新型コロナウィルスによる肺炎、映画関係でもいろんなところに影響が出始めています。岩波ホールやル・シネマのようにしばらく上映を休む映画館や、マスコミ試写を一時取りやめる配給会社も出てきました。確かに映画館や試写室は密封された空間ではありますが、みんな大人しく口を閉じて座っているわけで、さらにほとんどの人がマスクをしている現在、帰宅後の手洗いさえしっかりすれば大丈夫だと思うのですが。まあでも用心に超したことはない、という考え方もわかるので、早く「もう平常に戻っても大丈夫」宣言が出てくれることを祈るばかりです。
さて、そんな中、あと1、2週間で山場を超えてほしいなあ、と思っているのは、面白い韓国映画『ムルゲ 王朝の怪物』が3月13日(金)から公開されるからです。この『ムルゲ』にはタイトルどおり「物怪(ムルゲ)」(『グエムル 漢江の怪物』(2006)の時は語順が反対だったのですが、今回も韓国公開時の紹介では「ムルグェ」というタイトルも見られました)が登場するのですが、それを主人公たちが知恵と力を合わせて退治する、というのがストーリーです。では、まずは、作品のデータからどうぞ。
『ムルゲ 王朝の怪物』 公式サイト
2018/韓国/韓国語/105分/原題:물괴
監督:ホ・ジョンホ
出演:キム・ミョンミン、イ・ヘリ、チェ・ウシク、キム・イングォン、パク・ソンウン、パク・ヒスン、イ・ギョンヨン
配給:インターフィルム
配給協力:アーク・フィルムズ
※3月13日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
時代は朝鮮王朝第11代の王、中宗の時代の22年(1527年)。国に疫病が蔓延し始めます。そして、宮廷の背後にある山にムルゲ(物怪)が現れるという噂が飛び交うようになります。宮廷の役人たちは、疫病にかかっているかどうか確かめるためと称し、村人たちを山中に掘った大きな穴に連れて行きますが、それは皆殺しを行うための口実でした。そんなやり方に怒った内禁衛将(ネグミジャン/王直属の護衛武士)の武人ユン・ギョム(キム・ミョンミン)は、人々の中から幼い女の子を助け出し、中宗のいる宮廷の場に連れて行くと、「小さな命一つ救えないなら、刀など無用です」と言い残し、宮廷を去っていきます。
©2018 CINEGURU KIDARIENT & TAEWON ENTERTAINMENT.All Rights Reserved.
それから10年ほどが経ったある日、田舎の山中で薬草を採ったりしながら自給自足の生活を送っていたユンとその娘ミョン(イ・ヘリ)、そしてユンの元部下のソン・ハン(キム・イングォン)は、宮廷からの使いホ宣伝官(チェ・ウシク)の訪問を受けます。そこへ中宗自らもやってきて、ユンに宮廷に戻ってくれるよう懇願します。ムルゲの存在は自分を失墜させるための陰謀だ、と中宗は言い、その陰には総理大臣に当たる領議政(イ・ギョンヨン)とその部下で武人のジン(パク・ソンウン)がいるらしい、と述べます。娘ミョンや部下のソンと共に都に戻ったユンは、ムルゲは本当にいるのかを調べ始めますが、次々と人々がムルゲに襲われる事件が起きます....。
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前半の興味は、ムルゲが本当にいるかどうか、という点に集中します。チラシ画像にも使ってあるので本当に出てくることはわかっているのですが、いつ出てくるのか、どんな大きさで全体像はどんななのか、という興味がどんどん膨らんで極限に達した時、ムルゲは姿を現します。その後は、ムルゲをどうやって退治するのか、陰謀を企む一味にどう対峙するのか、という興味でまた観客を引っ張っていくという、なかなかの力(ちから)ワザを見せてくれる作品です。それと、父と元部下、娘とイケメンの宣伝官というツーペアが上手に生かしてあって、最後までハラハラドキドキさせながらも、ちゃんとハッピーエンドに持って行ってくれる手腕と脚本のうまさに驚きました。脚本も担当したホ・ジョンホ監督、これまでに『カウントダウン』(2011)と『奴が嘲笑う』(2015)という作品を撮っているそうですが、全然知りませんでした。
