少し前にちょっと関連イベント開催をご紹介したカンボジア映画『シアター・プノンペン』。2014年の東京国際映画祭で上映された時は『遺されたフィルム』というタイトルでしたが、こちらは原題&英語題名の直訳でした。今回公開されるにあたって、より具体的にカンボジアという国と映画の内容をイメージさせるタイトルに変更され、ソト・クォーリーカー監督も大納得とのこと。この新しいタイトルで、いよいよ皆様の前にお目見えです。まずは、データからどうぞ。
『シアター・プノンペン』 公式サイト
©2014 HANUMAN CO., LTD
2014年/カンボジア/クメール語/105分/原題:ដុំហ្វីលចុងក្រោយ/英語題:The Last Reel
監督:ソト・クォーリカー
主演:マー・リネット、ソク・ソトゥン、トゥン・ソーピー
配給:パンドラ
宣伝デザイン:プランニングOM、オフィス63
宣伝パブリシティ:スリーピン
※7月2日(土)~7月29日(金)岩波ホールにてロードショー公開
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物語は、カンボジアの首都プノンペンの夜から始まります。傍若無人に遊び、バイクをころがす若者の集団。ソポン(マー・リネット)は集団のリーダーであるベスナ(ルオ・モニー)のガールフレンドでした。彼らは、バイクの駐輪場である今は使われなくなった映画館を根城にしており、ソポンはそこから自分のバイクで深夜に帰宅するのが常でした。ソポンの父(トゥン・ソーピー)は軍人で、地方に行っていることも多く、家には母(ディ・サヴェット)と大学生のソポン、そして姉の行動を心配するやはり大学生の弟がいました。母は体調を崩しており、その面倒を見ながらも、厳格な父への反発もあって、ソポンは夜遊びをやめられません。
そんなある夜、ベスナとはぐれてしまったソポンは、1人駐輪場に戻って来ますが、そこでびっくりすることに出会います。映画館のスクリーンに自分とよく似た女性の姿が写っいたのです。どうやら昔の映画の1シーンのようで、映写室に行ってみると、駐輪場の管理人ソカ(ソク・ソトゥン)がフィルムを映写していました。そして壁には、その映画の古いポスターが貼られていたのですが、ソポンはそこに写っている女優ソテアが若き日の母であることに気がつきます。ソカから、クメール王国を舞台にしたこの映画『長い旅路』は最終巻が欠けている、という話を聞き、ソポンは何とか自分たちの力でその最終巻を再現できないかと考え始めます....。
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本作は、冒頭に登場する、暴走族のような若者の描写にまず度肝を抜かれます。そして、彼らのバイクの駐輪場→昔の映画館→残った1本の映画→そこに隠された出演者たちの運命→消えた最終巻を再び撮ろうとする若者たちの行動...といったようにお話が転がっていき、ヒロインが自分の両親の過去を知ることで、カンボジアという国の歴史と向き合うことになる、という、とても巧みな重層構造の作品が姿を現していくのです。また、劇中劇として出てくるクメール王国時代の、王と村娘、そして仮面のヒーローの話は、いろんな暗喩が含まれているようで、現代のシーンと響き合います。最初に見た時はそれほどと思わなかったのですが、今回試写で再び見せていただいて、かなりよくできた脚本だとあらためて惹きつけられました。
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そして、「カンボジア」といえば観客がどうしても連想してしまうであろうクメール・ルージュ(赤色クメール)の時代についても、映画人が受けた苦難を中心に、現代に現れたその傷あとという形でも描かれていきます。虐殺のあともしっかりと見せてくれ、その中でソポンの母やソカがどのように翻弄されたのか、それが現在に至るまでどんな爪跡を残しているのか、ということが描かれるのですが、単に善悪二項対立ではない描き方は、カンボジア人監督ならではと言うことができるでしょう。ちょっと理解しにくいエピソードもあるものの、それも含めて、多くの観客がカンボジア映画との初めての出会いをしっかりと体験できる、新鮮、かつ重みのある作品となっています。
