じゃじゃーん!!
今回は「らく魔女」ホームページのお便りコーナーで綴った
オリジナル小説をまとめてアップしたいと思います。
内容は 【フウカとサクラの神隠し】①~④ です
挿絵を少し付けました!
よければそちらも見ていってくださいね♪
【フウカとサクラの神隠し】 ~総集編①~
※チトセ目線でお送りします。
ある春の金曜日。朝、いつものようにホウキに乗って登校する途中、楽しそうに鼻歌を歌うフウカの姿を見つけた。
フウカはオレに気づくと「おっはよー」と手を振りながら近づいてきた。
「おまえ、やけに機嫌がいいな」
オレが声をかけると、フウカはさらに顔をほころばせて言った。
「えへへ~、わかる?昨日から明日のことか楽しみでさぁ~」
・・・明日?
「明日って・・・なんかあったっけ?」
「えーっ!アンタ知らないのぉっ!昨日パティ先生が帰りのホームルームで言ってたじゃんっ!」
「あー・・・、オレそん時寝てたわ」
「うっわぁー、もったいない!あんな大事なことを聞き逃すなんて・・・」
「うるせぇな。だから、明日何があるんだよっ!」
思わず怒鳴ると、ちょうど近くを通りかかったカリンが心配そうにこっちを見ていた。
フウカがカリンに気づいて声をかけると、カリンはちょっと戸惑ってからやって来た。
「な、何かあったのぉ?」
「ううん。なんでもないよ。心配かけちゃったかな、ごめん」
「えっ、チ、チトセくんが謝ることじゃないわよぉ」
カリンは両手と頭をぶんぶん横に振りながら、フウカの後ろに隠れてうつむいたまま黙ってしまった。
たまに思うんだけど、オレってカリンに嫌われてんのかなぁ・・・。
「まぁたそうやって!あたしの時だったら『うるせぇな。なんでもねぇよ』とかって言うくせに。なんで他の人にはそんなに紳士的なわけ?」
そう言って、フウカが眉間にしわを寄せて詰め寄ってきた。
オレはその顔を押しのけてそっぽを向いて言う。
「それはおまえがつまんねぇ質問ばっかりするからだろ!第一、おまえに紳士的に振舞う必要がどこにあんだよ」
「しっつれーねっ!でもいいわ。なんてったって明日は・・・へへへっ」
「おい、だから明日は何があるんだよっ!」
オレはだんだんムカついてきて、フウカの足を軽く蹴ってやろうとしたけど、避けられてしまった。
フウカはカリンが何か言おうとしたのをさえぎって、
「あとでわかるって!」
と言って、先に行ってしまった。
カリンは一度オレの方を向いておじぎをすると、「フウカちゃん、待ってよぉ~」とフウカと共に行ってしまった。
なんなんだよ、まったく・・・。
その日の帰りのホームルームで、オレはやっとその正体を知った。
教壇の前に立ったパティ先生が、黒板にこう書いた。
『春の遠足について』
そう、明日は遠足があるのだ。(さっき知ったばかりだけど)
緑の国の東にある『イスタルの丘』に行き、みんなで花見をするらしい。
パティ先生が振り向くと、ざわめいていた教室内が一瞬で静かになった。
でも、みんなの表情は期待に満ちている。
「昨日も言ったとおり、明日はみんなでイスタルの丘に遠足に行きます。イスタルの丘はこの時期、魔法界では珍しいサクラの花が満開となります。魔法では作り出せない自然の神秘にふれてみましょう」
パティ先生はみんなに説明して、さらにこんなことを続けた。
「そして丘に登った後は、サクラの木下でお花見パーティーをしたいと思います」
途端に、教室中が歓喜の声であふれた。
「みなさん静かに!まだ続きがあるんですよ?そのうえ、明日は先生がたくさんお料理を持っていくので、そこでみんなでランチをとることにしましょう」
パティ先生の言葉に、みんな目を輝かせた。
教室のあちこちで、
「サクラの木下でランチなんてステキっ!」
「どんな料理作ってくれるのかなぁ」
「早く明日になってくれーっ!」
という会話が聞こえてきた。
当然フウカも興奮した様子で、すでに口からよだれがたれている。
