アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第42回香港国際映画祭に来ています

2018-03-24 | アジア映画全般

1993年から毎年来ている香港国際映画祭ですが、昨年はイースターが4月にかなりずれ込み、3月末に日本にいなければならなかった私は、参加できませんでした。今年もインドに長くいる必要があったので、参加はほんの3日ほどになってしまうのですが、とりあえずはいいアジア映画をチェックしたいと思って、プレスパスをいただきました。で、今朝10時から、香港文化中心(香港カルチャーセンター)の行政楼4階にある映画祭事務局で、オンデマンドで見られる映画を次々と見ていく活動を開始しました。いつもですとDVDをいちいち借りては返さないといけないのですが、今回は9台のモニターがオンデマンド方式になっており、1台だけがDVD対応なのだとか。早速見たのは、次の3本です。まだスチールをいただけていないので、ポスター等になりますがお許しを。映画祭の公式サイトはこちらです。


『旺扎的雨靴/Wangdrak's Rain Boots(ワンジャ(?)の雨靴)』(中国/2017)

旺扎的雨靴

主人公はチベットの小学生で、旺扎という名前の発音が正確に聞き取れませんでした。チベット語のおわかりになる方、ご教示下さい。旺扎の家は、お父さんは農業をしていますが、今は遠くに働きに行っていて留守で、やさしいお母さんと二人、お父さんの帰りを待つ日々です。旺扎の悩みは雨靴がないこと。このところ雨続きで道がぬかるんでいるのに、いつものズック靴で登下校しないといけないのでした。近所の女の子アチラモ(?)が同情して、時には旺扎をおぶって泥水の所を渡してくれたりするのですが、それが友人たちにからかわれたりと、くさることおびただしい旺扎です。そんな旺扎の自慢は、お父さんが買ってきてくれた飛び跳ねる蛙のおもちゃ。「筆箱と交換して」と言う子がいても断固拒否です。やっとお父さんが帰ってきたのですが、「おもちゃも買ってやったし、テレビが見たいと言うからから衛星アンテナとテレビも買っただろう。それ以上甘やかしてどうする」と雨靴は買ってくれません。村に小型トラックでやってくる移動式雑貨屋が青い雨靴を持ってきたのを見て、旺札はいいことを思いつきます...。

上のポスターではチベットの伝統服を着ている子供が描かれますが、小学生たちは一貫してジャージ姿。旺扎役にはかわいい子を選んであり、演技もなかなかのもの。ただ、お話からイラン映画の『運動靴と赤い金魚』とかをつい思い浮かべてしまい、既視感があるのが残念でした。全体的に作りすぎの感もあり、せっかくのペマ・ツェテン監督プロデュース作品ながら、Lhapal Gyal監督には「次作に期待してます」でした。


『柔情史/Girls Always Happy』(中国/2018)

柔情史

こちらは『旺扎的雨靴』とは真逆の、熟女熟男が幅を利かす作品です。主人公は、北京に住む一組の母娘。2人とも書く仕事をしており、もう30歳近いのでは、と思われる娘(楊明明)は、抗日ドラマのシナリオなどを書いています。もう1人、老人が同居しているのですが、母親(耐安)の父親なのか舅なのか、よくわかりませんでした。老人にはそろそろ痴呆症状が出てきており、母親がいらいらしながら鍵の閉め方とかを教えています。この老人も抗日ドラマの大ファンらしく、テレビでずっと見ています。娘にはかなり年上のボーイフレンドがおり、彼の家に行っては独り用サウナでくつろいだり、おいしいものを食べさせてもらったりと、わがまま放題という感じの娘です。でも母親からは、「あとしばらくして仕事が見つからなかったら、さっさと結婚しなさい」と言われてしまい、娘はむくれます。一卵性母娘かと思えば派手な言い合いもする、奇妙な母娘関係がえんえんと描かれていきます...。

いやー、しんどい映画でした。アップも多くて、ベタ顔の主人公お二人の迫力に耐えるのが大変でした。ところが途中で資料を見てみると、娘役の楊明明が監督だとわかり、ちょっと唖然。かなり嫌な役なのに、勇気がありますね。最後のオチ(娘の抗日ドラマのシナリオが確か35,000元で売れて、これで1年遊んで暮らせると母娘は大喜び)の意味もよくわからず、楽しめない作品でした。この中国映画2作品は、「火鳥大奨(ファイアバード・アワード)」の候補作品です。


『結他少女mou得弾/Village Rockstars(ギターを弾けない少女)』(インド/2017)

Poster of Village Rockstars.jpg

東端インドのアッサム州の農村が舞台になっています。主人公のドゥヌ(バニタ・ダス)は中学生。いつも男の子たちとつるんで遊んでいて、時には村のおばさんたちから「あんたももうすぐ一人前の女になるんだからやめなさい」とお説教をくらうことも。ドゥヌの夢はギターを弾くことで、高価なギターが買えないため、発泡スチロールを切り抜いてエレキギターもどきを作り、それを抱えて男の子たちとバンドの真似をする毎日でした。ドゥヌの父親は洪水で亡くなり、母親が糸を買ってきて機織りをしたり、畑仕事をしたりしながら、何とかドゥヌを育てていたので、ギターなどはもってのほか。ギターがほしいドゥヌは木登りが上手なことを生かし、他の家のベテルナッツを木に登って取っては、小銭稼いで家の竹の柱に空けた穴に落とし込んで貯めていました。母親は、父のように洪水で亡くなってほしくないと、水浴びをするたびにドゥヌに水泳を教えます。雨期が来て、今年も村が水に浸かってしまい、水は引いたものの、母親が植えていた陸稲も全滅してしまうことに。そんな時、ドゥヌに初潮が訪れ、村の女性たちが集まって、大人になる儀式をしてくれます。きれいなサリーを着せられて、はにかむドゥヌ。次の日からはまたいつものように短いワンピースを着て、男の子たちと木に登るのをやめないドゥヌでしたが、大人の自覚ができてきたのか、貯めていたお金を母親に差し出します...。

