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DREAM-BALLOON

夢風船って
地球なのかな?って思ったりする...

ブログ開設から4000日!

44:原点~再会~

2009-05-06 23:24:55 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 ―伊豆背博会場
夏休みの終わりも近づいたこの日、伊豆背博はついに最終日を迎えていた。パビリオンの並ぶ通りを、真っ青な服を着た、中年の夫婦にも見えなくはない二人組が歩いている。渡中さんと原口さんだ。もちろん夫婦ではない。
「いや~。暇な1ヶ月半じゃったのぉ。」
そう言いながら、向かってくるたくさんの人々を器用にかわす。
「最終日くらい、私たちも遊んでもいいじゃろ。」
渡中さんは上機嫌。原口さんは、俺はちょこちょこ遊びよったっと思ったが、そこは敢えて言わないでおくことにした。代わりに
「そりゃそうじゃ!しかし・・・タダで入場して遊べるんじゃから最高じゃのう!」
っと答える。
 真悟お気に入りの、環境問題のパビリオンの前に差し掛かった時だった。原口さんは、パビリオンの前に見覚えのある憎たらしい顔の男が立っているのに気付いた。足が止まる。
「・・・原口さん?」
「渡中さん・・・ちょっと先に行きよってくれんか。」
「はぁ・・・いいわよ。」
渡中さんが一人で歩いていくと同時に、原口さんはまっすぐその男の方へ向かう。そして、話しかけた。

「伊背副知事!」

いきなり話しかけられて少しびっくりしたのか、振り返るスピードが速い。
「おぉ・・・。君か。どうだったかね?少しはこの万博を利用して、客の数を増やせたかね?」
そう言って眼鏡を押し上げる伊背副知事。4年前とは違う眼鏡だ。少し爺臭くなった。副知事の挑発に、原口さんの言葉にも熱が入る。
「わしらは、そんな目的の為に広場の真ん中にいた訳ではありません!」
副知事が不気味に笑う。
「はっは。わかっとるよ。しかしだね、この埋立地の4分の1も、君たちに預けたんだ。それなりに客を集めて、伊豆背町に資金を入れてくれねば困るね。」
このままでは、またブチ切れそうな原口さんは、かまわず話題を変えた。
「今日はこんなとこで、何をなさっとるんですか?」
とたんに、強気だった副知事の顔が少し弱気になった。
「それなんだよ、原口君。君は、この伊豆背博の環境保護アピールの目玉がなんだったか覚えているかね?」
「はぁ・・・。確か、パビリオンの施設を公共の施設に再利用でしたね。個人的には納得いきませんが。」
続ける副知事。
「この施設だけがのぉ・・・まだ何になるか決まっとらんのじゃ。君に意見を求めるのはしゃくだが、何かいい案はないか?・・・今日はあの日と違って、植村君がおらんから無理かの。」
どうしてこの人は、これほど人を馬鹿にするのが上手いのだろう。次の選挙は絶対落ちる!そんな事を考えていた時、植村っという苗字を聞いて、植村真悟と、この間真悟が図鑑を借りにやってきた時言っていた言葉が頭に浮かんだ。

“図鑑ありがとうございます!・・・図書館とか近くにあったらいいのになぁ。”

「・・・図書館。・・・図書館なんてどうかの?」
「図書館?」
「そう。人と本との出合い・・・」

“なかなか、一緒にバードウオッチングするって友達がいないんです。”

「だけでなくて、人と人との出会いもあるような図書館が出来ると、伊豆背町はまた一段といい町になると思うんじゃが。」
副知事は、かなり悩んでいるようだ。大方、利益が出る施設ではないからだろう。やっと決心したらしい。
「よし!!君の意見でいこう!この、赤くて特徴的な形の屋根だ。町のシンボルになるぞ!!」
自分の意見が通った原口さん。渡中さんに負けず上機嫌になった。
「いよっ!流石副知事!それで・・・完成はいつ頃に・・・。」
「・・・4年後くらいかの。」
「ええんぇ~~っ!!それまでわしは図鑑なしか。」
ため息を吐く原口さん。藤村晃宏のバードウイオッチングとの出会いの本当の原点は、この日なのかもしれない・・・。

 ―不安田池
「あっくん!真悟!」
「・・・おぉ!」
「大丈夫?」
心配そうなおだちゃん。4年生の頃のことを思い出していたら、ついついボーっとしてしまった。・・・真悟もボーっとしていたようだ。なぜだろう。
「うん。なんでもない。」
「気にせんで。」
僕は(なぜか真悟もだが)明るく答える。
“ツィー ツィー”
鳥の鳴き声だ!!かなりか細い声で、今まで聞いたことがない・・・と思う。
“ツィー ツィー ツィィー”
飛びながら鳴いているのだろうか。鳴き声が少しずつ大きくなる!
「真悟!?」
「うん!この鳴き声は・・・来るよ!」
真悟が、左側の木と水面の境目あたりを指差す。次の瞬間!!オレンジ色の塊が、一直線に鳴きながら、3人の目の前を飛んでいく。羽ばたきが早く、羽が見えないほど。でも・・・かすかにわかる。コバルトブルーの羽だ!!頭や背も青い。“渓流の宝石”の名にふさわしく、とても美しい。

