くりえいと。

イラストレーターを目指す管理人・maaya.がお送りする趣味ブログです
※イラストなどの転載はご遠慮ください

フウカとサクラの神隠し ~2~

2011年11月19日 | らくだい魔女
お待たせしました!

【フウカとサクラの神隠し】⑤~⑦の内容をまとめました
挿絵はまだ付けてないですが、そのうち更新したいと思います

前回たくさんのコメントを頂き、本当にありがとうございました
今回はラブシーン大目ですので、ぜひそこら辺も楽しんでいってください(笑)


  【フウカとサクラの神隠し】 ~総集編②~

  ※チトセ目線でお送りします

塔の中は、まるで迷路のようだった。
一見すると、木造でアンティークな雰囲気の内装なのだが、四方八方に階段が張り巡らされ、高いはずの天井はそれらに隠されて見えなくなっていた。
まず、扉を開けてすぐのところ、つまりオレの目の前に階段がひとつ。
その奥には、左右に向き合った階段がそれぞれひとつずつと、さらに奥に目の前の階段と対称的な向きの階段がひとつあった。
それらの階段はどれも、大人が3人並んでも余裕があるくらいの幅があり、ぶつからないよう複雑な形を作りながら上に伸びていた。
「この塔ってこんなにでかかったか・・・?」
外から見たよりも中はずいぶん広いつくりになっていて、しかも階段だらけでほかに扉も部屋も見当たらない。
昇るしかない、ということだ。でも・・・
「どの階段を昇ればいいんだよっ!!」
思わず声に出して叫んでみたが、答える声があるはずもなく、声はむなしく散っていった。
すべての階段を昇って確かめる時間はないし、セイラみたいな瞬間移動の魔法が使えたらいいのだが、オレはまだ使えないし・・・。
でも、そんなことを悩んでいる時間もない。
ひとまずは、目の前の階段を昇って・・・。
  パタパタッ
その時、視界の端で誰かの影が横切った。
慌てて目を向けると、その影は左奥の階段の踊り場を曲がろうとしているところだった。
そして視界から消えようとした時、かすかに見えたものに不思議と見覚えがあった。
いやと言うほど目に焼きついたそれは・・・
――――金色の長い髪――――
「フウカッ!?」
オレは急いで向きを変え、フウカらしきその影が消えた階段へ走った。


「おいっ!どこ行くんだよっ!」
壁と階段しかない空間に、オレの声と階段を駆け上がる二つの足音が響く。
さっき見えたあの影は、オレをからかうかのように入り組んだ階段を器用に上って行く。
追いついたと思うと、いつの間にか違う階にいる。
オレはそれを見失わないよう、さっきから必死に追いかけているのだが、なぜか追いつくことが出来ない。
でも時々視界に入るその姿は、やっぱりフウカにしか見えなかった。
金色の長い髪。いつもの白いブラウスと黒のスカート。しま模様の靴下。黒のブーツ。
どこからどう見ても、それはフウカ以外の何者でもない。
ただ、
「ちょっと待てって!なんで逃げんだよっ!」
「・・・・・・」
いくら呼びかけても返事をしない。
見た目はフウカだけど、何かおかしい気がするんだが・・・
(あの姿でここまで拒否されると、ちょっと泣きたくなってくるんだけど・・・)
そう思うと、普段の暴言のほうが可愛く見えてきた。
オレ、なんかスッゴクかわいそうなやつ・・・。
そんなことを考えながら遠い眼をしているうちに、ふと気づくと、足音が聞こえなくなっていた。
「しまった!見失ったか!?」
慌てて辺りを見回したが、あの影はどこにも見当たらない。
どこもかしこも階段と白い壁だけ・・・
「・・・あれ?」
今、目の端に何かが映った。
視線を戻すと、ひとつ上段にある階段の突き当たりの壁に、さっきまでただの白い壁だったはずのところに、サクラの花が細かく彫刻された薄桃色の扉がついていた。
そして、その扉の金色の丸い取っ手が、たった今「カチャリ」と静かに閉じた。
「あそこか・・・っ」
オレはその扉の前まで一気に駆け上がり、勢いよく扉を開けた。
その途端、中からふわっとサクラの香りがただよってきて、一面桃色の広い部屋が目に入った。
そして、その奥から、
「おっそーい!待ちくたびれたんですけど!」
と、聞き慣れた声が聞こえてきて、オレは思わず目を見張った。
そう、そこにいたのは、いやみっぽい顔をしたいつものフウカだった!

