アジア映画巡礼

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『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』元ネタ集<その2>

2013-02-28 | インド映画

『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』の公開日3月16日(土)が近づいています。公式サイトはこちらですが、映画の中で取り上げられているパロディの元ネタをまた少し解説してみます。

© Eros International Ltd

『恋する輪廻』では、パロディが固まって出てくるところがいくつかあるのですが、今回はそのうちの1つ、オームとパップーが参加する野外ロケシーンから。

ここでは2人は、盗賊(ダコイト、またはダークーと呼ばれる)のような格好をし、付けヒゲを付けています。映画の監督は、カルカッタ(現コルカタ)から招かれたベンガル人のラーイ監督(サティーシュ・シャー)。昔からヒンディー語映画界とベンガル語映画界は関係が深く、多くのベンガル出身映画人がヒンディー語映画界で仕事をしています。有名俳優のアショーク・クマール、その弟でプレイバック・シンガーとして一世を風靡したキショール・クマール、女優では共に70年代に大人気だったシャルミラー・タゴール(サイフ・アリー・カーンのお母さん)やジャヤー・バードゥリー(=ジャヤー・バッチャン、アミターブ・バッチャン夫人)ら、ベンガル出身者を挙げると切りがありません。

ヒンディー語とベンガル語は似ている単語も多いのですが、発音がちょっと違い、ヒンディー語では長母音がベンガル語では短母音になるとか、「s」の音が「sh」になるとか、いくつか特徴的な「ベンガル語なまり」があります。というわけで、ここのラーイ監督もなまったヒンディー語をしゃべっています。 

映画の中ではプロデューサーのムケーシュがやってきて、撮影が始まりますが、その時、ラーイ監督はこう言います。

「3つのアングルで撮ります。S・レイ監督風、B・ロイ監督風に、グル・ダット監督風」

 

「S・レイ監督」とは、日本でもよく知られているベンガル語映画の巨匠サタジット・レイ監督(写真上)のこと。『大地のうた』 (1955)は日本でもファンが多いですね。インド映画の定型であるミュージカル形式&娯楽要素満載を嫌い、欧米映画のようなスタイルで撮ったことで有名で、サタジット・レイ監督作品のような映画はインドでは芸術映画と呼ばれています。なお、「Satyajit Ray」という名前は、ベンガル語で読むと「ショットジト・ラエ」、ヒンディー語で読むと「サティヤージト・ラーイ」となります。ですから、ここで出てくるラーイ監督という名前も、このサタジット・レイ監督から取られたようです。

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サタジット・レイ監督作品は、「オプー三部作」と呼ばれる少年オプーを主人公にした『大地のうた』 (1955)、『大河のうた』 (1956)、『大樹のうた』 (1959)が日本でもDVD発売されています。この機会に、ぜひ見てみて下さいね。

続いて「B・ロイ監督」とは、やはりベンガル出身のビマル・ロイ監督(写真上)です。日本で映画祭上映された『2エーカーの土地』 (1953)や、『スジャーター』 (1960)等社会派の作品で知られる監督です。名前はヒンディー語で読むと「ビマル・ラーイ」となるのが本当なんですが、彼はBimal Royというローマナイズ表記を使っており、それに合わせてヒンディー語でも「ビマル・ローイ/ビマル・ロイ」と書かれることがしばしばあります。

余談ですが、『2エーカーの土地』は中国でも『二畝地』というタイトルで有名です。こちらで、字幕はないのですが全編見ることができます。

あともうひとつ、ビマル・ロイ監督にしては珍しいサスペンス風味の娯楽作『マドゥマティ』 (1958)から、ヒロインのヴァイジャヤンティマーラーが踊るシーンを付けておきます。

そして、「グル・ダット監督」は皆さんご存じですよね(写真上)。監督作品(&実質監督作品)の合計9作品が日本でも映画祭上映されており、DVDも『渇き』 (1957)と『紙の花』 (1959)、そして『55年夫妻』 (1955)の3作品が発売されています。娯楽映画のスタイルを取っていますが、その深みのある人間描写は独特の映画世界を形成しています。

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映像は、『渇き』からグル・ダットとワヒーダー・ラフマーンの至高のシーンを。あともう一つ、よくパロられるジョニー・ウオーカーのマッサージ屋のをどうぞ。

さて、最初のラーイ監督の言に対して、プロデューサーのムケーシュが言うのが次のセリフです。

「M・デサイ監督風も加えろ。ヒットの秘訣だ」

Photo by R.T. Chawla

「M・デサイ監督」とは、マヌモーハン・デサイ(正:デーサーイー)監督(写真上)のこと。1970・80年代に活躍した監督で、アミターブ・バッチャンやシャシ・カプール、ヴィノード・カンナー、リシ・カプールなど、当時の人気スターを数人ずらりと揃えた「マルチスター・システム」と呼ばれる娯楽大作を次々に作り、人気監督となった人です。『アマル・アクバル・アントニー』 (1977)や『クーリー』 (1983)等、作る映画が端からヒットしたので、ムケーシュならずとも「ヒットさせたいならマヌモーハン・デサイに学べ」状態だったのでした。でも残念ながら、デサイ監督は1994年の3月1日に自殺してしまいました...。

映像は、私の大好きな『アマル・アクバル・アントニー』の主題歌シーンをどうぞ。

あ~、このシーンはトリビア・ネタが多すぎて書き切れません。この項、「つづく」ということで。

 

 


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4 コメント

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Unknown (michica)
2013-03-02 02:52:06
有難うございます♪
日本でDVD化されているもの、片っ端から見てみたいなぁ~^m^
ジョニー・ウオーカーのマッサージ屋の歌、my favorite song になりました!(^^)!
heavy rotation になりそうな予感…(笑)
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michica様 (cinetama)
2013-03-03 10:31:33
コメント、ありがとうございました。

日本版DVD、結構出ているんですよ。でも、人気が低いためか、レンタル店からはレンタル期限が終わるとすぐに姿を消してしまうようで....。

ジョニー・ウォーカーが「マーリシュ(マッサージ)、テール(油、香油)・マーリシュ」と呼ばわる声で始まるあの歌は、インドの人たちも大好きなようで、いろんな映画でパロられたり、主人公が口ずさんだりしています。ぜひヘビロテで憶えて下さいね。
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Unknown (アールゴービー)
2013-03-03 11:12:35
私も「アマル アクバル アントニー」大好きです。
あの主題歌は一度耳にしたら、忘れられなくなります。
監督が自殺されてたとは知りませんでした。残念ですね。
「マリーゴールドホテルで会いましょう」、先月観ました。
インドあるあるがたくさんあって、面白かったです。満席でしたよ。
ホテルオーナーのマータージーが「カル ホ ナ ホ」のセクシーなお隣さんとは
気づきませんでした。
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アールゴービー様 (cinetama)
2013-03-03 15:10:01
コメント、ありがとうございました。

『アマル・アクバル・アントニー』は主題歌も、その他の挿入歌もよくできていますね。「インドの宗教」なんていう講義をする時にも、ヒンドゥー教、イスラーム教、キリスト教が出てくる上に、サーイーバーバー(初代)も出てくるので、便利に使える作品です。

『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』は、皆さん見て下さったようでよかったです。うるさい母親役のリレット・ドゥベーは、『たとえ明日が来なくても』のほか、『モンスーン・ウェディング』にも出ています。見る作品数が増えると、脇役の人たちの顔も次々憶えていけますね。また何か発見なさったら、コメントして下さいませ。
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