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DREAM-BALLOON

夢風船って
地球なのかな?って思ったりする...

ブログ開設から4000日!

54:年越し~クリスマス~

2009-08-15 23:41:27 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 「こんな感じでどうかしら??」
「うん・・・ちょっと斜めやけど、いいんじゃないかねぇ。」
我が家にクリスマスツリーが出現した。ツリーとはいっても、県営住宅の狭い部屋だ。ツリーは布の刺しゅうで、壁から掛ける作りになっている。そんな訳で、大したものではないが、ちょっとあるだけで日常と違うクリスマスの雰囲気が家中に溢れるから不思議だ。母さんは、ツリーを平行に調節し直しながら、ニコニコして言う。
「今年はさらにクリスマスって感じよね!なんてったって、晃宏と佳昭が観察パークで作ってきたクリスマスリース!」
「・・・よかったね。」
こんな感じで、冬休みの初日、てかクリスマスイブをボヤーっと過ごしている僕。・・・何やってんだろ?

 ―数日前、伊豆背自然観察パーク
「ゴゴゴゴゴ、5万円!?!?」
僕は、真悟・佳昭(この日初めて観察パークに)・猿越さんと、双眼鏡について語りあっていたのだが・・・心臓が飛び出すほど驚いた!!そりゃ前から、高そうでいい双眼鏡なんだろうなとは思っていた。もちろん、ヒロタカおじちゃんのおさがりのことじゃない。

ゴリラの双眼鏡のことだ!

「なんじゃぁ。・・・内緒にしとったんか??」
猿越さんは、ばらしてしまって悪かったという顔をする。
「友達と日の山に登った時とか、双眼鏡の話題になったのに、そんな事全然言わないんですよ!?びっくりするじゃん、ゴリラ。」
「しんちゃんって、お金持ちなんじゃね!」
そう言って、佳昭は真悟の双眼鏡を輝く目で観察する。おい!頼むから壊すなよ!
「いやぁ、ごめんあっくん。隠す気はなくもなかったんやけど。みんなが引くかなと思って。」
僕は、今にもぶっ壊れそうな自分のボロ双眼鏡と、佳昭が今にもぶっ壊しそうな真悟の5万双眼鏡を見比べる。
「まぁええけどさ。そっかぁ・・・僕もこの双眼鏡、ある程度のに買い換えた方がいいんかなぁ・・・。」

「何を言っとるか!」

びっくりした!猿越さんが鋭い目つきでこっちを睨む。えぇ~?何か変なこと言いましたか??猿越さんが続ける。
「双眼鏡はのぉ・・・長く使い込んでこそその価値が出てくるんじゃ!性能は二の次!見たところ、晃宏君の双眼鏡は30年以上前のもんじゃろう。前に誰が使いよったんか俺はしらんが、これからも大事に使っちゃれ。」
「はい・・・わかりました。」
そうか、成る程。猿越さんの言う通りだ。30年以上も前にヒロタカおじちゃんが使っていた双眼鏡。もっと感謝の気持ちを込めて使わなければいけない気がした。そして今日気付いたが、猿越さんは一緒に話し込むと意外と面白い。教師経験はだてじゃないな。
 「真悟君と藤村君きょうだ~い!」
マツボックリのたくさん入ったダンボールを抱えて、二町さんがやって来た。なんだ?真悟の表情が明るくなったぞ。
「もしかして、工作の時間ですか!?」
工作という響きを聞いて、佳昭の表情も変わった。こいつは大の工作好きなのだ。図画工作だけは評定が、『じゅうぶんたっせい♪』から下がったことがない。真悟の双眼鏡への興味は一気に吹き飛び、真悟の双眼鏡を放り投げた。僕は慌てて5万円をキャッチ。二町さんは、胸を張って説明する。
「伊豆背自然観察パークの土曜日といったら、工作無しには語れないわよ!今日はこのマツボックリと木のつるを使って、クリスマスリースを作ります。この工作の時間、親子連れに大人気なんだから!」
確かに。そう言われていみれば、この間来たのは工作のない日曜日だったな。今日は格段に、小さい子どもたちの数が多い。真悟は佳昭を引きつれ、あっという間に工作の部屋へ消えていった。
「・・・晃宏君も行ってこい。」
猿越さんに言われちゃしょうがないな。
「はい。行ってきます。」
 こうして、幼稚園・保育園児から小学校低学年の子どもたち親子&小学4年1人&中学1年2人のクリスマスリース作りが始まった。佳昭は背が極限に低いので、小学1年生サイズ。確実に2人浮いている。
「・・・ねぇゴリラ。普段、僕がおらん時もさぁ、こうして工作しよん?」
「そうよ。」
・・・素直に真悟のことを凄いと思った。しかし!!これがまた不思議なことに、やってみると楽しいものだ。二町さんのわかりやすい指示を聞き、小さい子に負けじと手を動かす。熱中し過ぎて、ちっさい子と、本気で色塗りマジックの取り合いになるほどだ。
「・・・ふぅっ!」
無事、それぞれ個性的なリースが完成した!真悟のリースは特に変わっていて、みんながモミの葉を使っている部分が、バナナのイラストだ!僕と真悟、佳昭が二町さんに作品の見せ合いをしていると、すごい勢いで大人が1人飛び込んできた。
「すみません。今日の工作はもう・・・」
っと二町さんが言いかけたが・・・げ!?園長じゃん!
「ふ、二町レンジャー!池にツル・・・」
僕と真悟と二町さんは口をそろえる。
「アオサギです。」
てか“二町レンジャー”って・・・。戦隊ものじゃないんだから。面白い人だな。