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本作を撮ったソト・クォーリカー監督は、1973年生まれ。プレスによると、1999年にカンボジアが外国に門戸を開いたことで、どっと入ってきた海外メディアの手伝いをするうちに、映像製作に目覚めたとか。本作はカンボジア在住のイギリス人脚本家イアン・マスターズが草案を作り、それをたたき台にして、「クメール・ルージュ時代を内側の視点から見たものに書き換え、その時代を経験した人たちの声を色濃く出した」そうです。その過程で監督は当時の関係者にいろいろインタビューしたそうですが、クメール・ルージュの中心にいた人たちにインタビューした時には、いろいろ怖い目にもあったのだとか。
また、5月25日(水)に国際交流基金で行われた渡辺えりさんとのトークショーでは、渡辺さんの暖かな質問に答えて、自身の過去にも触れて本作の背景をいろいろ話してくれました。1973年生まれのソト・クォーリカー監督は、1968-1996とされるクメール・ルージュ時代の半ばから後半にかけて、子供から大人になった人ですが、パイロットだった父親を虐殺で亡くし、母親と二人だけで育ったのだとか。生活は大変で、お母さんはとても苦労したそうです。民間人のパイロットである父親が殺されたのは、軍への入隊を拒否したためで、それもあって今回ヒロインの父親を軍人にすることにはかなり葛藤があったようでした。ただ、保守的な考え方を持つ父親、ということと、彼自身がクメール・ルージュ時代の犠牲者でもあった、という部分を出すために、あえて軍人にしたようです。渡辺えりさんも、「そうやって客観的に見ようとする視点がすがすがしいですね」とコメントしていました。
この日は会場にその苦労したお母さん、そして監督のご主人とお子さん2人も姿を見せ、最後のフォトセッションではみんなでパチリ。家族の支えがあってこそ、とも言っていた監督ですが、自身も意志の強い人のようで、映写技師ソカ役のソク・ソトゥンが「こんな重荷を背負った役はやりたくない」と言った時も、どうやってソカを演じるのか、ということを徹底的に彼と話し合い、最後には彼もチャレンジできたことに満足していたとか。本作を見てもらえればわかりますが、人物それぞれに影があり、中でも映写技師ソカは二重三重に屈折した役柄になっています。また、一番単純そうに見えるヒロインのソポンを演じたマー・リネットに関しても、「カンボジアの女の子は、伝統的に人の言うことにただ従うだけ、という面があるのです。ですので6ヶ月間一緒にロケをする中で、私の家にも来てもらって、意見をいろいろ交換しました」とのことで、マー・リネットも相当しぼられたのでは、と思います。
また、ソポンの母親で、かつて人気女優だったソテアを演じたディ・サヴェットは、日本でも東京国際映画祭で上映された”カンボジア映画の父”ティ・リム・クゥン監督の『怪奇ヘビ男』(1970/下のポスター)など、多くの映画に出演しているベテラン女優。かつての人気女優という役のせいか、少々お化粧が濃かったりと少し違和感を感じるシーンもあるものの、映画の要となる役を貫禄で演じていました。
最後に予告編を付けておきます。またとない貴重なカンボジア映画を見る機会だけでなく、映画としても面白い作品ですので、ぜひお見逃しなく。
「シアター・プノンペン」予告編
最後にオマケを1つ。本作の製作会社は、ハヌマーン・フィルムズ。インドの古代叙事詩「ラーマーヤナ」に登場するサルの武将ハヌマーンの名前がついています。配給会社からロゴマークをいただきましたので、下に付けておきます。「ラーマーヤナ」はご承知の通り、インドから東南アジアにも伝わっていて、タイやカンボジアではこういった伝統演劇のキャラクターの格好で描かれることが多いのです。インドではバジュラングバリーとも呼ばれるハヌマーン。そのハヌマーンつながりで、インド映画好きの方もぜひご覧になってみて下さい。
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ここって、インド映画だけじゃなくてアジア映画だったのですね。
私は10年くらい前まで中国映画にはまっていました。チャン・イーモウとコン・リーが好きで、ほとんどDVD持ってました。でも、数年前からチャン・イーモウが嫌いになり、今はほとんど見ていません。
と、ちょっと映画の話っぽいことを前振りして・・・・渡辺えり!
