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鼓曲萬来

天鼓弐 鐘蓮洞

 

天鼓は、昔、神として祀られ、国中の人々に崇められ、

富を与えていた事も有りましたが

或夜、突如として黒雲の中より現れた龍に、

天空に奪い去られてしまったのです


すると都では天変地異が起こり、

飢饉、日照り、洪水に襲われて、

国の栄華は忽ちにして失せてしまい、

飢えて死ぬ者、疫病も流行って、

以前の都の饗影は見る影も無くなってしまう有様



中には勇敢に、天鼓を龍より奪い返そうとする者も現れたのですが、

架空の動物ですからその剣(やいば)も届きません。

 

ほとほと困りきって、神通力を持った、徳の高いお坊さまに、

龍に「鼓を返してくれ」と頼んでもらう事にしました。

 

お坊さまは龍に「何故そのような悪事をするのだ」と神通力で聞くと、

龍は『掌中の玉を人間に奪われ、その仕返しだ』と言うのです。


そして『私の掌中の玉を返してくれたら天鼓も返す』と言うのです。

 

龍との問答の中で、お坊さまはフッとある考えが頭に浮かびました。

 

それは、世界に数有る龍の物語りは、

何かの思いが固まって形に成った物ではないか?

きっと龍の本体は別の生き物ではないか?と言う事でした。

 

お坊さまはとっさに智慧を働かせて

「お前は何処に住んでいたのか?」と龍に聞きました。

すると龍は「龍になる前には、水の浄く澄んだ湖、

洛北の鐘蓮洞(しょうれんどう)に住んでいた。」と言うのです。



お坊さまは早速急いで、鐘蓮洞に行ってみる事にしました、

すると以前の名湖水は見る影も無い程荒れ果てて、

治水や灌漑で樹木は枯れ果てていたのです、

それに鐘蓮洞の泉は二つに分けられてしまっていました。

 

そのときお坊さまは側の水たまりに瀕死の幼い鯉を見つけたのです。



お坊さまは元の湖にそっと幼鯉を戻し、お経を唱えたその時です、

天空の龍は忽ち滝を下りて来て、元の錦鯉に姿を変え

幼鯉の側に寄り添うように泳いで行きました。

 

『掌中の玉とは此の幼い鯉の事だったのか...、

子を思う母鯉の想いに湖水の枯渇、哀れなり...』と


龍が置いていった鼓をお坊さまは打鳴らすと、

湖水の泉は突然蕩々と溢れ、

樹木は繁茂し影を湖面に映したのです.。



『この親鯉の愛情に守られてきっとあの幼鯉は

龍のように立派に成長するだろう』と、


「鯉滝に掛かりて龍と成る、男子吉祥出世の兆しなり」と定め、


以来我が国の五月の空には

天高く鯉ののぼりが泳ぐ事となったのです。



登龍門



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