東京のカザルスホールで開かれたイクシォーン・トリオの演奏会に行ってきた。もちろん,チェロのマリア・クリーゲル様のご尊顔を拝することが目的(笑)。パイプオルガンの前に立った3人の女性に期待が高まる。私の席は前方中央だから向かって右手のクリーゲルがよく見える。
プログラム最初のノットゥルノの出だしから不覚にもうっとりしてしまった。無理もない,忙しい(と自分でいうのも何だが)最中にぽっかり空いた室内楽の時間である。ふたつの弦楽器の溶け合う音色が胸に染みた。それはクリーゲルの音が非常に柔らかかったこともある。『…タンゴ』などのCDからしか音を知らなかったので,固い音かと思っていたのだが案に相違して,まさに室内楽に相応しい丸い響きが流れてきた。それでいてベートーベン,続いてのドボルザークで太い音や,いかにもチェロらしい朗々とした旋律を聴かせた。弦は,見たところ4本ともラーセン。しかし,旋律によって音色が変わって聞こえるほど表情に富んでいた。ここはやはりプロの技だろう。ついでながら,エンドピンは黒色のカーボンのようだった。
彼女のボーイングは柔らかく,時には鋭く音楽を作っていく。右手(指)はいつもしなやかである。舞台に近い席だったので,指の細かい動きまで見てとれてとても参考になった。特に人差し指を巻き込む使い方(もちろん,表情によって位置と角度を変えている)が参考になった。右手の各指は,強弱,早い・遅いによって巧みに位置を変え絶妙のコントロールを生み出していた。駒の近くを弾いても柔らかい音が出ていたのには驚いた。得てして,初心者は駒から遠い位置だけで弾いてしまうけれど,彼女は駒からの位置を強弱によってきちんと変えていたのもよく分かった。
また,彼女の演奏する姿を見ていて気付いたのは,準備動作ということである。すべての始まりのために準備がある,とでも言おうか。例えば左手の指を上げて打ち下ろすのを待つ。ほんの短い時間だけれども準備をしている。そして続いていつも正確な音が来る。楽曲の流れを把握し,次に何が来るかを予め想定して正しい位置に指,腕,身体を持って来ておく。これは機械的で地道な練習の積み重ねの賜であろう。プロとしては当然だけれど。
私の大好きな『大公』は文句なしに最高の演奏だった。落ち着いた歩調,朗々たる詠唱,躍動するリズム。それらが全楽章に渡ってダイナミックに,あるいは繊細に展開されていく。それはベートーベンの世界なのだけれど,目を閉じるとまさに「そこにあるべくしてある」音楽として生成していて,私を惹きつけてやまなかった。
親密さが要求される室内楽,それも究極と言えるようなトリオでこれだけの完成度があるイクシォーン・トリオ。クリーゲルだけでなく他のメンバーもそれぞれ個性的である。チェロばかり見てしまったがヴァイオリンのビーラーも彫琢された音で三つの流れをリードしていたし,ピアノのティッチマンも出しゃばらない演奏で好感が持てた。
久しぶりに「生の」室内楽を堪能した夜であった。
■イクシォーン・トリオ演奏会
(プログラム)
・シューベルト:ピアノ三重奏曲 変ホ長調「ノットゥルノ」D.897
・ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第7番 変ロ長調「大公」作品97
・ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第4番 ホ短調「ドゥムキー」作品90
(アンコール)
・ ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第2番 ト短調 作品26からスケルッツオ(多分,これ)
・ 山田耕筰:「赤とんぼ」(編曲者不明)
演奏:イクシォーン・トリオ(Maria Kliegel: cello, Nina Tichman: piano, Ida Bieler: violin)
日時: 平成19年9月21日(金)19:00~21:10
場所: 日本大学カザルスホール
主催: 国際チェロアンサンブル協会
この演奏会情報はひなげしさんから頂きました。改めて感謝いたします。
下は開演前のスケッチ(紙にボールペン)。パイプオルガンが途中で切れてしまった(笑)。
プログラム最初のノットゥルノの出だしから不覚にもうっとりしてしまった。無理もない,忙しい(と自分でいうのも何だが)最中にぽっかり空いた室内楽の時間である。ふたつの弦楽器の溶け合う音色が胸に染みた。それはクリーゲルの音が非常に柔らかかったこともある。『…タンゴ』などのCDからしか音を知らなかったので,固い音かと思っていたのだが案に相違して,まさに室内楽に相応しい丸い響きが流れてきた。それでいてベートーベン,続いてのドボルザークで太い音や,いかにもチェロらしい朗々とした旋律を聴かせた。弦は,見たところ4本ともラーセン。しかし,旋律によって音色が変わって聞こえるほど表情に富んでいた。ここはやはりプロの技だろう。ついでながら,エンドピンは黒色のカーボンのようだった。