******

突然目の前に現れたフウカは、不機嫌そうな顔でオレをにらんできた。
「ずっと待ってたのに、誰も来ないんだもん。一体ここはどこなのよっ!」
「いや、オレに聞かれても・・・っていうか、何でそんな格好してんだ?」
さっきまではオレたちと同じ制服を着ていたはずなのに、今はサクラ色のドレスをまとって座っていた。
ふんわりとした半袖のブラウスの胸元には、黒地に白の水玉模様の大きなリボンが付いていた。
すそにレースがたくさんあしらわれたスカートには、サクラの柄が刺繍されている。
さらに、フウカの髪もおりていて、左耳の上にサクラのコサージュをつけていた。
部屋に入った時から漂っているサクラの香りで、頭がおかしくなったのかもしれない。
フウカが美人に見える・・・。
「な、なにじーっと見てんのよ!気持ち悪いなー」
「べっ、べつにおまえなんか見てねぇよっ!」
「おまえなんかってどーいうこと!?失礼ね!・・・みんなで丘を登ってたはずなんだけど、知らないうちに寝ちゃってたみたい。それで気づいたらこんなとこにいて、誰もいないからずっと暇してたのよ」
「そのわりには、結構満喫してたみてぇだな」
部屋を見渡すと、あちこちにお菓子の袋ややりかけのゲームが散乱している。
知らない所に来たってのに、こんなにくつろいでたのか。
しかも、不安そうにしてるかと思ってたのに、やけにケロッとしてるし・・・。
「なんだよ、心配して損したな・・・」
そうため息混じりにつぶやくと、
「心配・・・してたんだ・・・」
さっきまで威勢よく話していたフウカが、うつむいて小さくつぶやいた。
「そりゃ心配くらいするだろ。突然いなくなったから、みんなで必死に捜してたんだぞ?」
「そっか・・・」
「おい、大丈夫か?さっきまでの威勢はどこいったんだよ」
そう言いながらフウカの顔をのぞき込むと、おもむろに立ち上がったフウカがいきなりオレに抱きついてきた!
「ちょっ、ど、どうしたんだよっ」
慌ててフウカを引きはがそうとするが、フウカは強くオレのシャツをつかんでいて離れようとしない。
オレは頭が真っ白になって、どうしていいかわからなくなって・・・
その時、フウカの肩がかすかに震えていることに気が付いた。
・・・泣いているのか?
「おまえ・・・本当にどうしたんだ?」
問いかけると、フウカは黙ったまま少し顔を上げた。
「だ、だって、知らないうちにこんなとこにいて、ずっとひとりで・・・怖かったんだから・・・!」
フウカはぼろぼろと涙をこぼして言った。
さっきの威勢は、怖さを隠すための強がりだったんだ。
(そうだよな。平気なわけないよな・・・)
オレはぽんとフウカの頭をなでて、それからぎゅっとフウカを抱きしめた。
「うん・・・遅くなってごめん」


フウカはその後、泣き疲れたのか、オレに抱きついたまま寝てしまった。
引きはがそうとしてもやっぱり離せなかったので、オレはフウカを抱いたままその場に座った。
今日のフウカはおかしい。
いつもならこんなことしないのに・・・。
でも、考えようとすると頭がぼーっとして、オレまで眠くなってきた。
ふと目を落とすと、静かに寝息を立てながら眠るフウカの横に、丸めた古い紙の筒が目に入った。
広げてみると、それは地図のようだった。
階段がたくさんはしる塔のてっぺんに、大きな魔法陣が描かれている。
(これってまさか・・・この塔の地図・・・?そうなると、この魔法陣はいったい・・・)
それは、今までに見たことのない魔法陣だった。
サクラの花をかたどったような、複雑なその魔法陣をじっと見ながら悩んでいると、また眠気が襲ってきた。
(だめだ。このままだとオレまで寝ちまう。早く戻らないと、みんなが心配する)
「おい、フウカ!起きろよ!そろそろ移動するぞ!」
「んー・・・」
「ちょ、おい、フウカ!起きろって!」
「・・・・・・」
何度起こしても、フウカが気持ちよさそうに眠り続けるので、
「・・・もう少し待つか」
ため息をついてフウカの寝顔を眺めた。
こうして静かにしていれば、大人しくて可愛いお姫様に見えるのにな。
普段は無鉄砲でうるさくて落ち着きがなくて、お姫様っぽいところは何もないのに。
・・・でも、いざって時はまっすぐで強いやつなんだよな。
そういえば、この前「チトセの好きな子ってだれ?」とか聞いてきたっけ。
こいつ、どんだけ鈍感なんだよ・・・。
「・・・オレが好きなのはおまえだけだよ、バーカ」
そう寝ているフウカに向かってつぶやいたが、反応があるはずもなく、少し恥ずかしくなった。
「・・・バカはオレだな」
何だか顔が熱くなったので、オレは顔を背けて目を閉じた。
そして、いつの間にかそのまま寝てしまった。


その時、オレは気付いていなかった。
オレの腕の中で眠るフウカの顔が、少し赤くなっていたことに。

******

あれからどれだけの間眠っていたんだろうか。
窓の外はまだ明るいが、少なくとも1時間は寝ていただろう。
目を覚ますと、オレに抱かれたまま眠ったはずのフウカがいなくなっていた。
「お、おいっ、フウカッ!?」
「あ!やっと起きた!」
振り向くと、フウカは部屋の奥のベッドの上でマンガを読んでいた。
「おまえそんなとこで何してんだよ?」
「だって、チトセが全然起きないんだもん」
「だったら起こせよな・・・」
そう言って、ため息をつきながらフウカの方に近付こうとした途端、
「そ、そうだっ!みんな心配してるかもしんないし、は、早く行こうよ!」
フウカは何故か慌てた様子で立ち上がった。
「そりゃそうかもしんないけど・・・おまえ、行くってどこ行くつもりだよ?」
「どこって・・・と、とにかく、この部屋出れば何かあるわよ!」
「階段ばっかだけど?」
「うっ・・・な、何でもいいからとにかく出るわよ!ほら、早くっ!」
フウカはズカズカとドレスを引きずりながら扉に向かい、ドアノブに手をかけた。
「ちょっと待てって!何急いでるんだよ。何があるかわからねぇんだから、先に行くなって」
オレはフウカを引きとめようと、慌ててフウカの腕をつかんだ。
すると、
「さわんないでっ!」
フウカはオレの手を思いっきり振り払った!
「いって・・・何すんだよっ!」
フウカをにらみ上げると、フウカは複雑な顔をしていた。
戸惑ったような表情だが、何故か頬が少し赤くなっている。
「あ・・・ご、ごめん」
「別にいいけど・・・」
フウカはうつむいて、それっきり黙ってしまった。
突然どうしたんだ?
オレが起きてからずっと落ち着きがないって言うか・・・。
「まあ、確かに急いだほうがいいな。とりあえず、ここに地図っぽいのがあったから、これを頼りに進むか」
「・・・うん」
そうして、オレたちはひとまず部屋を出た。