「ちなみに、明日はイスタルの丘のふもとが集合場所ですから、間違えないようにしてくださいね。いいですか、フウカさん?」
ヘラヘラしながら窓の外を眺めていたフウカは、突然名前を呼ばれて驚いたひょうしに椅子から落ちてしまった。
みんなから笑われ、パティ先生には困ったような呆れたような顔でため息をつかれていた。
「あはは~」と頭をかきながら座りなおしたフウカは、やっぱりまだうかれているようだった。
こんなにうかれていて大丈夫だろうか。
明日の遠足で、何もないといいんだが・・・。
*
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*
*
*
翌日。
集合時刻の10分前だというのに、ほとんどの生徒がイスタルの丘に集まっていた。
いないのは・・・
「あれっ、そっちの班はまだそろってないの?」
「う、うん。フウカちゃんがまだ・・・」
「やっぱりフウカは遅刻かぁ~」
隣の班のアリサが呆れたようにため息をつき、カリンは心配そうに空を見上げる。
丘の上に広がる青い空は、雲ひとつなければフウカの姿もない。
丘の頂上までは、4人で1組の班になって登ることになっていて、すでにそろった班はもう登り始めている。
アリサたちの班もそろったらしく、
「カリン、先に行くね。あとでフウカに一喝いれてやんなくちゃね、まったくっ」
「ごめんね、心配かけちゃって・・・」
「いいって。フウカが遅いのが悪いのよ。じゃあまたあとでね」
「うん、いってらっしゃぁい」
と、他の班に続いて登り始めた。
あいにくオレたちの班は、オレ、フウカ、カリン、カイという遅刻キングが2人もそろった班になってしまったため、当然最後まで残ったのはオレたちの班だけだった。
「おいらたちだけ先に登っちゃだめかな?」
「そんなぁ、フウカちゃんがかわいそうよぉ」
「どうせアイツのことだから、寝坊でもしてんじゃ・・・っておい、おまえいつ来たんだよ」
知らないうちに、オレとカリンの間にカイが立っていた。
カイの肩にはもちろんマリアンヌがのっている。
「いつって、結構前から近くにいたのに、ちーくん気づかなかったの?」
「うるせぇな。あとその呼び方やめろって」
「あ、カリン寒くない?マリ抱いてるとあったかいよ」
「話きけよっ!」
ホント、カイとしゃべってると調子狂うな。
それにしても、フウカはいつになったら来るんだ?
そう思ったそのとき、
「うわぁああああああっ!!」
という悲鳴とともに、突然突風が吹き荒れた。
「なっ、なんだこれっ」
腕で顔を覆いながら目を開けると、目の前の林にものすごい勢いで何かが突っ込んだ。
それと同時に、吹き荒れていた風も治まった。
「なんだったのぉ、今の・・・」
「なんかすごい音がした気がするけど」
そう言って、さっき何かが突っ込んだ林の方に目を向けると・・・
「・・・いったたたぁ~」
なんと、木の上にホウキを持ったフウカが引っかかっていた!
「おまえ何してんだよ、そんなとこで」
「フウカちゃんだいじょぉぶ~?」
「派手な登場だな~」
オレたちがかけよると、木から下りてきたフウカが少し気まずそうに言った。
「えっとぉ・・・、なんと言うか、寝坊しちゃってさぁ・・・」
「それはいつものことだろ。で、何でこんなことになったわけ?」
「しっ、失礼ね!これは、少しでも早く行かなきゃと思って、ホウキで飛ばしてきたんだけど、それでも間に合わなさそうだったから・・・」
「だったから?」
「・・・風の魔法で速度上げようと思って・・・」
「おまえバカじゃねぇの?コントロールできねぇくせに」
「そ、そんな言い方ないでしょー!これでも遅刻しないように努力したのに!」
「じゃあ寝坊すんなよなぁ・・・」
「う、うるさいわね!あんたが細かいこと気にしすぎなのよ!」
「おまえは気にしなさすぎだっ!」
こいつのやることは何で全部こうもおおざっぱなんだ。
っていうか、こんなやつが好きなオレってどうなんだ?
