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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

満員の<マレーシア映画ウィーク>

2015-04-12 | 東南アジア映画

シネマート六本木で昨日から開催されている<マレーシア映画ウィーク>にお邪魔してきました。この前の紹介ではチラシのコピーをアップしましたが、本日の上映作品は、故ヤスミン・アフマド監督作品の『ムクシン』(2006)、『ムアラフ 改心』(2008)、『タレンタイム』(2009)と、ニック・アミール・ムスタファ監督の『ノヴァ~UFOを探して~』(2014)でした。私は『ムクシン』を見せていただいたのですが、場内は数席を残してほぼ完売。その後の『ムアラフ』『タレンタイム』も満員とのことで、ヤスミン人気が相変わらず高いことをうかがわせます。


久しぶりに見た『ムクシン』は、また違った印象を与えてくれました。最初に2006年の東京国際映画祭で見た時は、途中で出てきた『細い目』(2004)のオーキッド(シャリファ・アマニ)とジェイソン(ン・チューセン)の顔にすっかり興奮し、悲劇に終わった『細い目』がここでハッピーエンドになっているなんて、と涙してしまいました。次に見た時は、主人公の10歳の少女オーキッド(シャリファ・アルヤナ)と12歳のムクシン(モハマド・シャフィエ)との関係が愛おしくてそれに引き込まれ、思い切った行動に出るオーキッドの性格が思春期のオーキッド@『細い目』にも受け継がれているなあ、とストーリーテラーとしてのヤスミン・アフマドの巧みさに舌を巻きました。そして今回は、ヤスミンを亡くし、彼女の妹オーキッドさんを知ったという経緯から、ラストのご家族と一緒にヤスミンが歌うシーンではじわ~っと涙が。


2006年の東京国際映画祭での上映時、私は「POP ASIA」No.66(2006年12月発売)向けの記事を書くために、来日したヤスミンとシャリファ・アルヤナ、モハマド・シャフィエにインタビューしました。その時の写真が上のものです。本当は、取材の時に撮った写真はプライベートなものとして公表してはいけないのですが、「POP ASIA」がすでに休刊してしまったのと、以前トークの時にも使わせていただいた経緯があるので、今回アップしました。関谷元子編集長、お許しいただければ幸いです。


『ムクシン』のストーリーは、ヤスミンが実際に経験した初恋に基づいています。10歳のオーキッドは、理不尽なことが許せない女の子。お父さんは音楽の先生で作曲家、お母さんはイギリスに留学したため日常会話に英語を使っている女性で、お父さんとお母さん(シャリファ・アレヤ/下写真左)は今でもラブラブ。あと、家にはお手伝いさんのヤム(ヤスミン作品には欠かせない太った女優さんアディバ・ヌール)がいて、みんなとっても仲良し。そしてオーキッドは、事情があって兄と共に叔母の家に引き取られているムクシン(モハマド・シャフィエ/下写真右)と出会い、2人はムクシンの自転車に相乗りしてあちこちへ出かけるようになります。でも、そのムクシンとも別れる日がやってきて....。


『ムクシン』で魅力的なのは、まず、マレーシア社会ではちょっと異端とも思える主人公一家の生活ぶり。あけっぴろげに愛を表現するお父さんとお母さん、衣服が濡れてちょっとエロティックになるのもかまわず、お父さんと友人たちの音楽に合わせて雨に濡れながら娘オーキッドと踊るお母さん。そういった”異端”に対する批判は、隣家の主婦の口を通じて語られます。しかし、この主婦は結局痛い目に遭うことから、観客は肯定されるべきものは何か、ということを感じ取ります。

さらに、オーキッドの性格も魅力的です。男の子に負けていず、腕力だってふるっちゃうし、弱い者いじめをする子がいたら絶対に許さない。そんな彼女が異性を意識し始めるきっかけとなるのがムクシンとの付き合いで、彼女が自分の女性性を自覚したところで物語は終わりを告げるのです。とても繊細な物語りながら、思いっ切りのよさが随所に表れているという、痛快な作品でもあります。


上映終了後、今日のゲストであるヤスミンの妹オーキッド・アフマドさん、広告会社でヤスミンと約20年間一緒に仕事をしてきたというジョビアン・リーさん、そして<マレーシア映画ウィーク>の主催団体である混成アジア映画研究会&マレーシア映画文化研究会の山本博之京大准教授が登壇しました。今日は小さなカメラだったので、いつも以上に写真が悪くてすみません。右から二人目の女性は、マレー語通訳の上原亜季さんです。


オーキッドさんは、ずっと一緒に見ていて泣いてしまったそうで、涙をぬぐいながらの登場となりました。いろいろ話して下さったのですが、『ムクシン』の最後に出てきてピアノを弾いているのがヤスミンとオーキッドさんのお父さん、歌っているのがお母さんで、この歌はお父さんの作曲になるもの、お父さんの曲は『タレンタイム』でも使われていることなどから話が始まり、この作品の中に思わぬ人がカメオ出演している、というお話も。オーキッドの学校のスクールバスがあるのですが、その車掌さんを演じていたのがヤスミンのご主人で、サッカーシーンの審判としても登場します。サッカーゴールのポールにぶちあたって気を失い、運ばれていく、というコミカルな役で、途中のワンカットにアップのシーンもあり、私も見ていて「ヤスミンの愛が溢れてる~」と思ったりしました。