地図を見ながら、オレたちは魔法陣の描いてある塔のてっぺんを目指した。
相変わらず、フウカは落ち着きがなく、口数も少ないままだ。
「おまえ、どっか悪いんじゃねぇの?いつもの威勢はどうしたんだよ」
「う、うるさいなー!ちょっと疲れただけだってば」
「まだ全然昇ってねぇのに、何で疲れるんだよ」
「ド、ドレスが重いのよっ!!」
「ふーん・・・」
オレが寝ている間に何かあったのか?
もしくは、オレが寝ている間にフウカに何かしたとか・・・。
「フウカ、あのさ・・・」
「な、なにっ?」
「・・・いや、やっぱ何でもない」
そんなの、聞けるわけないか。
自分の意気地のなさに情けなさを感じながらため息をつくと、ふと前を行くフウカの重そうなドレスが目に入る。
「そういえばおまえ、いつの間に着替えたんだ?」
「・・・は?」
「だってオレから逃げてるときは制服だったろ?っていうか何で逃げたんだよ。呼びかけても返事しないし」
「ちょ、ちょっと待ってよ!何の話?」
「何の話って・・・おまえがオレをあの部屋までつれてったんじゃん」
「何言ってんの?あたしはずっとあの部屋にいたわよ。ドアを開けようとしても、鍵がかかってたみたいで開かなかったし」
「え、ずっといたって・・・」
ちょっと待てよ。
今まで気付かなかったのが不思議なくらいだ。

―――――オレは、誰かにだまされている。

考えてみると、最初からおかしかった。
不自然なくらい広い空間。
どこまでも続く入り組んだ階段。
突然現れた薄桃色の扉。
甘い香りが漂う奇妙な部屋。
おもむろに転がっていた塔の地図。
そして何よりもおかしいのが―――――
「・・・フウカが二人いる?」
「・・・は?何言ってんのよ」
振り向いたフウカの姿は、服以外どこからどう見てもいつものフウカと変わりない。
でも、もしかしたら偽者かもしれないんだ。
オレは不思議そうな顔を向けるフウカの肩をつかんで
「フウカ!おまえ勇者グラウディの使い魔の名前分かるか!?」
「な、何なのいきなりっ」
「いいから答えろ!」
「え・・・使い魔って、えっと・・・ガ、ガブリス?」
「ガブルーフだろ!やっぱ間違えたな。うん、このフウカは本物だ」
「どういう意味よっ!」
隣でわめくフウカをよそに、オレは階段を昇る足を速める。
ここにいるフウカは本物―――――ということは、さっきオレが追いかけていたフウカは偽者だったんだ!
「ご名答~!」
「!?」
「だ、だれっ!?」
突然、どこからか楽しそうな女の子の声が聞こえてきた!
「上よ、う・え!」
声のする方を見上げると、そこには制服姿のフウカが楽しそうに浮いていた。
「えっ、何であたしがいるの!?」
「あら、目が覚めたのね。チトセ君を導くために、ちょっと制服と姿を借りたわよ。ごめんなさいね」
「何でオレの名前を・・・おまえ、何者なんだ?」
オレがにらみ上げると、フウカの姿をした偽者は身震いする振りをしながら
「女の子をにらみつけるなんて、怖い子ね。私がこの姿でいるのがそんなに気に入らないのかしら」
と言って、両手を広げてくるりと回って見せた。
「当たり前だ!・・・もう一度聞く。おまえは何者だ?」
「せっかちねぇ。いいわ、本当の姿を見せてあげる」
そう言って、偽者はパンッと音を立てて両手を合わせた。
その途端、合わせた手の間から風と大量のサクラの花が噴き出て、大きな竜巻のように渦を巻き始めた!
目も開けられないほどの強い風に押されながら、オレは必死にフウカの腕をつかんだ。
数秒後、風がおさまり目を開けると、そこには華やかなサクラ柄の着物を着た長い黒髪の女の子が浮かんでいた。
そして、不敵な笑みを浮かべながら
「私の名前はサクラ。ようこそ、『神隠しの塔』へ」

≪続く≫

※グラウディの使い魔については、勝手に作ったものなので気にしないでください

よければ感想ください!!

続きもお楽しみに~


フウカとサクラの神隠し ~1~

2011年05月06日 | らくだい魔女
じゃじゃーん!!

今回は「らく魔女」ホームページのお便りコーナーで綴った
オリジナル小説をまとめてアップしたいと思います。

内容は 【フウカとサクラの神隠し】①~④ です

挿絵を少し付けました!
よければそちらも見ていってくださいね♪


  【フウカとサクラの神隠し】  ~総集編①~
  
  ※チトセ目線でお送りします。

ある春の金曜日。朝、いつものようにホウキに乗って登校する途中、楽しそうに鼻歌を歌うフウカの姿を見つけた。
フウカはオレに気づくと「おっはよー」と手を振りながら近づいてきた。
「おまえ、やけに機嫌がいいな」
オレが声をかけると、フウカはさらに顔をほころばせて言った。
「えへへ~、わかる?昨日から明日のことか楽しみでさぁ~」
・・・明日?
「明日って・・・なんかあったっけ?」
「えーっ!アンタ知らないのぉっ!昨日パティ先生が帰りのホームルームで言ってたじゃんっ!」
「あー・・・、オレそん時寝てたわ」
「うっわぁー、もったいない!あんな大事なことを聞き逃すなんて・・・」
「うるせぇな。だから、明日何があるんだよっ!」
思わず怒鳴ると、ちょうど近くを通りかかったカリンが心配そうにこっちを見ていた。
フウカがカリンに気づいて声をかけると、カリンはちょっと戸惑ってからやって来た。
「な、何かあったのぉ?」
「ううん。なんでもないよ。心配かけちゃったかな、ごめん」
「えっ、チ、チトセくんが謝ることじゃないわよぉ」
カリンは両手と頭をぶんぶん横に振りながら、フウカの後ろに隠れてうつむいたまま黙ってしまった。
たまに思うんだけど、オレってカリンに嫌われてんのかなぁ・・・。
「まぁたそうやって!あたしの時だったら『うるせぇな。なんでもねぇよ』とかって言うくせに。なんで他の人にはそんなに紳士的なわけ?」
そう言って、フウカが眉間にしわを寄せて詰め寄ってきた。
オレはその顔を押しのけてそっぽを向いて言う。
「それはおまえがつまんねぇ質問ばっかりするからだろ!第一、おまえに紳士的に振舞う必要がどこにあんだよ」
「しっつれーねっ!でもいいわ。なんてったって明日は・・・へへへっ」
「おい、だから明日は何があるんだよっ!」
オレはだんだんムカついてきて、フウカの足を軽く蹴ってやろうとしたけど、避けられてしまった。
フウカはカリンが何か言おうとしたのをさえぎって、
「あとでわかるって!」
と言って、先に行ってしまった。
カリンは一度オレの方を向いておじぎをすると、「フウカちゃん、待ってよぉ~」とフウカと共に行ってしまった。
なんなんだよ、まったく・・・。



