
■ 日本画なのに現代アート?
画家・山口晃さんの個展「山口晃展 前に下がる 下を仰ぐ」が水戸芸術館・現代美術ギャラリーで開催されています。
(水戸芸術館エントランス)
山口さんの作品は一見、浮世絵や大和絵のようで「これのどこが現代アートなの?」と思ってしまうかもしれませんが、よく見ると、”洛中洛外図”のような作品の中に描かれているのは現代の東京の風景だったり、”武者絵”の武士が乗っているのは馬の形のバイクだったり… 日本画のタッチを引用しながら現代のモチーフをユーモラスに描く面白い作品です。
そんな山口さんの新作が集まる個展に行ってきました。
(「アートで候 会田誠・山口晃 展」(2007, 上野の森美術館) 図録表紙。上半分が山口さんの作品「東京圓 柴の大塔(部分))
■ 普通の美術館とはひと味違う会場構成
今回の展覧会では大判の新作が多く並ぶということで、緻密な描き込みの作品を「さぁ見よう!」と会場に入るものの… はじめに用意された通路からは絵に近づく事ができません。ぐるっと別の会場を一周した後にやっと作品を間近で見られる構成になっています。
この不思議な会場は山口さん自身のが構成されたものとのこと。
遠巻きに見るなんてじれったいなぁ…なんて思ってしまいましたが、遠くから見ると、大判のキャンバスにキャンバスの上に幻想的な色彩が広がって、近くから見たら気づかない、心地良い浮遊感を感じます。
(「九相図」/ 山口晃 展覧会チラシより引用
こちらは2003年の作品。 今回は同じ「九相図」の新作が並べられています。
同じような描き方に見えて、色彩や空間の捉え方が変わっているのに驚きます。)
そういえば先日伺った「大関ヶ原展」には大きな”合戦図屏風”が並んでいましたが、細部を見るために作品の前に人だかりができてしまってひとつひとつの「エピソード」を見る事ができても、広大な関ヶ原の風景の全体像は見られなかったなぁと思い返しました。こんな風に遠くから見る視点をつくってくれるのって粋なはからいのように感じました。
■ 寄り道して、画伯の頭の中をちょこっと覗き見?
大判の作品を遠目に見た後には、ちょっと変わった作品の並ぶ部屋へ。
(「忘れじの電柱 イン 水戸」/ 山口晃 会場にて撮影。
普段じっくり観る事のない電柱を真横から見たり下から見上げたり… 思っていた以上に複雑でかっこいい?!)
・水戸芸術館のシンボルにもなっているタワーを高層マンションのように撮影した映像作品「ワールドアパートメント イン 水戸」
・江戸時代の人や小物と現代の人が共存する絵画「ポータブルマン」「大和撫子」
・筆ペンでさらりと描かれたイラストの「食日記」
・日々思った事をノートに書き留めた「紙ツイッター」 などなど…
「何これー?」とくすくす笑いながら見入ってしまう面白い作品が並びます。そんな面白い作品の余韻を残した後で再び大判の新作の部屋に戻り、先ほど遠目に見た作品を間近で見てくと…
1つ2つ前の部屋で見た”面白いもの”が、大判作品の中に少しずつ形を変えて散りばめられていることに気づいて驚きます。
個人的にですが、私が小作品の部屋で特に気になったのはこちらの「ベンチ」という作品群の中の”騙し絵”のような1枚。
(「ベンチ」/ 山口晃 水戸芸術館年間スケジュールチラシより引用)
1枚の絵の上に共存しないハズの空間が存在しているのが面白かったのですが、大判作品では、1枚の絵の上に”いろんな方向から観た、実際には共存できない空間”がよりダイナミックに描かれているのに驚きました。
(不思議なタイトルだなぁ…ともやもやしていた「前に下がる 下を仰ぐ」も、ここで腑に落ちた気がしました。)
六本木アートカレッジで山口さんの講義を受けた際に「洛中洛外図」を例に出し、もともとの日本の美術のもつ”縮尺や視点の自由さ”についてお話をされていたのが印象に残っていたのですが、今回の展覧会の新作群ではその”視点の自由さ”が際立ち、これまでにない世界を創り出しているように感じました。
■ 絵画、立体、インスタレーション…どこまでも広がる表現
その後も
・”透明オイルで描かれ、光を当てることで初めて絵が浮き上がる”「オイル オン カンバス」
・”どこでもドア”が突然表れる「どこでもドアは行きたい場所を思い描かなくてはどこへも行けない」」
など、多彩な表現方法、そして思わず「面白い!」見入ってしまう作品が並びます。
特に、マンガ「続・無残ノ介」は、和紙にの上に水墨画のように描かれていたり、1枚の浮世絵のようであったり、ペンと水彩を使って描かれていたり…と多彩な表現方法で構成されていて、ストーリーだけでなく、その描き方の違いを1枚ずつ楽しめました。
(ポスター用書きおろし原画「続・無残ノ介」/ 山口晃 展覧会チラシより引用 )
”面”ではなく”線”で捉えようとする日本の絵の描き方(◀こちらも講義の受け売り…)って、漫画ととても相性が良い(全く違和感がない!)んですね。そんなところも驚きでした。
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NHK「日曜美術館」でこちらの展覧会が特集されていた中で、山口さんがノートに
「私が面白いと思うものを誰もそう思わない。 そう思えるよう表してやる。それが表現。」
と書かれていたことを思い出しました。
山口さんの普段の”面白い”という気づきを、思いもよらない形でみんなが”面白い”作品にしてみせてくれる、そんな展覧会でした。
(「忘れじの電柱 イン 水戸」/ 山口晃 会場にて撮影。)
会期は5月17日までとあとわずか!とても面白い展覧会なのでぜひ足を運んでみてください。
「東京上野ライン」開通で、品川から水戸まで1本で行けちゃいます。横浜在住の私はとても行きやすくなりました。
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■DATA■
会場:水戸芸術館 現代美術ギャラリー(access)
※水戸駅からバスで10分程度
開催日:2015年2月21日[土]~ 2015年5月17日[日]
開館時間:9時30分~18時(入場時間は17時30分まで)
休館日:月曜日 ※ただし5月4日(月・祝)は開館
入場料:一般800円、前売り・団体(20名以上)600円
中学生以下、65歳以上・障害者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料
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