10連休の最終日、東洋文庫ミュージアムで開催中の「インドの叡智展」に行ってきました。(5月19日まで。HP参照)古代から近代に到るまでの、インド文化の様々な「叡智」をわかりやすい展示にして並べたもので、東洋文庫所蔵の文献資料をフル活用する展示となっています。インド関連資料だけでなく、浮世絵(国芳の作品があって嬉しい❤)や歴史地図など様々な資料が引っ張ってこられていて、さらに地味な印象を払拭するためか、サリーやヒンドゥー教の神々のマンガチックなイラスト図等々も登場していました。「Kalia Mardan(クリシュナが毒蛇カーリヤを退治する)」の絵図が2箇所で使い回されていたりとか、ちょっと残念な点もあったのですが、よく考えられた展示でした。
その中に、やはり登場していました「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」の本。展示されていた「マハーバーラタ」は1931-33年にマドラス(現チェンナイ)で刊行された18巻本で、やはり「インドの叡智」の代表格なんだなあ、とあらためて思った次第です。そんな「マハーバーラタ」ですが、実は最近、とても読みやすい「マハーバーラタ」全編網羅訳本が出ました。次の本です。
デーヴァダッタ・パトナーヤク[文・画]、沖田瑞穂[監訳]、村上彩[訳]「インド神話物語 マハーバーラタ」(上・下)原書房、2019.各1,900円+税
上の写真でおわかりになると思いますが、原本は「Devdutt Pattanaik "JAYA An Illustrated Retelling of the Mahabharata" Penguin Books India, 2010」で、その全訳となっています。アマゾン沼でのサイトはこちらです。原題の「ジャヤ」は、「ヴィヤーサは物語を『ジャヤ』、”勝利の物語”と名付けた」と文中にもあるように、「マハーバーラタ」の作者とされる聖仙の命名した書名から取られています。本書には、作者パトナーヤクによるマンガチックなイラストがふんだんに使われていて、それだけでも読み進むのが楽しいのですが、途中に登場人物の家系図やコラムが入り、退屈しないで読めるようになっています。デーヴァダッタ・パトナーヤク、なかなかの作家ですね。訳もこなれた日本文で読みやすく、さすがご恵存下さった沖田先生が、「インド神話を専門とする研究者である沖田と、翻訳家の村上先生が協力して翻訳にあたった、研究者+翻訳家による英語の翻訳出版という、おそらく、これまでにあまりなかった方向性で(中略)、仕上がりは非常に満足のいくものとなりました」とおっしゃるだけのことはあります。映画『バーフバリ』のファンの方で、「マハーバーラタ」を読みたいけれど...、と思っていらした方には、まさに福音のようにやってきた「マハーバーラタ」翻訳本と言うことができます。
沖田瑞穂先生は前後して、「マハーバーラタ入門 インド神話の世界」(勉誠出版、2019、1,800円+税)という本も出しておられるので、上の本を読んだ後はこちらも読んで、いろんなことに「そうだったのか!」と目からウロコ体験をしてみるのも面白いと思います。「マハーバーラタ」の「18」の謎(18個の謎があるのではなくて、なぜか「18」という数字がまとわりついているんですね、「マハーバーラタ」には)、なんて、読むとそれだけで推理に夢中になりそうです。「マハーバーラタ入門」でも主要なストーリーは押さえてあるので、ダイジェスト版としてこちらから読む、というのもアリですし、さらに「マハーバーラタ入門」には索引が付いているので、これも大いに役立ってくれます。アマゾン沼のサイトはこちらです。
『バーフバリ』シリーズのほか、「マハーバーラタ」をベースにして現代の物語にしたインド映画では、古くはシャーム・ベネガル監督作『Kalyug(末世)』(1981)や、マニラトナム監督作でラジニカーントが主演した『ダラパティ 踊るゴッドファーザー』(1991)がありますし、割と最近では、プラカーシュ・ジャー監督作でランビール・カプールが主演した『Raajneeti(政治)』(2010)があります。この『Raajneeti(ラージニーティ)』、珍しくメイキング&脚本収録の豪華ムック本(上)も出ていて、ヒンディー語を学ぶ人にもありがたい資料となっています。インド映画ファンなら押さえておいて損はない「マハーバーラタ」、この機会にぜひお読みになってみて下さい。