狐・狸・祭

フラメンコの故郷よりマイペースに発信、カンタオーラ小里彩のブログです

第49回 フィエスタ・デ・ラ・ブレリア

2016年09月04日 10時43分27秒 | 日記
いよいよ9月!今年の第49回フィエスタ・デ・ラ・ブレリアは9/1㈭、9/2㈮、9/3㈯と3日にわたって行われました。入場料は1日目10ユーロ、2日目15ユーロ、3日目20ユーロ。通し券もあり、こちらは30ユーロ。学生さん、失業者、退職者には5ユーロ引きという値段設定でした。場所は今年もまた変わってアラメダ・ビエハ。昨年の開催場所アルカサル「パティオ・デ・サンフェルナンド」では狭すぎたのでもっと入って欲しいという思いで会場を変えたのでしょうが、地元の人で3日間来れる人はなかなかいなかったのか、結局私が行った2日目は後ろ半分以上が空席といった状態でした。遠くからでも見やすいよう舞台は高め、新しい趣向としてバックに出演者の様子をリアルタイムで映し出すスクリーンも設置され、細かいアーティストの様子や表情がよく分かりとてもよかったです!

開演1時間前に81歳の親友ソリさんと待ち合わせ。この夏はバルセロナの舞台でブレリアを踊り喝采を浴びまくってつい先週ヘレスに帰ってきた元気いっぱいのスーパーご長老バイラオールです。そういえば去年も一緒に見に来れたんだっけ・・・・一年があっという間だなあ。

はじめの演目は「la casa de los Mairenas」セビージャ県マイレーナ・デ・アルコルからやってきたアーティスト:アントニオ・マイレーナゆかりの3人の年配の歌い手(Antonio Ortega“Piito”、Manuel Cástulo、Paco Morillo)とアントニオ・カリオンのギターで構成された舞台でした。
4人とも燕尾服の一歩手前みたいなフォーマルな出で立ちで胸元にチラリと覗くポケットチーフがなんともオシャレ。この舞台にかける並々ならない意気込みが伝わってきます。
バリバリと始まった超ガチな硬派フラメンコにいきなりボディーブローを食らった思いでした。正装の爺様たちの伸びのある深い歌声で届けられるカンティーニャ、セラーナ、ティエント、ソレア・アポラ(かっこよかった!巷でよくうたわれる難曲ですがこんなによいアポラを聞けたのは10年位前のビエナルのフォスフォリート以来)、シギリージャ、ロマンセ。3人を支えるカリオン王子の高貴で力強い音色も素晴らしく、胸がすく思いでした!伴奏している時の彼の生き生きとした少年のような眼差しが大好きです。最後は「アントニオ・マイレーナが格式あるフェスティバルで締めくくる時にいつもそうしていたように、ロンダ・デ・トナでお別れします」と3人で一本のマイクの前に直立し、交代で歌い上げました。あまりの素晴らしさに、いつもは「ヘレスのフラメンコ以外は実は全く興味がない」的なヘレスのフラメンコファンの知人たちすら大興奮の様子でした。

続いてレブリーハのクーロマレーナのファミリーで構成された演目、ファミリア・ピニーニやペラーテ、バンビーノ、クチャーラゆかりのアーティストたちで構成されたウトレーラの演目があり(全て良かったです。)、最後はヘレスのファミリア・アグヘータが登場。

トマス・ルビチ(ディエゴ・ルビチの母方の甥)、アントニオ・アグヘータ、ドローレスアグへータのカンテに伴奏はドミンゴ・ルビチ、パルマはホセ・ルビチとホセ・ペーニャ。
なんといってもこの夜圧巻だったのはアントニオのカンテだった。かすれ切った声を絞り出すような重みのあるレトラの数々に自然と涙が出てきました。なんというヒタネリア!周りの人が「今日はナーバスだな」「あまり声が出ていないしよくない」などと言っているのが耳に入ってきましたが、そういう次元ではなく今この痛みをどうやって受け止めたらよいのだろう、「シャツを引き裂く」という表現がよくありますがまさにそういうカンテでした。あまりの壮絶さにこれまた素晴らしすぎるトマスとドローレスの歌さえどこかしら小奇麗に感じてしまうほど。

最後はドローレスの娘さんが登場し、旦那様であるトマスのブレリアのレトラに乗せてひと振り披露してくれたのですが、これがまた本当に美しかった!どこか悲しい気持ちになるのは一体なぜなんでしょう。説明しようにも言葉が見つからない尊くはかないたった一瞬の芸。フラメンコは人生に似ているというが、否!人生そのものだなとしみじみ思います。

終わったのは夜中の3時。全く長さを感じさせないよいステージだったので時計を見てビックリでした!帰りにレブリーハから来ていたイネス・バカンと会えましたが「アントニオの痛みが私にはよく伝わった。あの歌を聴けただけでヘレスまできた甲斐があったよ!」と満面の笑みで、こちらまでうれしくなりました。

来年は記念すべき50回目となるフィエスタ・デ・ラ・ブレリア。また素晴らしいフラメンコが待っていますように。