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こじこじ

こじろうの写真や日々のできごとなど

大いなるものにいだかれあることをけさふく風のすずしさにしる

2013-09-01 | 
昭和の名僧、山田無文老師の若いころのエピソードは
別の本で読んだことがあったのだが
老師自身の言葉で語られているものが読みたくなって
講演録の『自己を見つめる』を買ってみた。

正直、毛沢東の文化大革命の成果を無条件に讃えるくだりは
今日の目からみればかなり浮いてしまっている。
革命後の中国からは蠅が消えた、鼠が消えた、盗人が消えた。
自分のことは後にして、まずは人々のために奉仕する
「先公後私」の精神が行き渡り
まさに仏教の理想が革命後の中国において実現している、
というのだが、果たしてそうだろうか。

講演が昭和48年頃にされたもののようだから
文化大革命の実態がおそらく当時まだ明らかではなく
仕方がない面もあるので
とりあえず置いておこう。

山田無文老師は若い頃
厳しい修行の末に結核にかかったことがあった。
杖を突いて徴兵検査に行くと
「お前はもう用がない」と言われ
甲乙丙丁の丁とされた。
このとき体重は37キロ。
医者にももう駄目だと見放され
見舞いに来る友人もなく
一人孤独に死を待つだけ
ただ寝ているだけの日々を2年間過ごしていた。

ある初夏の日
久しぶりに縁側に這い出し
風の心地よさを感じているうちに
空気が自分を片時も休まず
育ててくれたことに思い至る。
空気といえばそれまでだが
そのとき、神とも仏ともいるような
大きな存在が自分を育ててくれていたのだと
その大きな力が生きろ生きろと励ましてくれているのだと
思った瞬間、涙があふれて止まらなくなった。
その感動に包まれながら下手な歌を作る。

「大いなるものにいだかれあることを
      けさふく風のすずしさにしる」

下手な歌だと老師は言うけれど
素直に心に響くいい歌だと思う。

沙門空海唐の国にて鬼と宴す

2013-06-23 | 
「ああ、なんというど傑作を書いてしまったのだろう。」と
夢枕獏はあとがきで豪語しているが
そのくらいは言い切ってしまっていい作品だと思う。
1987年に書き始めて作品が完結するまで18年。
留学僧として唐に渡った空海が
やがて玄宗皇帝と楊貴妃の時代に端を発する
唐の国の秘事中の秘事に巻き込まれていく
壮大かつ痛快な物語に仕上がっている。

難点といえばただ一点だけ。
長期連載の作品らしい文体になっていて
一気に読むとまどろっこしい。
「そこは昨日読んだばっかりだから
 再度の説明はいらないよ。」
と感じることが多い。
連載中はおそらく何年も前に書いた場面だから
作者にとっても読者にとっても記憶の喚起が
必要だったのだろう。

億万長者になる7つの鉄則

2013-03-03 | 
もうちょっと違った形で出会っていればと思う。
ボスが「読んでみて」と言って貸してくれた。
上司からそう言われたら一応読んで
感想なり一言言わなきゃならないじゃない。

それだけならいいんだけど
ボスが貸してくれる本って
要は遠回しな説教なのである。
耳が痛いことばかり書いてあって
概してすごくつまらない。

読みもしないでしばらく机の上に置いていたのだが
こんな恥ずかしいタイトルの本を
自分が買ったと思われるのはちょっと嫌なので
事務員さんにわざわざ言い訳した。
「これボスが貸してくれたんですよー。」

ところがあるとき
どうしようもなく暇になって
パラパラとページをめくってみたら
意外にもおもしろかった。
戦後の焼け野原から始まった時代と
今とでは全く状況が違うとは思うけど
それでも学ぶべきものは多い。

幼年期の終り

2013-02-26 | 
宇宙へ飛び立とうとする人類の前に
はるかに高度な文明をもった知的生命体オーバーロードが現れる。
彼らの管理のもと人類はかつてない繁栄の時代を迎える。

ここまでは普通のSFに感じられた。
ここからの展開が刺激的で
とても60年以上前に書かれたものとは思えない。

進化の突端に行き着き
次のステージへと旅立って
大いなる存在の一部になろうとする者たちと
望んでもそうなれない者たち。
なぜそうなのかの答えを置き去りにして
ただ宇宙の意思の赴くまま
オーバーロードは役目を全うし続ける。

楽園のカンヴァス

2013-02-18 | 
美術館で椅子に座って作品を見守る仕事に興味があった。
面倒な人付き合いから解放され
ひたすらひとつの作品に向き合っていると
いつしか悟りが開けそうではないか。

だが実際にはそう楽なものではなさそうだ。
『楽園のカンヴァス』の主人公早川織絵は
大原美術館の監視員である。
織絵の同僚は監視員という
絵を毎日見られる職業に就いたとき
始めこそ喜んでいたが
一週間で飽きた。
やっぱりそういうものなのだろうか。

ストーリーの核となるのは
アンリ・ルソーの「夢」という作品だが
序盤にエル・グレコについても言及がある。
日本に存在するエル・グレコ作品は二つだけ。
ひとつは国立西洋美術館に、
もうひとつは岡山県の大原美術館にある。
大原美術館の至宝であり
ここにエル・グレコの「受胎告知」が存在するのは
奇跡的なのだという。

『楽園のカンヴァス』を読み終えてみて
プロの作家を捕まえて
俺が言うのは本当におこがましいが、
終盤に甘さがあるような気がした。
序盤は美術館や展覧会の裏事情のようなことも
書かれており興味深い。
展覧会の共催に新聞社が名を連ねるのは
日本独特のシステムらしい。
エル・グレコ展に行く前に読んでいたので
展覧会をいつもと違った目線で見ることができた。

