配信チャンネルJAIHOで、明日11月29日(火)からインド映画『血の抗争 Part 1』の配信が始まります。原題を『Gangs of Wasseypur(ワーセープルのギャングたち)』というこの作品は、2012年のカンヌ国際映画祭で321分ぶっ続けで上映され、大きな話題を呼んだ作品です。その後インドでは『Part 1』と『Part 2』に分けて上映され、興収は両方とも3億ルピーぐらい(当時のレートで約5億円)にとどまったものの、これまたセンセーショナルな話題を呼んで、年末から次の年にかけての賞レースではいろんな映画賞のいろんなカテゴリーにノミネートされまくりました。日本でも、翌2013年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で320分版が上映されたのですが、この時の邦題が『血の抗争』でした。多分、当時のディレクター梁木靖弘さんによる命名だと思いますが、言い得て妙の超名訳です。字幕は藤井美佳さん(『バーフバリ』シリーズや『RRR』等の字幕翻訳家)が担当し、今回の配信でも藤井さんの字幕が使われています。
『血の抗争』は、カーン家とクレシ家というイスラーム教徒の2家族と、シン家というヒンドゥー教徒のボス家系の争いを描くもので、イントロ部分でまず、2004年1月のクレシ家のスルタンによるカーン家のファイザル一家襲撃事件が描かれます。その後お話は1941年まで遡り、以後2009年に物語が含みを残して終わるまで、カーン家の三世代を中心とした抗争が派手に描かれていきます。最後の2009年では、カーン家の第四世代の赤ん坊が登場し、ナレーターが「抗争はまだ終わっていない」と続きを暗示するのですが、監督のアヌラーグ・カシャップは今に至るまで続編を作っていません。
登場人物がものすごい数なので、多分一度見ただけでは誰がどこに繋がっていくのか、わかりにくいと思います。しかしながら、何やら尋常ならざる迫力がこちらにグイグイ迫ってきて最後まで見てしまい、二度目に見たら人物の区別がついてまた興奮してしまった、というのが私の体験でした。本当は、『Part 1』に続けて『Part 2』を見ていただけるといいのですが、『Part 2』は12月に入ってからの配信になるようです。ここでは、両方に出てくる人物を一気に説明しておきますので、適宜ご参照下さい。なお、ワーセープルの位置を確認したい方は、こちらのWikiをどうぞ。現在は、ダンバードという地区の一部になっているようですが、劇中にはダンバードも登場します。
『血の抗争』登場人物一覧
本作の登場人物は、大きく3つのグループに分かれる。「カーン家」「クレシ家」そして「シン家」である。それ以外のキャラクターはこの3グループのあとに記してある。( )内は演じた俳優名である。
「カーン家」
<第一世代>
●シャヒド・カーン(ジャイディープ・アフラーワト)
盗賊スルタナ・クレシをかたって列車強盗を働き、クレシ一族の怒りを買ってワーセープルから追放される。逃れたダンバードでは、炭鉱の管理者となったラマディルの用心棒となるが、その実力を恐れたラマディルに暗殺される。
○妻~息子サルダールを産み、出血多量で死亡。
●ナーシル(ピーユーシュ・ミシュラー)
シャヒドの手下として、彼の死後息子サルダールを守る。本作の語り部となる人物。
<第二世代>
●サルダール・カーン(マノージ・バージペーイー)
『Part 1』の主役。幼い頃ダンバードで、ラマディルに命じられたエフサン・クレシにより殺されそうになるが、直前にナーシルに伴われてワーセープルへと逃れる。運転手から始めてやがて各種の請負人として実力を発揮、ナーシルとその甥アスガルを従えてのし上がっていく。妻ナグマとの間に3人の息子をもうけたほか、外に囲ったドゥルガとの間にも息子をもうける。大物になりすぎたためラマディルとスルタン・クレシの恨みを買い、襲撃を受けて死亡。
○妻ナグマ(リチャー・チャッダー)