これも女性監督リマ・ダスの作品です。彼女自身がアッサムの村の出身だそうで、農村の風景を実に見事に切り取っていて、ハッとするような映像が次々と現れます。脚本はもちろん撮影もリマ・ダス監督自身だそうで、すでに長編劇映画を1本撮っている実力から生まれた本作は、各地でいろんな賞を受賞しているようです。ただ、残念だったのは、スクリーナー(試みに見る人のために製作会社が用意する映像をこう呼びます)の音声がずれていたことで、画面に英語字幕が出てあれ?と思っていると、7、8秒遅れてその音声が聞こえてくる、という状態が、開始後1時間までずっと続きました。1時間を境にシンクロしたのですが、こんなスクリーナーは初めてで、しかもいい作品だっただけに、とても残念でした。女性映画祭とかにぴったりの作品ですので、映画祭をお考えの方は「ちゃんとしたスクリーナー送ってね」とおっしゃって、公式サイトのセールス会社にコンタクトしてみて下さい。予告編を付けておきます。

VILLAGE ROCKSTARS Trailer | TIFF 2017

あと、ささいなことで疑問に思ったのは、発泡スチロールはインドでそんなに簡単に手に入るのか、ということです。結婚式の装飾(字を書いて切り抜き、浮かし貼り風にする)に使われたりしているのを映画で見たことがありますが、相当高いのでは、と、プチプチを求めてムンバイとチェンナイを探し歩いた(というほどでもなく、2、3軒の文房具屋で聞いただけですが)身としては疑問に思ったのでした。この作品、すでにインドでは公開済みのようです。


以上がDVDで見た作品です。そのほか、映画祭は文化センターを中心にあちこちの映画館や文化施設を使って上映されているのですが、九龍塘にあるショッピングモール又一城の映画館で上映されていたインド映画『Omerta(オメルタ)』も見ました。残念ながら、監督のハンサル・メーヘター、主演のラージクマール・ラーオなどゲストは誰も来ていなかったのですが、ほぼ半分ぐらい席を埋めた香港の観客と一緒に見てきました。


『Omerta(オメルタ)』(インド/2018)

Omerta film.jpg

「オメルタ」というのは私は知らない単語だったのですが、日本では「(マフィアの)血の掟」と訳されたりするようです。この名前を冠した「オメルタ~沈黙の掟~」というアダルトゲームも検索に引っかかってきました。本作では、イスラーム教徒テロリストの血の掟を指すようです。実在のテロリストであるアフメド・オマル・サイード・シャイクをモデルにしており、描かれるのは1992年から2002年まで。映画のトップシーンは1994年に、ラホールでインド人の偽パスポートと偽身分証、それにインドルピーをオマル(ラージクマール・ラーオ)が宗教指導者から受け取るシーンなのですが、その後インドに侵入してのテロ活動と同時に、フラッシュバックで彼の過去の軌跡も描かれていきます。オマルはロンドン在住のムスリム(イスラーム教徒)で、サラエボ事件を知ってムスリムへの迫害に抗議の声をあげたことから、宗教指導者に見込まれてパキスタンに訓練のため派遣されます。パキスタンとアフガニスタンで軍事訓練を受け、たくましくなったオマルは、教育程度が高く、英国籍ということからパキスタンの諜報機関にリクルートされて、インドでの工作を依頼されます。それは、「まずアメリカ人、そしてイギリス人、あるいはその他の白人を殺せ」という工作でした。イギリスなまりの英語を話すローヒトというヒンドゥー教徒に化けたオマルは、デリーの組織と手を組み、チェコ人とイギリス人2人の3人の男性と、アメリカ人女性を誘拐して世間に公表します。その時はデリー警察によって計画が阻まれますが、オマルは様々な西洋人に対するテロで、次々と主要な役割を果たしていきます....。

Omertà Official Trailer | Rajkummar Rao | Hansal Mehta | Releasing on 20th April 2018

『Citylight(街の灯)』(2014)や『アリーガルの夜明け』(2015)を作ったハンサル・メーヘター監督作なので期待して見に行ったのですが、後味の悪い映画でした。アダルト指定になっていて、最初に全裸セックスシーンが出てくるのでそれかと思ったのですが、後半アメリカ人のジャーナリストを誘拐して殺害した時に首を切り落とし、それを画面で見せるシーンがひっかかったようで、趣味がいいとは言えません。「いかにしてテロリストは作られるか」を見せたかったのだと思いますが、4月20日公開予定のインドでの反応はどうでしょうね...。

画像をいただいけたらまた置き換えたりする予定ですので、まずは簡単ながらのご報告まで。



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