アジア映画巡礼

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27才の監督が撮ったインド式人生の終わり方『ガンジスに還る』

2018-10-25 | インド映画

第31回東京国際映画祭が始まりましたが、今週末からまた1本、インド映画が公開となります。1991年生まれのシュバシシュ・ブティヤニ監督が撮った『ガンジスに還る』で、岩波ホールでの公開です。まずは、基本データをどうぞ。


© Red Carpet Moving Pictures 

『ガンジスに還る』 公式サイト
2016年/インド/ヒンディー語/99分/原題:Mukti Bhavan/英語題:Hotel Salvation
 監督:シュバシシュ・ブティアニ
 出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘル、ギータンジャリ・クルカルニ、ナヴニンドラ・ベヘル
 配給:ビターズエンド
10月27日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

© Red Carpet Moving Pictures 

インドに関心を持つ方なら、バナーラス(ヴァーラーナシー、ヴァナーラス、ベナレス)はヒンドゥー教最大の聖地であることはご存じでしょう。聖なるガンジス河のほとりに広がるこの町は、ここで沐浴をしようと訪れる人たちでいつも賑わっています。また、ベナレスで死ねばそのまま解脱が得られ、輪廻から解放される、という信仰があり、人生の最後はここで、と考えるヒンドゥー教徒も多いのです。本作の主人公である老齢のダヤ(ダヤーナンド/ラリット・ベヘル)も、最近しばしば見る夢から自分の死期が近いことを悟り、バナーラスに行くことを決めます。ダヤは妻に先立たれていますが、会社員の息子ラジーヴ(アディル・フセイン)とその妻ラタ(ギータンジャリ・クルカルニー)、そして孫娘のスニタ(パロミ・ゴーシュ)に囲まれ、バナーラスから少し離れた街カーンプルで、質素ながら不自由のない生活を送っていました。そんなダヤが突然「わしはバナーラスに行く」と言い出したので一家は大あわて。ダヤを一人で行かせるわけにもいかず、ラジーヴが付いていくことに。ですが、父親の死を待つ旅、というのが何とも居心地がわるい上、時期がいつとは定かにわからず、おまけに仕事も忙しいとあって半パニック状態。いっぱいもやもやを抱えながらも、ラジーヴは父と共にバナーラスに発ちます。

バナーラスには、こうしてやってくる人たちのために、ホテルというか簡易宿泊所のような場所がたくさんありました。その一つ、「ムクティ・バヴァン(解脱の家)」という宿泊所に落ち着いた二人は、マネージャーの老人から宿泊の心得を聞かされます。「宿泊期間は15日間」と告げられてプレッシャーのかかる二人でしたが、ほかにもあれこれ規則がありました。食堂などはなくすべて自炊、ということからラジーヴが食事を作りますが、そのまずさにダヤは閉口します。そんな彼らを救ってくれたのは、もう18年もここに住んでいる、という女性ヴィムラ(ナヴニンドラ・ベヘル)でした。食事を供してくれながら彼女が語ったところによると、夫と共に最後の時を迎えるためバナーラスにやって来たものの、夫はすぐに亡くなり、自分はこうして死ぬのを待っているのだ、とのこと。明るい彼女にダヤ父子は救われた思いがし、この宿泊所の「15日間まで」という規定もフレキシブルなのだ、と悟って、やっとベナレスでの生活を落ち着いてやっていけるようになります。そんな時にダヤが体調を崩し...。

© Red Carpet Moving Pictures 

深刻なお話なのかと思って見ていると、随所にユーモアが挟まれていて、楽しく見ることができます。ヒンドゥー教徒のガンジス河信仰は非常に強固で、海外のインド系スーパーでは「ガンガー・ジャル(ガンジスの水)」が売られていたりするほど。インド人の友人からも、「ガンジス河の水は絶対に悪くならないのよ」と真顔で言われたこともあります。こうしてバナーラスでは「聖地ビジネス」がいろんな様相を見せながら登場するのですが、その究極とも言えるのが、バナーラスで死ぬことこそが輪廻転生から解き放たれて、魂が解脱する、という信仰に基づく様々なビジネスです。監督はそのことを知ってはいたものの、バナーラスに行って初めて、バナーラスで死にたい人のための宿泊施設があることを知ったようで、興味を抱いてたくさんのそういった場所をインタビューして回ったのだとか。そこで出会った人々が、この映画のキャラクターに反映されているようです。

© Red Carpet Moving Pictures 

ご覧になる方それぞれに、共感できる登場人物が見つかると思います。終活が人ごとではなくなっている人も、親を看取らねばならない世代も、そして若い人たちも、ヒンドゥー教徒特有の考え方だと思いつつも、そこに普遍的な人間の生き方が見えるため、ぐいぐい引きつけられるのではないでしょうか。私自身はかつて「未亡人」(「未だ亡くならない人」なんて、考えてみれば失礼なネーミングですよね。でも日本では、ほかに「寡婦」という言い方があるぐらいで、適切な言葉がないのです)だったため、ヴィムラの生き方に大いに関心を持ったのですが、本作で監督はヴィムラを普通のインドの未亡人とはちょっと違う存在として描いており、それも見ていて好感が持てます。このチャーミングなヴィムラを演じたナヴニンドラ・ベヘルは、姓からもわかるようにダヤを演じたラリット・ベヘルと実生活では夫婦です。監督がラリット・ベヘルに出演を依頼し、「それでは、参考のために演技サンプルを送ろう」とラリット・ベヘルが映像を送った時、妻のナヴニンドラも一緒に登場していて、それで出演を決めたのだとか。とってもすてきなお二人です。

Photo by Kyoko DAN

そんなお話も含めたシュバシシュ・ブティアニ監督のインタビューは後日また。そこでは「僕ももう若くはないから」と語っていたブティアニ監督ですが、先日現地取材に行った方からいただいたお写真はこんなに若い方でした。スカイプ・インタビューの時より、若く見えます。ほかにもいただいたお写真がありますので、公開後にそれらを使って監督インタビューをアップする予定です。ぜひその前に作品をご覧になっておいて下さいね(ネタバレがあるかも、なんです)。なお、岩波ホールでは「学生支援プログラム」も実施中。大学生、大学院生、専門学校生の皆さんは、団体で行けば映画料金が何と800円に! 詳しくはこちらをご覧いただき、岩波ホールにお申し込み下さい。応募人数が200人に達するとそこで締め切られますので、お申し込みはお早めに。「ガンガー・アールティー」(ガンジス河のほとりで、毎夕行われるお灯明を回す儀式。イケメンの若い僧侶が何人も登場するショーアップされた儀式で、観光客から大人気とか。YouTube映像はこちら)などバナーラス観光の要素もちょっぴり入っている『ガンジスに還る』、まずは、岩波ホールで聖地巡礼をどうぞ。

 

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