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監督の話によると、すべては「朝鮮王朝実録」にある短い一節から始まったそうで、「中宗の治世に”物怪(ムルゲ)”と呼ばれる不可解な存在(あるいは事件)のせいで、宮殿中が混乱をきたし、王が居城から退去を余儀なくされた」というその記述から、今回の物語を考え出したのだとか。ムルゲを作り出し、かつまた不可解な事件も組み立てた、というわけですね。宮廷事務方のトップがからむ不可解な事件の方は、ムルゲのインパクトに負けて「背面へ移動」的な状態になっていますが、ユンを中心とする4人組は山から下りて「前面へ移動」になってからはいろいろ大活躍。特にクライマックスのムルゲ退治の場面は、とてもインパクトがあります。4人組にプラスして、ムルゲに詳しいおじいさんも登場させたりと、キャラクターの使い方がうまいですね。
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そして、キム・ミョンミンは当たり役「朝鮮名探偵」の武人ヴァージョンを演じている感じで、そばに相棒のオ・ダルスがいないのが残念なぐらいです。キム・ミョンミン、やはり時代劇の方が断然似合います。今回の相棒役キム・イングォンは、ついこの間までは若い兄ちゃん役をやっていたと思ったのに、こんなおじさん役がやれるようになるとは、と調べてみたらもう42歳でした。そして、今回一番光っていたのが――『パラサイト 半地下の家族』で注目を浴びているチェ・ウシク(上写真)、と言いたいのですが、残念ながら彼はそれほどいいところを見せられずじまい。ピカイチは、そのチェ・ウシク演じるホ宣伝官にホレてしまう娘ミョン役のイ・ヘリでした。K-POPグループ”Girl's Day”のメンバーとのことですが、すごくチャーミングで、一挙一動に目が惹きつけられます。難しい弓矢の扱いも、演技とはいえなかなか堂に入ったもので、上写真のシーンやその後の戦いのシーンでもまったく違和感を感じさせません。テレビドラマの経験が豊富みたいですが、将来映画界でもいい女優に成長しそうで、楽しみです。
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そんなこんなで見どころの多い『ムルゲ 王朝の怪物』。試写で拝見したのは新型コロナウィルスのことなどまだあまり話題にも上っていなかった時でしたが、それを予見するような要素もチラと入っていて、もう一度見直してみたい思いに駆られます。そして、このスッキリ! のエンディングは、精神衛生上もとてもよさそうで、今、必要とされている免疫力のアップにも貢献してくれそうです。本作が公開される頃には、日本だけでなく、韓国の状況も落ち着いてくれているといいですね。そうそう、韓国ではこの困難な状況下、映画スターの寄付が相次いでいて、ソン・イェジン、キム・ヒソン、イ・ソジン、ユ・ヘジンらが救援団体や病院に続々寄付をしているそうです。
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日本でも前述のように、映画館の中には大事を取って一時休館するところも出てきていますが、本作を上映予定のシネマート新宿では、下のような注意書きをサイトに載せて、万全の体勢を取っていることを示しています。
新型コロナウイルス感染予防対策について
〇劇場ロビーにて消毒液を設置しております。ご自由にご利用ください。
〇体調が悪くなられたお客様はお近くの劇場スタッフにお声がけください。
〇従業員のマスク着用を認めております。何卒ご理解の程よろしくお願いいたします。
〇咳や発熱などの症状がある場合は、ご来館をお控え下さいますようお願い致します。
なお、新型コロナウィルス感染予防を考慮し、座席指定券購入済みで体調不良などでご来館をお止めになるお客様に関しましては、当面の間、払戻をさせて頂きます。
(前売券・ムビチケの払戻は除きます。)
みんな、それぞれの持ち場で闘っているんですね。本作からもわかるように、ムルゲ退治に必要なのはみんなの力と知恵を合わせること。コロナ型をした”ムルゲ”に負けず、手洗いや体調管理等できるだけのことをやって、あとしばらく闘っていきましょう! おっと、最後に予告編を付けておきます。
映画『ムルゲ王朝の怪物』予告