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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

中国インディペンデント映画の真打ち『無言歌』公開!

2011-12-13 | 中国映画

今、時間を見つけては「中国インディペンデント映画祭」の作品を見に、ポレポレ東中野に通っています。今日見たアニメ『ピアシング 1』 (2009)は、絵柄といい作りといい展開といい、ちょっと気分が盛り下がる作品でしたが、そのほかは劇映画もドキュメンタリー映画も好みの作品があって、この監督たちが次に化けるとどうなるか楽しみだな~と思わせられています。

そんな中国インディペンデント映画の真打ち、王兵(ワン・ビン)監督作品『無言歌』 (2010)が、いよいよ今週土曜日、12月17日から、ヒューマントラストシネマ有楽町で公開されます。公式サイトはこちら。劇場のHPはこちらです。なお、その後は全国で順次ロードショーとなる予定です。

『無言歌』の舞台は、1960年の中国西部、甘粛省のゴビ砂漠。砂漠と言うよりは土漠と言った方がいい荒れ野の各所に、塹壕のような「溝」が掘られており、そこに「反右派闘争」で批判され、中国各地から連れてこられた人々が収容されていきます。ここは、「右派」の人々に再教育を施すための収容所なのでした。

ⓒ2010 WIL PRODUCTIONS LES FILMS DE L’ÉTRANGER and ENTRE CHIEN ET LOUP

白状すると、昨年の東京フィルメックスで見た時にはこの冒頭シーンで、「あの当時、こんな立派な外套を着てるなんて変じゃない?」などと思った私です。ところが、その後次から次へと衝撃の描写が出てきて、物語の中にぐいぐい引き込まれてしまうことになります。

1960年は、1958年から始まった「大躍進運動(鉄鋼や穀物を大衆動員によって、短期間のうちに急激に増産しようとした運動)」が思うような成果を上げず、どころか大失敗し、中国全土に飢餓が広がった時期でした。囚人扱いであるここの収容者たちには満足な食べ物が与えられず、寒さも襲ってきて収容者は次々と亡くなっていきます。その死を仲間が悼む間もなく、ふとんにくるまれていずこかへと運び去られる遺体....。

ⓒ2010 WIL PRODUCTIONS LES FILMS DE L’ÉTRANGER and ENTRE CHIEN ET LOUP

追いつめられた収容者たちは、生き残るために食べ物を探して目を血走らせます。野の草を口にするのはもちろん、人間の尊厳を捨ててまでも食べられる物を口に入れようと必死になる収容者たち。あさましくも哀しいその姿が、恐ろしいまでのリアリティをもって描写されていきます。

ⓒ2010 WIL PRODUCTIONS LES FILMS DE L’ÉTRANGER and ENTRE CHIEN ET LOUP

何人もの仲間が亡くなり、残った人々の感覚がマヒしつつあった頃、ある収容者の妻だという女性が上海から訪ねてきます。彼女の、どうしても夫を見つけたい、死んでいるのならその墓を探し当てたい、という強い意志は、凍り付いていた収容者たちの心に徐々に影響を与えていきます....。

ⓒ2010 WIL PRODUCTIONS LES FILMS DE L’ÉTRANGER and ENTRE CHIEN ET LOUP

ワン・ビンの作品は、ドキュメンタリーの『鉄西区』を見た時も思ったのですが、途中で実にうまく「転」の部分が用意されているのです。『鉄西区』の第1部「工場」では、舞台が工場から保養所に移る部分、また、第3部「鉄路」では、クズ拾い父子の父親が捕まり、その釈放でハイティーンの息子が一挙に感情を爆発させるところなど、それまでの禁欲的な描写がガラッとトーンを変えるシーンが用意されていて、こちらの感情をゆさぶってくれます。『無言歌』では、上海から来た女性が登場するや、この収容所に小さな嵐が巻き起こっていきます。実に巧みなストーリーテリングですね。

『無言歌』のプレスに掲載されていた中国文学者藤井省三先生の解説によると、この映画は楊顕恵(ヤン・シエンホイ)著『夾辺溝の記録』という小説を原作にしていて、その19章のうちの3章「一号病室」「上海女」「逃亡」を主として題材に使っているそうです。ですので、前述のような転換はエピソードが変わったため、とも言えるのですが、それだけではない、音楽の「転調」にあたるような面白味が出ていて、ここでまた観客はぐっと惹きつけられてしまうのです。

ⓒ2010 WIL PRODUCTIONS LES FILMS DE L’ÉTRANGER and ENTRE CHIEN ET LOUP

それにしても、中国現代史で、プロレタリア文化大革命、天安門事件と並んで描くのが困難な素材をよくぞ映画化した、と思わずにはいられません。当局に見つかれば即撮影中止という、薄氷を踏む思いの撮影だったのでしょうが、そんな中でのこの丁寧な映画作りと画面から伝わってくる気迫のすごさ。ワン・ビン監督の力のほどを思い知らされます。彼こそは今、もっとも先鋭的な中国インディペンデント映画作家と言えるでしょう。

中国の歴史の一面と共に、人間の生き方を呈示してくれる『無言歌』。この2011年の締めくくりにふさわしい映画と言えるかも知れません。

 


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