小説フランス革命 バスティーユの陥落~聖者の戦い

2012-10-11 | 
またひとりキャラの濃ゆい人物
タレイラン様が登場する。
フランス王家に引けをとらない
名家中の名家タレイラン・ぺリゴール家の生まれで
その尊大な発想はもはや気持ちがいい。

「タレイランにしてみれば、
 自由主義だの、民主主義の信条だのは、
 昨日今日の流行にすぎなかった。
 千年の時間を生き永らえてきた自らの血に比べたとき、
 なんらかの価値を持ちうるなどとは思えない。」

「実のところ、タレイランは誰かと争うことが、
 なにより苦手という人間だった。
 というより、最初から自分が一番と決まっているので、
 そもそも誰かと争う感覚がない。」

ここまで言い切るか。

第4巻タイトルの「聖者の戦い」とは
フランス王家よりタレイラン・ぺリゴール家の方が
上だと自負し、本来自らがあるべき場所を取り戻そうとする
タレイランの戦いのこと。
タレイランにとってこれは自明の理であり聖戦なのである。

小説フランス革命 革命のライオン~パリの蜂起

2012-09-03 | 
文庫本になって読みやすくなったのもあり
ずっと読んでみたかった佐藤賢一の
『小説フランス革命』に手を出してみる。
手を出したはいいが、困った。
全部で何巻もあるから
はじめはフランス革命について
根気よく勉強してみようかなくらいに
思って読み始めてみたのだが
一度ページを開けば
面白すぎて止まらない。
これを読むのに努力は要らなかった。
読むのをやめることに努力が要る。
自制しないとぶっ倒れるまで読んでしまいそうな。

第1巻「革命のライオン」は全国三部会の召集から
国民議会設立宣言まで
第2巻「パリの蜂起」は球戯場の誓いから
デムーランらパリの民衆の蜂起まで。
今は第3巻の冒頭、バスティーユ牢獄の襲撃まで読み進んでいる。

これ、高校生の時にあったら
便利だったろう。
フランス革命の流れがスムーズに頭に入ってくる。

佐藤賢一の小説を読む以上
どうしても期待してしまうのは
はい。スケベなシーン。
今のところそれがほとんどない。
ミラボー伯爵がちょっとかましてるくらい。
今後に期待したい。

祈りの海

2012-08-28 | 
再びグレッグ・イーガンの短編集
『祈りの海』を読む。
慣れてきたか
『プランク・ダイブ』ほどの衝撃はない。

でも表題作の「祈りの海」はかなり刺激的で
グレッグ・イーガンの作品にたびたび登場する
ある一定の背景を持った作品になっている。

地球から遥か遠く、
惑星コブナントで暮らす人類の子孫たちの話で
この世界の聖書や考古学からは、
約2万年前に地球から「天使たち」が
やってきてコブナントの環境を創造したことや
天使たちが高度な科学技術をもち、
肉体を脱ぎ捨て死を超越した存在だったこと、
そしてコブナントにおいて
再び肉体と死を手にしたことなどを
断片的に知ることができる。

天使たちの技術は何らかの理由により
大半が失われているが、
彼らの設計した物のいくつかはいまだ健在で
コブナントの住人はそれらを利用して
生活に役立てている。
例えば海洋に生活する人々が生活の本拠とする
船は、なんと、生きている。
船ではあるが、皮膚を持ち、生きた細胞を持つ。

なんかすごくない?
ぞくぞくしてこない?

3冊目『しあわせの理由』に突入して読み耽る日々である。

3月のライオン

2012-04-23 | 
もとは人に勧められて読み始めた
「3月のライオン」は今や
発売日が来るたび読みたくて
そわそわしてしまう漫画となった。
今連載中の大多数の漫画とは比較にならないほど
非常に密度が濃いストーリーで
相当考えて描かれている。
かなりレベルが高い。

一番好きなキャラはもちろん山形の星
島田開八段。
あ、うそかも。島田さんもいいけど
あかりさんの方がいいかも。

最新刊の第7巻の山崎順慶の独白には
考えさせられた。
彼は言う。
「信じれば夢は叶う」はたぶん本当だが
正確には
「他のどのライバルよりも1時間長く毎日
 努力を続ければある程度迄の夢は
 かなりの確率で叶う」であり
この文章をここまで削ったやつの
真意を問い質したい、と。

将棋の世界は本当に厳しい。
もともと才能の上澄みが集まった世界で
容赦なく勝敗が決まり
厳然とランク付けされていく。
血ヘド吐くような思いして這いあがってきた人間と
同じく血ヘド吐くような思いして這いあがってきた人間が
対戦すれば、必ずどっちか負ける。
負けた方はどうしろと。
血ヘド足りなかったねってか。

そういう世界で頂点を極めた人
究極の向こう側を知っている人が
やはりいるわけで
真似しようとも真似できるとも思わないが
一体何を見てきたのか興味ある。

プランク・ダイヴ

2012-02-21 | 
ハードSFが読みたくて
買ってきたのはプランク・ダイヴ。
プランク・ダイヴはグレッグ・イーガンの短編集。
話によっては9割方理解できる場合もあり
9割方理解できない場合もある。
とくに表題作のプランク・ダイヴ
これがほとんどわからない。
「ベリンスキー‐カラシニコフ‐リフシッツ時空に
 切りかえさせてから」
とさらっと言われても。
でもそこでひっかかってはいけない。
チチンプイプイやエロイムエッサイムみたいなもんで
いろいろわからなくても通して読んで
ゾクゾクくればいいんであって。
久々にページをめくる手がとまらないという状態になって
日曜はほぼこれ読んで終わった。