その日の帰りのホームルームで、オレはやっとその正体を知った。
教壇の前に立ったパティ先生が、黒板にこう書いた。

『春の遠足について』

そう、明日は遠足があるのだ。(さっき知ったばかりだけど)
緑の国の東にある『イスタルの丘』に行き、みんなで花見をするらしい。
パティ先生が振り向くと、ざわめいていた教室内が一瞬で静かになった。
でも、みんなの表情は期待に満ちている。
「昨日も言ったとおり、明日はみんなでイスタルの丘に遠足に行きます。イスタルの丘はこの時期、魔法界では珍しいサクラの花が満開となります。魔法では作り出せない自然の神秘にふれてみましょう」
パティ先生はみんなに説明して、さらにこんなことを続けた。
「そして丘に登った後は、サクラの木下でお花見パーティーをしたいと思います」
途端に、教室中が歓喜の声であふれた。
「みなさん静かに!まだ続きがあるんですよ?そのうえ、明日は先生がたくさんお料理を持っていくので、そこでみんなでランチをとることにしましょう」
パティ先生の言葉に、みんな目を輝かせた。
教室のあちこちで、
「サクラの木下でランチなんてステキっ!」
「どんな料理作ってくれるのかなぁ」
「早く明日になってくれーっ!」
という会話が聞こえてきた。
当然フウカも興奮した様子で、すでに口からよだれがたれている。
「ちなみに、明日はイスタルの丘のふもとが集合場所ですから、間違えないようにしてくださいね。いいですか、フウカさん?」
ヘラヘラしながら窓の外を眺めていたフウカは、突然名前を呼ばれて驚いたひょうしに椅子から落ちてしまった。
みんなから笑われ、パティ先生には困ったような呆れたような顔でため息をつかれていた。
「あはは~」と頭をかきながら座りなおしたフウカは、やっぱりまだうかれているようだった。
こんなにうかれていて大丈夫だろうか。
明日の遠足で、何もないといいんだが・・・。



翌日。
集合時刻の10分前だというのに、ほとんどの生徒がイスタルの丘に集まっていた。
いないのは・・・
「あれっ、そっちの班はまだそろってないの?」
「う、うん。フウカちゃんがまだ・・・」
「やっぱりフウカは遅刻かぁ~」
隣の班のアリサが呆れたようにため息をつき、カリンは心配そうに空を見上げる。
丘の上に広がる青い空は、雲ひとつなければフウカの姿もない。
丘の頂上までは、4人で1組の班になって登ることになっていて、すでにそろった班はもう登り始めている。
アリサたちの班もそろったらしく、
「カリン、先に行くね。あとでフウカに一喝いれてやんなくちゃね、まったくっ」
「ごめんね、心配かけちゃって・・・」
「いいって。フウカが遅いのが悪いのよ。じゃあまたあとでね」
「うん、いってらっしゃぁい」
と、他の班に続いて登り始めた。
あいにくオレたちの班は、オレ、フウカ、カリン、カイという遅刻キングが2人もそろった班になってしまったため、当然最後まで残ったのはオレたちの班だけだった。
「おいらたちだけ先に登っちゃだめかな?」
「そんなぁ、フウカちゃんがかわいそうよぉ」
「どうせアイツのことだから、寝坊でもしてんじゃ・・・っておい、おまえいつ来たんだよ」



知らないうちに、オレとカリンの間にカイが立っていた。
カイの肩にはもちろんマリアンヌがのっている。
「いつって、結構前から近くにいたのに、ちーくん気づかなかったの?」
「うるせぇな。あとその呼び方やめろって」
「あ、カリン寒くない?マリ抱いてるとあったかいよ」
「話きけよっ!」
ホント、カイとしゃべってると調子狂うな。
それにしても、フウカはいつになったら来るんだ?
そう思ったそのとき、
「うわぁああああああっ!!」
という悲鳴とともに、突然突風が吹き荒れた。
「なっ、なんだこれっ」
腕で顔を覆いながら目を開けると、目の前の林にものすごい勢いで何かが突っ込んだ。
それと同時に、吹き荒れていた風も治まった。
「なんだったのぉ、今の・・・」
「なんかすごい音がした気がするけど」
そう言って、さっき何かが突っ込んだ林の方に目を向けると・・・
「・・・いったたたぁ~」
なんと、木の上にホウキを持ったフウカが引っかかっていた!
「おまえ何してんだよ、そんなとこで」
「フウカちゃんだいじょぉぶ~?」
「派手な登場だな~」
オレたちがかけよると、木から下りてきたフウカが少し気まずそうに言った。
「えっとぉ・・・、なんと言うか、寝坊しちゃってさぁ・・・」
「それはいつものことだろ。で、何でこんなことになったわけ?」
「しっ、失礼ね!これは、少しでも早く行かなきゃと思って、ホウキで飛ばしてきたんだけど、それでも間に合わなさそうだったから・・・」
「だったから?」
「・・・風の魔法で速度上げようと思って・・・」
「おまえバカじゃねぇの?コントロールできねぇくせに」
「そ、そんな言い方ないでしょー!これでも遅刻しないように努力したのに!」
「じゃあ寝坊すんなよなぁ・・・」
「う、うるさいわね!あんたが細かいこと気にしすぎなのよ!」
「おまえは気にしなさすぎだっ!」
こいつのやることは何で全部こうもおおざっぱなんだ。
っていうか、こんなやつが好きなオレってどうなんだ?
オレたちが言い合っていると、カリンが止めに入って、フウカを落ち着かせた。
「よし。んじゃぁおいらたちも行きますか」
カイの言葉にうながされ、オレたちはやっと丘を登り始めた。


