前回の続きです。再び、オームとパップーがその他大勢で出演している映画の現場からお送りします。
監督とプロデューサーのムケーシュのやり取りが終わり、いよいよ撮影開始です。ここはスタジオにしつらえられた畑が火事になるシーンで、藁山のようなものが次々に燃え上がっていきます。このセットは、『インドの母(Mother India)』 (1957)の最後の方で出てくるシーンとよく似たデザインになっています。
『インドの母』は農村を舞台に、夫を亡くして様々な苦労をするラーダー(ナルギス)の姿が描かれますが、彼女の2人の息子のうち、長男(スニール・ダット)はビルジューと言います。『恋する輪廻』では、シャンティが叫ぶヒーローの名が「サルジュー」ですね。このそっくりさんぶりで、インドの観客たちは、はは~ん、『インドの母』をパロってるのね、とわかるわけです。
さらに、こういうセリフも出てきます。シャンティを助けるためにヒーロー役のリッキーが火の中に飛び込むはずが、尻込みをしているのを見て助監督が言うセリフです。字幕では固有名詞を出せなかったので、ここでは原語のセリフを直訳してみます。
「『インドの母』の撮影では、スニール・ダットがナルギスさんをこういう風に助けたことで、のちに2人は結婚したんだ」
『インドの母』では、息子ビルジューが母を火の中から助け出す、というシーンですが、確かにスニール・ダットとナルギスは『インドの母』の共演がきっかけとなって、1958年3月11日に結婚したのでした。そして、明くる年、1959年7月23日に生まれたのがサンジャイ・ダットです。サンジャイ・ダットは『恋する輪廻』のソング&ダンスシーン「陶酔感」(出演者名入りの映像です)に出演しています(下写真左から二人目)し、パパであるスニール・ダットもCGで「ドゥン・ターナー」の歌に出演と、間接的親子共演が実現しているのもこの映画のいいところですね。
そして、火の中で逃げまどっていたシャンティをオームが助け出し、やけどを負ったオームの手当が終わったところで、シャンティがオームにお礼を言いに来ます。これが野外ロケシーンの最後になるのですが、最後の最後でまたパロディの極めつけが登場しています。
オーム「友情に”ごめん”と”ありがと”は禁句さ」
元のセリフは、「友情には原則が一つある。No sorry, no thank you 」なんですが、これはサルマーン・カーン主演の大ヒット作『私は愛を知った(Maine Pyar Kiya)』 (1989)から。
サルマーン演じるプレームは大金持ちの息子で、そこに父親同士が親友であるヒロインのスマン(バーギャシュリー)がやっかいになっているのですが、下のシーンで、彼女が帽子をもらった時に「サンキュー」と言ったことに対するプレームのセリフです。『私は愛を知った』は大ヒットし、このセリフも大流行しました。この映像の一番最後に出てきます。
オームが言うこのセリフをテントの外で書き取っている青年が、その後『私は愛を知った』を監督することになるスーラジ・バルジャーツヤーです。下の写真は、スーラジ・バルジャーツヤー監督の10年後ぐらいの写真。『恋する輪廻』ではビミョーなそっくりさんが起用されており、スーラジ・バルジャーツヤー監督は苦笑いしていたのでは、と思います。
Photo by Pradeep Bandekar
そこへ、スーラジの父がやってきます。「スーラジ、ここか」 スーラジの父は、映画製作会社ラージャシュリーの経営者の1人ラージ・クマール・バルジャーツヤー。創設者ターラーチャンド・バルジャーツヤーの息子の1人で、兄のカマル・クマール・バルジャーツヤー、弟のアジート・クマール・バルジャーツヤーと共にラージャシュリーの経営にあたっていました。
このパパ、「自社のセットに戻れ」と息子を促し、去っていく時には「♪ギート・ガーター・チャル(うた歌いつつ行け)」と、自社のヒット映画『うた歌いつつ(Geet Gaata Chal)』 (1975)の主題歌を歌います(退色した映像なんですが、元歌はこちらを)。実はラージャシュリーは、1960・70年代はこの『うた歌いつつ』のほか、『心盗人(Chitchor)』 (1976)等ヒット作を連発していたのですが、80年代に入って業績が低迷。この映画がコケたら会社を閉じなくては、と思って作ったのが、『私は愛を知った』だったと言われています。この映画が大ヒットしたので、ラージャシュリーは息を吹き返したのでした。
その後、『私はあなたの何?(Hum Aapke Hain Koun...!)』 (1994)というロングランヒット作も作りました。下の写真は、この映画の撮影時に、主演のマードゥリー・ディークシトに演技をつけているスーラジ・バルジャーツヤー監督です。マードゥリーの相手を務めたのは、ラージャシュリーのラッキー・ボーイだったサルマーン・カーンでした。
Photo by R. T. Chawla
いろいろ元ネタを挙げていると、いつまで経っても終わりそうにない『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』。映画をご覧になってからまた読んでみて下さいね。いよいよ公開まであと2週間。公式サイトはこちらです。