 ―我が家、クリスマスの朝
眼が覚めて、かすれた眼を擦る。あっ。枕の奥にプレゼントが入っていると思われる紙袋が。もちろん流石にサンタの正体は知っているが、雰囲気は大事だ。布団から手だけ出して、器用にさぐる。まず・・・シャンパンだ。これは毎年入っている気がする。その他、小物もろもろの奥にメインと思われるものが。ここ2,3年は、特にこれがほしい!っという物もなく、両親のセンスに任せてあるのだ。長四角で包装用紙にくるんである。それを綺麗にはがす。A型だからか・・・。バリバリ破るのは、なんとなく嫌いだ。
「おっ。」
僕は1人ニヤけた。こりゃ、図書館の人もやっと返ってきたと喜ぶかもしれない。

僕が、返しては借りを繰り返している野鳥図鑑!!

メリークリスマス。

53:自然観察パーク~園長~

2009-08-15 01:38:15 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 突然の、選挙に落ちたばかりのオヤジの秘書の登場に、慌てる原口さん。
「あっ・・・これはどうも。ごっご愁傷様です。」
支離滅裂(?)だ。野乃口は落ち着いて、単刀直入に用件をきりだす。

「伊背をここの園長として、置いていただけないでしょうか?」

「はっ・・・はい???」
何がなんだかわからない原口さんだが、その様子を見ても表情一つ変えず、話を進める野乃口。
「ですから、選挙に落選した伊背をこの公園の園長にしていただきたいのです。もちろん、県の方にはこちらで許可を取ってありますので。あとはそちらの都合しだいです。」
「はぁ・・・成る程。」
話が読めてきた。つまり、職場がなくなった可哀そうなオヤジの再就職先に、よりによってここが選ばれたということか。原口さんはひとまず、伊背(元)副知事が、青いジャージを着て園長をしている姿を想像してみることに。まてよ・・・。・・・。・・・いやいやいやいやっ!!やっぱ違うだろ!?鳥の知識はゼロに等しいし、なんてったって、

 「あの性格が気になりますか?」
野乃口は、不吉な笑みを浮べて原口さんに問いかける。まるで、あなたの考えていることなど全てお見通し、っと言わんばかりだ。
(こいつ・・・なんでわしの考えとることがわかったんじゃ??)
「まっまぁ・・・そんなとこじゃのぉ。」
それを聞いた野乃口は、大げさに胸をなでおろすようなそぶりを見せて言う。
「それなら問題は無くなったと思いますよ。近いうちに、伊背をこっちに来させますので、その時、ご自分で判断なさってください。それでは。」
原口さんがあいさつを返すのすら待たず、スタスタと自動ドアをくぐり帰っていく野乃口。原口さんはその場に立ち尽くす。
「・・・いったい何なんじゃ、あいつは。」