そのあと、他の班に遅れをとりながらも丘を登っていると、数分後にアリサたちの班と合流した。
「やっと追いついてきたわね」
「うん。合流できてよかったわぁ~」
カリンが汗をぬぐいながら答えると、アリサは「あれっ?」と首をかしげた。
「ところで、その原因のフウカは?」
「えっ?」
振り返ると、後ろには今来た道が細長く続いているだけだった。
カイが先頭を行き、その後ろにカリン、オレ、フウカと続いているはずだが、フウカの姿は――――ない。

突然、林の中に不穏な空気がただよった。



オレはすぐに辺りを見回し耳を澄ませたが、フウカの姿も声も、ない。
凍りついたような沈黙。
ふと見ると、目の前のカリンは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「フウカちゃん・・・どこ行っちゃったのかしらぁ・・・」
「きっと大丈夫だよ。アイツのことだから、またどっかで寄り道でもしてんじゃないか?」
「そ、そうよ。そのうちへらへら笑って戻ってくるわよ」
「でも・・・もしフウカちゃんが戻ってこなかったら、わたし・・・」
オレとアリサがなだめようとしたが、とうとうカリンは泣き出してしまった。
「そんな、大げさだなぁ~。フウカならきっと大丈夫よ、ね?」
そう言って、アリサはカリンに言葉をかけるが、オレはもう何も言えなかった。
カリンには「きっと大丈夫」なんて言ったけど、本当は不安でたまらない。
いや、不安というよりも、恐怖と言ったほうが近いかもしれない。
イスタルの丘で姿を消すこと。
それは、永遠の別れを意味しているのだから。


今から100年以上前のこと。
ちょうどその頃、人間界からこのイスタルの丘にサクラの木が植樹された。
魔法界ではめったに見られないそのサクラを見ようと、その年の春、多くの人々がイスタルの丘を訪れた。
その中に、当時オレたちの学校に通っていた生徒たちのあるグループがあった。
男子2人、女子3人の5人グループで、その中のある1人の女子生徒は、冬に事故で恋人を亡くしたばかりだった。
仲間たちは、彼女を少しでも元気付けようと花見に連れ出したのだった。
それでもやはり、彼女の心は固く閉ざされたままだった。
しかし、仲間たちがホウキで丘に向かう途中で、彼女が突然
「・・・わたし、歩いて丘を登りたいの」
と呟いた。
仲間たちははじめこそ不思議に思っていたが、歩いたほうがホウキよりもより花見を楽しめるだろうと思い、それに従った。
そうして5人は丘を登り始めたのだが、丘の中腹辺りで、一人が異変に気が付いた。
あの女子生徒の姿が見当たらない、と。
驚いた仲間たちは、慌てて彼女を捜したが、彼女は見つからなかった。
その後1週間、2週間と経っても、彼女は一向に現れず、とうとう彼女は二度と帰って来なかった。
後で聞いた話によると、その女子生徒が消えた晩、イスタルの丘の上には淡く光る真っ白な塔が現れ、そして次の日には消えていたという。
それから1年後の春。
その年も、サクラを見るために多くの人々がイスタルの丘を訪れた。
その中のあるカップルもまた、歩いて丘を登っていた。
そしてその数分後に、彼女の方が姿を消した。
彼女もやはりオレたちの学校の生徒で、その後二度と帰って来なかった。
その時も、何故か一晩だけ丘の上に真っ白な塔が現れたという。
その後も何度か同じような事件が起こり、そしていつも消えるのはオレたちの学校の女子生徒ばかりだった。
このことから、いつしかイスタルの丘は『サクラの神隠し伝説』の地として有名になり、校内で密かに語り継がれてきたのだった。


・・・といっても、もう100年以上も前の話だからか、この伝説を知っている者も少なくなった。
しかし、オレは昔からじいちゃんから聞かされていたのでよく知っていた。
さっきから黙って眉間にしわを寄せているカイも、おそらくこのことを知っているのだろう。
あの心配の仕方を見ると、カリンも知っているのかもしれない。
――――二度と帰って来なかった――――
伝説のその言葉が、何度も何度も頭をよぎる。
もし、フウカがサクラの神隠しにあっているのだとしたら・・・。
言い表せないほどの恐怖が、オレを押しつぶす。
でも、フウカがいないなんて。
フウカがオレのそばにいないなんて。
そんな日常は、オレには耐えたれない。
(あの時、心に決めたじゃないか)
――――フウカはオレが、絶対守る。
「とにかく、みんなで手分けしてフウカを捜すんだ」
「そうだな。おいらもその方がいいと思うよ」
「カリンも、一緒に捜しに行こっ」
「う、うんっ!」
「よし。それじゃあ・・・」
オレたちは顔を見合わせて、しっかりとうなずくと、
「行こう!」
それぞれに林の奥へと足を向けた。



