アジア映画巡礼

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TIFF上映作品『世界はリズムで満ちている』トリビア

2018-11-04 | インド映画

東京国際映画祭も無事終了、私にとって、本当に忙しい映画祭でした。映画祭前から、友人たちと発行しているミニコミ誌「インド通信」の休刊に伴う様々な仕事、10月初めのアジアン・バザール2日間の開催、そして、『世界はリズムで満ちている』の字幕作業と、ずーっと谷川の吊り橋を渡っているような毎日が続きました(ホント、”落ちたら死ぬぞ”状態で綱渡り...)。でも、お陰で『世界はリズムで満ちている』のラージーヴ・メーナン監督ご夫妻といろいろお話ができたり、サインもいただく(↓)など、思いがけぬご褒美もいっぱいもらいました。今回は、字幕作成中に監修者であるチェンナイ在住の深尾淳一さんが監督にインタビューしてくれて得たトリビアと、TIFFで監督からうかがった小ネタとを、メモ代わりに書いておこうと思います。ご覧になってない方には「何のこっちゃ?」ですが、お許しを。

 

まずは深尾さんが、10月16日にチェンナイで監督と会った時に聞いたお話から。

「この作品を製作する前に、監督は実在する有名な伝説的ムリダンガム奏者Umayalpuram Sivaramanのドキュメンタリー映画を作っていました。その時に、彼よりは一段低い所に座っているものの、何だか演奏者から尊敬を受けているような人の存在に気が付きました。それが、ムリダンガムの職人だったジョンソンでした。映画に登場するムリダンガム職人ジョンソンの名はそこから取っているわけです。そして、ムリダンガム職人が奏者になる、というこの作品の着想が生まれたとのことでした。

キャストについてですが、ナンドゥ役の人は本当のムリダンガム奏者です。また、マニ役の人は本来ダンサーであるとのこと。ピーターの父親ジョンソン役、私はこの人のキャラが好きなのですが、彼は舞台俳優だと聞きました。さらに、テレビ番組「音楽の王国」の審査員役も、本当に同じような音楽オーディション番組で審査員をやっている人たちだそうです。
アイヤル役のネドゥムディ・ヴェーヌですが、もともと音楽家の家系に生まれ、本当にムリダンガムの演奏ができるそうです。彼のほかにこの役をできる人がいないからと、心臓手術を経て復帰するまで、1年間待っていたと言っていました。最初の方のレッスンのシーンで、弟子たちに教えているうちに、思わずソロ演奏をしてしまうシーンがありますが、あれは本人の即興演奏だとのことです。
ピーターを演じたG.V.プラカーシュ・クマールは、ご存知の通りA.R.ラフマーンの親戚で、映画音楽監督としての実績もあり、3月に公開された『Naachiyaar』での演技も高い評価を得ました。本作の主人公にはうってつけです。当然楽器の演奏も手慣れたものですが、本作のため、ムリダンガムのレッスンを1年間続けたそうです。
「音楽の王国」のパーソナリティー役を演じた通称DD(Divyadharshini)も、実際に、テレビ番組のパーソナリティーとしてとても有名な人です。テレビのインタビューショーやリアリティーショーなどで、歯切れのよい司会でよく知られており、映画の中でのパーソナリティー役もとても自然でした。司会の場面も、ほぼ即興でやったそうです。

監督の話で一番びっくりしたのは、後半の演奏会のシーンの話です。実はこれは、Umayalpuram Sivaramanがムリダンガムを弾いている本物の演奏会の様子を撮影したものです。その場面を、後でムリダンガム奏者の首から上をCGでアイヤル役のネドゥムディ・ヴェーヌに入れ替えているとのことです」

まったく、ええーっ!ですね。


ちょっと補足しておきますと、キャストのうち、ピーター役のG.V.プラカーシュ・クマールは、A.R.ラフマーンの姉でプレイバック・シンガーでもあるA.R.レィハーナーの息子です。私も3月にチェンナイに行った時、深尾さんに勧められて出演作『Naachiyaar』を見たのですが、G.V.プラカーシュ・クマールの演技力に感心しました。その時のレポートはこちらです。また、ネドゥムディ・ヴェーヌは前にも書いたようにアラヴィンダン監督のマラヤーラム語映画『サーカス』(1978)でデビューした大ベテランで、マラヤーラム語映画、タミル語映画を中心にすでに400本以上の作品に出演しています。最近では、日本でも公開された『チャーリー』(2015)に出ていましたね。

それから、マニ役のヴィニートは、『ラジニカーント★チャンドラムキ 踊る!アメリカ帰りのゴーストバスター』(2005)にインド古典舞踊の先生役で出ていました。スリムな体で優雅な踊りを見せてくれたのが印象的だったので、今回の悪役は衝撃でした。それ以前も、『マドラス・カレッジ大通り』(1996)などでイケメン俳優として活躍していたのですが、すっかり中年になってしまいました。また、ジョンソン役はクマラヴェール、ナンドゥ役はスメーシュという人で、スメーシュのFBはこちらです。Sumesh Narayananという本名で検索すると、YouTubeでたくさん演奏映像を見ることができます。そうそう、演奏と言えば、演奏会シーンで歌っていた男性ヴォーカリストの名前も監督に教えてもらいました。シッキル・グルチャラン(Sikkil Gurucharan)という人で、ウィキもあります。映画の中で、ジョンソンの工房にムリダンガムを買いに来る父子がいるのですが、その父親役の人がシッキル・グルチャランの本当のお父さんなのだとか。皆さん俳優としては素人さんばかりなのに、演技が上手ですね。


