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DREAM-BALLOON

夢風船って
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ブログ開設から4000日!

72:ツルの里~鳥模型(デコイ)~

2009-11-03 23:02:21 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 「どうせデコイがわからないでしょ。説明するより早いからこれ見て。」
そう言いながら、トクさんは持ってきたバッグから1枚の紙切れを取り出した。邪魔そうにお茶をどけながら、それを机に広げる。新聞記事の切り抜きのようだ。
「“デコイを使ってアホウドリの繁殖地移動に成功”?」
見出しだけでは、アホウドリ絡みなことしかわからないので、詳しく読むタケさん。・・・。つまりこういう事だった。

 ある小さな南の島、A島に、アホウドリの繁殖地がありました。そのA島でアホウドリたちはコロニー(集団)を形成して、繁殖・子育てなどを行っておりました。しか~し!アホウドリの数は次第に減少していました。さら~に!A島には、いつ噴火するともわからない火山があるのです。学者たちは悩みました。もし噴火すれば、彼らは全滅してしまうだろう・・・っと。そうとも知らず、アホみたいにのん気なアホウドリ。いったいどうすれば!?そこで目をつけたのが、隣の島、B島でした。そこの環境はアホウドリの繁殖にもベスト。火山もありません。問題は、どうやってアホウドリたちをB島に誘導するかでした。その時・・・1人が思いついたのです!
『アホウドリの模型をB島に設置してみてはどうでしょう?他のアホウドリたちが、B島で繁殖しているかのように誤解させるんです。鳴き声の音声も流したりして。』
『いいかも!!それやってみようぜ~。』
こうして始まったアホウドリのデコイで誘導作戦は、試行錯誤を繰り返しながらついに成功し、B島での繁殖にまで至ったのでした。めでたしめでたし。

 「どう?いいと思うでしょ?」
トクさんの顔には、自信がみなぎっている。対するタケさんには疑問が残る。
「これを・・・ナベヅルでもやろうってことですよね?」
「そうよ。何か?」
「デコイを作れる作れないを抜きにして・・・ツルは大陸から渡って来るんですよ!?どうやってこの九黒町のデコイを目にするんですか!?」
タケさんの言い分はもっともだった。それはトクさんにもわかっている。
「確かに。アホウドリの成功例とは、全く別の話なのはわかるわ。でも、少しでも可能性があるなら挑戦してみるべきよ!どうせ他に考えがないんだし。私ね、専門学校でそういう勉強したから、模型作りとか得意なの。次にツルが来るまで、まだ半年ある。一緒に頑張らない?」

「わかりましたっ!やりますよ。ただし、一応『九黒ナベヅルの会』の会長なんで仕切るのはなしにして下さい。」

タケさんに、この作戦が上手くいくという確信はまったくなかった。それでもトクさんの話にのったのは、嬉しかったからだ。自分に協力してくれる貴重な人間が現れたことが・・・。

 ―半年後
南竹さんの田んぼの中に、2羽のツルがいた。ただし・・・動かないツルだ!遠くから見たら、本物と見分けがつかない。実によく出来ている。タケさんの田んぼは、例年ツルが来ない。ねぐらから遠いのが理由だろう。だがこの日、奇跡は起きた。
“クルゥ! ルルゥ!”
懐かしいこの鳴き声。今年もナベヅルたちが渡ってきたのだ!そして降り立ったのは・・・新品のデコイが設置されたタケさんの田んぼだった!!鳴き声を聞いたタケさんは、家から飛び出す。ご近所からはトクさんも飛び出す。そしてその光景を見た2人はさらに驚いた。
「・・・これは!?」
「うん、こんなことここ数年は初めてね。」

なんと!9羽の大家族群だ!!

明らかに、デコイを気にして餌をついばんでいる。
「徳西さん。これはもしかして、これまでは九黒町ではない場所で越冬していた個体群じゃぁないですか?」
「そうね。その可能性は高いかも。」
「・・・やりましたね。」
「だから言ったでしょ?上手くいくって。私の模型がセンスいいし。ふふふ。」
心から、まさかの大成功を喜ぶ2人。っとそこに・・・

「喜ぶのは早いんじゃないんか?まだ9羽じゃろ?」

振り返るとそこに立っていたのは・・・北兼さんだ!
「・・・かっカネさん?」
あの日以来、話をしていなかったカネさんの登場にタケさんは慌てた。ナベヅルはナベヅルで、突然の大男登場にビックリしたのか、一斉に飛び立ち空を旋回する。そんなツルをじっと見つめ、続けるカネさん。なんと!

田んぼの餌撒きを、どうしてもと言うのなら再開してもいいと言うのだ!!

「え?いいんですか!?ぜひともお願いします!ありがとうございます!」
カネさんは顔が赤くなった。
「おっ、お前たちの為じゃないぞ!九黒町の経済がかかっとるからじゃ!」
それを聞いたトクさんは、からかうように言う。
「あらぁ?それだけじゃないんじゃないの?」
「なっ、なんじゃと!?それ以外、なっ、なんもなかろう。帰る!」
本当に、用事が終わるとすぐ帰る人だ。そして、見るからにそれだけじゃない。カネさんの大きな背中を見ながら、タケさんはトクさんにたずねる。
「なんでカネさんの行為が九黒町の経済の為だけじゃないって気付いたんですか?」
「あの人、飛び立ったツルが飛んでるの見て、表情変わったでしょ?私ね知ってるのよ。あの人の家にね、お父さんから貰ったっていう、

白黒で大きな、すごい数のナベヅルが空を舞ってる写真があるのを。」

それでタケさんにもわかった。
「あっ、そういう事ですか。みんな同じなんですね。ツルに帰ってきてほしい本当の理由は。」
「・・・そういうことね。」

 いつの間にか9羽のツルは、また田んぼで餌をついばんでいた。もちろん、デコイと一緒に。