまってから。」
まだ黒っぽい産毛であどけないヒナたち。でもよく見ると所どころに、カワラヒワ特有の綺麗な緑と黄色の羽が見える。

「5羽揃って・・・成鳥になった姿が見られるといいですね。」


 嵐は・・・突然やって来た。
「どぉ~もぉ~!原口さ~ん??」
声高らかに事務室に入ってきたのは、30歳前くらいの普通のお兄さん。スーツ姿で、顔も髪型もとくに取り上げる所がなく・・・うん、普通のお兄さんだ。ただ、腰にはスーツに似合わないウエストポーチ。とたんに、渡中さんの表情が曇る。
「あら、面倒な人が・・・。ちょ~と静かに隠れててね~。」
そう小声でカワラヒワたちに話かけて、バスケットのフタを閉める。誰だこの人?原口さんに用事っぽいが・・・もう閉園してるから関係者?
「まぁ渡中さん!原口さんは・・・って、あら!?」
お兄さんが、僕に気づいた。そして一直線にこちらにやってくる!
「もしかしてあなた!!噂の鳥好き中学生、植村君ジャナ~イ?長身でゴリラ似の!」
よくその情報で、勘違いできたな!というか、ジャナ~イ??もしかしてこの人・・・

あっち系なのか?

「あのっ・・・すいません。植村君は友達ですけど・・・僕は藤村です。」
「え・・・そ~なの?是非インタビューしたかったのに~。そんな事より、私の空耳カシラ?さっきからこの辺りで、鳥の鳴き声がするような・・・。」
バスケットを持って、慌てて立ち上がる渡中さん。スタスタと出口に歩いていく。
「晃宏君。原口さん呼んでくるから、しばらく頼んだよ。」
「渡中さん!?」
いきなり現れた得体の知れないお兄さんと二人きり。これはシュールに面倒な展開だ。お兄さんは、ニコっとしたままで何も喋らない。これはつらい。何か話しかけよう。えっと・・・

「誰ですか?」

「おっとっと。失礼しまシタ~。」
正直気持ち悪いがちょっと舌を出してハニカミながら、名刺入れから名刺を取り出し僕に手渡す。・・・!インタビューって・・・そういう意味でか!!

「初めまして!毎週水曜日のコーナー『野鳥の楽園ダヨ!伊豆背自然観察パーク!』担当してマ~ス!西南西新聞記者の守田大治郎(もりただいじろう)デス!」