あと、字幕を作っていて気になって仕方がなかったことも教えていただきました。それは最後のシーンで、ピーターが女性歌手の伴奏をしている演奏会の客席が映った時のこと。何と、アイヤルが赤ん坊を抱いているではありませんか。劇中では落ち込んだピーターが、好意を抱いている看護師サーラー(アパルナー・バーラムラリ)に慰めてもらい、ベッドインするシーンもあるのですが、まさかその時に赤ん坊ができていた?? とかいろいろ考えたもののわかりません。ただこの演奏会シーンで、アイヤルと奥さんが並ぶ隣に、ピーターがアイヤルに弟子入りしたいと寺院で頼んだ時に「サティヤム!」と言った青年が座っていたので、その人の子供かな、とは思ったのでした。劇中でアイヤルの奥さんは、「独りになったら老人施設に行く」という発言をしていたため、この夫婦には子供はいない、だが、ピーターを芸の上での後継者と定めたように、家の後継者としてこの青年を選び、”芸も自分の家系も継承されていくのだ”ということを示したかったのか、等々いろいろ考えたのでした。途中、この青年がアイヤル家に来て、夫妻と食事を共にするシーンもチラと出てきたので、親戚の青年か何かかな、と思ったのです。

で、監督に聞いてみたら、「ああ、あの青年はアイヤルの息子だよ」というお返事。ええー、そんなことひと言も劇中では出て来なかったではありませんか。「アイヤルの息子はナガランド出身の女性と恋に落ちて、結婚したいと思ったのだけれど、アイヤルはカーストも違うし出身地も違うと反対したため、息子は家を出てしまったんだ。それで息子はその女性と結婚し、赤ん坊もできたあと、アイヤルと和解する。その和解を示すシーンなんだよ。アイヤルの隣に座っている女性が、ナガランド出身のお嫁さんだ。最初の編集では入れていたんだけど、冗長すぎるので最終版ではカットした」とのこと。「えー、ナガランドなら今『あまねき旋律(しらべ)』が公開中で日本人の興味を引いているし、あった方がわかりやすかったのに~」と言うと、「入れた方がいいかな?」と監督、迷っておられました。12月のインドでの公開時は、ひょっとしたらもっとエピソードが足されているかも。


エンディングシーンの女性ヴォーカリストは、ボンベイ・ジャヤシュリという人で、28日の上映でこの人に関する質問が出てびっくり。詳しい方もいらっしゃるものですね。Bombay Jayashriでウィキの項目もできていますので、こちらをどうぞ。最後にもう1人、アイヤルの奥さんを演じたのは、シャーンタ・ダナンジャヤンという舞踊家です。マレーシアのマラヤーリー・ファミリー(ケーララ州の人々は”マラヤーリー”と呼ばれます)に生まれ、幼い時にインドに戻ってカラークシェートラ(チェンナイの舞踊学校)で学び、先輩だった夫と結婚してダンスデュオとして活躍している人だとか。すごい、多士済々のキャスティングですね。


さあ、ここまで調べたのですから、日本の配給会社様、ぜひとも本作を買って公開して下さい。心待ちにしています。そうそう、監督ご夫妻は11月1日夜の便でお帰りになったのですが、「公開が決まったら、プロモーションに来ますよ。G.V.プラカーシュに来日してもらい、ムリダンガム演奏をしてもらってもいい」とおっしゃっていました。ナマで聞きたいですね、超絶ムリダンガム演奏。日本公開が決まることを願っています。

 


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2 コメント

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エッーそうだったのですか!! (エドモント)
2018-11-05 18:55:19
cinetamaさん 映画祭週間終了しましたね..と、言っても、来週末からFILMEXですなんですね。
そう、最後の方で客席にいたアイヤルが抱いていた赤ん坊。
私もサーラーが生んだ子なの?ドイツへ渡航は諦めたのか...でも、隣に座っている女性、サーラーなの?そうだったら、ちょっと残念なシナリオと思っていました。
なるほど..でも、あの繋ぎ方だと解りにくいですよね。
是非、監督にその件、キツメにお伝え下さい。


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エドモント様 (cinetama)
2018-11-05 20:47:18
コメント、ありがとうございました。

ほんと、「そんなんアリ~?」ですよね。
でも、あの赤ん坊に気づいた人はあまりいなくて、私も3人ぐらい友達に聞いてみたのですが、「そんな赤ん坊、いた?」という反応でした。
とはいえ、唐突ですよね。

監督には、イタい感想も送った方がいいと思い、感想のまとめページのアドレスも教えておきました。
今度メールをする時には、エドモントさんのキツメのご感想も伝えておきますね。
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