10年来の親友、フェルゼン伯爵に対してさえ vous で話しているKana 版のオスカル・フランソワ。
しかし、tu で話す友人もいました。
市民:オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ
市民:ベルナール・シャトレ
身分も地位も、当時の社会のルールもモラルも超えて、オスカル・フランソワの人生に決定的な影響を与えた友人、ベルナール・シャトレとの会話を見ていきます。
最初の出会いは非常に双方感じが悪いものでした。
フェルゼン伯爵がアメリカから帰ってこないことに苛立ったオスカル・フランソワが、酒場で飲んだくれていた時。ロベスピエールとともに現れたベルナール・シャトレは、オスカル・フランソワを le toutou de la reine (ル・トゥトゥ・ド・ラ・レーヌ): 「王妃の犬」 呼ばわりします。
toutou は、幼児語で、「わんわん」「ワンちゃん」といった感じです。「犬」は、le chien (ル・シヤン);雄、 la chienne (ラ・シエンヌ);雌 です。
Kana 版で、後にマリー・アントワネットが民衆に罵られるところを読んで気づいたのですが、なんと、恐ろしいことに、Autrichienne (オトリシエンヌ):オーストリア女性;という言葉には、chienne が含まれているのですね。…びっくりいたしました…
話を戻します。
二人の2回目の邂逅は、le masque noir (ル・マスク・ノワール): 「黒仮面」=黒い騎士となったベルナール・シャトレが、ドレスを纏ったオスカル・フランソワを襲ったところ反撃に遭う、という、これまた感じの悪い場面。
Attend !! Tu es le masque noir !? (Tome 1)
(アタン!! テュ エ ル マスク ノワール!?)
「待て!! お前は黒い騎士か!?」
OT「まてぃ!!黒い騎士か!?」 (集英社文庫第3巻)
この tu は、遠慮のない tu ですね。
tu と vous ④ 親しくない関係での、尊敬を表さない tu
そして、いろいろあった末、黒い騎士を捕らえて、ジャルジェ家に連れてきたオスカル・フランソワの台詞。
Tu t'appelles Bernard Châtelet, je crois,
(テュ タペル ベルナール シャトレ ジュ クロワ
on s'est rencontrés une fois dans une taverne... (Tome 1)
オン セ ランコントレ ユンヌ フォワ ダン ジュンヌ タヴェルヌ…)
「お前、確か、ベルナール・シャトレといったな。一度、酒場で会った。」
OT「ベルナール・シャトレとかいったな いつか酒場であった」 (集英社文庫第3巻)
この時点でも、まだ、二人の関係は、「警察と泥棒」。tu は、決してよい関係の tu ではありません。
ベルナール・シャトレが、オスカル・フランソワを罵る言葉。
Général de la Garde !
(ジェネラル ド ラ ガルド!
Tu n'es qu'une poupée de la Royauté !! (Tome 1)
テュ ネ キュンヌ プペ ド ラ ロワイヨテ!!)
「近衛隊の将軍め! お前なぞ王家の人形にすぎない!!」
OT「近衛隊士め!!王宮の飾り人形!!」 (集英社文庫第3巻)
Kana 版では、ただの「近衛隊士」ではなく、Général 「将軍」と言っています。オスカル・フランソワは le Général de Brigade;准将ですので、Kana 版 では、多くの場面で Général と呼ばれています。
Royauté は、訳しにくいので「王家」としましたが、「王威」「王権」といった意味です。「権力の犬」という言葉がありますが、そのようなマイナス面のイメージの言葉として使われていると思われます。
ベルナール・シャトレと語り合ううちに、彼に共感し、逃がすことを決めたオスカル・フランソワ。
ベルナールと恋に落ちたロザリーも、ともにジャルジェ家を去ることに。
ベルナールに、ロザリーを託す、オスカル・フランソワの言葉。
Bernard Châtelet...
(ベルナール シャトレ…
Je te confie ma précieuse soeur,
ジュ ト コンフィ マ プレシューズ スール、
alors promets-moi de la rendre heureuse.
アロール プロメ ムワ ド ラ ランドル ウールーズ)
「ベルナール・シャトレ…お前に、私の大切な妹を任せる。だから、彼女(=ロザリー)を幸せにすると、私に約束してくれ。」
OT「ベルナール・シャトレ。わたしのたいせつな妹だ。どうか、能うかぎりの愛をそそいでしあわせにしてやってくれ。」 (集英社文庫第3巻)
この時点では、二人の間の友情が成立していると考えて、間違いないでしょう。
ここからの tu は、友人関係の tu だと考えられます。
そして、フランス革命まで、あと2週間という日。
アベイ牢獄に捕らわれたアラン達フランス衛兵隊の部下を解放するため、ベルナールの力を借りに、深夜、ベルナール宅を訪ねたオスカル・フランソワ。
力を貸すことを約束したベルナールは、別れ際に、こう言います。
Oscar François...
(オスカル フランソワ…
Quitte la France, va à l'étranger.
キット ラ フランス、 ヴァ ア レトランジェ
Et au plus vite. (Tome 2)
エ オ プリュ ヴィット)
「オスカル・フランソワ…フランスを去れ。外国に行け。出来るだけ早く。」
OT「オスカル・フランソワ。このフランスをたちさって、どこか外国へいけ。できるだけ、早いうちがいい。」 (集英社文庫第3巻)
それに答え、オスカル・フランソワは、微笑みながらこう言います。
Je ne sais pas pourquoi tu me dis ça...
(ジュ ヌ セ パ プルクワ テュ ム ディ サ…
Mais s'il doit se passer quelque chose en France..
メ シル ドワ ス パセ ケルクショーズ アン フランス….
...Je mourrai dans mon pays. (Tome 2)
…ジュ ムレ ダン モン ペイ)
「お前が何故そう言うのかは知らないが…しかし、フランスで何かがあるとしたら…私は、自分の国で死のう。」
OT「どういう意味かは知らんが…このフランスになにかあるというのなら、わたしは祖国と心中するぞ。」 (集英社文庫第3巻)
はぁ…
La femme du journaliste Bernard Châtelet (ラ・ファム・デュ・ジュルナリスト・ベルナール・シャトレ)「新聞記者、ベルナール・シャトレの妻」の座をロザリーに譲り、暖かい暖炉に背を向けて… こうして、運命の7月14日へと向かっていくオスカル・フランソワ…
マリー・アントワネット、フェルゼン伯爵と同じ年に生まれて、運命の糸に導かれて人生を交錯させたオスカル・フランソワ、どう考えても、悲劇の二人に匹敵する悲劇を運命づけられた人物だとは、わかっているのですが…
このように、彼女の死への伏線が、次々と示され、読み手は、なす術もなく、覚悟を決めていくしかないのですが…
筆者だけでなく、何とかして、悲劇を避けて幸福を手にしてほしいと思う皆さまは多いことでしょう。
…「友人関係」から離れてしまいましたが、ベルナール・シャトレ、今からでも遅くありません。ジャルジェ家にお泊まりすることになった時に戻って、何とかしましょう。
…オスカル・フランソワが危ういところに、助けに入るとか、ね。