お久しぶりです。
今回はちょっとした小説書きます。
わたしの大好きな『らくだい魔女』シリーズの最新13巻が今月発売されたので、その続きを妄想してみました
≪ユキちゃんが帰った後のお話≫
あのユキとかいうやつが帰った後、カレストリアの生徒たちはそれぞれ自分の研究やら崩れた学校の修復作業やらに行ってしまった。寮もOOのせいで使える状態じゃなくなっちまったから、俺たちはひとまずリューの家で待機することになった。
「あ~、今日はホンット大変だったよね~」
ホウキに乗って先頭を行くフウカが、片手に持った真っ白な羽を見つめながら言った。
「そうねぇ。まさか学校があんなことになるなんて・・・」
「だよね~。死ぬかと思ったよ~」
「・・・おまえといると、おれはいつも三途の川を見るけどな」
小声で呟いたつもりだったのに、フウカは聞き逃さなかった。ぐるりとホウキの向きを変え、危うく後ろのカリンにぶつかりそうになりながら、おれの目の前まで来て、
「なんですって~!あんた、あたしといる時っていやみしか言わないよね!他の女の子達には気持ち悪いくらい優しいくせに!」
「気持ち悪いって何だよ。おまえへの優しさは、とっくに使い切っちまってるんだよ」
「何よそれ!はぁ~、キースだったらこんなやつとは比べ物にならないくらい優しくしてくれるのになぁ~」
・・・何で今、キースが出てくるんだよ。
「・・・?何よ、突然黙り込んで」
「・・・別に」
何か無性にイライラしてきた。こいつ、本当にあいつのことが好きなのか?
「・・・黒の国のやつなんか、信用できない」
「なっ・・・!ちょっと、そんな言い方ないでしょ!キースに失礼じゃない!キースに謝んなさいよ!」
「何なんだよ、そんなにあいつが好きなら、さっさとあいつのとこにでも行けばいいだろっ!」
やつあたりだ。でも、抑えられなかった。
おれは顔を見られないようにしながら二人を追い越して、スピードを上げた。多分今、ヒドイ顔してる。
「ちょっ、チトセ!?」
「チトセくんっ!?」
呼び止める声を頭の中で打ち消して、ただひたすら何も考えずに飛んだ。フウカの横を通り過ぎるとき、一瞬、フウカが傷ついたような顔をしているように見えた。でも、たぶん気のせいだ。あいつはキースが好きなんだから。
その後の夕食は、おれもフウカも一言もしゃべらなかった。リューとカリンは気まずそうに、時々わざと明るくおれたちに話しかけてきたけど、なんて返事をしたか、まったく憶えていない。
部屋に戻った後も、むしゃくしゃした気分は晴れないままだった。頭を真っ白にしようとしても、あいつの顔が浮かんでくる。
じっとしていられなくなって、外に出ようと勢いよく部屋の扉を開けた。その時、
ゴンッ
というにぶい音とともに「あいたっ」という声がした。のぞくと、扉の前で両手でおでこを押さえたフウカがうずくまっていた。
「何やってんだよ、こんなところで」
言った後に、また文句を言われると思って身構えていたが、フウカは黙ったままだった。
「・・・おい、本当に大丈夫かよ?」
「・・・チトセこそ、どうしたのさ?」
「は?」
最初、フウカの言ってる意味がわからなかった。
「最近のチトセって、よくわかんないとこで怒るし、前より冷たい気がするし・・・」
「・・・そんなことないだろ」
「でも、さっきだって突然怒って先に行っちゃったし。だから、何かあたしがしたのかと思って、一応・・・謝ろうと思って・・・」
そうか、そのためにこんなとこにいたのか。
「・・・別に、おまえのせいって訳じゃねぇよ。ちょっとイラついてただけだ」
「イラついてたって・・・何で?」
それは、おまえがキースの話をするからだ、なんて、多分こいつは気づいてないんだよな。
「まぁ、気にすんなよ。おれも悪かった、ごめん」
「え、うん。・・・じゃ、じゃあ、あたし行くね」
そう言って、フウカはちょっと気まずそうにぎこちなく立ち上がった。その時、
「うわあっ!」
「え・・・おわっ!」
フウカがバランスを崩して、おれの上に倒れてきた。
「ったー・・・。何すんだよおま・・・」
床にぶつけた頭をさすりながら目を開けると、鼻と鼻が付きそうなくらいの距離にフウカの顔があった。
「うわっ!」
思わず顔を遠ざけようとしたら、また床に頭をぶつけてしまった。
「いーってぇー・・・っ!」
「うわっ、ご、ごめんっ!」
やっと状況を理解したフウカが、慌てて飛びのいた。
こいつ、何でいつもこう落ち着きがないんだ?と、さすがにひとこと言ってやろうかと思って起き上がると、目の前のフウカが、なんと顔を真っ赤にしておれのほうを見ていた。そして目が合った途端に、
「あっ、じゃ、そ、そーゆーことで!」
と、慌ただしく駆け出そうとした。でも、
「・・・え?」
いつのまにかおれはフウカの手を握っていた。
夜の誰もいない廊下で、フウカと二人きり。
握った手から、フウカの熱が伝わってくる。
もしかしてこれは、チャンスじゃないか?今までずっと言えずにいたこの想いを、今こそ言うべきなんじゃないか?
いつ、また今日みたいな事が起こるかわからない。このままだと、一生フウカに伝えられないいままになってしまう。
そんなのは、嫌だ。
「・・・フウカ」
「な、何よ、急に」
「おれ、ずっとおまえに言いたかったことが・・・」
「いやぁ~、すっきりさっぱりしたぜ~」
「!!」
突然、おれの隣の部屋のドアが開き、能天気な声が廊下に響いた。そこから出てきたのは
「あれ?そんなとこで何してんの?」
「リュー!!」
「あらら?お二人さん、もしかしてお取り込み中だった?いやぁ、悪いことしちゃったかな~」
にやにやしながら、リューはおれを小突いてきた。
「ちげぇよっ!おまえこそ、何でそんなとこから出てきたんだよ?」
リューが出てきたのは、トイレだったのだ。
「おれか?何ていうか、さっき突然腹痛くなってさ、ずっと今までトイレにこもってたんだよね。でもおかげでスッキリよ」
「おまえな・・・」
「ところで、そこにいるお姫様はどうしたんだ?」
振り返ると、赤面したままのフウカが慌てておれの手を振り払って、
「あ、あたしは、べ、別に・・・。じゃ、じゃあっ・・・!!」
ものすごい勢いで走り去っていってしまった。
「ま、待てって・・・!」
追いかけようとしたけど、さっき打った頭が痛んで走れずにそのまま床に座り込んでしまった。
・・・何でいつもうまくいかないんだ?
おれの気持ちを悟ったのか、リューがおれの肩に同情の手を置いた。
≪終わり≫