こんな出会いがあった。他施設利用者との交流である。現象に着目する姿であった。心情に着眼したら見え方が変わり、対応が変わったであろうと痛感した。
●交流者の姿
うなり声や不愉快そうな歌声が続き、移動のスムーズさに欠き、気持ちの乗らなさが伺えた。そのうち長袖抜きから袖遊びになり、修正を促していくと靴下脱ぎから靴下噛みになっていった。そこで、だらしなさや衛生面の配慮からハンカチ噛みに切り替え、許容していった。
●関係者の対処
ワーカーさんは、利用施設では上手にハンカチを外させていた。でも、結局は靴下噛みになってしまったけど・・・、と批判的なニュアンスを含みながら止めなければとの思いを口にされた。また施設担当者は入室されると真っ直ぐに彼の前に来て即ハンカチを取り上げようとされた。なかなか外すことができないままになったが、写真をとる段になるとまたハンカチ噛みを止めさせようと試みた。
●ハンカチ噛みをやめさせる意図
常識的にみて、課題場面ではハンカチ噛みを良しとできないのだろうと感じられた。また、現施設ではいつもの日課でハンカチ噛みをしていないのだから「やめましょう」とするのも当然のことなのだろう。いずれにしても関係者の二人は現象に着目して、ハンカチを取り上げようとされた。
●なぜハンカチを噛むのか
不慣れな施設に来て、右も左も分からず不安緊張が解消できないままに一日が始まっている。現施設生活の習慣が役に立たず、見通しがもてず、移動でも動けず座り込む。そこで、好きな歌を歌い続けたり、うなり声で発声や聴覚器官の感覚刺激を補償することで不安緊張を紛らわせようとしているように感じられた。これは不安緊張の強さに対抗するために、感覚刺激で安定のバランスを取ろうとしているのだと解釈できた。もし、ハンカチを止められれば、怒ったり、泣いたり、騒いだりといった問題行動を誘発することも生じたであろう。
●彼の状況認識から考える
コイン入れの課題に取り組んだ。横向きでのコイン入れはできるが、縦向きに穴の位置を変えると途端に入れられなくなる。手首を捻って穴の向きに合わせればよいのだができない。シンプルな教材でも外部状況に合わせることが難しい方である。ましてや新しい暮らし、場や人に合わせることはより難しい。その不安緊張があったのであろう。それがハンカチ噛みになっている。このように解釈するとハンカチ噛みを「ダメ」と取り上げることは本人の負担を強くするものであることに辿り着く。現象に振り回されないこと、心情に着目すると見え方が変わってくる。
施設長 村瀬精二