植村家の車が大きく、カーブを曲がった。質量が遠心力に耐えきれず、ウッチンが倒れる。潰れるオッキー。カーブを曲がると同時に、僕たちの目的地である市内で一番高い山、霜降山が姿を現した。もうすぐ到着だ。
さてさて・・・一昨日の午後、僕はサンコウチョウという名前を忘れないうちに、例の図鑑を開いた。最初に借りてから、2週間が過ぎ、一度返してまた借りたのだ。
「サンコウチョウ、サンコウチョウ・・・。」
あった!目次によると、山の鳥のコーナーに説明があるようだ。さっそく、ページをめくる。そしてびっくりした。あまりに独特な、そして美しい姿をしていたからだ。コバルトブルーなくちばしと目の周り(アイリング)。そして何より目を引くのは、体の3倍はあろうかという、長い尾羽。夏鳥として夏限定で、日本にいるらしい。
まるで、テレビで見た、熱帯の奥地にいる鳥のようだ。しかし実際には、こんな野鳥が、自分の住んでいる市内にさえ生息している。なんだか、これはすごいことのような気がした。
「おだちゃん、絶対感動するなぁ。」
車はついに、霜降山に到着した。ここからは子どもたちだけで行動することになった。迎えの車は、真悟の母さんの携帯を真悟が持っているので、真悟の父さんに電話すればOKだ。テンション高く、車から降りた一行は、すぐに登山口に着いた。
「よっしゃぁ!真悟。今日はこないだの日の山のようなことが無いように、よろしく頼むよ。」
タツがやけに上から目線なのはなぜだろう・・・。
「まっまかせろぉ・・・。」
・・・なんか不安だ。
しかし、今日のバードウォッチングは、この間とは違ったた。さっそく、ウッチンが発見したのだ。
「ちょっ!あのさ、あのさぁ。あっこいきなりなんかおるんやけど。ギャハ~。」
山の側の草むら。確かに!スズメくらいの鳥が結構いる。
真悟があの、高そうな双眼鏡で確認する。
「おっ、あっくん。ホオジロよ。」
ん?どっかで聞いたような。・・・そうだ!日の山で一瞬姿が見えたあの野鳥だ!(第7回参照)やっと、出番がやってきた。前回使う機会がなかった、年代ものの双眼鏡を!どれどれ・・・。
なるほど、今回は(双眼鏡のお陰もあり)よく見える。体はスズメのような色だが、顔が違う。黒と白の縞模様(?)だ。なるほど、だからホオジロと言うのか。っと思ったら、あれ?その横の固体は顔が赤っぽい。メスかな。
「あら?ホオアカもおるねぇ。」
流石真悟。ホオアカと言うのか。名前の付け方はホオジロと同じ原理だな。
思いもよらぬ鳥からの歓迎。こうして僕たちのバードウォッチングは、幸先の良いスタートをきった。
「今日はなんか、いけるんじゃね?」
「やっぱオッキーもそう思う?」
登山の前から、メモ帳に2種類も野鳥の名前が書けるなんて。
「さーて。そろそろ山登っちゃう!?」
タツもハイテンションだ。
この山のどこかに、サンコウチョウがいるのかぁ・・・。なんだかウキウキしてきた。タツのテンションもとまらない。
「今日は新種を見つける勢いでいこぉ!!」
それと同時になぜか不安も。
そんなに上手くいくかなぁ・・・。