 「ちょっとぉ!待って九くださ~いっ!」
駐車場に向かう野乃口を、すごい勢いで追いかけてきたのは・・・二町さんだ。野乃口は、なんなんだよ、っという表情を浮べながらもしょうがなく立ち止まる。
「はぁ、はぁ。歩くの・・・速いですね。これ。この公園のパンフレットです。」息は切れているが、笑顔は絶やさない二町さん。差し出されたパンフレットを、一応受け取る野乃口。
「・・・まだお若いですが、鳥や生き物がお好きなんですか?」
野乃口にしては珍しく、仕事以外の質問を二町さんに投げかける。
「あっ、はい。多分、田舎で育ったことの影響かな、って思います!好きな仕事だからまだいいんですけど、結構大変です。4人しかいないんですよ!レンジャーが!」
「4人・・・!?それは大変ですね。頑張ってください。」
自分の差し金でありながら、よくもこう落ち着いて、平然と哀れみの言葉を投げかけられるものだ。
「ありがとうございます。また来てくださいね。」
二町さんは、軽くお辞儀をして、ビジターセンターへと戻っていった。
 それと同時に、野乃口の携帯が震える。仕事柄か、性格からかいつもマナーモードだ。
「はい、もしもし。」
『あ~、私よ。どうだった?伊背さんの件は?』
電話の相手は、声からしておばさんらしい。
「はい。なんとかなりそうです。性格が変貌してくれて、助かったって感じですかね。」
『ほっほっほっほっ!』
笑ったときの声が高くて耳につく。

『まさかあの人も、私みたいな新人に選挙で負けるとは思ってなかったでしょうからね。ショックはさぞ大きいでしょう。これからは、私のためにせっせと働いてちょうだいね。』

「はぁ。もちろんです。あっ、それとこの公園、噂通りでした。ほとんど客もいないですし・・・賑わいが感じられません。もっても・・・

あと、2、3年が限度かと。」

“バシャバシャバシャッ!”もの凄い水しぶきを立てながら、淡水池のカモたちが飛び立つ。野乃口の顔が少し引きつる。
「う~ぅっ。・・・カモはたくさんいますけどね。」
『あら?苦手?』
「生き物は全般に嫌です。特に鳥は。こんなのが好きな人なんて、俺の中では考えられないですよ。」

“多分、田舎で育ったことの影響かな、って思います!”

「多分・・・都会育ちだからですかね。」

いつの間にかビジターセンターから100m歩いて来た野乃口は、電話を切って車を発進させる。この公園を1度も振り返ることはなかった。

 ―現在
僕は、原口さんの話を聞き、びっくり仰天しているところだった。
「あるんですか!?そんな小説みたいな話が!」
「そういうのってさ。普通、小説じゃなくてマンガとかって言わん?」
真悟がつっこむ。
「しょうがないじゃろうがや?事実なんじゃから。悪巧みと人をけなすのが大好きじゃった伊背さんが、選挙後に会ってみると、魂が抜けたようになっとったんじゃ。わしは、2、3発殴ってみたんじゃがの・・・治らんじゃった。」
へぇ、不思議なこともあるものだと、望遠鏡で干潟を観察している伊背園長を眺めながら僕は思った。・・・とはいえ!園長は園長だ!きっと鳥の知識は素晴らしいものを持っているに違いない!その時だ!
「・・・おぉぉ!」
そう言って、園長の望遠鏡が一点で止まった。ややや!早速レア鳥発見か!?そして、園長の口からは思いもよらぬレア鳥の名前が飛び出したのだ!!

「二町さん!ツっツルがおるぞぉ!」

なんと!ツルだって!?僕は、慌てて園長が指指した方向に眼をやる。・・・?どう見ても・・・
「園長!アオサギでしょ!」
二町さんは呆れた表情だ。原口さんはため息を吐きながら僕に補足をした。
「ちなみに・・・園長は鳥の知識がない。というより、恐ろしいほど物覚えが悪くてのぉ・・・。もう2年間、ずっとアオサギをツルじゃと騒いでは、二町さんを困らせるんじゃ。」

 こうして、僕の初めての伊豆背自然観察パーク訪問は、出会いあり、レア鳥あり、驚きありの貴重なものとなった。ビジターセンターから出ると、猿越さんがタバコを吸っていた。
「・・・どうじゃった?」
相変わらず、口数は少ない。
「あっ、はい!凄く・・・いい所でした。あっ、ハイイロチュウヒ・・・かっこよかったです。」
「・・・そうか。」
僕と真悟は、植村家の車を待たせているので、100mを競争する。双眼鏡が揺れて走りにくい。
「おい!」
ふと、後ろから猿越さんが叫ぶ。今日聞いた中で1番の大声だ。
「・・・また来いよ!」

100m先からでも、猿越さんが笑っているのがわかった。