青崎伸孝 | at the moment @statements

巨大な彫刻作品でも、超絶技巧でも、ショッキングな映像でも、キラキラなインスタレーション作品でもないけれど、今年に入って一番といえるほど刺激的な展覧会でした。

　青崎伸孝 | at the moment 　＠statements

（「Street Cans」 / 青崎伸孝
道端に落ちているような空き缶に見えますが…） 

会場に並ぶのは、缶詰や時計などの工業品や、たくさんのメモ帳、子供が描いたような絵など…　モノを見ただけでは作品とも思えないようなものだけれど、その意味を知った瞬間に目の前のオブジェクトが別モノに見えてくる、そんな展覧会でした。

その”意味”を知る体験はぜひ会場で体験して欲しいと思うのですが、一つ、最も印象的だったのはこちらの「Value_Added #240950」という作品です。

（「Value_Added #240950」/ 青崎伸孝)

 

パッと見は、ただのボロボロの缶詰。

NYでは（青崎さんは、普段NYでご活躍されているそうです。）”どこにでも売っている”メジャーなコーンの缶詰なのだそうです。そこで、”この缶詰”を持ち歩いて、何度も別のスーパーで買いなおしたものなのだとか。

別のスーパーで買った缶詰を、また別のスーパーで買い直す…そんな事できるの？！と思ってしまいますが、バーコードでは製品情報は管理していても、その”個体”までは管理されていないそうで。普段、当たり前のように思っているシステムのスキをついた作品なんですね。

定価は１ドルちょっとの缶詰が、何回も買い直されてボロボロになって消費期限も近づいて… 本来の商品価値は下がっていくハズなのに、”その個体”にかけられた対価はどんどん膨れ上がっていく…今、一体このぼろぼろの缶詰には一体いくらかけられているのでしょう？？（100回以上買い直されたとのことです…）

また、”工業製品”はどこでも品質一定、価格も一定で、その価値が変動することはない…と思い込んでいたとのですが、高級住宅街やスラム街といった、売られている地域によってその値段は大きく変わるものなんですね。同じ個体なのに、ただ置かれた場所によってその価値が変わってしまうなんて…！

他の展示作品も、そんな”常識”だと思っていることを、誰も損をしたり不快になったりしない形でを疑わせてくれる、心が揺さぶられる作品でした。

（「From Here to There "Manhattan" / 青崎伸孝)

NYは時間と場所がそのままお金に結びつき、日本にいるよりも”価値””対価”を意識する場所だと青崎さんはおっしゃっていました。作品が、その説明を聞くと全く違った意味を持つように見えてくるのも、そんな価値のユラギなのかもしれないなぁと感じました。

青崎さんは同時に、ユトレヒトでチョコレートを使った個展「Chocolate Composition」も同時に開催されていました。（こちらは終了）
こちらも、既製品のチョコレートを”そのまま”使った作品なのですが、そのままのチョコレートが抽象絵画のように見えてくるのも面白く、また、作品の”履歴”によって、どんどん変化していく、というのが面白い展覧会でした。

所有していた人の環境によって、溶けてきたり、アルミ箔がぴったりとくっついてきたり…　賞味期限は切れ、”食べる”ためのチョコレートとしての価値は下がっているのに、”鑑賞する”ためのチョコレートの価値は…？
購入した方によっては、冷蔵庫に保管されている方もいるのだとか…！10年後、購入した人によって、作品がどうなっているのか見てみたい気もします。

普段はNYで活動されているそうなので、日本ではしばらく見られないのかもしれません。小さなギャラリーでの個展ですが、本当に見られてよかったなぁと思える作品でいっぱいでした。

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■DATA■

青崎伸孝 | at the moment　＠statements(渋谷)

会期：2016年5月14日(土) - 6月26日(日)　水曜- 日曜
時間：13:00-20:00

本展では人々の想像力や体験にあふれた新しい都市の姿を映し出す《From Here To There》(2012)をはじめ、資本経済とそのシステムの中で生活する私たちの姿を写す《Value_Added》(2012)、移民のために作られた時計や、フォーチュンクッキーのおみくじから成る単語帳の作品などを展示する他、作家が東京滞在中に製作する新作も発表される予定です。

 

青崎伸孝「Chocolate Composition」＠UTRECHT / NOW IDeA（渋谷）

 

会期：2016.5/10(Tue) – 5/22(Sun)
時間：12:00-20:00
月曜日休み（祝日の場合は翌日）

「Chocolate Composition」は、作家が市販されているチョコレートを構成してつくる彫刻的な作品です。それぞれ作家によるインストラクション（チョコレートの指定）がある一方で、見よう見まねで誰でも簡単につくることができそうなこのシリーズは、コンセプチュアルでありながらそのフィージビリティは容易で、アートがアーティストや一部の限られた人たちだけのものだけではないこと、またそうした多くの人たちの想像力とその可能性が無限にあることを証明しているかのようです。