消えたフウカを捜すため、森の中を歩き始めたオレたちは、新たな行方不明者が出ないよう二人一組で捜索をすることになった。
オレのペアは・・・気は進まないが、仕方なく同じ班のカイになった。
カイは肩に乗ったマリアンヌののどをなでながら、オレの少し後ろを歩く。
「おまえなぁ、もうちょっと真剣に捜せよ。同じ班のやつが消えちまったっていうのに」
「捜してるって。まったくちーくんは短気だな~」
「だからその呼び方はやめろよっ!」
「はいはい。ちーくんは大好きなお姫さんがいなくなって、あせってんだよな」
「な・・・っ!」
突然何言い出すんだ、こいつ!
オレは怒りと恥ずかしさで自分の顔が熱くなるのを感じた。
でもカイは反対に、オレをからかうように
「プリンセスはナイトが助け出すもんっしょ?」
と言ってニッと笑うと、
「おいらはあっちを見てくるよ」
と言いながら、一人(とネコ1匹)でどこかに行ってしまった。
アイツには協調性ってもんはないのか。
「しかたない。一人で捜すか」
気を取り直して、オレはさらに奥へと進んでいった。


イスタルの丘をおおう森は一見小さく見えていたが、中に入ると予想以上の広さがあった。
クラスのみんなが、あちこちでフウカの名前を呼ぶ声がする。
でも、フウカの姿が消えてからもう1時間は経っているのに、いまだに見つからない。
オレは最初に登っていた道からだいぶ離れた、丘の頂上付近を歩いていた。
周りの木々は、まるで捜索を邪魔をするかのように大きく枝を伸ばしている。
薄暗く視界の悪い中、オレは必死にフウカを捜しつづけた。
時間が経つにつれて、どんどん嫌な考えがわいてくる。
オレがちゃんと見ていれば。
あの伝説を話しておくべきだった。
そうすれば、こんなことにはならずに済んだかもしれないのに。
自分が自分を責め立てる。
気持ちばかりあせって、不安でたまらなくなってきた。
(オレは、本当にフウカを守れるのか・・・?)
そんなことまで頭に浮かんで、オレはそれらを振り切るように、こぶしを握りしめて歩調を速めた。
その時、突然強い光が視界をさえぎり、竜巻のように渦を巻く風がおそってきた。そして、
ドォォォ―――――――ン
と、地面を巨大なハンマーでたたいたかのような衝撃が森中に響き、鳥たちがいっせいに飛び立った。
「なっ、何が起きたんだ・・・!?」
手近な木にしがみつき、巻き上がる風に耐えながら目をこらすと、なんとそこにはさっきまでなかった巨大な塔が現れていた!
あの強烈な光はその塔から発せられていたらしく、しだいに塔に吸い込まれるようにして消えていった。
風もだんだんと弱まり、やっとのことで目を開けると、そこには信じられないような光景が広がっていた。
一瞬前まではただの森だったはずが、なぜか一面満開のサクラの木に囲まれていたのだ。
その中央には、天をつくほど高くそびえる真っ白な塔が立ち、風に舞うサクラをまとって幻想的な美しさをかもし出していた。
その塔にはひとつも窓はなく、ただ正面に茶色い木の扉が「さぁ、おいで」とでも言わんばかりにこちらを見つめている。
サクラをまとった、真っ白な塔―――――。
「・・・そうか。伝説は本当だったんだ」
オレは確信した。
きっと、この塔の中にフウカがいる。
そう思った途端、さっきまでの不安が勇気に変わった。
(絶対に、見つけ出す!)
オレは迷わずドアノブに手をかけて、そしてゆっくりと扉を開けた。

≪続く≫


この続きは
【フウカとサクラの神隠し ~2~】
をご覧ください!

※~2~はラブ要素多めですよ!!

らく魔女スピンオフ‐『チトセと一羽の黄色い鳥』②

2011年01月14日 | らくだい魔女
こんにちはー(^^)

今回はこの前の続きです。

でもその前に、まずコメ返です♪

アスカ:おっ!!また来てたのか、コメント!!

リノ:そうなの!!今回は『カラー♪』さんって人よ

『小説上手い』って言ってくださってありがとうございます!!
ガゼンやる気出ました!!
だから今回もがんばって書くので、ぜひ見ていってください


【後編】

 その黄色い鳥は、「チチチッ」と鳴きながらオレの部屋の前の木の枝に止まった。
 尾が長く、頭にくるんとカールしたトサカがついている。お腹の部分は白く、それ以外は金色にも見えるきれいな羽毛で覆われていて、太陽の光が当たるとさらにきらきらと輝いて見えた。どこかの家から脱走してきたのかもしれない。
 オレと1メートルも離れていないというのに、その小鳥はのん気に毛づくろいをし始めた。まったく警戒心がないところを見ると、やはり野生ではないみたいだ。
「・・・何かこの能天気な感じ、誰かを思い出すな」
 そう呟くと、それが聞こえたのか、小鳥は一度こっちを向いて「チッチッ」と鳴き、そしてまた自分の作業に戻った。
「どこから来たんだ?この鳥は。早く家に帰んねぇと、飼い主が心配するぞ?」
 まぁ、小鳥にこんな事言ってもしょうがないけどな。それよりも、オレは今日のパーティーのプレゼントを早く準備しなきゃなんねぇんだ。
「はぁー・・・。どっかに手ごろなもん落ちてないかな・・・ん?」
 その時、小鳥の足元でキラッと何かが光るのが見えた。よく見ると、小鳥の足にシルバーの指輪が引っかかっていた。真ん中には、しずく型にカットされた琥珀色の宝石がついている。
 こういうの、女ってなぜか大好きだよな。この前も、フウカがカリンの誕生祝いに蝶々の指輪をあげたとき、クラスの女子と騒いでたし(でもその指輪のせいで、カリンが死にそうになって大変だったけど)。
「そうだ、この指輪をプレゼントにしよう!うん、これならフウカも文句言わないだろうし、絶対大丈夫だ」
 そうと決まれば、さっさとこの鳥捕まえて指輪を手に入れないとな。確か、小さい頃に使っていた虫取り網がクローゼットに置いてあったはずだ。
 オレはそーっと窓から離れて、虫取り網を持って再び窓に近づいた。案の定、小鳥はまだ木の枝に止まったままだ。
 小鳥に気づかれないように息を潜めて窓脇の壁際まで行き、ぴたりと壁に背中をつけた。ちらっと覗くと、小鳥は体の向きを変えてまた毛づくろいを始めていた。
 オレは一度深呼吸をした。よし、いち、にの・・・
「さんっ!!」
 勢いよく網を振り、小鳥めがけてすばやく振り下ろした。でも、とっさに気づいた小鳥は網をすり抜けてしまった!
「あっ、おい、待てこらっ!!」
もう一度網を振って捕まえようとしたが、小鳥はバタバタと慌てて逃げてしまった。そしてその拍子に、
「しまった!指輪が・・・っ!!」
 指輪が小鳥の足から外れて落ちてしまったのだ。小鳥はそのまま空の彼方へと飛んでいってしまった。
 幸い指輪はこの部屋の真下に落ちたらしく、石畳の上に小さく光るものが確認できた。急いで取りに行って確認すると、指輪はどこにも傷がなく、宝石も割れていなかった。
「よかった・・・。あ、でも、これって誰かのものかもしれないんだよな・・・。あの鳥、飼われてたっぽいし」
 これって本当は持ち主に返したほうがいいんだよな、きっと。
「・・・まぁ、いっか。きれいだけどそんなに高そうなやつじゃないし、このままだとフウカのプレゼント決まらないしな」
 これで、フウカのプレゼントは決まった。
 フウカは喜んでくれるだろうか。

