アジア映画巡礼

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「イラン映画を福岡の宝物に」プロジェクト

2023-02-07 | イラン映画

先週の土曜日、アテネ・フランセ文化センターであったイベント「モフセン・マフマルバフ監督作品セレクション」に行ってきました。こちらでご紹介した催しですが、チラシを再度貼り付けます。アテネ・フランセ文化センターにあった新しいチラシをもらってきたので、今回のは折りじわがなくて見やすいと思います(笑)。

チラシの上部に書かれているように、この催しは「『イラン映画を福岡の宝物に(AIFM)』プロジェクト東京上映会」と銘打たれており、この日入場者にはこの活動を説明したチラシが配られました。2つ折りのチラシをスキャンしましたので、貼り付けておきます。

うーむ、スキャナーの調子がいまいち悪くて、申し訳ありません。 1月半ばに前のパソコンがクラッシュして以来、パソコン周りがあちこちダメになっていて窮地に陥ってます。 このプロジェクトの公式サイトがあるといいのですが、上のチラシには「Web Cine-la(すみません、アクサンが落ちていますがお許しを)」という福岡市総合図書館映像ホール「シネラ」の公式サイトアドレスは載っているものの、そこのリンク先にも本プロジェクトの名前がありません。 またしてもうーむで、ここまで準備なさるなら&ご寄付を募られるなら、ネットにもアクセスできる先を作っておいて下さいね。

この日のプログラムは以下の通りでした。

2月4日(土)15:30~ プレゼンテーション 山口吉則

まず、「イラン映画を福岡の宝物に(The Archiving of Iranian Film Masterpieces in Fukuoka =AIFM)」プロジェクト代表の山口吉則さんが、この活動のきっかけと趣旨を説明して下さいました。 山口さんとは、アジアフォーカス・福岡国際映画祭が始まった1991年からの知り合いなのですが、福岡市役所職員として映画祭に8年間携わったあと、以後もいろいろ文化発信に関わる部署で活動なさっていた方です。 現在は定年退職しておられますが、退職後も身銭を切って東京国際映画祭にも参加しておられるのを毎年見ていて、お偉いなあ、と秘かに尊敬していたのでした。
山口さんのお話では、アジアフォーカス・福岡国際映画祭(以下、映画祭)で上映された作品の多くは、フィルム・アーカイブとしての役割も担っている福岡市総合図書館(以下、図書館)に保存されており、その数は850本にものぼるのだとか。 こちらに図書館のデータとして見られる収蔵作品一覧がありますが、イラン映画のほか、インド映画もたくさん収蔵されています。
映画祭が2020年で終了してしまったので、その後は図書館の収蔵作品が増えるシステムがなくなったわけですが、それではあまりにももったいない、また、市政トップの交代などで市には何も期待できないことから、民間の組織を立ち上げて収蔵作品を増やしていこう、ということになったのだとか。 そこで対象として選ばれたのがイラン映画のコレクションで、毎年少しずつでもイラン映画の数を増やし、フィルム・アーカイブとしての図書館の機能も持続させていこう、という意図のもと、今回のプロジェクトが立ち上がったようです。 これに賛同したのがアテネ・フランセ文化センターを運営するアテネ・フランセ文化事業株式会社で、今回のイベントとなったのでした。

すでに購入された作品は、次の2本です。
『牛』
1969年/イラン/ペルシャ語/モノクロ/104分/英語題:The Cow/原題:Gaav گاو
監督:ダリユシ・メヘルジュイ
主演:エザトラ・エンテザミ、アリ・ナスィリアン
※ 2019年第20回東京フィルメックスで上映(下の画像はその時のものです)

『クローズアップ』
1990年/イラン/ペルシャ語/カラー/100分/英語題:Close Up/原題:Nema-ye Nazdik نمای نزدیک
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ホセイン・サブジアン、モフセン・マフマルバフ

また、山口さんのスピーチのあと上映されたアボルファズル・ジャリリ監督の『グリーン、ホワイト、レッド』(2015)は、かつて2000年の第1回東京フィルメックスで上映されたバフマン・ゴバディ監督作『酔っぱらった馬の時間』(2000)と共に、 今後の購入予定作品に入っているそうです。