仕事や服役のためほとんど家に居ない夫に代わり、息子らを育て、家庭とカーン一家をまとめる女丈夫。
○第二夫人ドゥルガ(リーマー・セーン)
刑務所から逃亡したサルダールが身を隠していた時、かくまわれた家の下働きをしていたベンガル人女性。豊満な肉体にサルダールが惚れ、別宅をかまえて息子をもうける。
●アスガル(ジャミール・カーン)
ナーシルの甥。サルダールと同世代で、叔父ナーシルと共にサルダールの片腕となる。
<第三世代>
○ナグマの息子4人とドゥルガの息子1人。
●長男ダニシュ・カーン(ヴィニート・クマール・シン)
できのいい長男で、クレシ家の娘シャマと恋に落ち、彼女の父親をクレシ家とカーン家の和解のためと説得して結婚する。だが、シャマの従兄スルタンは大反対で、サルダールを襲撃して殺害、ダニシュは復讐に燃える。
○妻シャマ(アヌリター・ジャー)~姑のナグマにも可愛がられるが、結局両家のさらなる不和を招くことに。
●次男ファイザル・カーン(ナワーズッディーン・シッディーキー)
『Part 2』の主役で、できの悪い次男。麻薬に溺れていたが、母ナグマから活を入れられ、父の後継者たらんと凶暴性をむき出しにする傍ら、事業にも手を出す。幼なじみのモフシナをやっと妻に迎えるが、完全に尻に敷かれる。
○妻モフシナ(フマー・クレーシー)
ファイザルをじらせ、自分が主導権を握って結婚してやる形を取るが、夫を深く愛している。
●三男(名前不明)~生まれた時のサルダールと長男&次男の会話は描写されているが、その後は就寝や食事のシーンなどに姿がちらと写っているのみ。
●四男/婚外子デフィニット[確実](ズィーシャーン・カードリー)
母ドゥルガのサルダール・カーンに対する愛憎のうち、「憎」の部分を受け継ぎ、義兄弟をも憎むことで父への復讐を果たそうとする末恐ろしいティーン・ギャング。
●五男バブア=パペンディキュラ[垂直]
ローティーンの頃から大人顔負けのワルとして有名。
「クレシ家」
<第一世代>
●スルタナ・クレシ(プラモード・パータク)~伝説のダコイト(盗賊)。
<第二世代>
●エフサン・クレシ(ヴィピン・シャルマー)~ダンバードの炭鉱でラマディルからシャヒドの息子サルダールと手下ナーシルの殺害を命じられながら逃がしてしまう。ラマディルには「殺して埋めた」と嘘をつくが、それが後になってバレる。スルタンの父。
●バドゥル・クレシ(プラモード・パータク)~スルタナ・クレシの息子。シャマの父で、スルタンの伯父。クレシ家とカーン家の抗争に嫌気がさしていたため、両者和解のきっかけにと娘シャマに対するダニシュの結婚申し込みを受ける。
<第三世代>
●スルタン・クレシ(パンカジ・トリパーティー)
ワーセープルで肉屋を経営。シャマの従兄。ラマディル・シンの手先となる。
「シン家」
<第一世代>
●ラマディル・シン(ティグマーンシュ・ドゥーリヤー)
独立後イギリスから財閥に譲渡されたダンバードの炭鉱を管理、冨を得てやがて政治家となる。カーン家三代と抗争を続けた。
<第二世代>
●J.P.シン(サティヤカーム・アーナンド)
ラマディルの息子。州の選挙に立候補して当選し、州の大臣となるが、父ほどの器ではない。
●シャムシャド(ラージクマール・ラーオ)
商才のある若者で、ファイザルに取り入ろうとするが、最後には彼を裏切る。
●バンドの歌手(ヤシュパール・シャルマー)
イベントなどでマイク片手に歌う歌手。アヌラーグ・カシャップ監督作『デーヴD』(2009)ではナワーズッディーン・シッディーキーがエルヴィス・プレスリー風の衣装で演じ、インパクトを与えたが、本作のヤシュパール・シャルマー(『ラガーン』で裏切り者の村人役を演じた俳優)は影が薄く、話題にならなかった。
あとは、JAIHOのコラム⑱にも解説を書いておきましたので、そちらもご参照下さい(配信と同時にアップされると思います)。ご覧になってのご感想など、コメントで寄せていただけると嬉しいです。