『 ベルサイユのばら 』 のオリジナル・テキスト(日本語版)では、
父:ジャルジェ将軍 は、子:オスカル・フランソワ のことを、
「おまえ」 と呼んでいます。
また、常に 「目下扱い」 して話しています。
オスカル・フランソワは、父に対して敬語を使っています。
これは、日本/日本語での伝統的な親子関係から見ると、ごく普通のことです。
さて、フランス語版 ( Kana 版 ) では、どのようになっているのでしょうか。
18世紀の貴族の家庭ですので、2人は、vous 「あなた」で話しています。
父:ジャルジェ将軍 → 子:オスカル・フランソワ vous
子:オスカル・フランソワ → 父:ジャルジェ将軍 vous
② 家族間では、tu を使う。→ ×
お互いに、vous を使い、「ていねいな表現」 「尊敬の表現」そして、 「距離を置いた表現」 で話していると言えます。
使い分けには、次のような条件もありました。
③ 子どもには tu を使う。→ ×
しかし、子:オスカル・フランソワが11歳の時の場面で、すでに父:ジャルジェ将軍は、vous を使っています。
やがてフランスの王太子妃になるかもしれないマリー・アントワネットをまもる日のために励めと、父:ジャルジェ将軍が子:オスカル・フランソワに命ずるシーンの父の言葉です。
Oscar, mon fils, votre tâche serait alors...
(オスカル,モン フィス,ヴォートル タッシュ スレ アロール…
...de la protéger,
…ド ラ プロテジェ,
comme si votre vie en dépendait.
コム シ ヴォートル ヴィ アン デパンデ
Entrainez-vous en pensant à ce jour.
アントレネ ヴー ザン パンセ ア ス ジュール)
(Tome1)
「オスカル、我が息子よ、あなたの使命はあなたの命をかけて彼女(マリー・アントワネット)を護ることになることでしょう。その日のことを考えながら、(剣の)訓練をして下さい。」
オリジナル・テキスト(OT)
「オスカル!そのかたは、おまえが身をていして
おまもりし おつかえもうしあげるかたになるだろう。
いまから心して その日のためにはげむのだぞ!」
ド・ゲメネ公爵との決闘騒動で謹慎になり、領地視察から戻ってきたオスカル・フランソワを派手にひっぱたいて怒鳴りつける場面でも、父は子に vous で話しています。
床に倒れたオスカル・フランソワに対して、容赦なく父はこのように言います。
Relevez-vous, Oscar !!!
( ルルヴェ ヴー, オスカル!!! )
「立って下さい,オスカル!!!」
(Tome1)
OT:「立てい!! オスカル」
そして、長い逡巡の後、ついにオスカル・フランソワがブイエ将軍の命令に、そして国王に従うことを拒否し、ジェローデル率いる近衛隊を阻止した時。
帰宅したオスカル・フランソワに対して、抜き身の剣を携えた父は、このように叫びます。
Enleverz vos décorations et vos grades militaires !!
( アンルヴェ ヴォ デコラシオン エ ヴォ グラード ミリテール!!)
「あなたの勲章とあなたの陸軍階級章をはずして下さい!!」
(Tome2)
OT:「勲章と階級章をはずして そこへなおれ!!」
このように、貴族として親子でありながらどんな興奮状態でも、子を vous で呼ぶ父。
ところが、『 ベルサイユのばら 』 Kana 版 の中に、
父:ジャルジェ将軍が、子:オスカル・フランソワを tu で呼んでいる場面
が、4つあるのです。
次回は、それを見ていこうと思います。