彼女のボーイングは柔らかく,時には鋭く音楽を作っていく。右手(指)はいつもしなやかである。舞台に近い席だったので,指の細かい動きまで見てとれてとても参考になった。特に人差し指を巻き込む使い方(もちろん,表情によって位置と角度を変えている)が参考になった。右手の各指は,強弱,早い・遅いによって巧みに位置を変え絶妙のコントロールを生み出していた。駒の近くを弾いても柔らかい音が出ていたのには驚いた。得てして,初心者は駒から遠い位置だけで弾いてしまうけれど,彼女は駒からの位置を強弱によってきちんと変えていたのもよく分かった。
また,彼女の演奏する姿を見ていて気付いたのは,準備動作ということである。すべての始まりのために準備がある,とでも言おうか。例えば左手の指を上げて打ち下ろすのを待つ。ほんの短い時間だけれども準備をしている。そして続いていつも正確な音が来る。楽曲の流れを把握し,次に何が来るかを予め想定して正しい位置に指,腕,身体を持って来ておく。これは機械的で地道な練習の積み重ねの賜であろう。プロとしては当然だけれど。
私の大好きな『大公』は文句なしに最高の演奏だった。落ち着いた歩調,朗々たる詠唱,躍動するリズム。それらが全楽章に渡ってダイナミックに,あるいは繊細に展開されていく。それはベートーベンの世界なのだけれど,目を閉じるとまさに「そこにあるべくしてある」音楽として生成していて,私を惹きつけてやまなかった。
親密さが要求される室内楽,それも究極と言えるようなトリオでこれだけの完成度があるイクシォーン・トリオ。クリーゲルだけでなく他のメンバーもそれぞれ個性的である。チェロばかり見てしまったがヴァイオリンのビーラーも彫琢された音で三つの流れをリードしていたし,ピアノのティッチマンも出しゃばらない演奏で好感が持てた。
久しぶりに「生の」室内楽を堪能した夜であった。
■イクシォーン・トリオ演奏会
(プログラム)
・シューベルト:ピアノ三重奏曲 変ホ長調「ノットゥルノ」D.897
・ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第7番 変ロ長調「大公」作品97
・ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第4番 ホ短調「ドゥムキー」作品90
(アンコール)
・ ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第2番 ト短調 作品26からスケルッツオ(多分,これ)
・ 山田耕筰:「赤とんぼ」(編曲者不明)
演奏:イクシォーン・トリオ(Maria Kliegel: cello, Nina Tichman: piano, Ida Bieler: violin)
日時: 平成19年9月21日(金)19:00~21:10
場所: 日本大学カザルスホール
主催: 国際チェロアンサンブル協会
この演奏会情報はひなげしさんから頂きました。改めて感謝いたします。
下は開演前のスケッチ(紙にボールペン)。パイプオルガンが途中で切れてしまった(笑)。
Reportありがとうございます。
また、ひなげしさんいわく、片隅でワインを飲んでいた方ですか?の質問に対して、Polyphenol補給と回答されるisisさんのハニカミ方というか、ニヤミスというか、ほほえましいレポートでした。
Larsen soloは、Stardsのカレンダーの11月の月めくりにあった、Henrich ShiffのCelloに総Larsenがはってあったので、ドイツやAustria,Swissあたりの流行なのでしょう。また、Larsen soloは、A,D,Gしかないので、Cは、Tungsten woundだと思います。
でも、4本そろえると3-4万すると思います。米国でも
一番安い通販で、$250.くらいしますから。A,Dは、品質のよさを認めますが、G,C,は、暗く地味で、個人的には、好きではありませんが、3重奏に向いてるのでしょう。Carbon Endpinも他のviolin,pianoを邪魔しないということで使用しているものと思います。
ところで、まだ、online shopは、未完成ですが、French Cello Bowという私の新会社のwebsiteが
取りあえず完成しましたので、ご覧ください。
質問や訂正すべき点や、安い、高いの批評を
いただければ、幸いです。
大石
あわてて、WWW.FRENCHCELLOBOW.COMと
入れるのを忘れていました。
ご覧ください。
大石
French bowのsiteを拝見させていただきました。早いですね。アイディアをこのブログでコメントしたのはいつでしたっけ。。。さすがは大石さん,エンタープライズな精神が旺盛だと思いました。
小物も取り扱うのですね。これからじっくり見させていただきます。
ラーセン・ソロは,私の楽器には響きすぎてだめでした。クリーゲルの楽器には合うのでしょう。個体差に敏感な弦なのかも知れません。
ところで,当日のパンフレットの裏面のプロフィール欄に,クリーゲルの楽器について「・・・1693年製ストラデバリウスの"Ex-Gendron"を使用。」と説明文が書かれていました。これは「名チェリスト,ジャンドロンが愛用していた1693年製のストラディバリウスを使用」とでもすべきですね。。。