また、オーキッドの一家がシャンソンを聴く場面があるのですが、そのシャンソン「行かないで」に合わせて歌うのがヤスミンの家の運転手さんだというお話など、いろいろ出てきます。オーキッドさんのお話にはなかったのですが、実はこの運転手さんとヤスミンのご主人は、『タレンタイム』では学校の先生としても出演、達者な演技を繰り広げます。また、『ムクシン』では、分割代金を滞納したソファーを業者が回収に来るシーンがあるのですが、そのリーダーは『Rain Dogs(太陽雨)』(2006)のホー・ユーハン監督が演じています。こんな風にヤスミン・ワールドにハマると、どんどんその楽しい世界に引き込まれる装置が各作品に隠されているのです。

あと、この運転手さんが演じる人のセリフで、猫のブジャン(P.ラムリーの映画「Bujang Lapok」からのネーミングでしょうか?)に対して言うセリフがあるのですが、それにも深い意味があるとか。ひよこを襲ってしまった猫に対し、重々しく言われる「お前はまったく社会の恥だ」というセリフは、ヤスミンの映画を批判して言われたセリフなのだそうです。ヤスミンはこういった形で、ユーモアをまじえてそのセリフに反論していたのですね。

元同僚だったジョビアン・リーさんからは、ヤスミンがその魅力で相手の男性を虜にし、自分に惚れさせるように仕向けるといういたずらっ子的なところがあったことなどが披露され、そんな形でのボーイフレンドがたくさんおり、自分もその1人だったことが話されました。すかさずオーキッドさんが、「そうなんですよ、ジョビアン・リーさんはもしかしたら私の義兄になっていたかも知れないんです」と言うなど、楽しいトークは延々と続きます。また、ジョビアン・リーさんはヤスミンの記念館ができたことにもふれ(映画の上映前に、この記念館を紹介し、支持を呼びかけるフィルムが上映されました)、運営資金の一端になるので、彼女の発言等をまとめた本を買ってほしいということが訴えられました。その本「Yasmin How You Know ?」にはヤスミンの言動が記録されており、貴重はプライベート写真もたくさん収録されています。寄付金共で2,800円。シネマート六本木のショップで売っていますので、カンパも兼ねてお求め下さいね。


ヤスミンの記念館「Yasmin At Kong Heng」は、『細い目』のロケが行われたマレーシア中北部の町イポーにあり、現在は週末だけオープンしているとか。公式FBはこちらです。一度ぜひ行ってみたいです~~~。


ところで、今回の映画祭は、主催が混成アジア映画研究会&マレーシア映画文化研究会とオッドピクチャーズ、共催が国際交流基金アジアセンターと京都大学地域研究総合情報センターとなっています。事務局の中心を担っているのが、山本先生や同僚の先生方の研究会グループと、あと上のフリーペーパーを出している3人の女性たち。通訳としてご紹介した上原亜季さん、「マレーシアごはんの会」で知られる古川音さん、そしてオッドピクチャーズの高塚利恵さんです。高塚さんは映像プロダクションオッドピクチャーズの代表で、今回の上映作品の1本でもある『クアラルンプールの夜明け』も製作しています。細井尊人監督によるこの映画の主演は、桧山あきひろとシャリファ・アマニ。16日(木)夜の上映ではゲストとしてこの3人も登壇しますので、お楽しみに。


ちょうどフリーペーパー「WAU」の最後に美しいお三方の紹介があったので、ちょっと載せてしまいました。上の第3号には、マレーシアの映画監督ジェームス・リーのインタビューも載っています。どこで配られているのか聞き逃したため、お問い合わせ先を書いておきますね。

HP:http://hatimalaysia.com/

CONTACT:info@hatimalaysia.com

広告をお出しになりたい方、ご自分のお店に「WAU」を置きたい方も、どうぞ上記までご連絡下さい。<マレーシア映画ウィーク>は19日(日)まで続きます。平日はお席がまだまだありますので、公式サイトで日程をご確認の上、こちらで前売り券を購入なさってお出かけ下さい。私も、あと3、4回行く予定にしています。では、シネマート六本木でお会いしましょう!

 


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2 コメント

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Unknown (りからん)
2015-04-15 23:22:41
お久しぶりのコメントです。
先日はお会いできてとってもうれしかったです!
明日16日の「スリードア・ホラーズ」見に行きます。終わってからお時間あればゆっくりお話ししたいですね♪
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りからん様 (cinetama)
2015-04-15 23:41:07
コメント、ありがとうございました。私も久々の再会、嬉しかったです~。

今日はついさっき帰ってきたばかりですが、『細い目』の多色字幕版上映、立ち見が出る盛況でした。
上映後のトークショーで、ジェイソンことン・チューセンとオーキッド役シャリファ・アマニが登場した時は、会場内に悲鳴が!
トークショー、当初は20分ぐらいの予定だったのが、シネマート六本木様(いやもう、”様”付けしたいほど感謝しています)のご好意で約1時間という長さに。
終わっても皆さんサインをもらったり、写真を撮ったりとなかなか立ち去らず、今の時間になったものです。
また後日、報告をアップしますね。

では、明日また会場で。『スリードア・ホラーズ』のあと、じっくりゆっくりアジア映画話をしましょうね~~~。
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