この方山形出身なんですよ。しかも私と高校が同じ。先輩です。
そして実は、私渡辺えりさんにそっくりだって言われてるんです。
私は昔学校の教員をしていたのですが、転勤するたび「渡辺えりの親戚?」と必ず言われてたので、最後は面倒になって「姉です」と言っていました。(苦笑)
ちとそれだけお話したくて深夜の訪問でした。
山形市も昨日から梅雨です。
明日は久しぶりにインドカリー食べに行こうかな?
そろそろ寝ます。(宵っ張り)オヤスミナサイ。
チャン・イーモウは「紅夢(大紅燈籠高高掛)」に物凄くはまりました。ご存知でしょうか?→https://www.youtube.com/watch?v=5Yo8bvg0MAg 未だに日本ではビデオしかなく、私はビデオ持ってますが、デッキが壊れてしまい、なんとかDVD販売にならないかなと待っています。
そうなんです、インド映画が専門なので記事の数は一番多いのですが、アジア映画全般が好きなもので、中国映画も韓国映画も東南アジア映画もカヴァーしています。
というわけで、『紅夢』も公開時に見たクチです。
チャン・イーモウ監督は『LOVERS』の時にインタビューしましたが、すごく語って下さる方でした。
ほっとくと、質問1つで20分ぐらいしゃべって下さるので、内心「時間が;;;」とあせりました。
お人柄はとってもいい方ですが、作品は私も好き嫌いが分かれます。
渡辺えりさんとそっくりでいらっしゃるとのこと、うらやましいです~。
イベントでの渡辺さんは、すごく心遣いをしてらっしゃるのがわかって、好感度特大でした。
これからもぜひ、「渡辺えりさんの妹」でいらっしゃると、福が舞い込むのではと思います。
では、またご訪問下さいね。
私は30代の頃はかたせ 梨乃のつもりが、40代になったら渡辺えりこになり、その後、アキ竹城(この方も山形のご出身です。)、その後。マツコデラックスになってしまいました。(爆笑)
コン・リーの「紅夢」ご存知で居て下さってとても嬉しいです。私はかなりながくチャンイーモウの中で「紅夢」がトップだったのですが、今は「活着(活きる)」の方が上かなと思い始めています。でも、「紅夢」のミクロな世界は、なんとも言えない淫靡で閉塞感がありますよね。そこで精神のバランスを崩したコンリー演じるスエリエンが真に哀れです。あの映画ほど造形美を感じた映画はありません。
「活着」は、コン・リーより、グォ・ヨウの演技に魅かれました。「覇王別姫」と全く違う庶民に身をやつしたグォヨウの演技、最高でした。最後が悲劇で終わってしまうのがちょっと悲しかったですけどね。
私が違和感を覚え始めたのは、「王妃の紋章」あたりからです。もともと武術に興味が無い為、CGは余り好きではありませんでした。後は・・・やはり北京オリンピックかな?がっかりでした。
最近の映画では「妻への家路」が良かったです。これもチェン・ダオミンがとてもいい演技をしてましたね。成熟した控えめな演技に心奪われました。
ベトナム映画は一本だけです。「季節の中で」ハーヴェイ・カイテル観ました。これは娼婦ランが良かった。中国は返還も入れて三回。ベトナムは一回しか言ってないのですが、ベトナム映画のみずみずしさに惚れました。
と、昔の映画ばかりですね。失礼しました。
中国が19歳の時に行った初めての国です。その後20代に一回返還前の香港へ。30代に返還後の香港へ行きました。目的も手段も費用も全部違いますが、どれも懐かしい思い出です。
中国語の音楽的な魅力に魅せられました。
今は本業の英語もサボり、すっかり山形弁です。(苦笑)
「映研」ならぬその映画評のようなコメント、本作をご覧になった方々は「なるほど~」と思われたことと思います。
お陰様でたくさんのお客様がいらしたようで、配給会社さんから何度か、「ご覧になるのでしたら、最終日に近づくほど混み合いますのでお早めに」メールが来ていました。