帰ってきた。
背後では列車の扉がまるで世界を切り離すように閉まり、
滑るように車輪を軋ませながら走り出す。
まだ星の瞬く上空は次第に東の空が朱色に輝き始めていた。
「ただいま」
無人のホームで誰に言うでもない、
帰ってきた自分に実感がわくように呟いたのだ。
しかしそれは、朝方の闇の中に返事は帰って来ることは無く虚しく消えた。
帰ってくるつもりはなかった、
特に行き場所を求めていた訳でもないけれど。
彼女も無事に帰れたのだろうか?
僕は線路の続く先を見つめて物思いにふける。
駅を出て駐輪場で自転車を探した。
見つからなかった。当たり前か、鍵なんて掛けていかなかったからだ。
久しぶりに家路に向かって歩き出す。
電灯の光で照らし出された路地に人影はなく、
時折どこかの犬が人気に気づいて吠えたてる。
懐かしい我が家、玄関先の鉢植えの下から鍵を取り出す。
ガチャリ。
鍵穴に差し込んだ鍵を引き抜き、ドアノブに手をかける。
ドアは開かなかった。今思えば、戸締まりをして家を出た覚えがない。
自分でも不用心この上ないと思いながらも
取られて困るようなものが無かったことに気がつく。
切なくなった。
家を出た時の精神状態からすればただの笑い話にすぎないだろう。
もう一度鍵を差し込み回す。一応、恐る恐るドアを開く。
そこには、出かける前と何も変わっていない玄関と
出かける前とは違うつい先ほど別れた時のままな彼女が立っていた。
「ただいま」
「おかえり」
今度はしっかりとした返事が帰ってきた。
僕の頬を涙が伝った。
終わり
背後では列車の扉がまるで世界を切り離すように閉まり、
滑るように車輪を軋ませながら走り出す。
まだ星の瞬く上空は次第に東の空が朱色に輝き始めていた。
「ただいま」
無人のホームで誰に言うでもない、
帰ってきた自分に実感がわくように呟いたのだ。
しかしそれは、朝方の闇の中に返事は帰って来ることは無く虚しく消えた。
帰ってくるつもりはなかった、
特に行き場所を求めていた訳でもないけれど。
彼女も無事に帰れたのだろうか?
僕は線路の続く先を見つめて物思いにふける。
駅を出て駐輪場で自転車を探した。
見つからなかった。当たり前か、鍵なんて掛けていかなかったからだ。
久しぶりに家路に向かって歩き出す。
電灯の光で照らし出された路地に人影はなく、
時折どこかの犬が人気に気づいて吠えたてる。
懐かしい我が家、玄関先の鉢植えの下から鍵を取り出す。
ガチャリ。
鍵穴に差し込んだ鍵を引き抜き、ドアノブに手をかける。
ドアは開かなかった。今思えば、戸締まりをして家を出た覚えがない。
自分でも不用心この上ないと思いながらも
取られて困るようなものが無かったことに気がつく。
切なくなった。
家を出た時の精神状態からすればただの笑い話にすぎないだろう。
もう一度鍵を差し込み回す。一応、恐る恐るドアを開く。
そこには、出かける前と何も変わっていない玄関と
出かける前とは違うつい先ほど別れた時のままな彼女が立っていた。
「ただいま」
「おかえり」
今度はしっかりとした返事が帰ってきた。
僕の頬を涙が伝った。
終わり