『グリーン、ホワイト、レッド―イラン映画の歴史を求めて―』
 2015年/イラン/ペルシャ語/カラー/75分/英語題: Green, White, Red /原題:
 監督:アボルファズル・ジャリリ
トロッコ列車のような簡便鉄道で、若い男性が森の中にある家にやってきます。 そこにいる女子学生の友人を訪ねるためで、イラン映画史の論文を書こうとしている彼女のために、男性は様々な資料を置いていきます。 その中の、イラン映画史をたどる本を読みふける女子学生。 彼女は映画博物館の研究者を訪ねるため、列車に乗って出かけていきますが、その列車の中でも本を読みふけります。 イラン映画の黎明期の1900年前後から始まって、シャーの時代に撮られた数々の作品は、彼女にとってまったく未知のものでした。 1950年代から1970年代にかけての、歌がたくさん入り、コメディシーンがふんだんに盛り込まれたモノクロ映画、例えば1973年の『サマド学校に行く(Samad be Madreseh Miravad)』や、サスペンス劇『グーズィーの夜(Shab-e Ghuzi)』(1964)等が引用され、やがてカラー化した作品が登場しますが、 同時に第1回東京フィルメックスで上映されたモハマド・シャヒド・サレスのモノクロ作品『静かな生活』(1974)も引用されます。 やがて1978年の『スーラ・タウード(?文献で確認できず)』から、画面は1984年のアミール・ナデリ監督作『駆ける少年』に飛ぶのですが、この間にはイラン・イスラム革命が起こったのでした。 この後の作品は日本でもおなじみのものが多かったものの、知らない作品もたくさん含まれ、もっとじっくり見てみたい作品でした。
上映後、この映画の字幕と、この日のイベントの通訳を務めたショーレ・ゴルパリアンさんに会ったのでそう言うと、「私も何度見ても面白くて、何遍だって見たくなるのよ」と言っていました。 この映画も、すでに日本で何度かイベントで上映されているらしく、東京芸大(下写真)や福岡市での上映がネットに上がっています。 2015年に釜山国際映画祭が企画し、作られた作品の完全版とのことです。

画像

この日はそのあと、17:30からモフセン・マフマルバフ監督作品『タイム・オブ・ラブ』(1990)の上映があり、その後ロンドンにいる監督によるオンラインイラントークがありました。

『タイム・オブ・ラブ』
    1991年/イラン/ペルシャ語/カラー/70分/英語題:Time of Love/原題:Noubat-e Asheqi نوبت عاشقی
    監督:モフセン・マフマルバフ
    主演:シバ・ゲレデ、アブドルラフマン・バレイ、マンでレス/サマンジラール、アケン・トゥンジ、ジャラール・コスローシャヒ

『タイム・オブ・ラブ』はトルコのイスタンブールを舞台にした、ある女性を巡る2人の男+1人の老人の物語でしたが、一緒に行った元教え子(何と50年前に家庭教師として接した女の子! )がヒントを与えてくれて、なるほどこれはイラン版『羅生門』なのか、とわかった次第です。 それにしても、なぜにイスタンブール・ロケ? その後にあったモフセン・マフマルバフ監督とのオンライン・トークでは、それに関する言及はなかったのですが、聞いてみたい点でした。今、この映画の原題をコピペしていて、そういえばペルシャ語のレッスンで最初の方に習う「ノゥバテ・チャンデ(何時ですか)?」じゃなくて、「ノゥバテ・アーシキー」なのね、と憶えやすい題名に頬が緩んでしまいました。下はWikiにあったポスターです。

オンライン・トークでマフマルバフがいるのはロンドンの自宅らしく、簡素な本棚が左側に並んだ、書斎と思われる部屋でした。 少々殺風景とも言える部屋に、仮住まいだからかしら、とちょっと胸を突かれました。 司会の役割を担った石坂健治さんによると、「質問表を送ったら、『自分のしゃべりたいこと』というのを出してきてくれて、私の送った質問とも結構重なったため、お一人で大いに語ってもらうことにした」とのこと。 その後マフマルバフ監督はとうとうと90分間、ショーレさんの通訳をまじえて語ったのですが、終了後石坂さんが、「じゃ、90分で、とお願いしたらぴったりの時間で終えてくれた」と驚いていました。

マフマルバフ監督は、テヘラン南部の貧しい地区に生まれ、若者時代は17カ所でバイトをしていたこともあるという貧困生活だったようで、映画に入る前にものすごい人生経験をしていたことを語りました。「映画の大学には行ったことはないが、いろんな知識を常にノートに取って身につけていたので、今もノートを持っている。生活経験とたくさんの本を読んだ経験があったから、自分はすぐに映画を撮り始められた」といったお話から始まって、映画に対する自分の考え方をとことんしゃべってくれました。 イランから離れての生活は、やはり監督の心にいくばくかの影を落としているようで、オンラインではあるものの自分の作品を支援してくれている観客を前にしていることが嬉しかったのではないかと思います。 観客側も監督への共感オーラを発している感じで、とてもいいイベントとなりました。


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