オレたちが言い合っていると、カリンが止めに入って、フウカを落ち着かせた。
「よし。んじゃぁおいらたちも行きますか」
カイの言葉にうながされ、オレたちはやっと丘を登り始めた。
そのあと、他の班に遅れをとりながらも丘を登っていると、数分後にアリサたちの班と合流した。
「やっと追いついてきたわね」
「うん。合流できてよかったわぁ~」
カリンが汗をぬぐいながら答えると、アリサは「あれっ?」と首をかしげた。
「ところで、その原因のフウカは?」
「えっ?」
振り返ると、後ろには今来た道が細長く続いているだけだった。
カイが先頭を行き、その後ろにカリン、オレ、フウカと続いているはずだが、フウカの姿は――――ない。
突然、林の中に不穏な空気がただよった。
*
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*
*
*
オレはすぐに辺りを見回し耳を澄ませたが、フウカの姿も声も、ない。
凍りついたような沈黙。
ふと見ると、目の前のカリンは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「フウカちゃん・・・どこ行っちゃったのかしらぁ・・・」
「きっと大丈夫だよ。アイツのことだから、またどっかで寄り道でもしてんじゃないか?」
「そ、そうよ。そのうちへらへら笑って戻ってくるわよ」
「でも・・・もしフウカちゃんが戻ってこなかったら、わたし・・・」
オレとアリサがなだめようとしたが、とうとうカリンは泣き出してしまった。
「そんな、大げさだなぁ~。フウカならきっと大丈夫よ、ね?」
そう言って、アリサはカリンに言葉をかけるが、オレはもう何も言えなかった。
カリンには「きっと大丈夫」なんて言ったけど、本当は不安でたまらない。
いや、不安というよりも、恐怖と言ったほうが近いかもしれない。
イスタルの丘で姿を消すこと。
それは、永遠の別れを意味しているのだから。
今から100年以上前のこと。
ちょうどその頃、人間界からこのイスタルの丘にサクラの木が植樹された。
魔法界ではめったに見られないそのサクラを見ようと、その年の春、多くの人々がイスタルの丘を訪れた。
その中に、当時オレたちの学校に通っていた生徒たちのあるグループがあった。
男子2人、女子3人の5人グループで、その中のある1人の女子生徒は、冬に事故で恋人を亡くしたばかりだった。
仲間たちは、彼女を少しでも元気付けようと花見に連れ出したのだった。
それでもやはり、彼女の心は固く閉ざされたままだった。
しかし、仲間たちがホウキで丘に向かう途中で、彼女が突然
「・・・わたし、歩いて丘を登りたいの」
と呟いた。
仲間たちははじめこそ不思議に思っていたが、歩いたほうがホウキよりもより花見を楽しめるだろうと思い、それに従った。
そうして5人は丘を登り始めたのだが、丘の中腹辺りで、一人が異変に気が付いた。
あの女子生徒の姿が見当たらない、と。
驚いた仲間たちは、慌てて彼女を捜したが、彼女は見つからなかった。
その後1週間、2週間と経っても、彼女は一向に現れず、とうとう彼女は二度と帰って来なかった。
後で聞いた話によると、その女子生徒が消えた晩、イスタルの丘の上には淡く光る真っ白な塔が現れ、そして次の日には消えていたという。
それから1年後の春。
その年も、サクラを見るために多くの人々がイスタルの丘を訪れた。
その中のあるカップルもまた、歩いて丘を登っていた。
そしてその数分後に、彼女の方が姿を消した。
彼女もやはりオレたちの学校の生徒で、その後二度と帰って来なかった。
その時も、何故か一晩だけ丘の上に真っ白な塔が現れたという。
その後も何度か同じような事件が起こり、そしていつも消えるのはオレたちの学校の女子生徒ばかりだった。
このことから、いつしかイスタルの丘は『サクラの神隠し伝説』の地として有名になり、校内で密かに語り継がれてきたのだった。
・・・といっても、もう100年以上も前の話だからか、この伝説を知っている者も少なくなった。
しかし、オレは昔からじいちゃんから聞かされていたのでよく知っていた。
さっきから黙って眉間にしわを寄せているカイも、おそらくこのことを知っているのだろう。
あの心配の仕方を見ると、カリンも知っているのかもしれない。
――――二度と帰って来なかった――――
伝説のその言葉が、何度も何度も頭をよぎる。
もし、フウカがサクラの神隠しにあっているのだとしたら・・・。
言い表せないほどの恐怖が、オレを押しつぶす。
でも、フウカがいないなんて。
フウカがオレのそばにいないなんて。
そんな日常は、オレには耐えたれない。
(あの時、心に決めたじゃないか)
――――フウカはオレが、絶対守る。
「とにかく、みんなで手分けしてフウカを捜すんだ」
「そうだな。おいらもその方がいいと思うよ」
「カリンも、一緒に捜しに行こっ」
「う、うんっ!」
「よし。それじゃあ・・・」
オレたちは顔を見合わせて、しっかりとうなずくと、
「行こう!」
それぞれに林の奥へと足を向けた。
*
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*
*
消えたフウカを捜すため、森の中を歩き始めたオレたちは、新たな行方不明者が出ないよう二人一組で捜索をすることになった。
オレのペアは・・・気は進まないが、仕方なく同じ班のカイになった。
カイは肩に乗ったマリアンヌののどをなでながら、オレの少し後ろを歩く。
「おまえなぁ、もうちょっと真剣に捜せよ。同じ班のやつが消えちまったっていうのに」
「捜してるって。まったくちーくんは短気だな~」
「だからその呼び方はやめろよっ!」
「はいはい。ちーくんは大好きなお姫さんがいなくなって、あせってんだよな」
「な・・・っ!」
突然何言い出すんだ、こいつ!
