アジア映画巡礼

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衝撃のカンヌ国際映画祭女優賞受賞作品『聖地には蜘蛛が巣を張る』(上)

2023-04-03 | イラン映画

カテゴリーは「イラン映画」としたのですが、製作国はイランではなく、またイランで撮影した映画でもないペルシャ語の作品がこのほど公開となります。イランと共にイラン映画の現実も見えてくる貴重な作品ですので、ぜひご覧いただきたく、2回に分けてご紹介します。まずは映画のデータをどうぞ。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』 公式サイト
 2022年/デンマーク、ドイツ、スウェーデン、フランス/ペルシャ語/118分/原題:Holy Spider/ペルシア語原題:Ankabut-e Moqaddas/R-15
 監督:アリ・アッバシ
 出演:メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ
 配給:ギャガ 
4月14日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテ他にて全国順次公開

(c)Profile Pictures / One Two Films

舞台となるのは、イランの首都テヘランから東へ約800㎞離れた街マシュハド。東に行くとすぐにアフガニスタン、北に行くとトルクメニスタンの国境までわずか、という位置にある街です。マシュハドは、シーア派が多数を占めるイランのイスラーム教徒にとっては聖地と考えられている街で、8代目のイマーム・レザーがこの地で殉教し、その廟があることから、巡礼者も多く訪れます。そんな聖なる街なのですが、夜になると広場や通りにはヘジャブ(スカーフ)をかぶった化粧の濃い女性たちが出没、男たちを誘います。ところが、そういう娼婦たちが次々と殺されるという事件が発生しました。テヘランの女性ジャーナリストでマシュハド出身のアレズー・ラヒミ(ザーラ・アミール・エブラヒミ)は、約半日バスに揺られてマシュハドに到着、この事件を調べようとします。協力を仰いだ友人シャリフィ(アラシュ・アシュティアニ)は地元のジャーナリストで、驚いたことに、犯人は犯行後に必ずシャリフィに電話してくるのだとか。「街中の娼婦を始末してやる」と彼は電話口で言い、犠牲者は日々増えるばかり。アレズーは警察の責任者も訪ねますが、彼女がタバコを吸うとわかると警部は態度をくつろがせ、「どこかで話でも」と言い出す始末。アレズーは男たちの自分を見る目を意識せずにはいられません。やがてアレズーは偶然娼婦と知り合い、彼女が殺されたことで自分が囮になって犯人を捕まえようとしますが...。

(c)Profile Pictures / One Two Films

本作では、早い段階で犯人像が明かされ、その男サイード(メフディ・バジェスタニ)と家族や親戚との日常生活も描きながら、彼の犯罪行為を同時に描いていきます。さらに後半3分の1は、サイードが逮捕されて以降の展開となるのですが、最後の最後まで先の読めないストーリーで、見ている方も極度の緊張を強いられます。もう一段階、最後に謎解きがあってもよかったのでは、と思うのですが、別の面での謎解きをテヘランへとバスで戻るアレズーにさせて、映画は終わります。性的なシーンや暴力的な殺人シーンなどがあるので、映倫のレイティングはR-15指定になっていますが、それもあってか本作はイランでの撮影が許可されず、全編ヨルダンのアンマンで撮影されたとか。ですが、女性たちがヘジャブ(髪を覆うスカーフ)やチャドル(顔だけ出してそれ以外の全身を覆う布)をしているシーンなど、まるでイランのように撮影されているので、何も知らずに見るとイランでの撮影だと思ってしまうに違いありません。

監督・共同脚本・プロデューサー アリ・アッバシ

監督であり、共同脚本家、プロデューサーでもあるアリ・アッバシ(イラン読みにするとアリー・アッバーシー?)は1981年イランに生まれ、テヘラン大学在学中にスエーデンのストックホルムに留学。以後、北欧を拠点に活躍している監督で、デビュー作『マザーズ』(2016)はマタニティ・ホラー映画だとか。国際的な注目を浴びたのは第2作『ボーダー 二つの世界』(2018)からで、カンヌ国際映画祭ある視点部門のグランプリを受賞しています。本作『聖地には蜘蛛が巣を張る』で初めて故郷イランを舞台にしたわけですが、2000年から2001年にかけて、イランで16人もの犠牲者を生んだ「スパイダー・キラー事件」がモデルになっているとのこと。犯人のサイード・ハナーイーは2002年にマシュハド刑務所で死刑を執行されていますが、サイードという名前を始め、建設労働者という職業や、妻と3人の子供がいたことなど、映画のかなりの部分がこの事件を踏襲しているようです。アッバシ監督は「連続殺人鬼の映画を作りたかったわけではない。私が作ろうと思ったのは、連続殺人鬼も同然の社会についての映画だった」と語っているそうですが、いろんな社会的メッセージが細部に込められている作品のように思われます。(下)ではそのメッセージを読み解いてみたいと思いますので、今回はまずは作品のご紹介まで。最後に予告編を付けておきます。

映画『聖地には蜘蛛が巣を張る』本予告【4/14(金)全国公開】

 

 


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