「・・・カワセミ?」

「そう!最近見てなかったけど、やっぱ綺麗やね!」
おだちゃんは、口を閉めるのも忘れて、蚊の鳴くような声で一言。
「・・・生きちょる。」
おだちゃんならではの反応に僕は笑う。
 思い返すと、生きてないカワセミを見た4年前とは、状況も考え方も随分と変わった。でもそれは、悪い変化だとは思わない。また少し大人(母さん!?)に近づいて、自然と触れ合うことの素晴らしさに気付いたのだから。

43:原点~別の道~

2009-05-06 00:54:15 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 ―植村家
夏休みに入ってしばらくたったある日、植村真悟家の電話が鳴り響いた。元・天ちゃんが、2階の真悟を大声で呼ぶ。
「しんちゃ~ん!渡中さんから電話。」
 何度か伊豆背自然観察パークへ遊びにいくうちに、真悟はレンジャーのみなさん、特に渡中さんと仲良くなり、たまに電話をするほどになっていた。レンジャー側にも、バードウオッチャーの卵を逃したくないという思いがある。
「はい・・・もしもし。」
『あら!?真悟君!?なんか元気ないよ~。大丈夫かね!?』
渡中さんの方は、相変わらず異常にテンションが高いが大丈夫だろうか。真悟は少し間をあけて答える。
「いや・・・言われた通り、友達にバードウオッチングしないかって誘ってみたんですけど・・・みんな興味ないみたいで。」
『あら・・・残念じゃねぇ。』
残念の真意の半分は、もちろん真悟への哀れみだが、もう半分は、そう都合よくバードウオッチャーが増えないないという、レンジャー目線の残念だ。
『だけど・・・』
渡中さんが続ける。
『あせって見つけんでもいいんじゃないかね?』
「え?」

『私はきっといつか、心からバードウオッチングが好きな友達が現れると思うよ。』

真悟の気持ちは、なんだか少し明るくなった。
「・・・そっかぁ。それまで待と!それと渡中さん、お願いがあるんですけど。」
『ん?何?』
「鳥の図鑑を貸してほしいです。」
『あっ!そうか。真悟くんまだ持ってなかったね。・・・ちょっと待って。』
何やら、渡中さんは電話の向こうで誰かと会話しているらしい。
『もしも~し。おまたせ。原口さんがねぇ、貸してくれるって。』
真悟が飛び上って喜ぶ。
「うわっ!やったぁ。今日借りに行ってもいいですか??」
『どうぞ。どうぞ。今日は珍しい鳥・・・私たちはレア鳥って呼ぶんだけど・・・出るかもしれんよ!』
「え?なんで?」

『ふふふ。昨日が大雨だったから。』

 ―藤村家
「たっだいまぁ!」
この頃の僕にしては珍しく、友達と遊んだ後なのに楽しく帰宅した。母さんが出迎える。少し慌てているようだ。
「お帰り。忘れちょったい~ね。昨日大雨やったのに、川に魚採りに行かせてしまった。水かさ増えちょったじゃろ?大丈夫じゃった?」
「うん!おだちゃんが滑って2回こけたくらい!」
母さんが呆れる。
「あんたねぇ・・・。おだちゃんは大丈夫なんじゃね?でも・・・魚は採れんかったじゃろ?」
今日はやけに質問が多い。確かに魚は採れる状況ではなかった。しかし、今日の2人にとってそんな事はもうどうでもよかったのだ。だってこの日は・・・

他でもない、カワセミの死体を見つけた日だったのだから。

 僕はテンションを上げて、母さんに今日の出来事を話した。結果はやっぱり同じ反応だ。
「え~!!こんな所にカワセミがおるの!?信じられんねぇ・・・。」
あんた、他の鳥なんじゃないの?っという鋭い眼光が僕に向けられる。間違ってないし・・・多分。っと思いながらも、慌てて話題をそらす。
「そういえばね。おだちゃんが言いよったけど、最近、学校にバードウオッチングしよる人がおるんて。誰かは忘れたらしいけど。」
母さんの鋭い疑いの目が、輝きに変わる。
「まぁ!なんて素敵な趣味!あんたも、ゲームがほしいとか言ってないで、そういう人と仲良くなりなさい。」
「・・・。」
この話題を出したのは失敗だったなっと僕は思った。確かに、バードウオッチングは面白いかもしれない。でも、そんな考えと同時に、僕の頭には、昼休みにデジモンごっこではしゃぐ、僕、タツ、ウッチンたちの姿があった。みんなと学校以外でも仲良くしたい。ゲームがあれば、みんなの遊びに追いつける!母さんの思い通りにはならない!!小学4年生の小さな頭で考えた結果の、結論はそこだった。

「・・・やだよ。バードウオッチングなんか。」

 僕と真悟の道が繋がるまでには、まだあと4年という長い月日が横たわっていたのだ。