オレは怒りと恥ずかしさで自分の顔が熱くなるのを感じた。
でもカイは反対に、オレをからかうように
「プリンセスはナイトが助け出すもんっしょ?」
と言ってニッと笑うと、
「おいらはあっちを見てくるよ」
と言いながら、一人(とネコ1匹)でどこかに行ってしまった。
アイツには協調性ってもんはないのか。
「しかたない。一人で捜すか」
気を取り直して、オレはさらに奥へと進んでいった。
イスタルの丘をおおう森は一見小さく見えていたが、中に入ると予想以上の広さがあった。
クラスのみんなが、あちこちでフウカの名前を呼ぶ声がする。
でも、フウカの姿が消えてからもう1時間は経っているのに、いまだに見つからない。
オレは最初に登っていた道からだいぶ離れた、丘の頂上付近を歩いていた。
周りの木々は、まるで捜索を邪魔をするかのように大きく枝を伸ばしている。
薄暗く視界の悪い中、オレは必死にフウカを捜しつづけた。
時間が経つにつれて、どんどん嫌な考えがわいてくる。
オレがちゃんと見ていれば。
あの伝説を話しておくべきだった。
そうすれば、こんなことにはならずに済んだかもしれないのに。
自分が自分を責め立てる。
気持ちばかりあせって、不安でたまらなくなってきた。
(オレは、本当にフウカを守れるのか・・・?)
そんなことまで頭に浮かんで、オレはそれらを振り切るように、こぶしを握りしめて歩調を速めた。
その時、突然強い光が視界をさえぎり、竜巻のように渦を巻く風がおそってきた。そして、
ドォォォ―――――――ン
と、地面を巨大なハンマーでたたいたかのような衝撃が森中に響き、鳥たちがいっせいに飛び立った。
「なっ、何が起きたんだ・・・!?」
手近な木にしがみつき、巻き上がる風に耐えながら目をこらすと、なんとそこにはさっきまでなかった巨大な塔が現れていた!
あの強烈な光はその塔から発せられていたらしく、しだいに塔に吸い込まれるようにして消えていった。
風もだんだんと弱まり、やっとのことで目を開けると、そこには信じられないような光景が広がっていた。
一瞬前まではただの森だったはずが、なぜか一面満開のサクラの木に囲まれていたのだ。
その中央には、天をつくほど高くそびえる真っ白な塔が立ち、風に舞うサクラをまとって幻想的な美しさをかもし出していた。
その塔にはひとつも窓はなく、ただ正面に茶色い木の扉が「さぁ、おいで」とでも言わんばかりにこちらを見つめている。
サクラをまとった、真っ白な塔―――――。
「・・・そうか。伝説は本当だったんだ」
オレは確信した。
きっと、この塔の中にフウカがいる。
そう思った途端、さっきまでの不安が勇気に変わった。
(絶対に、見つけ出す!)
オレは迷わずドアノブに手をかけて、そしてゆっくりと扉を開けた。
≪続く≫
この続きは
【フウカとサクラの神隠し ~2~】
をご覧ください!
※~2~はラブ要素多めですよ!!