櫻井郁也ダンスブログ Dance and Art by Sakurai Ikuya/CROSS SECTION

◉新作ダンス公演2024年7/13〜14 ◉コンテンポラリーダンス、舞踏、オイリュトミー

ポルトガル公演報告 5

2006-12-06 | 海外公演の記録 past dance works in EU
櫻井郁也/十字舎房ポルトガル公演報告
第三章「舞踏ワークショップ~ポルトガルの人々」(2)


【ワークショップ初日】
「はじめまして、どうぞこちらへ!まずは床に横になって、リラックスしましょう。気持ちが落ち着いたなら、床を感じ、あなた自身の呼吸に耳を澄まして下さい。ただその事だけを行いながら、開始までの時を味わってみて下さい。」
ポルトガルでの舞踏ワークショップ初日は、そんな風に始まり、以後6日間この開始風景は続きました。

ひとり、またひとりと、訪れる人に同じように声をかけながら、いつの間にかレッスンは始まっていきます。
名乗る必要も無く、経験を語る必要も無いスタート。
何も無い所に、ぽんと肉体を置いてみること。
稽古に必要な、あらゆる情報は、言葉を介さずとも、そこに置かれた肉体から読み取ることができます。

いつの間にか、スタジオはフルです。受講者は16名の全日参加者に数名の一部参加を加え、20名あまり。でも、ただ呼吸音だけが響く、静かなフロア・・・。
日本でのクラスと全く同様の空気が、すでに流れ始めています。
やはり同じ人間なんですね。

教会の鐘が鳴り、ムーブメンツの開始。
「イメージしましょう。そこに横たわっている、あなた自身の体を。そして、あらためて呼吸してみましょう。命を吹き込むように・・・。」

 安らかに横たわり、意を持って立ち上がる。それが初日の稽古テーマです。

 自らの身体を、命を支える器として、また、宇宙形象として想起する事。そして、生命衝動としての呼吸と動きを再認識すること。

 日本から持っていった打楽器を鳴らしたり、思いつく言葉をかけたり・・・。いろんな形でうずくまっていた身体が、呼吸の中で波打ったり固まったりを繰り返しながら、ほぐれ、床に投げ出されていきます。

 フロアに横倒しになった身体は、上から見ると星の形をしています。星形=5方向に展開するベクトルの結晶形。それが我々共通の「ひとのかたち」とするならば、そこに命をいかにして吹き込み、二足歩行の尊厳ある姿へといたろうとするか、というイメージを構築することにしました。
 
 内部器官の律動によって吹き込まれる息が、肉体を隆起・変容させながら感情を発生させ、光や空間や時間に向かって、無限のフォルムを解き放つ。その観想のなかで生まれる新たな運動への連鎖。イノチとカタチの追いかけっこですね。
それを僕らはダンスと感じるのかもしれない。

 宇宙ってなんだろうと思います。空虚としてポカンとひろがっているのではなく、エネルギーを生み出すためのたえざる運動体として存在する、一種のシステムなんじゃないかな~、なんて、僕は勝手に思っているんですけど。だから、僕ら自身の体の動きも、そのあたりとの連続しているように感じて仕方が無い。日常生活で、僕らは意志や感情の表れとして動きを理解しているけれども、それは同時に、生命を発生させるためのシステムの延長にあるんじゃないかな、とも思うんです。
そんな妄想もちょっと共有できると面白いですよね。
 原点に返るならば、人間みな近似のかたちをもって生きているわけですから、
肉体に舞い降りるいのちを想像しながら動き、動きの中で体験する、という点では、なんとかやっていけるのではないか、と僕は思いました。
 
 ともかく、この、初日の稽古に、ここでは異国の踊りを学ぶのでなく、あなた自身の肉体と向かい合うのだ。というメッセージをこめました。まずは人間のフォルムを見つめてみる。という出発点を共有したかったからです。

 最後に分かったのですが、20代から60代にわたるその面々は、バレエダンサー、ヨガ教師、サイコロジスト、セラピスト、海洋動物学者、パンマイマー、写真家、画家、企業家、などなど、非常に個性豊かな方々でした。

 でも、まだ互いが何者なのか知りません。初日、肉体と向かい合いたい、という気持ちから、僕らは互いの名前さえ知る事をためらいながら、肉体をまずさらけだしてみました。ダンスだけを通じて6日間のつきあいを始めたわけです。

【ファロの稽古場】
 ここで、このワークショップの会場ともなった、僕らのステイ先の紹介を・・・。
古いワイン貯蔵庫を改装した3階建てのレジデンス・シアター、つまり滞在型の劇場に、僕らはずっと寝泊まりしていました。

僕らは「キャパ」って呼んでましたけど、ちゃんとした名前は、アルガルヴェ・パフォーミング・アーツ・センター。略して「CAPa」。
「君たちはここで暮らし、ワークショップを行い、公演もやるんだよ」「そりゃ便利だね」みたいな話で、僕らはここにやってきたんですが、外観は道路わきにさりげなく佇む使い古されたビルディング。
しかし、入ってみると・・・。贅沢です、この施設。

ファロの中心街から歩いて5分程度。すべて人骨によって建てられている礼拝堂で有名なカルモ教会の近くに、この施設はあります。教会の周囲はカフェやレストランでにぎわう広場にショッピング街。これを抜けると、純白の家々がびっしり並んだ迷路のような旧市街、そして海。港と隣接して塩田の広がっている風景は詩情豊か。生活にも観光にもとても良い立地条件。

いつでも公演OK状態の中劇場が一階フロアにあり、僕もここで公演をする予定。
劇場部分は黒一色の内装、適度に広いステージと高い天井、客席は見切れナシの立体構造。

2階から上は、キッチンのある広~い事務所に、もっと広い稽古場が(なんと)2つ。
一つは公演対応可能な仮設バトンあり、10メートル四方リノリウム(ダンス用のマット)でさらにスカスカのフロア。そのまわり、あちこちにある扉の向こうは、シングル・ツイン・トリプルなど、宿泊用のプライベートルーム。屋上からはファロの街全体とその向こうに広がる海が見渡せます。

寝て、起きて、練習して、人が集まり、レッスンして、ちょっと階段降りた所で公演をやって、シャワー浴びて、寝る。そんな生活を、ここで2週間以上も続けていたんです。今思えば夢みたい・・・。

ディレクターのJULIETTA女史とJOSE氏を中心に、デザイナーやコーディネーター、舞台スタッフなどが、まるで家族のように、ここで仕事をしています。
事務所のキッチンでランチを作り、一緒に食べ、冷蔵庫のワインを空け、働いたり、パーティーをやったり、公演をやったり。
子供がうろうろしていたりもするんです。
僕が練習していると、ディレクターさんとか、掃除のお姉さんとかの子供が、そばで遊んでたりする。センターとか言っても、なんだか生活の香りが充満していて、人間臭いんですよ。ココ。

こんな場所、東京にもあればいいのに・・・。 何度もそう思いながら、2週間あまり、ここで暮らしました、働きました。

ひょっとしたら、一生忘れないんじゃないかな、というような思い出が、ここにはあります。
一緒に滞在した、日本人アーティストの皆さんとの交流、ワークショップを通じてのドラマチックな出会いと別れ、最終公演での努力と熱狂。
もう、充分だ、でも、また来たい。
そう思う程に、濃厚なポルトガル体験を、僕らに与えてくれたのが、ここ「CAPa」と、ここに集う人々でした。(つづく)
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