 そこで、またハッと気づく。
「何で気づくとフウカのことばっか考えてるんだオレはーーーっ!!」
 
 苦悩の日々は、まだまだ続く。


≪後編終わり≫


っとまぁこんな感じです。
なんだか締まりのないお話になってしまいましたが、実はこれにはまだ続きがあるのです!!
この後のパーティーについてと、そして小鳥の意外な役割が明かされる!!
・・・予定です

またそのうち書くので、お楽しみに~☆
  


らく魔女スピンオフ‐『チトセと一羽の黄色い鳥』

2011年01月07日 | らくだい魔女
また書きました!!

らく魔女スピンオフ☆

今回は短めのオリジナルストーリーです

そしてまたもやチトセ目線です。

では、どうぞ!!


【ある冬の日に】

「うひ~、つめてぇ~・・・」
 窓を開けると、外で待ち構えていた冬の冷たい風が鼻を突いた。
 城の外は一面の銀世界。キーンと凍りついた空気を打ち砕くように、午前10時を知らせる鐘の音が鳴った。
「・・・あ゛ー・・・やばいな、寝過ごした」
 窓枠にひじをついて、ため息を漏らした。吐いた息が白い煙になって、冷気に溶けた。
 そういえば、今日はフウカんチでパーティーだっけ。冬休みに入ってすぐ、
「今年はチトセも絶対参加だからね、クリスマスパーティー!去年は『平和に新年を迎えたいんだ』とか言って家出してたから捕まえられなかったけど、今年こそは逃がさないんだから!ちゃんとプレゼントも用意して来てよね!」
・・・とか喚いてたなぁ、アイツ。いつもいつも人の都合も訊かずに、なんでも勝手に決めやがって・・・。でもまぁ、昔っからああだからな、アイツは。
 それにしても、
「プレゼントねぇ・・・」
 実はまだ、何も用意していない。アイツのことだから、テキトーなもんだと絶対文句言うだろうし、だからといって、高価なものを買う金は持ち合わせてない。それに、アイツが喜ぶもんって言ったら、菓子くらいしか思いつかないし。でもきっと銀の城のクリスマスパーティーだから、菓子なんてすでに山ほどあるんだろうな。
 って、何でオレはさっきからアイツのことばっか考えてんだ?
 そう思った途端に、急に顔が熱くなって、慌てて周りを見渡した。自分の部屋だから、誰もいるはずがない。
「一人で何やってんだ・・・オレは」
 自分の行動に悲しくなって、またため息をついた。
「・・・本っ当、どーすっかなぁ・・・」
 空を仰ぐと、澄んだ青の空間にぽつんと、雲が一切れ取り残されていた。
 そこにサッと、小さな影が横切った。

 チチッ チチチッ

 それは、尾の長い黄色い小鳥だった。


≪前編終わり≫


時間がなかったので、ひとまずここまで!!

後編はまた後日ということで、お楽しみに~

 

 


らく魔女スピンオフ‐『フウカとチトセの仲直り』

2010年12月22日 | らくだい魔女
お久しぶりです。
今回はちょっとした小説書きます。
わたしの大好きな『らくだい魔女』シリーズの最新13巻が今月発売されたので、その続きを妄想してみました

