アジア映画巡礼

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アスガー・ファルハディ監督作『ある過去の行方』

2014-03-07 | イラン映画

昨日はocnのサーバがダウンしてしまい、朝からメールが送れず参ってしまいました。結局7時間ぐらいダウンしていたようです。インターネットは繋がったので、故障情報などを知ることができて助かりましたが、もろいネット社会を思い知りました。

そんなわけで、本当は昨日アップしようと思っていたアスガー・ファルハディ監督の『ある過去の行方』の紹介を1日持ち越すことになり、実は旅先で書いています。今年も恒例の「花粉症逃亡中」です。では、まずは映画の基本データをどうぞ。

『ある過去の行方』 公式サイト
 
 
© Memento Films Production – France 3 Cinéma – Bim Distribuzione – Alvy Distribution – CN3 Productions 2013
 
2013年/フランス・イタリア/フランス語・ペルシャ語/130分/原題:Le Passe(+アクサン)
 監督・脚本:アスガー・ファルハディ 
 出演:ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム、アリ・モッサファ
 配給:ドマ、スターサンズ 
2014年4月19日(土)より Bunkamura ル・シネマ、新宿シネマカリテほか全国順次公開
 
『ある過去の行方』は、1人のイラン人男性がパリの空港に着くところから始まります。迎えに来ていた女性は、その男性アーマド(アリ・モッサファ)のフランス人妻で薬剤師のマリー=アンヌ(ベレニス・ベジョ)。アーマドは4年前にテヘランに戻ったのですが、今回はマリー=アンヌの希望で正式に離婚するためにパリへとやって来たのでした。
 
 
© Memento Films Production – France 3 Cinéma – Bim Distribuzione – Alvy Distribution – CN3 Productions 2013

マリー=アンヌが離婚を望んでいるのは、新しいお相手ができたから。アーマドとの結婚前にもマリー=アンヌは2人の男性と結婚生活を送っており、それぞれとの間に娘がいました。上の娘リュシー(ポリーヌ・ビュルレ)はもう高校生、下の娘レアは小学生で、アーマドになついていたレアはアーマドとの再会を喜びます。ところが家にはもう1人、小学生の男の子フアゥドがおり、フアゥドがマリー=アンヌの現在の恋人サミール(タハール・ラヒム)の息子と知ったアーマドは、2人がすでに実質的な結婚生活を営んでいることを知ってしまいます。

© Memento Films Production – France 3 Cinéma – Bim Distribuzione – Alvy Distribution – CN3 Productions 2013

ところが、長女リュシーは、マリー=アンヌとサミールの結婚に反発していました。それは年頃の女の子の潔癖性から、というわけではなく、サミールには現在昏睡状態になっている妻がおり、その妻の死を待って母がサミールと結婚しようとしている、ということからでした。母には反抗心しか見せないリュシーに対し、アーマドは昔なじみのイラン料理店に彼女を連れて行って、話を聞こうとします。

© Memento Films Production – France 3 Cinéma – Bim Distribuzione – Alvy Distribution – CN3 Productions 2013

リュシーの話から、衝撃的な事実がいろいろわかってきます。サミールは下町でクリーニング店を営んでおり、女性従業員を使って自身は配達に出るなどしているうちに、立ち寄った薬屋で薬剤師のマリー=アンヌと出会ったのでした。そして、サミールの妻が昏睡状態に陥ったのは自殺をしようとしたからで、その引き金になったのが、マリー=アンヌとの関係がわかったためだった....。一体誰がサミールとマリー=アンヌの関係を妻に知らせたのか。アーマドは一歩一歩真相に近づいていきますが....。 

© Memento Films Production – France 3 Cinéma – Bim Distribuzione – Alvy Distribution – CN3 Productions 2013

前作『別離』(2011)が世界中で高い評価を受けたアスガー・ファルハディ監督作品の特徴は、比較的閉じられた空間で舞台劇のように進行する緊迫したセリフ劇と、その底に潜むサスペンス。サスペンスのプロットが最高に巧みだったのが『別離』で、イスラーム法まで引用しての解決方法には、見る側としてはまったく全面降伏でした。

本作『ある過去の行方』でも、中盤からサスペンスがぐっと頭をもたげてきます。ただ、本作はそれに到るまでの人間関係の描き方が素晴らしく、前半3分の1ぐらいでもうどっぷりと、アスガー・ファルハディ監督の世界に浸ってしまえます。多かれ少なかれ登場人物全員が持つ閉塞感が見る者に迫ってきて、心が揺すぶられるのです。特に、大人の世界に巻き込まれた子供たちの、フアゥドを始めとする3人の演技は心に残ります。

 © Memento Films Production – France 3 Cinéma – Bim Distribuzione – Alvy Distribution – CN3 Productions 2013

ですのでサスペンスの謎解きは少し色あせてしまい、無理に犯人捜しをしなくても、と思えてしまうのですが、やはり監督は「解決」、つまり「過去の決着」という部分を入れたかったのでしょう。謎が解けてもそれでハッピーエンドになるわけではない、という苦味もふくめて、「過去」が壊していく「いま」を監督は描きたかったのかも知れません。

『ある過去の行方』によってアスガー・ファルハディ監督は、イランを舞台にしなくても優れた作品が作れることを証明して見せました。本作はほぼ全編フランス語で、一部イラン料理店で交わされる会話がペルシャ語となっています。先日お会いしたショーレ・ゴルパリアンさんのお話では、ペルシャ語でなかっためイランでは前作『別離』ほどはヒットしなかったとのことですが、イランの観客はアスガー・ファルハディ監督の軸足がイランから離れたことを敏感に感じたのではとも思います。

今後はグローバルな活躍が期待できそうなアスガー・ファルハディ監督。この先まだまだ面白い作品を見せてくれそうですので、その意味でも映画好きの方には『ある過去の行方』は見逃せない1本です。

<ネタばれ注意>

いろいろ検索していたら、映画会社のサイトに本作の英語訳脚本(撮影脚本)がアップされているのを発見しました。アスガー・ファルハディ監督を研究なさる方には助けになるかも、と思って、こちらをお知らせしておきます。 



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