アジア映画巡礼

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2月も元気だ!韓国映画<3>『野球少女』

2021-02-28 | 韓国映画

「2月も元気だ!韓国映画」シリーズ、最後の1本は3月公開作品ですが、これも見応えのある作品です。ぶっちぎりのコメディ快作『ノンストップ』、そしてひねりの効いたアイロニー・サスペンスドラマ『藁にもすがる獣たち』に続くのは、意外な題材からジェンダーと人生を考えさせる『野球少女』。タイトルはカワイイけれど、シビアな描写もあって歯ごたえ十分なこの作品、まずはデータからどうぞ。

『野球少女』 公式サイト 
 2019年/韓国/韓国語/105分/原題:야구소녀/英語題:Baseball Girl
 監督・脚本:チェ・ユンテ
 出演:イ・ジュヨン、イ・ジュニョク、ヨム・ヘラン、ソン・ヨンギュ、クァク・ドンヨン
 配給:ロングライド
3月5日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー

© 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

高校の校舎の廊下。野球部唯一の女子選手チュ・スイン(イ・ジュヨン)は、韓国では20年ぶりに誕生した高校野球女子選手でしたが、彼女をまじえた野球部員たちは応接室での話し合いの結果を待っていました。応接室の中では、プロ野球球団に指名される部員の名前が野球部のパク監督に伝えられているのです。しかしスインの期待ははずれ、指名されたのはチームメイトで幼なじみの男子部員、イ・ジョンホ(クァク・ドンヨン)でした。ピッチャーであるスインの球速は134㎞/h。男子でも130㎞/h出せばプロ選手として立派に通用するのですが、女子だというだけでやはり公平な評価はしてもらえなかったようです。スインの家では、父(ソン・ヨンギュ)は宅地建物取引士の資格を取るためにもう何年も勉強中の状態で、家計を支えて働く母(ヨム・ヘラン)は、スインの下に幼い妹もいることから、スインには高校を出たら働いてもらいたがっていました。

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声がかからないならと、スインはプロ野球チームのトライアウト(プロテスト)に申し込むため、球団事務所に行きますが、女子だというだけで即門前払いです。パク監督からも、女子野球連盟に入って趣味として野球を続ければいい、と言われてしまいます。男子選手に互してプロ野球で戦いたい、というスインの希望を誰もが本気として受け取ってくれない中、スインの高校に新しい野球コーチが赴任してきました。この新コーチ、チェ・ジンテ(イ・ジュニョク)は酒の上での失敗があったらしく、パク監督が救済措置として自分の高校に引っ張ったようなのですが、妻にも愛想をつかされ、離婚されてしまったダメ男でした。ジンテは女子選手がいることに驚きますが、自分の実力を認めてもらおうとスインが挑んだ男子選手相手の投手VS.打者対決では、スインの球が打てずきりきり舞いする選手に二言三言アドバイスしたかと思うと、スインの球は何とホームランに。「女子かどうかは関係ない。お前には実力がないんだ」とジンテに言われ、スインは何とか150㎞/hの球を投げようと練習を重ねますが....。

© 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

スインを演じるイ・ジュヨンは、宣伝でも強調されているように、テレビドラマ『梨泰院クラス』でトランスジェンダーの料理長マ・ヒョニを演じて注目された女優です。でも小柄で、下半身もほっそりしていて、130㎞/hどころか、とても100㎞/h超の速球を投げられるようには見えません。最初は、せめてもっと身長があれば、とか、腿がパンパンだったらまだしも、とか思って見ていたのですが、だんだんその投球に引き込まれてしまい、一緒になって打者敗退を願ってしまいました。イ・ジュヨンは、本作出演のため40日間の特訓を受けたそうで、それが見事に生きた格好です。特に、コーチのジンテに言われて投げ方を変え、ジンテの人脈でプロ野球球団のトライアウトを受けられるようになったシーンは、彼女に120%肩入れしてしまって、周りの応援にもじわっとくる始末。このシーンの作り方、実にうまいです。うまいと言えば、その後の紆余曲折がある脚本もなかなか巧みな上、そこに『梨泰院クラス』の大物俳優がゲスト出演しているのも「やられた!」というところ。脚本も担当したチェ・ユンテ監督、これが監督第1作というのに達者な脚本&演出です。このところ公開される韓国映画には監督第1作が目立ちますが、いずれもベテランの演出に劣らない手腕が発揮されており、観客を大いに楽しませてくれます。

© 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

本作にはモデルがあって、1997年に韓国で女子としては初めて高校の野球部に所属し、公式試合で先発登板したアン・ヒャンミ選手だとか。スインはそのアン・ヒャンミ選手から20年ぶりに現れた高校野球部の女子選手、という設定ですが、アン・ヒャンミ選手も卒業後プロ球団入りはしておらず、こちらの記事によると、「ドクス情報高出身の『1号女子選手』アン・ヒャンミ(35)が”密かに”(女子野球チームを)設立した後、チーム数は40まで増えた」とのこと。とすると、本作のスインはアン・ヒャンミ選手の果たせなかった夢を実現するために、男子のプロ野球チームの一員となることを追求したのだ、と言えそうです。まったくの男社会であるプロ野球に、女性が参入しようとする、というストーリーは無謀にも思えますが、女性は身体能力が劣る、と決めつけるのはおかしいのでは、という目からウロコの問題提起にもなっていて、見ているこちらも目を開かれます。さらにサイドスト-リーとしては、コーチのジンテがダメ人間から立ち直る姿も見ものですし、万年落第生のスインの父も...と、中年のおじさん組へのエールも含まれていて、さわやかな映画になっています。

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アジアで野球が盛んなのは、アメリカの影響を受けている国々――日本、韓国、台湾ですが、どの国でも男子に混じってプロ野球チームで活躍した女子選手はいまだ出現していないようです。『野球少女』の冒頭では、「韓国のプロ野球発足当時は男子しか選手になれなかったが、1996年に規約が改定され、女子もプロ選手になれるようになった」という解説が出てきますが、スインが第1号になれたかどうかは映画をご覧になってのお楽しみ、ということにしておきましょう。現実社会では、前述した韓国のように女子プロ野球チームが各地にできていて、日本でもこの10年でずいぶん増えているとか。日本での女子プロ野球リーグの歴史は、こちらのサイトで知ることができます。そのほか、実業団の女子野球部や女子硬式野球部クラブチーム、あるいは「阪神タイガースwomen」や「埼玉西武ライオンズ・レディース」のようなプロ野球球団の持つ女子チームもあり、年俸や待遇は男子に比べてまだまだ悪いものの、ファンも生まれてきているようです。そんなトリビアも頭の隅に置きながら、『野球少女』をぜひご覧になって下さい。最後に予告編を付けておきます。

映画『野球少女』予告編

 

あと、イ・ジュヨンのメッセージが入った動画も付けておきますので、お楽しみ下さいね。

「梨泰院クラス」イ・ジュヨン主演最新作『野球少女』!ロングインタビュー!!

 

それからそれから、日本の女子プロ野球選手3人が鼎談しているこの動画も面白いです。3人は、東海NEXUSの只埜榛奈(ただのはるな)選手、GOOD・JOB女子硬式野球部の加藤優選手、阪神タイガースWomenの高塚南海(みなみ)選手です。ご自身の野球体験などから出てきた、この映画への視点が語られています。

『野球少女』公開記念!野球女子トーク対談リレー⚾︎第一弾

 


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