≪ユキちゃんが帰った後のお話≫

 あのユキとかいうやつが帰った後、カレストリアの生徒たちはそれぞれ自分の研究やら崩れた学校の修復作業やらに行ってしまった。寮もOOのせいで使える状態じゃなくなっちまったから、俺たちはひとまずリューの家で待機することになった。
「あ~、今日はホンット大変だったよね~」
 ホウキに乗って先頭を行くフウカが、片手に持った真っ白な羽を見つめながら言った。
「そうねぇ。まさか学校があんなことになるなんて・・・」
「だよね~。死ぬかと思ったよ~」
「・・・おまえといると、おれはいつも三途の川を見るけどな」
 小声で呟いたつもりだったのに、フウカは聞き逃さなかった。ぐるりとホウキの向きを変え、危うく後ろのカリンにぶつかりそうになりながら、おれの目の前まで来て、
「なんですって~!あんた、あたしといる時っていやみしか言わないよね!他の女の子達には気持ち悪いくらい優しいくせに!」
「気持ち悪いって何だよ。おまえへの優しさは、とっくに使い切っちまってるんだよ」
「何よそれ!はぁ~、キースだったらこんなやつとは比べ物にならないくらい優しくしてくれるのになぁ~」
 ・・・何で今、キースが出てくるんだよ。
「・・・?何よ、突然黙り込んで」
「・・・別に」
 何か無性にイライラしてきた。こいつ、本当にあいつのことが好きなのか?
「・・・黒の国のやつなんか、信用できない」
「なっ・・・!ちょっと、そんな言い方ないでしょ!キースに失礼じゃない!キースに謝んなさいよ!」
「何なんだよ、そんなにあいつが好きなら、さっさとあいつのとこにでも行けばいいだろっ!」
 やつあたりだ。でも、抑えられなかった。
 おれは顔を見られないようにしながら二人を追い越して、スピードを上げた。多分今、ヒドイ顔してる。
「ちょっ、チトセ!?」
「チトセくんっ!?」
 呼び止める声を頭の中で打ち消して、ただひたすら何も考えずに飛んだ。フウカの横を通り過ぎるとき、一瞬、フウカが傷ついたような顔をしているように見えた。でも、たぶん気のせいだ。あいつはキースが好きなんだから。

 
 その後の夕食は、おれもフウカも一言もしゃべらなかった。リューとカリンは気まずそうに、時々わざと明るくおれたちに話しかけてきたけど、なんて返事をしたか、まったく憶えていない。
 部屋に戻った後も、むしゃくしゃした気分は晴れないままだった。頭を真っ白にしようとしても、あいつの顔が浮かんでくる。
 じっとしていられなくなって、外に出ようと勢いよく部屋の扉を開けた。その時、
 ゴンッ
というにぶい音とともに「あいたっ」という声がした。のぞくと、扉の前で両手でおでこを押さえたフウカがうずくまっていた。
「何やってんだよ、こんなところで」
 言った後に、また文句を言われると思って身構えていたが、フウカは黙ったままだった。
「・・・おい、本当に大丈夫かよ?」
「・・・チトセこそ、どうしたのさ?」
「は?」
 最初、フウカの言ってる意味がわからなかった。
「最近のチトセって、よくわかんないとこで怒るし、前より冷たい気がするし・・・」
「・・・そんなことないだろ」
「でも、さっきだって突然怒って先に行っちゃったし。だから、何かあたしがしたのかと思って、一応・・・謝ろうと思って・・・」
 そうか、そのためにこんなとこにいたのか。
「・・・別に、おまえのせいって訳じゃねぇよ。ちょっとイラついてただけだ」
「イラついてたって・・・何で?」
 それは、おまえがキースの話をするからだ、なんて、多分こいつは気づいてないんだよな。
「まぁ、気にすんなよ。おれも悪かった、ごめん」
「え、うん。・・・じゃ、じゃあ、あたし行くね」
 そう言って、フウカはちょっと気まずそうにぎこちなく立ち上がった。その時、
「うわあっ!」
「え・・・おわっ!」
フウカがバランスを崩して、おれの上に倒れてきた。
「ったー・・・。何すんだよおま・・・」
 床にぶつけた頭をさすりながら目を開けると、鼻と鼻が付きそうなくらいの距離にフウカの顔があった。
「うわっ!」
 思わず顔を遠ざけようとしたら、また床に頭をぶつけてしまった。
「いーってぇー・・・っ!」
「うわっ、ご、ごめんっ!」
 やっと状況を理解したフウカが、慌てて飛びのいた。
 こいつ、何でいつもこう落ち着きがないんだ?と、さすがにひとこと言ってやろうかと思って起き上がると、目の前のフウカが、なんと顔を真っ赤にしておれのほうを見ていた。そして目が合った途端に、
「あっ、じゃ、そ、そーゆーことで!」
と、慌ただしく駆け出そうとした。でも、
「・・・え?」
いつのまにかおれはフウカの手を握っていた。
 夜の誰もいない廊下で、フウカと二人きり。
 握った手から、フウカの熱が伝わってくる。
 もしかしてこれは、チャンスじゃないか?今までずっと言えずにいたこの想いを、今こそ言うべきなんじゃないか?
 いつ、また今日みたいな事が起こるかわからない。このままだと、一生フウカに伝えられないいままになってしまう。
 そんなのは、嫌だ。
「・・・フウカ」
「な、何よ、急に」
「おれ、ずっとおまえに言いたかったことが・・・」
「いやぁ~、すっきりさっぱりしたぜ~」
「!!」
 突然、おれの隣の部屋のドアが開き、能天気な声が廊下に響いた。そこから出てきたのは
「あれ?そんなとこで何してんの?」
「リュー!!」
「あらら?お二人さん、もしかしてお取り込み中だった?いやぁ、悪いことしちゃったかな~」
 にやにやしながら、リューはおれを小突いてきた。
「ちげぇよっ!おまえこそ、何でそんなとこから出てきたんだよ?」
 リューが出てきたのは、トイレだったのだ。
「おれか?何ていうか、さっき突然腹痛くなってさ、ずっと今までトイレにこもってたんだよね。でもおかげでスッキリよ」
「おまえな・・・」
「ところで、そこにいるお姫様はどうしたんだ?」
 振り返ると、赤面したままのフウカが慌てておれの手を振り払って、
「あ、あたしは、べ、別に・・・。じゃ、じゃあっ・・・!!」
ものすごい勢いで走り去っていってしまった。
「ま、待てって・・・!」
追いかけようとしたけど、さっき打った頭が痛んで走れずにそのまま床に座り込んでしまった。
 ・・・何でいつもうまくいかないんだ?
 おれの気持ちを悟ったのか、リューがおれの肩に同情の手を置いた。

≪終わり≫